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    背理後の話なのでダリア君が普通に出てるけど、ネタバレはしてないと思う。

    優しい風に祝福を この日モンド城は、ウィンドブルーム祭を上回る盛り上がりを見せていた。



    「ねぇ空……今日ってウィンドブルーム祭じゃなかったよね?」
    「俺の記憶だと魔物の襲撃があったりと大変なお祭り日だったけど、確かにちょっと前の話だね」
    「じゃあこれってどういう事なのかなぁ……」
    「どういう事なんだろうねぇ」
     その日のモンド城は、朝から誰がどう見てもお祭りムード一色だった。あらゆる店舗が花を飾り、装飾を施し、出店も多く出回っているしそこかしこで催し物も行われている始末。正直ウィンドブルーム祭を上回る盛り上がりっぷりに、先ほどから白々しいやり取りをしながらも心当たりは大いにあった。
     本日、六月十六日。
     そう、今日は、ウェンティの誕生日だ。
     そしてそんな日にモンド城がこれほどまでに沸いている、という事は。
    「多分なんだけど、モンドの風神様の誕生日って今日じゃなかったっけ?」
    「ええーそうなんだぁ? 初耳だけどどこ情報? でも偶然だねぇ、実はボクも今日が誕生日なんだぁ」
    「へぇ~それじゃあ実質ウェンティの誕生日を祝ってるって事でいいんじゃない?」
    「嫌だなぁ、風神様と誕生日が同じだからってそんな」
     まぁ、薄々勘付いている人はいたと思うのだ。モンドの民達はそこまで鈍くないというか、先日の魔物襲撃の一件でその有能さを思い知らされた。皆が一丸となり、見事魔物の大群からモンド城を守り抜いた功績は、今や世界中に知れ渡りつつある。そしてあの事件の折、モンド城の各地に吹いたあの優しい風を、皆がどんな思いで見ていた事か。
     それを本人もわかっているのか、若干気まずそうに目を反らしつつ頬を掻くウェンティは、それでもまだ確信には触れたくなかったのだろう。
    「あ、ウェンティさん! 今日誕生日でしたよね、おめでとうございます!」
    「あ、ありがとう」
    「ウェンティさん、これうちの店から! お酒のつまみに丁度良いのよ!」
    「え、いいのかい?」
     すでに両腕いっぱいになりそうな誕生日プレゼントを見て、また別の住人が大きなバッグまで渡してくれる。余裕ができたところでまた花束を渡されたウェンティが、真剣に困ったようにこちらに視線を向けてきたが、まぁ当然の反応だろう。
    「……ね、ねぇ空……これってやっぱり、先日の件でボクの正体……」
    「あ、バル……ウェンティさん、お誕生日おめでとう!」
     それじゃ!とばかりに祝いの言葉を投げかけて風のように去って行く民の背中を、ウェンティの視線が追いかける事暫し。
    「今絶対バルバトスって言いかけたよね!?」
    「皆ギリギリのライン攻めてくるなぁ」
     多分薄っすらバレているんだろうけど、ウェンティがウェンティのままで居続けるから、住民達はまだ確信を持たないようにしている。それが自由の神に対する、モンドの民達の最大限の気づかいなのだろう。まぁなんていうか、見てる分には大変面白いのでモンドはこのままでいて欲しい。
