フォトフレーム(野村と裕太)「ねえ、どんな感じ?上手くできてる?」
「いい感じっすよ」
「ホント?嘘くさいなあ、裕太ちゃんと撮ってよ」
「わかってますって」
カシャリ。シャッター音でピースサインを下げる。覗き込むと、スマホの中で推しが笑っていた。可愛い。じゃなくて。
「ちょっと、全然違うじゃん!」
「え?」
「僕巨人すぎるって」と言いつつ画面を指し示す。立っている僕と隣に並んだ――画像の中で、だが――女の子との縮尺が合っていない。
僕が応援しているアイドルグループが今カップ麺とコラボしている。蓋裏にメンバーのサインとQRコードがあり、それを読み取るとメンバー一名が写っているフォトフレームが表示され、なんと一緒に写真撮影できてしまうのだ。ランダム封入なので、推しを引き当てるまでの道のりは険しかった。オンラインショップで箱買いして、観月の冷たい視線を浴びつつ、日に一食はラーメンをこなす毎日。柳沢に手伝ってもらいつつ箱の中身を減らしていたのだが、やっと運が向いた。
蓋を開けて小躍りした僕は、昼食を食べるのもそこそこに裕太に撮影を頼んでいたというわけだ。
「そんなもんですよ」
「適当すぎる!僕が今日までどれだけ苦労したか知ってる癖に!ラーメン食べるの手伝ってくれなかった癖に!」
「俺しょっぱいの得意じゃないんで」
「写真撮るのも得意じゃないよ!」
裕太が撮った写真はひどい。画面の右三分の一くらい、推しが微笑んで佇んでいる画像。その横にドアップの僕の顔が画面いっぱいに写っている。どう考えたら縮尺合うんだよこれ。なんでアップで撮ろうと思うんだよこのフレーム見て。裕太は「顔デカい方が嬉しいかと思うじゃないですか」とメロンパンを頬張りながら言う。思わないよ。
「それよりも麺、伸びますよ」
「やばいやばい」
慌ててラーメンに箸をつける。少しふやけた麺の味は、ここしばらく食べ続けたものと変わらないのに、格別に感じた。
不出来な後輩に手本を見せてやろう。麺を啜りつつ、フレーム越しに裕太を撮った。具合を確認してみれば、完璧だ。こんな風に撮ってよ。いやしかし、かっこいい奴だな。推しと並べると芸能人相手に遜色ないような気もしてくる。うーん流石、不二弟。
後半口から出ていたようで、「ほっほ」と眉を吊り上げた裕太が睨んでくる。“ちょっと”?…パン食べてるから何言ってるかわからない。
怒んないでよ。顔いいんだからさあ。