終演は貴方の手でペリドットの務める病院へとやってきた、大きな病院で、ペリドットはここの院長らしい
ルベルトと、さきほど起きたグレッグの二人が受付を済ませた後、看護婦に連れられるままに奥へと進んだ、アレクとアインスはなんとなくルグはここに居るのではないかと予想が付いていたのか、周りの空気を読んでなのか、終始無言であった
しばらく歩くと着いたのは……手術室の前の、ベンチだった
そこにはルグも居た、…が、俯いて、無言で地面を眺めている、ルキと知り合いだったのだろうか?そう思いながらサファイアが声をかけようとするが、それをアレクが「話しかけなくても、気づいてる」と制止する、そのまま一同は何も言わずに、静かにベンチに座った
しばらく、5人の間に静かな時間が流れる、ルグはずっと俯いて、ルキの生還を静かに待っているし、サファイアは心配で気分が悪くなっているリズのことをなだめているし、ルベルトとグレッグはそわそわしながらもじっと座って待っている
アインスとアレクはただ黙ってルグを間に挟むように、さりげなく側に寄り添うようにして座っていた、ルグは普段は人との接触を嫌うため、人を好きになるという事は滅多にない、ルグの顔は無表情に近かったが、どこか遠くを眺めているようにも見えた、尻尾はだらんと下げているが、たまにパタパタと上下に動き、まるで何かを心配して、でも気分が落ち込んでしまうからなのかあまり考えないようにしているような、そんな感じがする、アレクとアインスも一緒に居て長い、三人は親友みたいなものだ、だからこそ二人はルグの心境を少しわかってしまったのかもしれない、こういう時、ルグはあまり話しかけられたくはないだろうと、あえてあの時サファイアを制止したんだろう
しばらくして、手術室のランプの明かりがプツリと消えた、ガチャリと扉が開くと、そこには手術着に身を包んだ、ルキとそっくりの青年……ペリドットがそこに居た
手術着にはルキのものと思わしき大量の血が付いており、手術はかなり難航したと思われる、5人が病院に着いたのは連絡から6時間経っての事だった、ルベルトのワープホールは一日に使える回数が限られているのもあって、その時は運悪く使えなかったのだ、外はもうすっかり真夜中だった
「…ペリドット、ルキはどうだった?」
「……やはり内部の損傷が激しかったですが、一命はとりとめました、ただ…”前の敵と戦った時の傷”のせいなのか、身体の魔素接合が不安定でした、無理に接合すれば命にかかわるため、”俺の力”で少しばかり内部の傷を一時的に治しています、本人は今は眠っていますが、いつ目覚めるか、いつ回復するか……それは本人の気力次第でしょう」
「……そうか」
「…………」
「…ルグさん、親父を見つけてくれてありがとうございます、あとは親父を信じましょう」
他の皆は終始無言だった、ルグは少し安心したのか、微かにしっぽを大きく、ゆっくり振っていた、顔は相変わらずあまり変わらなかったが、心なしかどこかほっとしているようにも見えた
アインスとアレク、ルグの三人はそのまま他のエレメント達に着いていき、シェアハウスに戻った、戻れるまで泊まらせるという約束をサファイアや他のエレメントとしたからだ、一同はまた数時間かけて戻るのかと思っていたが、病院を出てすぐそばにある公園のベンチに、赤く光り輝く棒状の何かを人差し指の先に立ててゆらゆらと動かしている、中性的な雰囲気の人物がふと目に着いた、その中性的な人物はこちらに気が付くと、待っていたと言わんばかりに赤く光り輝く棒状の何かをすっと一瞬でどこかに消して近づいてきた、サファイアに「ペリドットはどうした」と聞いた、どうやら、サファイア達が居る劇団の団長というのはこの人物の事らしい
「……ん?あぁ、お前さん方が噂の3人組か?」
「……YES.」
「HAHA,そいつはよかった、私の事は…まあ、アンタならサファイアからちょっと話を聞いてるから、大体察しが付くかな?……私はメア、メア・ヴェヒター、劇団「十人十色」の団長だ、よろしくな」
「…うっす」
「……」
「HAHA、やっぱルキの今の容態知った後だから気分暗ぇな、まあ、アイツのことは心配すんな、タフだし、あんな腹ぶっ刺された程度じゃ死なねぇさ」
