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    irsk0064

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    irsk0064

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    銀二さん(えっくす垢@ginzi_O5)企画の「ドキッ!?夏の炎博あみだくじ」に参加させていただきました~!
    ありがとうございました!

    一番落ち着くところは猫耳が知っている「ドクターが敵のアーツを受けたって…!」

    戦場から少し離れた野営地に戻ってきたエンカクの耳に最初に飛んできた声は、誰とも知らぬオペレーターの焦った声だった。
    辺りの様子を伺うに、ドクター自身が無事なのは確かではあるが、ざわついた雰囲気は収まる気配がない。
    全く、どんな体たらくを晒しているのか。
    エンカクは確かめるために、休憩場所へ向かおうとした足をぐるりと方向転換させた。

    簡易テントで築かれた医療室の前は何人かのオペレーターが集まっていた。
    その後ろから少し首を伸ばしてエンカクは奥を覗き込む。
    人だかりの中央には、フードとフェイスマスクを外したドクターが簡易椅子に座っているのが見えた。
    特に異常はなさそうだ思ったが、よくよく見れば彼の姿には見慣れない、へちょ、と力なく伏せられた三角のふわふわとした耳とふわふわの細長い尻尾が。

    「フェリーンの耳!?」

    誰かが思わず叫んだ声がその場に響く。
    とたんに深くしおしおと垂れていく耳。
    ドクター顔には苦虫を噛み潰したかのような、悔しそうな表情が浮かんでいた。
    恐らくはドクター自身の采配ミスが原因なのだろう。
    単なる事故や、誰かを庇ったことが原因ならば案外ケロッとしている。
    ここぞという時はミスを決して犯さないというのに、つまらないギャグのようなミスは多々とするのが可愛げがあるといって良いのかどうか。

    その様子をとらえて、は、と軽く笑ったところでエンカクはくるりと翻す。
    エンカク自身が、もみくちゃにされているドクターの元へいっても何も解決はしない。
    こういったものは専門の医者がなんとかするものであって、傭兵の仕事ではない。
    己の身と武器の手入れのために、休憩場所へ戻っていった。


    ***


    「エンカクー!!!」

    日もどっぷりと暮れ、そろそろ寝るかとエンカクが身支度をしていると、本日の話題急上昇の人物がエンカクの部屋へ飛び込んできた。

    「聞いてくれ!皆が私をおもちゃみたいにするんだ!ただフェリーンの耳と尻尾がはえただけなのに!!」

    ドクターはまるで自室のようにずかずかと歩き、どかりとベッドに座る。
    しっぽはぼわぼわ、耳はへたーんと垂れており、不機嫌なのは誰が見てもわかるだろう。
    よくよくみると涙目になっていたので、散々いじられたようだった。

    「喚くな、未熟者。」
    「そんな言い方しなくといいじゃないか…。」

    ドクター自身も、指揮官たるもの感情をむき出しにするとは、オペレーター達に示しがつかないのはわかっている。
    だからこそ、この部屋に入るまでは平常通りの態度で過ごしていた。
    ただ、扱い慣れない耳としっぽは、感情を素直に示していたらしく、フェリーンはもちろん、一部のオペレーターには不機嫌であると筒抜けであったわけだが。
    なんならそういう形の耳をしているのか、とも言われるほど、耳が立ったことはなかった。

    「用が済んだならさっさとでていけ、俺は寝る。」
    「やだ。」

    ひくん、とエンカクの眉が釣り上がる。
    こういう時のドクターは非常に頑固でわがままで言うことをきかない、扱いが面倒な子供そのものだ。
    他ではお行儀よくするくせに何故自分の前ではこうなのか、エンカクは未だに理解することができない。

    「今日はここで寝ると決めた!ここをキャンプ地とする!」

    そう言い放つとドクターは次々と服を床に脱ぎ捨て、下着姿になると、ベッドの所有者そっち抜けでシーツにくるまる。
    その様子をみていたエンカクの眉間には深い深いシワが寄る。
    が、そのシワは深いため息と共にほどけていった。

    「勝手にしろ。」

    狭いベッドの真ん中を牛耳るドクターを足で奥へ押しやる。
    ぐぇ、と何か生き物が潰れた時のような鳴き声をドクターがあげるがお構いなしだ。
    そのままごろんと寝転ぶと布の塊からぼそりと、おやすみ、とこぼれる。
    仰向けになったままチラリとその塊を伺うとゆるゆると上下に揺れている。
    次第にすぅすぅと、かすかな寝息が聞こえてきた。
    よほど疲れていたのか、ドクターが眠りの湖に沈んでいくのはあっという間だった。

    なんとなくその様子をエンカクは見ていたが、布の端から、ぴる、と揺れるものが視界にはいった。
    ふわふわのフェリーンの耳だ。
    先程まではすねて伏せられていたが、今はやや起き上がり、時たま、ぴると揺れている。
    そのふわふわに誘われるかのように、エンカクの角ばった指がそっとそれに触れる。