    「それにしても、道歩くだけで物凄い貢物だね。モンドの大スターじゃん」
    「なんか……神時代より色々貰ってる気がする……昔はまだ、神に直接プレゼント渡す、とかなかったから……」
    「そりゃそうだよねぇ」
     もらった大きな布製のバッグは、頂いたプレゼントですでに大きく膨らんでいた。このままではほどなく歩けなくなりそうだから、そろそろ一時預かり所が必要かもしれない。
    「預けられるとしたらあそこだよね」
    「君もそう思った?」
     視界の先に映るのは、西風教会だ。恐らくそうだと思って自然にこちらに足を向けていたのだが、どうやら読みは当たっていたらしい。
    「それにしてもさ」
    「何だい?」
    「真っ先に来るかと思った風神ガチ勢がまだ来てないなって」
    「……ダリアの事?」
    「自覚はあるんだ」
     風神様の伝道師にして、ウェンティの親友というこの上なく美味しいポジションを手にした、西風教会の助祭、ダリア。彼の事だから朝一でウェンティにプレゼントを渡しに来ると思っていたのに意外だった。
    「うん、まぁ……ダリアなら、プレゼントは後程、って日付が変わると同時におめでとう言いに来てるから……」
    「ああ、逆に安心した」
     それでこそダリア、風神同担よ。
     心の友と呼ばせて欲しい、そんなことを考えながら教会に辿り着くと、そこには今しがた話していた助祭様が待っていた。
    「ああ、やっぱり来たんですねウェンティ、空。まずはお誕生日おめでとうございます」
    「これも君の想定内なのかい……?」
    「ふふ、バルバトス様と同じ誕生日だなんて、風の祝福を一身に受けたも同然ですよね。あ、荷物はそこに置いて下さい」
     結構な重さの荷物を教会の入り口付近に置いて、ウェンティがふぅ、と一息吐いた。後で塵歌壺に運ぶのを手伝わねば。
    「ところで、ダリアはウェンティに何かプレゼントはないの?」
    「それは勿論。大切な親友の誕生日ですからね、ささやかながら用意してありますよ」
     ごくり、と同時に唾を飲んでしまったのは仕方あるまい。あのダリアが、風神様にどんな貢物を用意したのか予測がつかないのだ。とはいえ彼も、あまりにも高価な物を用意してはウェンティに断られるのもわかっているだろう。となると一体、何が出るのか。
    「嫌ですね、何をそんなに構えてるんですか? はいウェンティ、これが私からのプレゼントです」
    「……紙?」
    「はい」
     それは、くるくると丸められた一枚の羊皮紙のようだった。プレゼント用にリボンをかけられたそれはどう見ても紙のようで、それ自体が高価なものには見えない。もっととんでもないものを貢がれるかと構えていたため、ちょっと拍子抜け感すらある。
    「え、なんだろう……もしかして、ボクの知らない何かの楽譜とか?」
    「いえいえ、そんな大層なものではありませんよ」
     にこにこと笑いながら応えるダリアに、ウェンティが首を傾げながらリボンを解く。ぱらりと解けた紙を覗き込むと、そこには預かり書、の文字とアカツキワイナリーの文字が見えた。
    「……ダリア、これって……?」
    「ああ、それはですね」
     可愛らしい笑顔を絶やすことなく、ダリアは楽しそうに告げる。

