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    sei_hanken

    @sei_hanken

    ゲームのキャラなど「こんなのが見たい」と思ったものをポイポイ載せる予定です。

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    sei_hanken

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    【注意】
    ヌヴィレット×フリーナのお話
    魔神任務「罪人の円舞曲」及びフリーナの伝説任務までプレイ済み
    とりあえず尻叩きするために、書きたいところを書いている
    視点がフリーナ、ヌヴィレットとコロコロと変わる
    もだもだしながらも、最終的にはハッピーエンドになる予定

    皆さんどうやってヌヴィフリ小説書いてるんですか……!?(震え声)

    #ヌヴィフリ
    NeuviFuri

    no title【注意】
    ヌヴィレット×フリーナのお話(長い)
    魔神任務「罪人の円舞曲」及びフリーナの伝説任務までプレイ済み
    キャラボイスなどは拾いきれていないところあり
    とりあえず尻叩きするために、書きたいところを書いている
    視点がフリーナ、ヌヴィレットとコロコロと変わる
    人名、町名は違っていたらごめん、少しずつ修正する
    キャラの口調が違ったり、キャラ崩壊したら申し訳ない(ここも修正する)
    ネタ被りしたら申し訳ない

    (今後の予定)
    もだもだしながらも、最終的にはハッピーエンドになる予定
    最後のあたりがどうしてもぬるい表現になりそうなので、そのパートと分ける予定(気を付けるつもり)
    ※中身が少し変わるかも知れない


    1.それは、まるで運命のようだった(Side F)
     その出来事は、偶然だった。買い物帰りに、たまたま千織屋を通ったら、ウィンドウケースに展示されたドレスに目を奪われた。

    (このドレス、ヌヴィレットの服の色みたい。それに、後ろでヒラヒラしている布も、ヌヴィレットの髪にちょっと似ているかも!)

     フリーナは目を輝かせて、ドレスを色んな角度から見る。首筋と肩が思っていたより露出するが、二の腕を布でふわりと覆うドレスは、どこか上品だ。

     たくさんのレースを使ったスカートの布は、上から下にかけて、パステル調の朝焼けから、少しずつ神秘の深海へと変わる。その色合いは、かの最高審判官の服に似ていた。

    (……彼は相変わらず、パレ・メルモニアで淡々と仕事をしているんだろうな)

     久しく会っていない男の姿を思い浮かべ、フリーナはふふっと笑みをこぼす。仕事をしている彼に茶々をいれ、呆れられることがあった。フォンテーヌのために、辛いこともたくさんあったが、彼と過ごした日々は楽しかったのは確かだ。

     そんな思いを馳せながら、もう一度、ウィンドウケースのドレスを見る。

    (買っても……いいよね?)

     幸い、国からの支援とは別に、フリーナとして稼いだモラはある。毎月、匿名でポワソン町の復興のために寄付しているため、手元に残るモラは僅かだが、貯金をしていた。

     無駄遣いをすれば、シュヴァルマラン夫人の泡を喰らうだらう。それでも、フリーナは無意識に「欲しい」と願った。

    (ごめん、ヌヴィレット。もう1人の僕が好きなのは知っている。だけど、キミとの思い出に浸るのは、許してほしい)

     あれこれ悩んだ後、フリーナは扉の前に立つ。千織屋の扉に手をかけると、そろりと入店した。


    2.その後、お茶会は恋バナで盛り上がった(Side F)
     フォンテーヌ廷・ヴァザーリ回廊のアパートに、フリーナの部屋がある。サロンメンバーと楽しく過ごしているが、今日は一段と賑やかだ。

     テーブルの上に、色とりどりのマカロンが綺麗に積まれている。カップに注がれた紅茶から、バブルオレンジの匂いがふわりと部屋に広がった。

    「フリーナ様。連絡もなく、突然お邪魔して申し訳ございません」
    「気にしないでくれたまえ! あ、でも僕はもう神じゃないから、僕のことは普通に呼んでくれ……」

     突然の来訪に謝るクロリンデに、フリーナは首を横に振る。こうしてクロリンデとお茶会できると思わず、笑みをこぼした。

    「それよりも、フリーナ。気になるものがあるんだけど。あのドレスは一体、どうしたの?」

     バブルオレンジの紅茶を少し飲んだ後、ナヴィアはトレソーにかかっているドレスに視線を向ける。

     しまった、クローゼットに入れておけばよかった。フリーナは後悔するが、目の前の乙女はドレスに興味津々だ。フリーナはドレスを購入した経緯を、2人に説明した。

    「なるほど。ドレスの色合いとデザインが、ヌヴィレットさんに似ていたから、買っちゃったのね!」
    「うん。だけど……このドレスを見ると、ヌヴィレットのことを、考えてしまう」