    ぴるぴるっ

    くすぐったかったのか、少し震えたがすぐに落ち着く。
    なんとなしにエンカクは撫でるように指先でフェリーンの耳に触れ続ける。
    そのたびに耳は軽く震えるが、ドクター自身は起きる気配もなくすぅすぅと眠りについている。

    つくづく油断がすぎる男だ、とエンカクはうとうととした頭で考えた。
    もう少し耳をいじってやるつもりだが、珍しく強力な睡魔がやってきていた。
    ごろりとドクターの方へ寝返りそのまま抱き枕のように抱き寄せる。
    そのままドクターの頭のてっぺんに鼻をうずめ、眠りについた。

    ***

    もぞもぞと、抱えているものがうごめく気配でエンカクは意識を浮上させた。
    視線をさげれば、ドクターが腕から逃れようとしていた。
    シーツからはみでた尻尾がぶんぶんと振られていたので、なんとなく鞭のようなサルカズの尻尾を絡ませると尻尾と本体がびくんっと震えた。

    「こら、なにやって…!」
    「お前に尾があるとは、妙な感覚だ。」

    目覚めたばかりで頭が回りきっていないのか、エンカクはぼんやりとした表情でつぶやいた。
    男の珍しい表情にドクターはきょとんとした後、じわじわと頬を赤く染める。
    ぴくぴくとかすかに震える耳をみて、エンカクは思わず、がぶりと甘噛みする。
    ぎゃっ、と小さな悲鳴をあげたドクターは穴にもぐるようにシーツに引っ込んでいった。
    おそらくは顔全てを赤に染めているだろう。
    愉快なやつだ、とエンカクは口の端をあげると、軽くぽんぽんとドクターをあやすように叩き、ベッドから起き上がる。
    ギシリとしなったベッドには、シーツにくるまったドクターだけがしばらく残されていた。


    ***


    「エンカク〜……。」

    エンカクは思わず、顔をしかめた。
    今朝別れたはずの男が、しぼんだ顔で温室へやってくるのがわかったからだ。

    「お前にかまってやる時間はない。」

    軽く舌打ちをしながら、エンカクはすぐに手元の鉢植えへ視線を戻す。
    今後の育成に関わるため、今日中に花の鉢植えを済ましてやらなければならないのだ。
    他の作業のことも考えると、手を止めて雑談に興じる余裕はなかった。

    「じゃあそのままで良いから聞いてくれ。」

    エンカクの苦情もそこそこに、ドクターはそのまま近くの作業用の椅子にどかりと腰掛ける。
    フェリーンの耳は今朝とは違ってぺたんとへたれたままだ。

    「昨日、散々このフェリーン化についてオペレーター達に弄られたのに、今日は帰還したブレイズ達にかわいいじゃないってすごくいじられて、その上尻尾にリボンはとか言われて……。」

    エンカクが止める暇もなくドクターは午前中にあった出来事をつらつらと話し続ける。
    こうなれば満足するまで止まらないのは目に見えていたので、ため息を一つついてからエンカクは作業を再開した。
    数分もすれば終わるだろうと思われたドクターの愚痴披露大会は予想以上に続き、途中からつまらないラジオに対するように、エンカクはドクターの話を聞き流した。
    途中で「どう思う?」「なぁ聞いているか」などと飛んでくるが適当に「ああ」「どうだろうな」と返せば満足して、愚痴を再開する。
    そうする内に時計の針がいくらか進み、エンカクの作業もひと段落したところで、軽い足音がこちらに向かっていることにエンカクは気づいた。

    「あら、ドクターくん、来ていたの」
    「パフューマー。」

    しばらくすると複数の花の苗を抱えたパフューマが二人の元へやってきた。
    昨日から散々な目にあっていることをエンカクに愚痴っているんだ、と説明をすると、管理人はくすりと笑みを浮かべた。
    その笑顔に、笑い事ではない、とエンカクは思ったが、わざわざ口にはしなかった。

    「そんなドクター君には何かリラックスできるハーブティーを後で淹れてあげるわ。そしたらご機嫌ななめの耳も少しは元気が出るかしら。」
    「耳?」

    パフューマーの指摘にドクターは目をぱちくりと瞬かせた。
    そんなドクターをみて、パフューマーも目をぱちくりさせる。

    「フェリーンの耳ってそうやってへたれている時は不機嫌と聞いたけれど違ったかしら?それともゴールデングローさんのようにそういう形の耳なのかしら?」
    「ああ、そういうこと……。どうだろう、あんまり意識はしていないから。エンカク、わかるかい。」

    確かに色々と不満を感じてはいるが、不機嫌とは自覚していなかったドクターはきょとんとした顔で、少し土がついたエンカクの顔を見つめた。

    「……知るかそんなこと。」

    まぁ、そうだよね、とドクターは苦笑する。
    エンカクはぷいと顔を逸らして手元の道具の片付けをはじめる。
    そういえば、布団にはいってからのあいつの耳は今とは違う形をしていたな、とぼんやりと考えながら。


    結局、ドクターのフェリーン化がなおるまで数日はかかった。
    その間、エンカクの部屋に「ねこちゃん」が入り浸るようになっていたとか、なんとか。
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