ひとなつの、 ひと夏の、恋をした。泡が弾けて消えるような、儚い恋を。
突然ぼくの前に現れた、記憶を失くした美しい少女。
ぼくはたちまち彼女に心奪われた。
彼女がいる生活はとてもとても幸せで、この時間が永遠に続くことを願っていたのに。
それなのに彼女は、出会った時と同じように突然ぼくの前から消えてしまった。
夢だったんだと自分に言い聞かせても、彼女の笑顔、彼女の声、彼女の匂い、彼女の感触……何ひとつ頭から離れない。
そして最後に見せた、とても悲しそうな表情も。
ひと夏の、恋をした。泡が弾けて消えるような、儚い恋を。
「本気で、好きだったのにな」
部屋に溶けゆく呟きに耳を傾けるのは、水槽に揺蕩う一匹の金魚のみ――
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