     彼女の話を聞いて、ナヴィアの瞳がアクアマリンのように輝く。だけど、フリーナの表情は憂いのまま。紅茶が入ったカップを両手に持ったまま、ポツリと呟いた。

     パレ・メルモニアを去ってから、フリーナはあまりヌヴィレットと関っていない。いくらフォンテーヌのためとはいえ、民を騙した事実は変わらない。最高審判官に我が儘を押しつけたこともある。きっと、彼にとって、迷惑に違いないと結論づけていた。

    「ですが、ヌヴィレット様はフリーナ様のことを気にかけていました。あなたを思う気持ちは、本物であると思いますよ」

     クロリンデの指摘に、フリーナはこれまでの日々を思い返す。毎日パスタを食べていると知れば、なぜか食事に誘われた。節約すれば、「足りなかったのか」と手紙で狼狽える。フリーナが手掛けた演劇を褒め、頭を撫でられることもある。僕はメリジューヌかと突っ込んだが、この時は心がポカポカした。

    「もちろん、彼の厚意には感謝している。だけど、時々、僕と『水神フォカロルス』を重ねて見ているような気がして……モヤモヤするんだ」

     長いまつ毛を伏せると、もうひとりの自分を思い浮かべる。水神フォカロルスは、処刑されたと聞いている。その瞬間に立ち会ったのは、ヌヴィレットだ――人格を持った瓜二つの自分に、同情しているだけだ。そう考えると、まるで海に溺れたかのように、息苦しくなった。

    「フリーナ様、ヌヴィレット様をそのように思われていたのですね」
    「あぁ、そうだよ。だけど、彼に胸の内を伝えるつもりはない。迷惑がかかるだけだからね」

     ティーカップの中の紅茶が、飲み頃の温かさになる紅茶を一口飲むと、甘いのに、後味が爽やかで、気持ちが少しすっきりした。

     一方で、ナヴィアとクロリンデは、お互いの顔を見合わせる。目の前の少女の思いは明確なのに、気持ちを伝えるつもりはないらしい。もう、はっきり言ってしまおう。2人は頷くと、フリーナに向き合った。

    「……フリーナ様、お気持ちを伝えないのは、相手に失礼です。早急に伝えることをお勧めします」
    「うん? どうしたんだい、クロリンデ」
    「あんた、まだ気づかないの? はっきり言わせてもらうわね。それ、あんた――」

     ヌヴィレットさんに恋しているって、ことじゃん。

     今、この2人は何て言った? フリーナは信じられないという顔で、ティーカップを机に置く。あのお堅い最高審判官に、恋している、と? 熱が上がったように、フリーナの頬がジワジワと赤く染まる。指摘されて、思わず気の抜けた声をあげてしまった。

    「ナヴィア、これはどうやら……確定だな」
    「そうね、クロリンデ。こうなったら、全部洗いざらいお話してもらうわよ?」

     ナヴィアはにっこり笑みを浮かべ、クロリンデは獲物を狩るような目で、フリーナを見る。あ、ダメだ尋問されると気付いた瞬間、目の前のティーカップに紅茶を継ぎ足しされた。

     まだお茶会は、始まったばかり。夕焼けが海に沈むまで、クロリンデとナヴィアからの質問が続き、フリーナはあわあわしながら答えることになった。



    3.その声を、確かに聞いたはずだった(Side N)
     フォンテーヌ廷の最上階で、パレ・メルモニアが街全体を見守り続けている。その中にある執務室で、今や統治者であるヌヴィレットは、山積みになった書類に目を通していた。

     問題なければ、達筆に署名する。不備があれば、修正箇所を添えて、差し戻す。淡々と作業を繰り返し繰りしたら、3時を告げる鐘が鳴った。

    「ヌヴィレット! この僕が、直々にお茶会を招いてあげよう」
    「キミは堅いなぁ。もっとたくさんの人を見るべきだ。ほら、今日はヴァザーリ回廊へ行こう!」

     彼女の声が、聞こえる。だが、お昼休憩はとっくに終わっている。自由気ままな神を、嗜まなければいけない。

    「フリーナ殿、今は執務中だ。戯れならご遠慮願おう」

     ヌヴィレットはペンを置き、呆れるように振り向く。しかし、そこには誰もいない。深く息を吐くと、窓から快晴の空をぼんやりと眺めた。

     この時間になると、彼女は執務室の扉を開ける。人の形をした水龍に、お茶会や散歩に誘っていた。あの時は、猫のように気ままな彼女が煩わしく、権限を奪った傲慢な神を蔑んでいた。

