手放した猫は戻るのか 雲ひとつない碧い空から、鈍色の翼がタイヤを軋ませ滑走路に降りた。
空港の屋外デッキで機体の着陸を見届けた娘は幼児らしからぬ蜂蜜のような声音で父親に言う。
「ねえ爸爸ぁ、誰がヒコーキで来るの?」
「うーん、爸爸の大好きな人かな」
「えー?私よりも?」
いつの間に『私』などという一人称を使い始めたのか、本当に子供というのは知らぬ間に成長してしまう。苦笑しながら父親は娘の髪を撫でる。
「順番はつけられないなぁ」
そう、彼女がいなければこの娘は存在していないのだから。
いつになく速く打つ鼓動に気づいて軽く息を吐く。爸爸と呼ばれた男は再会を前にやはり緊張している己を自覚した。
男の名は華瑞月。この国でも五指に入る大企業の創業者一族に名を連ねる者だった。
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