胸を潰す、というよりはその先端を覆うためだけに巻いていたサラシが、参謀の手によってゆっくりと解かれていく。私を抱き込むように座る男は、その手は、わかってはいたけれど私よりずっと大きい。
この状況からでも参謀を制圧できる自信はあるが、それはあくまで技術の話。純粋な力で言えば、きっとこの大きな手はあっさりと私を組み伏せられるのだろう。その事実を目の当たりにして、ギリ、と歯噛みする。
「ちょっと、なにか余計なことを考えているでしょう」
「別に」
不満げな声の参謀を適当にあしらえば、ため息とともにその指先がぐい、と私の胸元から僅かに残った布を引き剥がした。はらりとサラシの端が落ちて、小さな胸が露わになる。
なだらかな膨らみは、参謀どころか私の手でさえ簡単に覆えてしまう程度の大きさ。その僅かに膨らむ肌の上には、腹や手足に比べて少ないとはいえ、いくつもの傷跡が走る。
やはり、好き好んで触れたいと思うものではないはずだ。
「…………」
「……やめてもいいんだぞ」
シン、と静まる部屋に私の声が転がった。口でなんと言おうと、こんな身体を実際に見ては萎えるものもあるだろう。意地っ張りな奴は引っ込みがつかなかろうと助け舟を出した……つもりだった。
「やめられるものか」
低く、甘い声。
耳から溶かし込まれたその声に、心臓がドクリと跳ねる。
「ここまで来てお預けですか。酷い人だ」
「っいや、私は、お前がこんな身体を見て嫌になったかと思ってだな」
「……へぇ」
顔は見えずとも不機嫌が手に取るようにわかる声。先程の、脳みそを甘く揺らす声より余程聞き馴染みがある。けれど。
「さ、参謀……?」
ぐり、と腰辺りに押し付けられるモノ。固い、布越しのその熱が、じわりと肌を侵していく。
「誰が、何を見て嫌になったと?」
「ひ、ぁ」
つぅ、と腹から脇を通り、ささやかな胸の上をなぞる指先。ぞわりと肌が粟立つ。それは不快とは程遠く、まるで身体の中がかき混ぜられるような感覚で。
「さん、ぼう」
「……ルイ」
「へ…?」
「ルイです。私の名。知っているでしょう、ツカサさん」
ちう、と首筋に吸い付かれる。刻まれた傷を辿るように這う舌にふるりと震えながら、初めて呼ばれた名にまたトクリと心臓がおかしな音を立てた。
「……ル、イ」
「はい」
「ルイ……」
「ツカサさん」
阿保のように呆けた声で名を呼ぶ私を、ルイはそっと抱きしめた。
「可愛いですね、ツカサさん」
「っ、ひぁあっ?!」
ぎゅ、とそのしなやかな指先で胸の先を摘まれ、ビクリと身体が跳ねる。そんな私を抑え込むようにルイは腕に力を込めた。
「可愛い、ツカサさん、可愛い……綺麗だ」
カリカリと引っ掻かれた乳首はぽてりと膨れて、揺れもしない胸の先でふる、と震える。腹の奥が、ぐるぐる、熱を持って仕方がない。
何なんだ、お前。急にふざけたことを言い出して。そんな言葉、お前の口から聞いたこともないのに。可愛いも綺麗も、私からかけ離れた言葉なのに。
「さて、無理して抱こうとしなくてもいい、でしたっけ。……私が無理をしているかどうか、その身でたっぷりと確かめてもらいましょうか」
くつりと笑うルイの声を聞きながら、その胸の中に一層抱き寄せられる。触れるシャツの感触から、ルイがまだ服の一枚も脱いでいないことに今更ながら気がついた。アンフェアだ、なんて言う余裕は早々に奪われていて。
ただ、薄いシャツ越しに肌が合わされば、ドクドクと早鐘を打つ心音を背中に感じた。