     しかし、予言が過ぎ去ると、彼女は傷心のまま、パレ・メルモニアを去った。彼女は神ではないーー水神フォカロルスが切り離した人格で構成され、フォンテーヌのために終わりのない苦しみを抱えた人間だった。

     仕事は滞ることなく、順調に進む。そうあるべきにも関わらず、何かが足りない。心にぽっかり、穴が開いたようだ。

    「ヌヴィレット様、お仕事中失礼します。公爵様とお連れ様がいらっしゃいますが、いかがいたしましょうか?」

     そんな中、執務室をノックする音が聞こえた。この声の主は、メリュジーヌのセドナだ。本日は誰かと会う約束をしていないはずだが、急ぎの案件だろうか。

    「……構わない、案内してくれ」

     ヌヴィレットは少し考えた後、セドナに伝える。セドナが豪華絢爛の扉を開けると、水の下から来た客人が、執務室に入ってきた。

    「ヌヴィレットさん、お久しぶりです」
    「シグウィンか、久しいな。今日はどうしてここに?」
    「今日はお休みなの! 公爵と必要なものを買った帰りに、ここに寄ったのよ」

     シグウィンがウサギのように、ピョンと駆け寄る。予言以降、久しく顔を見ていなかったため、ヌヴィレットはかすかに笑みを浮かべた。頭を優しく撫でれば、シグウィンは嬉しそうにお礼を言った。

    「すまない、ヌヴィレットさん。約束もなく、急に訪ねて」
    「構わない。私も少し、休憩しようと思っていたところだ。君たちは紅茶で構わないか?」
    「あぁ、構わない。悪いが、荷物だけ置かせてくれ」

     リオセスリは執務室の邪魔にならないところに、両脇に抱えた荷物を置く。ソファに移動すれば、セドナがいつの間にか、人数分の紅茶とケーキが用意されていた。

     フリーナを裁判で追い詰め、水神フォカロルスの最期を見届けたあの日から、罪悪感に苛まれている。公平に天秤を傾け、彼女たちの正義を、願いを、慈悲を否定した。

    (あの時、君が招いたお茶会に参加していたら、2人のように楽しいひと時を過ごせたのだろうか)

    『フォカロルスのために』と名付けられた小さなケーキを、シグウィンが美味しそうに食べる。リオセスリは、紅茶の香りを楽しんだ後、優雅に飲む。紅茶の水面に映る自分の表情は、近しい人でないと分からないくらい、感傷的だった。

     
    4.その日、フォンテーヌの天気が荒れた(Side N)

     パレ・メルモニアの執務室で、リオセスリとシグウィンとの歓談は続く。しばらく2人の近況を聞いていたが、ヌヴィレットがケーキを食べ終えた後、リオセスリはある話題を振った。

    「ところで、ヌヴィレットさん。フリーナ様のことだが……クロリンデさんたちから、何か聞いてないかい?」
    「フリーナ殿のことか? いや、特に何も聞いていないが……何かあったのか?」

     久しぶりに彼女の名前を聞いて、ヌヴィレットは紅茶を飲む手を止める。腕を組み、目を細めると、これまでの出来事を振り返った。

     フリーナがパレ・メルモニアを去った後、メリュジーヌやクロリンデたちに彼女の様子を見るよう依頼していた。報告をもらったら、必要に応じて、フリーナの生活を援助する。それが、彼にできることだった。

     だが、最近、誰からも聞いていない気がする。いや、報告していただけで、自身が聞き漏らしていたのだろうか。ヌヴィレットは目を細め、考え込む。

     リオセスリとシグウィンは、お互い顔を見合わせる。彼の素振りから、何も知らないのではと結論づけた。早いところ、話したほうがいい。そう判断すると、シグウィンから切り出した。

    「ヌヴィレットさん。聞いてちょうだい。ウチらね、水の上の人たちから、こんな噂を聞いたのよ?」

     フリーナ様が懇意にしているお相手がいる、って。

     今、シグウィンは何を言った? ヌヴィレットは、頭を鈍器で殴られたかのように、衝撃を受ける。

    「……それは、本当か?」

     彼の反応を見る限り、誰からも話を聞いていないみたいだ。2人は話を続けた。

     民の噂によると、まず、フリーナは化粧や髪型に気をつかい始めたらしい。次に、ワンピースなどを着飾るようになった。恋する乙女なら、誰でも通る道であろう。神の座を降りた彼女は、人として遅すぎる青春を楽しんでいるようだ。
     