ルグはあまりいい顔をしないように見えた、多分「自分の団員が死にかけてんのによくそんなに呑気で居られるな」とか思ってるのだろうか、アインスはそんなことを考えながら控えめに挨拶をした、だがそれと同時に、彼等とこの団長の間ではそういう信頼関係があるのだろうとなんとなく察しがついていた、団長も微塵も心配していないという感じではないからだ、だってさっきから右手で髪の毛の先をくるくると自分で弄っているし、目は常に細められている、だが、ルキという人物がどんな奴なのか、どんな時にどんなことをするのか、そして死にかけても必ずここに戻ってくるという確信を持っているのだろうか?ルグもそれは薄々察しはついているのだろうが、やはりあまり人を好きにならない分、少しだけそういった気持ちにはなるようだった
「……ま、ルキのことはペリドットに任せて、とりあえず帰ろうぜ、テレポートしてやる」
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そう言うと、メアはパチンと指を鳴らした、ならした瞬間に一瞬でハウスの玄関に全員がテレポートされた、一同は何も驚くことは無く、そのままそれぞれが部屋に戻った、…リビングからはシチューの匂いがしたが、ルベルトはもちろん、サファイア以外の面々はそのまま食べることなく部屋に戻ってしまった
「……皆戻っちゃったね、…え、えっと、3人はご飯、食べる……?今日のご飯、とってもおいしいんだよ!えっとその、僕の友達のタイムリーっていう子のお父さんが料理担当なんだけど………」
「…あー、じゃあちょっと食べようかな、アレクとルグはどうするよ」
「俺も少し食べようかな、ルグは?」
「……俺はもう寝たい、疲れた」
「わかった、…まあ、そういう事だから、ルグのこと部屋に案内してやってくれねぇか嬢ちゃん」
「わ、わかった」
そう言うと、サファイアはルグを連れて奥の方へと消えていった
アインスとアレクはリビングの方に向かい、「すみません、今日から少しお世話になります」とアレクがキッチンに立ってご飯をよそっている、ピンク色の人物に話しかけた、その女性らしき後ろ姿の人は頭の耳らしきものをピクリと少し動かして、「……ん?あぁ、はい、すみません、話しかけられるまで少し気付かなかったです……えと、お話は団長から聞いています」と言いながら振り返った、…見た目も顔も完全に女性なのに声が低い男性の声だった、男のようだ
2人は特に驚きもせずに「個々の椅子失礼します」と言って座った、他にもたくさん椅子があったが、他の人はもう食べたのか、アレクとアインス以外誰も居なかった
「…はい、シチューです、かぼちゃと、コーンと…あと、かぼちゃとお肉と玉ねぎを入れてます、アレルギーとかあったら別のものをお出ししますが……」
「アレルギーとかはないんで大丈夫です」
「あ、よかった…!ではお召し上がりください」
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にこりと微笑むとおぼんを持ってキッチンより奥の空間へと消えて行った、洗濯機などが見えたので、多分あそこで色々洗っているのだろう
2人は手を合わせていただきますと言ってからシチューをほおばった、ふーふーと冷ましてから食べたがやはり熱く、アレクは「あち」と小さく言った、すかさず水を飲んで舌を冷やしたけれど、少しヒリヒリしたのか、もごもごと少しだけ口を動かしては一口、また一口と食べ進めていく、食べながら喋るのは行儀が悪いからあまり会話は弾まなかったが、アインスはアレクのことを横目に見つめていた
アレクは食べてる時でも綺麗だった、食器の使い方も食べ方もちゃんとしていて綺麗だし、横顔も本当に綺麗だった
2人両想いになって結ばれれば、この彼も独り占めに出来るのだろうか?それとも、この彼以外も自分だけで独占して、楽しむことができるんだろうか?何を考えようと、そのどれもがきっと叶うことの無い空想に過ぎないのだろう、そんなことわかっているはずなのに、アインスの彼を想い愛する心はそれを望み切望するかのようにアインスのことを苦しめ続ける、きっとこれからも変わることの無い不変の現実で、時たまに見れる夢の破片を愛おしそうに、自分にとって最大の幸せとして噛み締めながら、これからも一生側で守って一緒に過ごすのだろう、そう思いながら食べていたので、食べるスピードが遅くなっていたのか、突然アレクが「アインス、食べないのか」
とこっちを見ながら言って来た、「……あ、おう」、アインスは不意を突かれたのか、急いでシチューを食べ始める、少しぬるくなってきてはいたが、味はとても美味しかった、…二人きりで食べているからだろうか?
