めごこ「お、ここにもあんのか」
買い出しに来たスーパーの菓子売り場で、遠野が足を止める。君島もその視線の先を辿ると、地域限定のスナック菓子が並んでいた。
「へえ、限定ですか」
「インハイでこっち来たとき買っていったら、ばあさんが気に入ってたヤツ。地元には売ってねえから」
「ほう……お祖母様想いなんですね」
君島は特に他意もなく思った通りのことを言ったまでだったが、遠野にとっては意外な発言だったらしく、切れ長の目は大きく見開いた。そしてうへえ、という声と共にくしゃりと顔が歪む。
「なんか、お前がそういうこと言うの、気持ちワリィな」
「気持ち悪いとは何ですか、失礼な人ですね」
また詮無い言い合いが始まりそうだったところで、遠野のスマートフォンが着信を知らせた。
「……噂をすればだ」
「おや、お祖母様ですか。どうぞ、出て差し上げてください」
遠野は微妙にきまり悪そうな表情を見せたものの、ディスプレイをタップする。
「もしもしばあちゃん?あ?どんだんず?普通だよ。……え?おだつなって?してねーよ!」
君島にはまったくの外国語に聞こえるが、どうやら遠野は祖母の言ったことを反復しているらしい。声の調子はいつも通りだが、そのアクセントといい醸し出す雰囲気といい、家族と話しているせいか普段より棘がないように感じられる。
「……何ニヤニヤしてやがる」
電話を切った遠野は、君島を見るなり怪訝な顔をした。
「いえ……遠野くんも、お祖母様にとってはかわいいお孫さんなんだなと」
「ハァ?」
眉を顰めると、遠野は買い物カゴにスナック菓子を二つ三つ放り込み、どかどかと大股でレジに向かった。その後ろ姿に苦笑いすると、君島も同じものを一つ、自分のカゴに追加したのであった。
End.