    「うふふ、好きな人のために頑張るフリーナさん、可愛いわぁ。ウチは応援したいわ」

     シグウィンはそんなフリーナを想像して、可愛いと連呼する。リオセスリはふと微笑むと、少し冷えた紅茶を流し込んだ。

     一方で、ヌヴィレットの目つきが、龍のように鋭くなる。フリーナが懇意にしている相手は、誰だ。考えるだけで、はらわたが煮えくり返そうだ。場合によっては、直々に見定めよう。手配を整えねばと、拳を握る。

    「……おぉ、こわ。ヌヴィレットさん、あんた、そんな表情できるんだな」
    「リオセスリ殿……その反応を見る限り、フリーナ殿の話を知っていたのか? まさか、私を謀ったのか?」

     声は冷静なのに、怒りに近い感情が支配する。ヌヴィレットは無意識に、リオセスリを睨むと、黒シャツの襟もとを掴む。自分より細い腕なのに、その力はどこから出てくるのだろうか。リオセスリは軽く舌打ちすると、ガントレットを装着する仕草をした。

    「ヌヴィレットさん、公爵! ケンカはダメよ!」

     2人の間に入ったのは、シグウィンだった。今にも泣きそうな顔で、小さな身体で2人を止めようとしている。

     その間、リオセスリはヌヴィレットの表情を、冷静に観察する。あの公平を重んじる最高審判官が、フリーナの噂に関して、ここまで乱れるのだ。これは、もしや。

    「すまないな、看護師長。ちょーっとからかっただけさ」

     ヌヴィレットが胸ぐらを掴む手に、少し力が抜けた気がする。その隙をついて、リオセスリはその手をやんわり払い除けた。

    「さて、名残惜しいが、今日はお開きにしよう。ヌヴィレットさん、改めてどこかでお詫びしよう。だが、これだけはっきり言わせてもらう。あまりうかうかしていると――」

     どこぞの知らないヤツに、フリーナ様を盗られるぜ?

     リオセスリの目つきが、番犬のように鋭くなる。その言葉を聞いた時、フォンテーヌの空から大粒の涙が零れ、風が吹き荒れ、突然雷が落ちた。

     後に、公爵は神の座を降りた少女に、こう手紙で綴る。『あの時の最高審判官殿は、直接審判を下そうとするほど、怒り狂っていた』――と。



    5 そのショーに、サプライズゲストが登場した(Side N)
     フォンテーヌに雷が落ち、大雨が続いてから、数週間がたった。一時はフォンテーヌが再び沈むと、囁かれていたが、民の声が届き、久しぶりに青い空を拝めた。

     フォンテーヌ廷から西にあるエピクレシス歌劇場は、たくさんの歌劇と歴史を生み出した。普段は審判が行われるが、そうでない日は、ちょっとしたショーが開催される。

     今日は、リネとリネットのマジックショーだ。ただし、2人が使用許可を申請する際、前半はルキナの泉の前で、後半は歌劇場内で披露したいと申し出があった。

     初めこそ、ヌヴィレットは首を傾げたが、理由を聞いて、納得した。

    (水元素の精霊たちが、中で歓迎する準備をしてくれるから……か。ふむ、興味深い)