「……ルグ、大丈夫かな」
アレクがふと呟いた、アレクもあまり気にしてはいない様子でふるまってはいるが、やはり親友の事になると心配になるのだろう、その姿はしょぼくれた猫のように小さい背をしていた、この時アインスは彼の事を考えていたので、少しルグに嫉妬を覚えてしまった、そんな状況ではないのに、ルグも大切な親友なのに……自分も情けなくなったもんだな、と思いながら、「大丈夫だよ、きっと」とだけ返して、二人一緒に食べ終わった後の食器を、先ほどの人物のところに持っていった、彼は案の定奥で洗い物をしていて、今度は話しかける前にすぐに反応してくれた
「あぁ、食べ終わった?足りたかな?」
「はい、ごちそうさまです」
「いえいえ、……あ、そうだ、しばらくお世話になると思うから、名前、ちょっと教えなきゃね……僕の名前はリヴ、リヴ・エヴィリア、よろしくね」
「はい、短い間ですが、よろしくお願いします」
「別に敬語じゃなくてもいいよ、堅苦しいでしょ?」
「……うっす」
滞在時間は短いだろうが、お世話になる人でもあるから堅苦しく敬語になっていた二人だったが、リヴが敬語でなくてもいいと言ってくれたので少し気が楽になって敬語が少し外れた、リヴはそんな二人を見て、「初めて会ったタイムリーとリズくんみたいだ」と呟いて、後片付けを始めた、するとアレクとアインスが「手伝います」
と言ってくれるものだから、嬉しくなって「ありがとう、ふふ、息子が二人出来たみたい」と微笑みながら言ってしまった
「…リヴさんにも息子さんが居るんすか?」
「んー、娘なんだけどねぇ……まだ中学3年生の、タイムリーっていう小さくてかわいらしい子が居て、その子が僕の娘で………」
三人は長い事話しながら片づけをしていた、ルキへの心配や、ルグへの心配を紛らわすためだったかもしれないが、とにかく長く、ゆっくりと、眠るために部屋に行くまでずっと話していた
===
あの後は分かれて、アレクとアインスはリズと同室になる形で寝た、ルグは別室で一人で寝ていたらしい
ルグはルキの部屋で寝ていた、どうやら空き部屋はほとんど物置と化していて、部屋の空きがどうしても無かったらしく、ルグ本人が一人で寝たいと希望したため、このような形になったという
ルキの部屋は意外にも何もなかった、タンス、ベッド、クローゼット、引き出し付きの机とセットの椅子、そして本棚、それだけだった、あの男にしては意外な部屋の内装だったが、同時にアイツらしいと言えばアイツらしいのだろう、と思いながら、もそりと布団の中に顔を引っ込め、丸まるようにして目を閉じる
近くで何度か嗅いだことのあるルキの匂い、布団は誰も入っていなかったのに、心なしか少し暖かい気がする、起きたらまたいつものように絡んできて、いつもみたいに頭を撫でてくれるのだろうか、アイツはそんな簡単に死ぬような奴じゃない、きっと起きたらまた笑いかけてくれるだろう、そんなことを考えながら、静かに眠りについた
…そして、短い夢を見た、内容は、ルキのあの言葉のことだった
「人に頼ろうとしたら、すぐなにかを返さないといけなかったから、そうじゃないと生きれなかったから、君でも頼るのが、怖かったんだ」、
「今の俺には、昔ほどの権力も、力も、何もないから」、
「昔っから、一人だったから、仲間に頼ることも、何も知らなかったから、最近覚えた手だった、からさ」。
夢の中で淡々と喋るルキは、どこか儚げで、どこか遠くに行ってしまいそうな感じがした、夢の中のルキにルグは何かを言おうとしたが、途中で言うのをやめにした、その代わりに、口を突いて出たのは、「俺はアンタの過去も何も知らない、でも……」
