mutual love「はあ……」
君島は深いため息をつきながら合宿所の廊下を歩いていた。「俺の処刑についてもっと詳しく教えてやる」と言って聞かない遠野に捕まり、練習終わりだというのに長々と話に付き合わされていたのである。
(まったく、誕生日じゃなかったらこんなこと絶対に許されませんよ)
彼の処刑に対する情熱は認めるが、だからといって自分にもそれを押しつける気持ちはいつまで経っても理解できない。そんな話を聞かなくとも、試合で嫌というほど見せられているのだから。それこそ、他のチームメイトに処刑法について説明できてしまうくらいに。
「あれ、君島」
「入江くん」
もう一つため息をついたところで、そのチームメイトに声をかけられる。入江もまた、遠野の誕生日祝いに一役買った男だ。
「遠野、喜んでたね」
「ええ、あのパイアートは見事でしたから。まさか本当にアップルパイに処刑を表現できるとは思いませんでしたよ」
「ふふ、上手くできて良かったよ。……でもさ、ボク思ったんだけど」
「何ですか」
入江は大きな瞳をすっと細めると、おどけたような表情で呟いた。
「遠野って、本当に君島のことが好きなんだなって」
「……どうして、今の話からそうなるんです」
「だってさあ、君島のアドバイスのお陰でいいものができたのは確かだけど、作ったのはボクじゃない?なのに遠野ったら『流石君島だなァ!』ってキミの話ばかりするんだもの」
なんだか妬けちゃうな、なんて冗談めいて言うものだから、君島は思わず眉間に皺を寄せた。入江が突拍子もないことを言うのはいつものことだが、ここでペースを崩されるわけにはいかない。
「アナタのことも褒めていましたよ」
「うん、そうなんだけどさ。……遠野もだけど、君島も何だかんだ言って彼のこと好きだよね」
「は、」
「ダブルスパートナーとはいえ、あんなに詳しく処刑について説明できるなんて大したものだよ。よく見てるんだね、遠野のこと」
「それは、それこそダブルスを組んでいますから」
「それだけじゃないと思うけど?いいな、相思相愛じゃない」
なーんてね、と入江はお得意のセリフを言って颯爽と立ち去った。その場に取り残された君島は呆気に取られるも、最後の言葉がいつまでも頭の中に残っていた。
(これのどこが相思相愛なんですか……)
End.