     リネとリネットを囲む観客から、少し離れた場所でヌヴィレットがマジックを見る。その手に、チケットと『最高のショーとゲストをあなたに』と記された手紙を持っていた。

    「紳士淑女の皆様、僕たちのマジックショーは楽しんでいただけたかな?」
    「でも、まだまだ終わらない。みんな、エピクレシス歌劇場に注目」

     やがて、ショーはフィナーレを迎える。リネットが手をひらひらさせた先は、エピクレシス歌劇場だ。観客たちの視線が一斉に向けられると、どこからか音が聞こえた。

    「おや? リネット、何か聞こえてこないかい? これは……水の音かな?」
    「案内人さんが、近づいてきたみたい。リネ、挨拶は彼女に任せよう」

     リネとリネットが扉に向かってお辞儀をした瞬間、扉が独りでに動き出す。同時に、中からたくさんのシャボン玉が観客に向かってきた。

     ヌヴィレットが手を差し伸ばし、指先でパチンとシャボン玉を割る。ふわりと浮かび、儚く消えたその先に、立っていたのは――。

    『人間の皆様、ご機嫌よう。私は『案内人』と申します』

     エピクレシス歌劇場から、『案内人』が優雅にお辞儀をする。彼女が顔を上げると、観客がどよめいた。

    「フリーナ様だ!」
    「またこの目で彼女を見れるなんて!」
    「なんとお美しい……」
    「見てみろ、ドレス姿だぞ! やはり、あの噂は……!」

    『案内人』の正体は、フリーナだ。あどけなさが残っているが、ドレスを着ているせいか、どこか大人びている。

     青色系にまとめたアイシャドウは、まるで星を散らせた海のようだ。目元の珊瑚色のチークは、白い肌によく映えている。ボブショートの髪をハーフアップのお団子にして、綺麗にまとめていた。

    (……あの格好はなんだ? 肩を出しすぎだ!)

     何より、ヌヴィレットを驚かせたのは、フリーナのドレス姿だ。彼女が歩けば、深海色を基調としたドレスが、さざ波のように優雅に揺れる。首から胸元まで、肌に露出されていて、眩しくみえた。

    『お待たせしてごめんなさい。精霊たちも、私も、お会いできるのを楽しみにしてましたの』

     フリーナがドレスを少しつまみ、外階段をゆっくり降りる。歩くその姿は、誰もが見とれていた。ズキンと、ヌヴィレットの胸が痛んだ。

    『今から私が案内するのは、水の世界ですわ。皆様、どうぞお付き合いくださいませ!』

     やがてフリーナがルキナの泉に着くと、歌い始める。エピクレシス歌劇場の噴水から、一斉に水が飛び出し、太陽の下で雫がキラキラと輝いた。

     フリーナの歌声は、水のように清らかで、透き通るような歌声は、天まで届きそうだ。久しぶりに彼女を見て、嬉しいはずなのに。

    (どうして、彼女のことになると、心が掻き乱されるのだろうか……)

     ヌヴィレットの心は、いまだに濁流にのまれたままだ。華麗にステップを踏みながら、クルクル回るフリーナを見て、胸が締めつけられた。肌を晒している肩を、隠したいと思った。何より、フリーナの隣に見知らぬ誰かがいると考えるだけで、もう駄目だった。

    「……人になったフリーナ殿を尊重したい。だが、心が嵐のようになる時がある。この感情を、何と呼べばいい? 教えてくれ――」

     子どもが母に縋るかのように、今は亡き水神の名前を口にする。ヌヴィレットの心に、波紋が広がったままだ。そう気づいた時には、すでにフリーナの披露が終わり、拍手と称賛の声だけが響いた。



    6 その雨の中、少女は大声をあげて泣いた(Side:F)
     その後、リネとリネットのマジックショーは、歌劇場の中で行われた。水を使ったマジックは大成功を収め、熱狂の渦にのまれた観客は、エピクレシス歌劇場を後にした。

    (やっぱり、2人のマジックはすごい! もっともっと、テイワットに広まるといいな)

     間近でショーを観たフリーナは、興奮が冷めないまま、歌劇場の舞台に上がる。その細い腕の中に、リネとリネットからもらった花束を抱えていた。

     ここに立つと、告発された時を思い出す。神であると信じてもらえず、死刑と宣告された時、涙をこぼした。人々の視線が怖くなり、悪夢にうなされることもあった。

     だけど、もう一度舞台に力を入れたいと思ったのは、旅人と小さな相棒がきっかけだ。『水の娘』を監修した後、再び舞台に返り咲いた。水神を演じるより、自分らしく演じる楽しさを、喜びを知った。

     たん、たたんと、ステップを踏む。ヒールで鳴らす音が、歌劇場に響く。踊るたびに、背中から出ている布が、優雅に舞った。ショーの余韻に浸り、鼻歌まじりにメロディーを奏でる。スカートをひるがえし、くるりと回ろうとしたら。

    「……フォカロルス? 何を、している」

     誰かに腰をつかまれ、ぐいと力強く、引き寄せられた。フリーナは思わず目を丸くさせて、踊りを止めた人物を見る。真珠のように輝く髪、紫水晶の瞳、審判官に相応しい荘厳な服を着ているのは――。

    「ヌヴィ……コホン、最高審判官殿? フリーナですよ、人違いではありませんか?」

     彼の名前を呼びかけたが、フリーナは言い直した。一般人である自分が、気軽に「ヌヴィレット」と呼び、偉そうな態度で接するなんて、不敬だ。

     それに、踊っている自分を見て、今は亡き水神の名前をはっきり呼んだ。あぁ、やっぱりキミは彼女のことを。疑惑が確信に変わる。泣きそうな顔を見られたくなくて、足元に視線を向けた。