…という、断片的な言葉のみだった
_そこで、目が覚めた。
===
鳥が外で朝ということを知らせ、それと同時に現実世界に引き戻すかのようにさえずっている、花は綺麗に咲き誇って、生きようと葉を伸ばしている
こんな日は、ピクニックをしたり、外で昼寝したりするのが心地いいのだろうが、ルキのことを考えるとそうはいかなかった
起き上がって、髪の毛を少しだけ整えてからリビングに向かうと、アインスとアレクの二人と、グレッグが居た
「おはよう、よく寝れたか?」
「……、まあ…」
「…そっか」
他の人はまだ起きてきていないのか、今日の朝のリビングに居るのも4人だけだった
「……今日はオレしか起きてこなかったからよ、オレが作ったベーコン焼いたやつに目玉焼き合体させたキメラで我慢してくれ、これ以外あまり得意じゃねぇんだ」
「……、キメラ?」
「うん、キメラ」
アインスが聞き返すとキメラとまた答えて、三人の前に皿とご飯を置く、……確かに目玉焼き一つに対して小さめのベーコン二つ、そして両脇にレタスとトマトが二つずつあるのは、まるで一つ目のモンスターのようだった、これをキメラと呼んでいるグレッグのネーミングセンスもネーミングセンスであれだったが、4人はいただきますを言ってから食べた
「これ一応ピエロなんだけどよ、ルビーに出したら毎回キメラって言われるんだよナ」
「へぇ……まあ、ピエロよりかはキメラ…モンスターかなこれ、アレクはどんな感じに見える?」
「んー……頭のてっぺんだけが禿げた一つ目小僧?アインスは?」
「…、紫色にされた一つ目のミ〇オン?」
「オレ泣くよ?」
そんな一連の流れをしていると、次第にふふ、と三人で笑みをこぼした、そこから仲良く話すのはあっという間だった、…だが、ルグは無言で食べ進めていた、やはりルキのことが心配なのだろうか
それを見かねたアレクがさりげなくルグの頬をつついた
「むぐッ……なにすんだアレク」
「え?ほっぺが膨らんでたから気ィ抜いてやろうと思って」
「…膨らんでなんかない、ほっとけ」
「んー?でもしっぽだらんとしてるけど……」
「俺はネコじゃねぇ!」
気分が落ちていたルグだったが、尻尾がゆっくり大きく揺れているため、少しだけ、気分が良くなったのだろう、話していたアインスとグレッグも、多分それぞれ考えていることは違うだろうが、ニッコリと安心したかのように微笑んでいた
===
……そして、そんな日々が3日ほど続いた
ルキも、ずっと寝たままだった
「……、二人にしてくれ」
「…おう、メアさんと外で待ってる」
と言うと、アレク達は外へ出て行った
集中治療室の部屋で、一人静かに眠っているルキは、まるで人形みたいだった
まつ毛や眉毛は綺麗に整えられ、鼻も高く、口は見えないが、顔全体を見るとそれなりに整って綺麗だった、肌の張りも、おじさんという年齢ではないんじゃないかと疑うほどなめらかで綺麗だった
そういえば、ちゃんと近くで顔を見たのはこれが初めてだった、すぅ、すぅと息をしながら、姿勢をピクリとも崩さず眠っていた彼は、とても静かで、どことなく寂しかった、…そういえば、最近夢の中でルキが出てきて、あの言葉をずっと語り掛けてくるのを思い出した、ずっとずっと、呪いみたいに……いや、俺自身のじゃなく、コイツ自身の呪いが俺の夢の中で具現化してるのか?……考えれば考えるほどキリがねぇな、そんなことを考えながら、ベッドに身を乗り出して、ルキの顔にかかっている前髪をさらりとよけ、顔をまた覗き込んだ
