愛嬌なんて、くそくらえ 終太蒼山の春。
仙楽国の太子が、皇極観の門下になってからというもの、厳かな道観に麗らかな春がやって来たかのようだった。だが裏腹に、祝安の心中は砂嵐の如く荒れ始める。
「あの顔のいい雑用係、太子殿下の近侍になったんだってな。大した奴だ」
「なんだって?そんな話、前代未聞だ」
「太子殿下から直接、国師へ直談判したらしい」
周りの道士たちが口々に言うのを、薄らと聞いてはいた。
あの慕情が?罪人の子が?
何を考えてるかも分からない、下賤の奴が?
ありえない、あいつが太子殿下のお抱えになるなんて。
「そんな簡単に、うまくやっていけるものか」
そうやって軽くあしらい平然を装っても、少しずつ祝安の中にある強い自尊心は削れていく。
「……あいつに、この私が負けたのか」
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