    「……フリーナ殿? 名前を間違えて、すまなかった。しかし――」
    「気にしないでください。水神様と瓜二つなのでしょう? 彼女と重ねてしまっても、仕方がないですよ」

     ヌヴィレットが何かを言う前に、フリーナが口をはさむ。腰をつかむ彼の手が、弱くなったのを見計らい、そっと離れた。

    「フリーナ殿。その話し方を止めていただけないだろうか。私は、ただ」
    「歌劇場が閉まる時間だから、わざわざ足を運んでくださったのですよね? お気遣い、感謝します。ひとりで帰れますので」

     敬語で話すのを止めないまま、フリーナは出口に向かおうとする。水神を演じた時から、たくさん迷惑をかけているのだ。気軽に話しかけていい関係ではない。

    「……フリーナ殿。待ちなさい。聞きたいことが、いくつかある。懇意にしている人が、いるのか?」

     それでも、ヌヴィレットは引き下がらなかった。美丈夫の眉が、だんだん八の字になる。もうひとりの僕が好きなはずなのに、なぜ聞いてくるのだろうか。あぁ、もう聞きたくない――フリーナは顔をあげると、息を大きく吸った。

    「あなたには、関係ないでしょう!?」

     フリーナの大声が、歌劇場に響く。肩をつかもうとしたヌヴィレットの手は、かわりに宙をつかんだ。

    「最高審判官殿。あなたからの厚意に、感謝しています。ですが、僕はあなたの眷属であるメリュジーヌとは違います――ただの一市民ですよ」

     今までせき止めていた感情が、水のように溢れ出てくる。もう止める術など、なかった。フリーナは震える声で、言葉を続ける。

    「違う、私は」
    「それに、あなたは僕を通して、水神フォカロルスと重ねていますよね? はっきり言えばいいんですよ。彼女の忘れ形見だから、同情で保障しているだけだ――って」

     目頭がジワリと、熱くなる。フリーナは眉を下げたまま、口角を無理矢理あげた。うまく、笑えているだろうか。その場に留まる必要がなくなると、フリーナは視線を泳がせた。

    「あぁ、僕としたことが忘れていた……これから、人と会う約束をしていますので、ここで失礼します。最高審判官殿」

     手元の花束から、ルミドゥースベルの花を一輪抜く。ヌヴィレットに手渡し、適当な嘘を並べると、足早く歌劇場を去った。彼が後を追ってくることは、なかった。

    (ヌヴィレットのバカ! もう関係ないのに、あんなことを聞かなくても、いいじゃないか!)

     カツン、カツンと、ヒールが石畳の道を叩く。右手で花束を抱え、左手はスカートをつまんだまま、ポート・マルコットへ続く道を歩いた。

    (でも、気持ちを伝える前に、分かってよかった。ヌヴィレットは、もうひとりの僕が好きなんだ。僕じゃない)

     ぽつり、ぽつりと雨が降る。晴天だったフォンテーヌの空が、分厚い雲に覆われた。きっと、水龍が泣いているのだろう。道がぬかるんでも、少女は歩みを止めなかった。

    (あぁ、水龍が泣いている。雨が降るほど、悲しかったんだ……)

     海面が雨に叩きつけられ、波紋が広がる。視界が雨と霧で遮られ、波の音が鮮明に聞こえても、黙々と歩き続けた。ヒールをはいた足が、悲鳴を上げている気がする。

    (足がズキズキする……痛い、足も、心も……)

     慌ててヒールを脱ぐと、靴擦れしていた。それに、景色が違う気がする。見渡すと、浜辺に青白く輝くルエトワールを見つけた。どうやら、リフィー地方の浜辺まで来てしまったらしい。

     フリーナは神の目を使い、座れる大きさの水玉を出す。手に持っていた花束を、膝の上に置いた。雨に濡れて体が冷える中、イースト・エスス山麓から霧が発生する。白くなる景色を呆然と眺めていた。

    (これでいい……これで、よかったんだ)

     長年、神を演じ続けた少女は、言い聞かせる。だけど、気づくのが遅すぎた。最高審判官は、自分を通して、亡き水神を偲んでいた。最初から、勝ち目なんてない。珊瑚色の唇が、わなわなと震えた。