    「アカツキワイナリーにキープした、給料三か月分の樽酒の預かり書です」
    『うん知ってた!!!』

     全力の突っ込みがあまりにも美しいハーモニーを奏でる。そう知ってた、知ってはいたけど、やっぱりダリアはダリアだった。
    「重ッ!!」
    「物理的にも!!」
    「運ぶのは大変だと思ったので。エンジェルズシェアでこの紙を見せてもらえば、キープした分の樽酒をいつでも飲めますよ」
    「嬉しいけどっ……嬉しいけど重い……!」
    「給料三か月分……最早求愛の酒樽じゃん……」
    「やめてちょっとときめくから」
    「良い反応を頂き光栄の限りです」
     自分こそ良い笑顔を浮かべてそんな事を言うダリアは本当に嬉しそうだ。なんだかんだ言っても『風神バルバトス様』への信仰心は疑いようのない彼だから、ウェンティの反応は本当に満足の行くものだったのだろう。
    「まぁ折角だから受け取るけどさ……君の誕生日は覚えておいてよね?」
    「指折り数えて楽しみにしてますよ」
    「一々愛が重くない?」
     重いとは思うが、もう慣れてきたモンドの人々にとっては『まぁダリア助祭だし』で済む程度の事だろう。モンドも中々良い雰囲気になってきたものだ、そんなことをしみじみと考えていたおり、上空からバサリと風の翼の音が聞こえた。今日は来訪者が途絶えない日だ。
    さすがの飛行テクニックでふわりと目の前に舞い降りて来たのは、モンド人には馴染みの顔、ジン団長で。
    「ここにおられましたか。お祝いが遅れて申し訳ありませんバルバ……」
     ああ、半分以上言っちゃったな。
     そんな視線に気づいたジン団長が、明らかに『しまった』といった表情を浮かべたのはものの数秒。
    「……ンティ殿」
    『バルバンティ』
     思わず総員で突っ込んでしまったのは許して欲しい。腹を抱えて崩れ落ちたダリアは謝った方が良いとは思うが。
    「すまない、忘れて欲しい……」
    「いいよいいよ、気にしないで」
     両手で顔を覆い謝罪するジンに、ウェンティが神々しいまでの慈愛の笑みを向けた。ああこれは『ボクの民可愛い』の笑みだ、風神検定一級の自分にはよくわかる。
    「改めてウェンティ殿、誕生日おめでとうございます。ささやかですが、これは私から」
    「うわぁ、蒲公英酒! ありがとうジン!」
     ぱぁっと目を輝かせて喜ぶウェンティに、ようやく笑いを抑えたダリアが悪戯気に微笑みながら問いかける。
    「私の時と反応違いませんか?」
    「君のは純粋に驚きの方が勝ちすぎたんだよ」
    「惚れ直しました?」
    「はいはい、大好き」
    「息するようにイチャつくよね」
     悪くない、続けたまえ。
     そんな気持ちでパシャリと写真を撮る自分には、本日の記録を洞天に飾りまくるという使命があるのだ。うなれ写真機、今日という伝説を記録に残すため。
    「お姉ちゃんの声が聞こえると思ったら……皆さん教会の入り口で何をしているんですか?」
     どうやら少しはしゃぎすぎたらしい。教会の中にまで笑い声が聞こえたのか、様子を見に出てきたのは見知った顔、西風教会のアイドルことバーバラだった。
    「すまない、少しはしゃぎすぎたようだ」
    「お姉……ジン団長がはしゃぐなんて珍しい。それに今日はお祭りでもないのに、どうしてこんなに騒がしいの?」
     あ、これはもしかして。
     バーバラは、まだ気づいていない方の民だという事か?
     皆同じ事を思ったのか、ちらりと視線をウェンティへと向けている。その視線を受けたウェンティは、どこか楽しそうにバーバラに話を振ってみせた。
    「ボクもさっき知ったんだけどね、今日はなんと、風神バルバトス様の誕生日なんだって」
    「バルバトス様の、誕生日!?」
    「そうそう、出所はわからないけど、そういう情報がどこかから出たんだって。で、ついでに言うとボクも今日誕生日なんだ。つまり実質ボクの誕生日祝いって事だよね」
    「不敬ですよ!!」
     バルバトス様の誕生日祝いを何と心得ているんですか。
     という本気のお怒りを見て皆確信する。ああ、やはり気づいていない側だったと。
     まぁ、真面目なバーバラらしいというか、己の信仰対象である神が飲兵衛な吟遊詩人だなんて思いもよらないのだろうが。
    「でもバーバラ、私は風神様の正体がウェンティだと言われたら、案外信じてしまうかもしれません」
     おおっとダリア選手大胆に切り込んだ。
    一体どういうつもりなのか、いや楽しんでいるだけなんだろうけれど。
     突然そんな事を言われたバーバラが、困惑したように首を傾げる。いつも飲みすぎを注意している飲兵衛詩人に、そんな可能性を見出したことが本気でない顔だ。
    「ウェンティが……バルバトス様?」
    「ええ、詩を愛し、風の守護を受け、モンドの民にこんなにも愛されている存在ですよ。よくよく考えてみれば、とても風神様らしいと思いませんか?」
    「風神様……らしい……」
    「ちょっとダリア……」
     積極的な身バレはしない考えのウェンティが、さりげなくダリアを止めようと声をかけるが。
     大真面目な顔で暫く考え込んでいたバーバラは、結論が出たようにすっとその瞳をウェンティへと向けて。