「……、なあ、お前、いつまで寝てんの」
返事が返ってくることはない、ただ静かに眠っているだけだ、わかってる
「……皆お前の事心配してんぞ」
次第に無駄だと、ベッドから身を出して、ベッドに突っ伏す形で
寂しいだなんて、思っちゃいない、思っちゃいないんだ、でも
「……待ちくたびれたんだけど、てか早く帰りたい」
でも、少しだけ、また撫でてほしいと思ってしまう自分が居るのは、きっと気のせいだ
「……なあ」
……………………
「…早く起きてくれよ。」
もし、もしこのままここで寝て、すべてが夢だったなら、次起きた時には起きていて、自分の頭を撫でてくれるんだろうか。
____
______________
_______________________、…、……、………?
いつのまにか、寝てしまっていたようだ、いつまで時間が経ってたんだろう、早く起きて皆のところに行かなくては、そう思い、起き上がろうとしたその時だった
不意に、頭に懐かしい暖かさと重みを感じた、身体はピクリとも動きはしなかったが、やけに自分の心臓の音がでかく聞こえて五月蠅かった
「……、ごめんなぁ、おじさん、馬鹿で」
頭にかけられたぬくもりが、ゆっくりと自分の頭を撫でるのがわかる、そして何よりも、少し枯れかけているが、それはルキの声だった、まぎれもない、ずっと目覚めるのを待っていたルキの声、その声は、ぽつりと、儚げに、そして力なく呟かれた、俯いてるせいで明るさがどうなっているかはわからないが、夕日がさしてきている気がする
…そして、ふと、自分の頭を撫でていたぬくもりが静かに離れた感覚がした、そしてなにやらもぞもぞと動き、ベッドから出ようとしている音が聞こえる、また此奴は無茶をしようとするのか、と半分呆れて、半分ムカついて、離れようとする相手の手首を掴み、静止した
「うぉッ、え、何々な……、あ」
「……、…」
「……は、はは、おはよう少年!ぐっすりと眠っていたから起こさないようにしたんだけど起こしてしまったようだね!はっはっは、ごぉめんごめん!」
「…………」
「……、えっと、あーっと……あの時はごめんね、おじさん…無神経、だった」
「……どうでもいい」
「……」
しばらくの間、沈黙が続く
ルグはこの時、夢の中で具現化したルキの呪いの事を思い出していた、その時は丁度、病院の近くにある高校から、夕方を告げる金が聞こえてきていた
ルキがその場をしのごうと口を開こうとするが、ルグが先に口を開いた
「あのさ」
『人に頼ろうとしたら、すぐなにかを返さないといけなかったから、そうじゃないと生きれなかったから、君でも頼るのが、怖かったんだ』
ルキの後から、呪いの声が聞こえるような気がする
「俺はアンタの昔の事を知らないし、知ろうとも思わない、でも、俺は別にアンタになにしても、なにも見返りなんてものは求めないし、自分から進んで助けてやろうだなんて微塵も思わない、でも、アンタが助けを求めるのであれば俺は俺なりにアンタを助けてやる」
『今の俺には、昔ほどの権力も、力も、何もないから』
次第に、呪いの声が縮こまって、小さくなっていくような気がする
「アンタに権力がなかろうが、力がなかろうが、はたまた金も何もなくったって何も求めねぇし、そんなことだけで軽蔑もしない、見捨てもしない」
『昔っから、一人だったから、仲間に頼ることも、何も知らなかったから、最近覚えた手だった、から…』
やがて、消え失せるかのように声がしなくなっていくような気がする
「それにアンタにはいっぱいアンタを信用して待ってくれてる仲間が居るんだろ、なら、そいつらのこと、もっと頼ってやったらいいんじゃねぇの、最近仲間ができたってわけじゃねぇんだろ、何年も一緒に過ごしたかけがえのない仲間なんだろ、なら少しは頼ることを視野に入れろよ、いつも調子乗っておちゃらけてるアンタなら簡単だろ?…でも、それでも頼ることが出来ないんだったら」
掴んでいた手首を引いて、ルキは咄嗟に引き寄せられバランスを崩すが、胸倉を掴まれる形で支えられる、「ちょ、おじさん一応病に…」と言いかけるルキをよそ目に、ルグは言葉を続ける
「それでも仲間に頼ることが出来ねぇんだったら、俺にでも頼めばいい」
「……!」
「……まあ、気分とタイミングにもよるけどな」
と、直ぐに目をそらしながら手を離され、ベッドにボフンと落ちるルキ、だが、目を見開いて、ずっとルグを見ている、「……なんだよ」と聞かれると、ルキは少し微笑んで、「……、ありがとう、ルグ」と小さく礼を言った
「……、ふん。」と、ルグは素っ気ない変死を返したが、ルグのしっぽは大きく、ゆっくりと振られていた
===
「……で?どうすんの?これからもうしばらくは返れなさそうだけど」
「……、泊まらせてもらうしかないだろ」
あの後、病室に再び来たペリドットにルキはしこたま怒られ、ルグは少し注意された程度で済んだ
少し経って退院した後、メアにかえしてもらおうとしていた3人だったが、イレギュラー発生中でどうやらしばらく帰れないのだという
「もしかして、もう少しの間あのおっさんと居れて嬉しいのか?お前」
「んなわけねぇだろ、早く帰りてぇ」
「しっぽめっちゃ上向いてるけど」
「うっせー!見んじゃねぇ!!」
ぎゃいぎゃいと騒いでる三人を見ながら、劇団員たちは一部を除いて微笑んで、その一部は「これから少しの間さわがしくなるな」と溜息交じりに、それと同時に少しだけ微笑んでいた
===
…さて、物語はこれでおしまい、これからしばらくこの世界に滞在するらしいけど、ちゃんと最後は帰れると思うよ
ん?アフターストーリーは見せてくれないのかって?
それを書いたら面白味に欠けるだろ?HAHA
……”読者”が自由に想像できる終わり方こそ、一番魅力のある終わり方だと、”ワタシ”は思う
そして、いつ帰るのか、どんな別れを迎えるのか、それは画面の向こうの貴方次第で、ワタシが全てを決めるのではないんだ
さあ、画面の向こうに居て今こうして小説を見ている君は、その後の話で何を望む?何をどう望み、何をどう終わらせる?
彼等のその後の物語の結末は、君達それぞれで完結してくれたまえ