    「もうひとりの僕……ヌヴィレットを好きになってしまって、ごめんなさい……!」

     ぽたりと、生暖かい水が、フリーナの頬をつたう。失恋したんだと気づくと、初めて大声をあげた。少女の瞳から流れた涙は、いまだに降り注ぐ雨に溶け込んだ。



     

    7 その濁流は、全てを飲み込もうとしていた(Side:F)
     水龍が嘆き、フォンテーヌの空に大雨が降る。フリーナの喉が枯れ、涙が雨に溶けた頃、遠くから4時を告げる音が聞こえた。

    (……帰ろう)

     落ち着きを取り戻すと、目元をキュッと抑える。立ち上がると、神の目を使って、サロンメンバーを召喚した。

    「ジェントルマンアッシャー、ごめん。悪いけど、花束とヒールを持ってくれないかい?」

     掠れた声でお願いをすれば、彼は8本の足を器用に使い、花束とヒールを受け取る。フリーナは汚れないように、スカートの裾をつまむと、ルエトワールが輝く浜辺を歩いた。

     冷たい雨に打たれたまま、フリーナは今後のことを考える。衣食住の援助を断り、アパートを引き払おう。いつまでも、彼の厚意に甘えたら、示しがつかない。

    (ヌヴィレットにとって、僕は迷惑な存在だろう。これを機に、旅立つのもいいまおしれない)

     旅人のように、テイワットを巡ろう。いっそ、万物の源であるグレート・フォンテーヌ・レイクに漂うのも、いいかもしれない。物思いにふけ、『水の娘』で披露した歌を、口ずさんでいた。

    (……あれ?)

     海岸に沿って歩いていると、海の色に違和感に気づく。天気が悪い時よりも、もっと黒く濁っている。波も高く、まとわりつくような感じがした。

    (何だろう、胸騒ぎがする)

     元素視覚を利用して、水元素を感知する。ねっとりする感覚に、フリーナの背中に悪寒が走った。ヌヴィレットほどではいが、何かが、フォンテーヌ廷に向かって、動いている気配がする。

     水を含んだスカートを持って、裸足で海原を駆け抜ける。速く走りたいのに、思った以上に動けなくて、もどかしかった。

    (水元素の気配が、濃くなっていく……)

     足がもつれそうになりながらも、一心不乱に走り続ける。フリーナはサロンメンバーとともに、周りを警戒した。

     霧の中から、フォンテーヌ廷の外壁が現れる。ぐるっと外周してみるが、異変はなさそうだった。もう一度、元素視覚を利用しようとした時、助けてと声が聞こえた。

     フリーナは目を凝らすと、水元素をまとった魔物が、子どもを黒く濁った海へと引きずり込もうとしている。必死に抵抗しているが、濁流にのまれかけていた。

    「何をしているんだい!?」

     フリーナは枯れた声を張りあげると、神の目から、『静水流転の輝き』を取り出す。海原から浜辺に駆け出すと、その剣先を魔物に突き刺した。

    「キミ、大丈夫かい!?」

     フリーナは魔物から子どもを引き剥がすと、『静水流転の輝き』を構え直す。睨みつけたその瞬間、魔物の正体を見て、フリーナの瞳が揺れた。

    (水形タルパ? 何てことだ! どうして、こんなところまで……!)
     
     フリーナの顔色が、氷スライムも驚くほどに真っ青になる。水形タルパは、とある水中洞窟を棲家にしてると聞いた。それが、なぜポワソン町の近くにいる。あれこれ原因を考えるが、そんな時間はない。

     フリーナは子どもを抱え上げると、宥めるように優しく声をかける。

    「いいかい? 僕がいいよと言うまで、目は開けないでくれたまえ」
    「……うん」

     子どもが泣きながら頷くと、目を閉じる。フリーナはジェントルマンアッシャーに預けた花束とヒールを、水形タルパに投げつけると、注意を逸らした。

    「ジェントルマンアッシャー、クラバレッタさん! 僕が戻るまで、前座は頼んだよ!」

     2匹は頷くと、水形タルパに向かって攻撃する。効果は今ひとつかもしれないが、足止めするには十分たっだ。

     フリーナは子どもを抱え直すと、シュヴァルマラン夫人を連れて、その場を離れる。ここから近い場所は、ポワソン町だ。彼女にとって、因縁深い場所だが、背に腹はかえられない。

     自分の身を犠牲にし、フォンテーヌのために天秤に傾けた――それが、関りのある人たちを悲しませるということに気づくのは、この騒動が終わってからであった。



    8 その正義が、少女を奮い立たせた(Side F)
     雷が空に轟き、雨が激しく降る中、フリーナは子どもを抱えたまま、ぬかるんだ道を駆け出す。靴擦れを起こした足が、再び悲鳴をあげる。白い足は泥だらけで、擦り傷ができていた。

    (走るのが辛くなってきた……だけど、これ以上、自分が愛したフォンテーヌを、民を、悲しい目に合わせたくない!)

