ライミチ おてての話「なにやってるの?」
控え室に居たところ、声をかけられた。
声の方へ顔を上げると、いつも聴いてる、聴き慣れた声。
「ミチルさん!」
ミチルは向かいの席に腰を下ろし、前の机にデッキを置いた。
同じくテーブルの上に置いてあったライカの私物に視線を落とす。
チューブ状のそれは、ハンドクリームだ。
この時期…冬場は、とくに手が乾燥する為、ライカはこれを常備している。
「ハンドクリームです。冬は爪先が荒れてしまうので」
カードゲーマーたる者、指はいつも見られるものなのだから、ライカはハンドケアまで欠かさず行っている。
「ふーん…だからライカくんはいつも手が綺麗なんだね。」
チューブに向けていた視線を上げ、目の前の相手に向ける。
「ねぇ、俺もそれ少し使ってもいい?」
「え、…!あ、はい!どうぞ!」
突然の流れに戸惑ったが、拒否する程の事でもないよな、と思いミチルの手に渡るチューブを見送った。
ーーー『だからライカくんはいつも手が綺麗なんだね』
ミチルの言葉を反芻しながらライカは膝の上に置いた自分の手を見つめる。
……綺麗だと、言ってもらえた。
憧れている人にそう言ってもらえて、嬉しくない訳がない。
そんなところまで見ていてくれてたのか、
いつもケアしていてよかった。
ミチルさんに今、ハンドクリーム貸したんだよな……。
嬉しいような、気恥ずかしいような感情が渦巻く。忙しい感情から気を逸らすように、今、テーブルを挟んだ向かいにあるミチルを見た。
綺麗な手。この人もだよな…。
繊細な指先。長い指で、色は白くて、美しい手だなと思う。
この繊細な手がカードを捲るのだ。この細い指先から、最強たるプレイングが紡がれていく。
かっこよくて、ずっと見てきた手。
ファイト研究のときも、大会のときも。いつも見ている手だったのに、意識して見ていると、ずっと見ていられる気さえしてくる。
「俺、こういうの全然気にしてなくてさ。いつも少しは気にしろ!って怒られるんだ。ライカくんは偉いね」
「えっ、意外です」
「買ってもすぐ無くしちゃうんだよね」
「はあ……」
こんなに、ささくれのひとつもない手なのに。
「あのさ、」
「はい」
「これ…クリームつけ過ぎちゃったみたいなんだよね、どうしよう」
「…………」
手をグーパーしながら、困った顔をしてこちらを見てくるミチルさんに、いい表し難い感情を覚えてしまった。
これからも今まで通り彼を見ていられるだろうか。美しい手だとか、この人って可愛いところがあるんだな、とか思ってしまった。
先に不安を感じながらも
「ティッシュ、使いますか?」
「ありがとう。これ塗ったままだとカードできないね…」
テーブルを挟んだ向かいにポケットティッシュを手渡した。
終