    「こんな飲兵衛がバルバトス様な訳ないじゃないですか、不敬ですよ」

     ああ、モンドのアイドル本当に可愛い。
    「ちょ、え、何ですか!?」
    『そのままの君でいて欲しい』
    「どういう意味ですかー!?」
     皆に頭を撫でられたバーバラの、本気の困惑の声が教会に響き渡るのであった。



     それからも、ウェンティには様々な誕生日祝いが届けられた。
     吟遊詩人の癖つよファンから白タイツを100枚プレゼントされた挙句、一億モラの小切手を渡された時は流石に追いかける羽目になったり(結局見失いウェンティが途方に暮れていたが)子供達からセシリアの花束を渡されたり、どこを歩いても酒を渡されウェンティは常にご機嫌だった。最初は戸惑っていたようだが、ウェンティにとって夢のような一日であった事に間違いない。毎日が誕生日で良い、としみじみ呟きながら酒を飲み続ける姿は、やはりバーバラには見せられないな、なんて思ったわけで。
     そんな彼が、そろそろお暇するよ、と今日一日の相棒であったグラスをテーブルに置いたのは、そろそろ日も暮れかけた頃だった。寧ろゆっくりだな、と正直思う。
    「良かったの? こんな遅くなっちゃって」
    「うん? なんの話だい?」
    「朝から一緒にいなくて良かったのかなーって」
    「モンドの皆がこんなに祝ってくれてるのに?」
     ボクはそこまで不義理な神じゃないつもりだよ。
     そう、微笑む顔は夕日を浴びて酷く神々しくさえ見えた。
    「今日は一日本当に楽しかったし、嬉しかったんだ。まぁ、十分楽しんだから、残りの時間くらいはあげても良いかなって」
    「惚気話待ってるね」
    「さて、なんの事だろう?」
     それじゃ、と踵を返して歩き出す背中は、どこか嬉しそうに見えて。
     どうか存分に祝福されますように、と外野ができるのは祈る事くらいだった。