     シュバルマラン夫人の口から泡が出るが、気にしていられない。フリーナは、自分を鼓舞した。500年間分の孤独と苦痛に比べれば、まだ耐えられるーーフォンテーヌを守ろうとしたこと、愛したことを、嘘にしたくなかった。

     やがて、朽ちた船の残骸が視界に入った。どうやらポワソン町に辿り着いたようだ。しかし、人の気配がしない。水位が高くなっているせいか、安全な場所に避難したのだろうと、推測できた。

    「よし、無事にみんな避難したね」
    「……そうだね。シャルロットさん。ナヴィアさんのところに行こう」

     聞き慣れた声が、地下から聞こえる。フリーナは目を凝らすと、シャルロットとフレミネが、ポワソン町へと繋ぐ梯子を登っていた。

    「……シャルロット、フレミネ!」
    「あれ? フリーナ様!?」

     フリーナは枯れた声をあげ、2人に声をかける。2人はフリーナに気づいたが、彼女がシュヴァルマラン夫人だけを連れて、子どもを抱えていることに驚いた。

    「フリーナ様、その恰好は? それに、その子どもは一体……?」
    「ちょうどよかった、2人とも! 僕に代わって、ふたつお願いしたいことがある」

     フリーナは子どもを抱き抱えたまま、ことの経緯を簡単に説明する。その上で、2人にふたつのお願いをした。

    「子どもを安全な場所に預ける、ですね。分かりました……この子はこちらで預かります」

     フレミネは頷くと、フリーナから子どもを預かる。もういいよと声をかければ、子どもは安心したからか、目を開けてワンワン泣き出した。

    「でも、もうひとつのお願いは、聞けません! おひとりで足止めするなんて、無茶ですよ!」
    「シャルロットさんのいう通りです……水元素で攻撃しても、効きません。せめて……せめて、ヌヴィレット様やナヴィアさんたちに、助けを求めましょう」

     シャルロットはキッパリ告げ、フレミネは同意する。2人はフリーナが水神を演じた理由知る、数少ない人物だ。ありがたいが、脅威はとっくに迫っていた。不快な水元素が、近づいている。

    「ありがとう。だけど、もう間に合わない。誰かが、足止めしなくちゃ」

     フリーナは眉を下げ、2人に微笑む。それは、水神を演じた時の作り笑顔ではなく、慈愛に満ちたものだった。

    「……それでは、あなたが危険な目に遭います! 一緒に、ここから離れましょう!」

     シャルロットが提案し、フリーナに手を掴もうとした時、突然、シュヴァルマラン夫人が、彼女に向かって泡を吹く。びっくりして、思わず手を引っ込めた。

    「ごめん、シャルロット。僕はもう人間だけど、それでもフォンテーヌを、みんなを守りたいんだ」

     フリーナは神の目を使い、水の球体から手紙を取り出す。ヌヴィレットに渡してほしいと頼むと、シャルロットにそっと手渡した。

    「……フリーナ様、あなたは」

     シャルロットが声をかけた時、フリーナの口から、開幕だと言葉が出る。神の目が光ると同時に、短い髪が長くなった。その姿は、水神としてフォンテーヌの頂点に立っていた時と、同じだ。
     
    「じゃあね、2人とも。あとは、頼んだよ」

     フリーナは空いている手で、スカートの裾をつまむ。2人の観客に向かってお辞儀をすると、来た道を引き返した。

    「待ってください、フリーナ様! 待って……っ!」

     シャルロットはとっさに、手を伸ばす。しかし、邪魔をするなと警告するように、波が彼女を隔てた。

    「シャルロットさん、一旦ここは引きましょう……!」

     フレミネは子どもを抱えたまま、両手剣を持つと、氷元素で波を凍らせる。その隙をついて、シャルロットの手を引っ張ると、ポワソン町を後にした。

     慌てて逃げて、坂にさしかかった時、シャルロットはちらりと振り向く。遠くから、ポワソン町付近の岸辺で、フリーナが水形タルパと交戦する様子が見えた。

     震える手で、ヴェリテくんのレンズを調整する。ごめんなさい、フリーナ様――消えるような声で呟くと、涙を堪えて、シャルロットは写真を撮った。
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