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    truetruedp

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    truetruedp

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    柳楽ちゃんの青春の捏造 水城に映画に誘われるとこの補完妄想。

    試合終了のブザー。
    フゥと息を吐き、パタパタと襟元から体に風を入れる。汗で張り付いたウェアが不快だけど、ある種の達成感はある。柳楽はスコアボードをチラ見する。
    都大会の2回戦、相手は関東ベスト4の強豪。まぁ順当に負けたけど、情けないほど点差が開いたわけでもない。俺なりにやりきったし、なんというか、我ながら良い引退試合だったと思う。
    さ、監督ちゃんに焼肉でも奢ってもらってさ、最後の思い出を作りに行こうよ。
    柳楽のこのセリフは喉まで出ていた。しかし、振り返ったチームメイトの表情がその気を失せさせた。

    チームメイトはみな、肩を震わせていた。
    後輩ちゃんなんて泣いてるじゃん。
    え、なに?悔しいの?嘘でしょ。
    俺たちそんなガチの部活じゃないじゃん。
    めっちゃ部活サボってマックとか行ってたじゃん。
    俺たちが関東ベスト4に勝てるって思っちゃった?むしろこの相手に15点差は良くやった方っしょ。前半の俺のスリーポイントシュートが決まったとしても、最後の後輩ちゃんのブザービートが決まってたとしても勝ててないし。
    いや俺だって、俺なりに結構ちゃんと本気出して頑張ったけどさ。けど、さ。

    「……なんか、疲れちった」

    柳楽の中の青春の炎は、仲間との温度差を前に儚く消えた。



    柳楽はそれから、放課後は屋上に入り浸るようになった。
    暇だったのだ。
    部活もないし、受験勉強に身も入らない。チームメイトはあの試合をきっかけに完全に受験集中モードで構ってくれない。
    遊んでくれてた女の子たちも、柳楽が高三2学期の"大事な時"に入ったことで、なんかノリが良くなくなった。
    屋上のベンチに寝転び、戯れにバスケットボールを空に投げる。
    昼休みならともかく、あまり放課後に屋上に用がある奴なんてそういない。ただ1人でボールを投げ上げながら、柳楽は時間を持て余していた。
    気晴らしにゲーセンにでも行こうかな。そう思いながら柳楽が高めに投げたボールは、柳楽の手元に戻ってこなかった。

    「見つけた。」

    驚いて体を起こすと、そこにはクラスメイトの水城がいた。
    水城はバスケットボールを小脇に抱えて、メガネを指で上げた。

    「え。水城ちゃん?」

    こんなとこで何してんの。まるっきりブーメランになる発言は言わずに心にしまっておいた。

    「…『ちゃん』?」

    水城は思いっきり眉をしかめた。水城は柳楽が人をちゃん付けすることを知らないらしい。それくらいまでに2人は接点がないのだ。
    気を取り直して、とばかりに水城は咳払いを一つ。

    「柳楽お前、暇なのか?」
    「…水城ちゃんこそ」
    「俺は暇じゃない。お前に用があって話しかけてる」

    ぶっきらぼうな水城の物言いに柳楽は少しカチンときた。

    「生憎ひまだけど、なに?」

    接点はなくても、水城が学年一位の秀才であることは知ってる。そして風の噂で医学部志望なのも聞いてる。こんな所で俺と話してる場合じゃないだろ。それともなに、余裕アピ?
    柳楽は虫の居所が悪かった。ベンチから立ち上がり、身長差を見せつける。見下ろしながら睨んでも、意にも介さない様子で水城は答えた。

    「お前、映画出ないか」
    「……は?」

    水城は柳楽の横をすり抜け、ベンチに座った。話は長くなるらしい。

    「監督がキャストを探してて。その役にぴったりなんだ、お前が。」

    柳楽も怒気を抜かれ、ベンチの隣に座った。

    「俺が?」

    まさか学年一位の水城が、柳楽を映画のキャストに誘いに来ただなんて思いもよらなかった。そう言えば映研なんだっけ、こいつ。

    「ああ。主役ではないが、主役の幼馴染役で、バスケの天才。性格もどことなくお前っぽい、と、思う。」
    「…ふ〜〜〜〜ん??」

    柳楽は久々にゾクゾクと体が昂揚していくのを感じる。
    映画のキャストにスカウトされているという状況と、「天才」と水城から言われた(ような気がする)ことと、柳楽自身が他人に求められていることに。
    もっと水城の言葉の続きを聞きたくて、柳楽は敢えて黙ってみた。スカウトは受ける気満々だが、もう少しこの気分を味わいたかった。
    水城はその様子に気がついていたが、言葉を続けた。

    「あと、お前には華があると思うんだ。映像で映える。」

    両目でしっかり柳楽の顔を捉えながら、水城は言った。予想外の直球な褒め言葉に、つい柳楽は顔を逸らした。
    水城は勝ちを確信したようにため息をついて、前に向き直る。

    「何より暇そうだしな。お前。拘束時間も長くなるだろうし、都合が良い」
    「ちょっと、最後に落とさないでよ」

    思わず突っ込んできた柳楽に、水城は鼻で笑った。柳楽はバツが悪そうに頰を掻いた。

    「…にしても水城ちゃん、コーハイ想いだねぇ。引退しても手伝ってるなんてさ」
    「引退、してない。」
    「え?」
    「延した。」
    「…うそ」
    「嘘ついてどうするんだ」

    大真面目に言う水城に、柳楽は目を丸くした。

    「この映画の脚本、面白いんだ。監督もかなり才能がある。どうせなら、それを見届けてから引退したいからな。」

    ー最後の思い出作りだ。

    水城がつぶやいた言葉は、柳楽を撃ち抜いた。

    「…良い」
    「?」
    「え、めっちゃ良い。柳楽ちゃん、今の刺さっちゃったわ」

    柳楽の口からは溢れるように言葉が出てきた。水城は、独り言をいうような、こちらに話しかけているような柳楽の様子に戸惑っていた。水城が何か声をかけようとすると、柳楽は勢いよく立ち上がった。

    「やる。やります。最後の思い出、つくろ!ね?水城ちゃん」

    水城は、突然態度が変わった柳楽に戸惑いを隠せず、すぐに頷けなかった。柳楽はそんな水城の腕を強引に引っ張り、屋上からとびだした。

    こうして、柳楽の青春の炎は再び燃え始めたのだった。
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