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    truetruedp

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    truetruedp

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    注意書き

    ※全部捏造です。
    ※メンバーを同名登場させていますが、「こんな役を演じて欲しいな〜」くらいの気持ちで書いてます。当然ご本人とは関係なく、ご本人のパーソナリティに言及するものでもありません。
    ※演奏描写がありますが、彼らの実際のパフォーマンスに対する私の感想とは全く異なります。あと楽器の知識もありません。
    ※私が書きたいように書いたので、ノットフォーユーだったらそっとしておいてください。

    俺たちの復讐これは、なんなんだろうか。
    俺の何への罰なんだろうか。
    高揚していたはずの身体はすっと冷え切って、ただスポットライトが俺の表面を焦がすのみだった。
    ほぼいない観客、まばら以下の拍手。
    がくりと腕を落とすと、重力に従い指からピックが落ちた。
    暗転と共に俺は感情をシャットダウンさせた。

    タバコ臭いライブハウスの、さらに深淵たる控え室。ギターをケースにしまいながらケイゴは脳内で勘定していた。
    自分名義の客なんて呼べていないから、バック0。丸ごとの赤字。今後に繋がる何かもなく、ただの時間の無駄。
    出番前だと言うのに呑気にぎゃあぎゃあ騒ぐ共演者を横目に、息を吐いた。

    「…っす」

    愛想を振り撒く余裕も無く、ケースを背負って重い扉を開ける。挨拶は当然奴らには届いていないが、気にも留めなかった。
    ケイゴが控え室を後にしようとすると、紫のカッタウェイのアコースティックを胸に抱えた少年とかち合った。確か、俺の出番2個後の、…。

    「帰るの?」

    見た目より声が高く、幼い印象を受けた。背は俺よりも高いけれど、きっと年下なんだろう。
    彼の発言の真意が掴めず閉口した。煽られているのかと、少し苛立った。
    早くここから離れて帰って寝たい。半身で彼を避けて通り過ぎようとしたら、それは風のように耳を掠めた。

    「僕、君の演奏、好きだよ」

    …。
    思わず足を止めていた。
    彼は俺のリアクションには興味はないようだ。どこか覚束ない足取りで、控え室にそのまま吸い込まれていった。
    ただそれは、俺が今、1番欲しかった言葉だった。
    けれど、無性にイライラした。
    喉を登る黒い濁流に発狂しそうになる。それをどうにか胃に収め、舌打ちをした。

    入り口で精算を済ませる。一昨日の日雇い夜勤のバイト代が虚しく消えた。
    後は帰って寝るだけだが、無性に喉が乾いた。
    バーカウンターでコーラを買う。そのまま気まぐれに客席最後列の壁に背中を預けた。
    ちょうど、彼の出番だった。

    どうして見る気になったのかは分からない。ただ、「テメーの演奏は最悪だった」と彼に吐き捨てれば、自分の気持ちに折り合いがつく気がした。
    少なくとも、上手くはないはずだ。だって彼の指はギタリストにしては綺麗すぎるから。

    「…レイです。宜しくお願いします。」
     
    ステージ上の"レイ"は深く頭を下げた。相も変わらず、居ないに等しい客は特に拍手などしなかった。机に肘をつき炭酸を煽る暇人達にそんな優しさは無いのだ。…俺も含めて。

    しかし、最初の彼のストローク。

    アコースティック独特のざらついた音が会場に響くと、思わず誰もがレイに釘付けになった。
    ああ、今この空間の支配者は彼なのだ。そう誰もに思わせた。
    音が薄まりゆく静寂さえ、何かの始まりの予感の演出として成り立っていた。

    曲が始まり、レイはセリフのように歌詞を紡ぐ。
    弦の押さえが甘く、ミュートの1弦も鳴っている。しかしその歪な音は彼の嘆きの歌によく似合う。
    レイは客を見ているようで空を虚ろに見ている。その灰色に澱んだ目が気になった。
    音楽で食っていきたいというギラついた野望も無い、自分には音楽しかないという執着も無い、観客に何かを与えようとする愛でもない。
    こいつは、何がしたいんだ。何をしたくて今、そこで歌っている?
    得体の知れない迫力はあるのに、歌詞や曲の展開も悪くないのに、ずっと、ただ虚しさがあった。
    彼に期待してた客も自然と舞台上から興味を失っていった。
    …俺は、心に晴れないものを感じながら、最後まで見届けた。

    ステージが終わり、また彼が頭を下げる。俺と同じ惨めな目にあっても尚、表情に色が宿ることが無かった。俺はそのグレーの目が何かを映すところを見たかったのかも知れない。ずっと睨んでいたが、最後に2回瞬いて、彼はステージを去った。

