私は一つ鍵を持っている。黄金に輝き、真紅のリボンがつけられた鍵を。
マロンクリーム王国の城の中、限られた従者のみ伝えられている最深部に、その鍵を使える部屋がある。扉の鍵穴は低い位置にあり、私が屈まないと扉を開くことはできない。
カチャン。
鍵を奥まで差し込み、少しだけ力を入れて回せば簡単にこの部屋は開く。私とマロン様が好きな赤色の絨毯やクッションが敷き詰められ、棚には非常食が大量に置かれている。絨毯やクッション等はマロン様が、非常食は私が買い揃えたものだ。
城の奥底の部屋がこんな部屋になったのは理由がある。
「ロマリシュに渡したいものがあるの」
マロン様に連れられて、入った部屋は何一つ物が置かれていない、殺風景な部屋でした。城にこんな部屋があることを知らなかった私はとても驚き、マロン様の方を向きました。手を差し出すように促されて、両手を彼女の前に広げる。
「……これは、鍵?ですか?」
主から手渡されたのは鍵でした。
「もし、貴方が危険な状態になった時、わたしが命じたらこの部屋に入って欲しいの」
私は驚愕した。マロン様の発言は、騎士としての役目を放棄することを勧めるようだった。納得することなんて出来なくて、鍵を返そうとした。
「私が危険な状態になる時は、マロン様も危険な状態なはずです!そんな時に、私だけ安全な状態になるわけには」
私の言葉を遮るようにマロン様は首を振る。
「違うわ、ロマリシュ。この鍵は、貴方も使っていいのよ」
「私も……?」
マロン様の手にはもう一つ鍵があった。私が今持っている鍵と、同じ形をした鍵だった。
「わたしがロマリシュを危険な目に合わせたくないのと同じように、貴方もわたしを危険な目に合わせたくない。そうでしょう?」
「……はい」
「だから、貴方がわたしを守りたいと思った時に、この部屋にわたしを閉じ込めてちょうだい」
マロン様は聡明なお方だ。主を守るための手段なんていくらでも、喉から手が出るほど欲しい騎士に一つの選択肢を与え、それを絶対に欲しがると見越してこの鍵を渡したのだ。
それならば、私のやることは決まっていた。
「仰せのままに、我が主(マイロード)。マロン様に危険が及ぶ時は必ず閉じ込めさせていただきます」
「それはわたしも同じだということを忘れないでね。貴方が少しでも無理をしたら、ここに閉じ込めてしまうかも」
「ふふ、それは私も一緒です」