    「やっほー、来たよ」
     トントン、と慣れた仕草でドアを叩けばものの数秒で鍵の開く音がする。カチャリと静かな音を立てて開いた扉の向こうには、見慣れた麗しい姿が見えた。
    「……思ったより早かったな。本日のモンドはお祭り騒ぎだったと、行商人が目を白黒させていたぞ」
    「あはは、ウィンドブルーム祭より盛り上がるとはボクも正直びっくりだったよ」
     他愛のない話をしながら、ごく自然に家に上がり込む。璃月の一角に静かに佇む客郷の家に、こうして上げて貰った者は一体何人いるのだろう。その一人としてごく自然に招かれる事実に、未だに少しだけくすぐったい気持ちになる。
     通されたリビングは相変わらず家主のセンスの良さが伺えた。シンプルなデザインながらも見る者が見ればわかる高級なインテリアは、凡人を名乗るにはちょっとアレなんじゃないかなぁ、とは未だに突っ込めずにいるが、そうそう人を招く訳ではないから見て見ぬふりを貫こうと思う。何せ自分の定位置であるこのソファの座り心地の良さを、みすみす手放したくないからだ。
    「今日はもう、大分飲んできたんだろう? 茶で良いか?」
    「え、まだまだイケるけど?」
    「茶で良いな」
    「聞いた意味」
     くすくす笑いながら応える間に、鍾離はとっとと茶を取りに行ってしまう。すぐに戻ってきたのは、予め用意されていたからだろう。
     何度も目にした茶盤で運ばれてきたのは、湯気の上がる茶器。そして右手に抱えられて登場したのは。
    「今日は飲むなよ?」
    「うわぁ、今年はどんなお酒?」
    「150年物の、璃月の伝統の酒だ。少し前に知り合った酒造の主から、特別に譲って貰った」
    「やったぁ、明日一緒に飲も?」
     今日は流石に開けさせてくれない様子だから、受け取った酒瓶に愛し気に頬ずりして満足する事にした。
     なんだかんだと一日中飲み続けた体に、用意された茶が温かく沁みて行く。一息に飲み干した杯をテーブルに戻すと、じっとこちらを眺めていた鍾離がふいに口を開いた。
    「……毎年酒を強請られるが、飽きないのか?」
    「え、なんで? 君が選んでくれるお酒に間違いなんて一度もなかったよ」
    「いや、そうではなく……」
     言い難い……というより、なんと言葉にして良いのか迷っている。そんな素振りを見せるのは大分珍しくて、思わず首を傾げてしまう程。
    「今年は大分盛大に祝われただろう」
    「まぁね?」
    「もう長い付き合いだ、今更何かの記念と言う事も、特別感がある訳でもないが」
     ……ああ、これは、もしかして。
     嘘みたいだが、そういう事、なのか?
    「馬鹿だなぁ……見劣りなんてする訳ないだろう?」
     民達が全力で祝ってくれたのは、長らく不在だった相手に対する数年、数百年分の気持ちが込められていたからで。
     それに自分は知っている。このじいさんが、毎年そっけないとも取れる態度で渡してくれたそれぞれの酒が。
     一年かけて厳選した、妥協を許さない本当に特別な一本だという事を。
     そんなのもう、愛を感じずにいられる訳がないじゃないか。
    「無論、俺とて妥協をしたつもりは一切ないが」
    「ちょっとやめて、それ以上可愛い事言わないで」
    「可愛……?」
    「予想外に祝って貰ってそりゃ嬉しかったよ? ボクの民だもの、愛しいに決まってる。でもね」
     ずっと昔から、きっとこの先も、変わらず毎年大好きなお酒を贈ってくれる人の。

    「ちゃんとここに、帰って来てるだろう?」

     今日という日の最後は、ちゃんと君の傍に。
     愛おしい気持ちを隠しもせずに見つめれば、ふぅ、と深い息を吐いた鍾離がポケットを探り何かを取り出す。
     無言で差し出されたそれを手を伸ばして受け取れば、それは何かの鍵だった。
    「これ……?」
    「洞天の許可証は大分昔に渡したが、ここのはまだだったからな」
    「ここ……」
     ああ、鍾離の、凡人としての家の、鍵。
     そう自覚した途端、手にした鍵がじんわりと温く、同時に胸も温かくなるのを感じた。
    「……合鍵ってやつ?」
    「凡人の間ではそう言うらしいな」
    「へぇ~……ボクの他に持ってる人は?」
    「いる訳がないし、この家に入れるのもお前だけだ」
    「そっかぁ」
     対抗心、っていうのもたまには良いものなのかしれない。まさか、こんな特別な贈り物を貰えるなんて。
     洞天であれば、それこそ昔からの友人なら入った事があるだろう。
     けれどここは、凡人、鍾離のこの家だけは。
     自分だけが許されていた事実に、何だかくすぐったいような、泣きたくなるような。
    「ねぇ鍾離」
    「何だ?」
    「今日のボクは欲張りなんだ」
     何せお誕生日様だし?
     だから、めいっぱい愛してよ。
     そう訴えれば、あまり煽るなと渋い顔をされる。先ほどから、優しくしたい気持ちと本能がせめぎ合っているのはわかっていた。だからこそ煽るのだが。
     そっと頬に触れた指に、大人しく目を閉じる。
     この凡人なりたての新人さんに、『君が祝ってくれるなら何だって嬉しい』という、人間の心の機微を少しずつ教えて行くのも悪くない。それはとても長い道のりかもしれないが、互いに老い先長い生き物だ。
     頑固で硬いこの岩が、この先どう丸くなるのか。
     そんな未来を想像しながら、ゆっくりと降りてくる熱に身を委ねた。



    【終】
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