    気がついたら俺は控え室に続く廊下に戻っていた。逃げられたようでムカついた。何か言わないと気が済まなかった。
    …否。少し、運命じみたものを感じたのだ。
    ポケットに手を突っ込み壁にもたれて待つ。出番を終えたレイは俺のことなど気に留めず通り過ぎようとしていた。
    その道を塞ぐように片足を上げる。向かいの壁に突っ張らせて物理的に通せんぼをすれば、ようやくその目は俺を映した。

    「なに?」

    きょとんとした顔と声。まるで今夢が覚めたように惚けた顔だった。

    「お前さ、何がしたいの」
    「?」

    ステージの感想を率直にぶつけてみる。レイの切れ長の吊り目が幾分か丸く開かれた。
    レイは少し思考をローディングさせて固まった。

    「えっと、…もしかして、僕が下手だったから怒ってる?」

    返ってきたのは純粋な推測だった。少し俺の顔を伺いながら、眉を下げる。
    言われてみて初めて、俺は俺の怒りを自覚した。確かに。俺は怒っているのかも知れない。お前の演奏自体にも、その人に容易く弱さを見せて甘えてくる感じにも。大体、下手って自覚してんなら練習しろ。沸々と苛立ちが興り、舌打ちをした。

    「自己満なら路上か風呂で歌ってろ」

    脚を下ろしてその場を去ろうとした。
    なんだ、吐き捨ててもちっとも気が晴れやしない。俺は奴に失望しきったつもりだった。

    「…ここじゃなきゃダメなんだ」
    「あ?」
    「知ってる人がいなくて、暗くて、狭いハコじゃないと、歌えない。」

    レイがステージにいた時のような空気の震え。例の、得体の知れない迫力が廊下に広がった。
    でもあのときの虚しさとは違う。ようやくお前の感情が、…怒りが、俺に向いた。

    「だって僕の歌は、復讐だから」

    その時、俺は思い出した。
    俺にとってのXデー。俺のバンドも曲も歌詞もメロディーも奪われた、或いは俺が壊した日。
    人生で最も不快だった日を思い出したら、口から笑いが漏れていた。

    「…あは、あははは!」

    レイは俺の様子を見て、微かに怯んだ。
    それすらも、愉快で不愉快。
    一気に酸素が巡るのを感じて、身体がとにかく熱かった。

    「お前さ、家出して俺と来いよ。」
    「は?」
    「俺が教えてやるって言ってんだよ」

    練習したくても、出来ねェんだろ?

    なるべく挑発的に、それでいて俺なりに慈愛を込めてそう言った。
    レイの瞳が暗い光で充ちていくようだった。都会で忘れられた星空のよう、そんなクサい感想が浮かぶ。

    「君、僕の復讐を手伝う気なの?」
    「バカ、俺の復讐にお前を巻き込んでんだよ」

    俺の復讐。そうだ、口に出してハッキリした。俺がやってることって、あの日の復讐なんだ。
    こいつの復讐、それが何なのか知らない。けれど、きっと多分、似たもん同士だと思う。
    きっと俺たち、自分の世界を手に入れたいんだ。

    「俺とお前、表と裏から世界に復讐しようぜ」
    「…トルデシリャス条約?」
    「は?知らねーけど、そうだよ」

    レイがふっと笑う。それに釣られて俺も笑った。
    ギターをそれぞれ片手に、反対の片手同士2人で手を繋ぎ、小さい地下のライブハウスを脱した。階段を駆け上がり、地上の地獄へ。
    独りと独りはそのまま暗い夜の闇に繰り出していった。


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    truetruedp

    MOURNING注意書き

    ※全部捏造です。
    ※メンバーを同名登場させていますが、「こんな役を演じて欲しいな〜」くらいの気持ちで書いてます。当然ご本人とは関係なく、ご本人のパーソナリティに言及するものでもありません。
    ※演奏描写がありますが、彼らの実際のパフォーマンスに対する私の感想とは全く異なります。あと楽器の知識もありません。
    ※私が書きたいように書いたので、ノットフォーユーだったらそっとしておいてください。
    俺たちの復讐これは、なんなんだろうか。
    俺の何への罰なんだろうか。
    高揚していたはずの身体はすっと冷え切って、ただスポットライトが俺の表面を焦がすのみだった。
    ほぼいない観客、まばら以下の拍手。
    がくりと腕を落とすと、重力に従い指からピックが落ちた。
    暗転と共に俺は感情をシャットダウンさせた。

    タバコ臭いライブハウスの、さらに深淵たる控え室。ギターをケースにしまいながらケイゴは脳内で勘定していた。
    自分名義の客なんて呼べていないから、バック0。丸ごとの赤字。今後に繋がる何かもなく、ただの時間の無駄。
    出番前だと言うのに呑気にぎゃあぎゃあ騒ぐ共演者を横目に、息を吐いた。

    「…っす」

    愛想を振り撒く余裕も無く、ケースを背負って重い扉を開ける。挨拶は当然奴らには届いていないが、気にも留めなかった。
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