セ部屋(観赤)真白い部屋だ。床も壁も白くて、それほど広くはない。壁沿いを歩いて八歩ほどで突き当たりの壁に行き当たる。そして、部屋の中央にはベッドが一つある。ダブルサイズで枠組みは木目。白い空間にあるので、それだけぼんやりと浮かび上がって見える。ともすれば、この空間はひとつのインスタレーションアートにも思える。
観月は“自由に展示を見に行きレポートを書く”という課題で美術館へ訪った時のことを思い出した。内容よりも、会期中の展示の数に、都会は文化的な選択肢も多いな――と気圧されたことのほうが記憶に残っている。
しかし、今は悠長に芸術鑑賞をする気はない。
「なあ、もうよくねえか」
「いいわけないだろ」
緊迫感のない赤澤の物言いに観月が眦をつりあげる。
「俺がやっても無理なんだから開かねえよ、そのドア」
「…ドア以外にも出口があるかもしれません」
「いいだろ一発ぐらい」
「何を呑気なことを…!」
腹立ち紛れに観月の拳がドアを叩く。びくともしない。小一時間前から今までずっと閉ざされたままだった。
ドアの斜め上にかけられたプレートが余震でカタカタと間抜けな音を立てた。
プラスチック製のプレートにはこうある――“セックスしないと出られない部屋”。
「おかしいだろ!なんだこの気色悪い部屋は!」
「出れねえんだろヤらないと」
「そんな部屋はない!」
「俺たちが今いるだろ」
「絶対におかしい、社会に必要ないだろこんな部屋!異常者の策謀か!?カメラでも仕掛けているのか!?」
そう言うと観月は部屋中をあらため始めた。といってもベッド以外に物がないので、壁や天井に目を光らせるくらいしかすることがない。
かがみ込んでベッドの下を覗き込む。埃一つない。打破できない現状に歪ませた顔を上げると、日に焼けた腕が見えた。見れば、シーツの上で赤澤が寝こけている。
観月は気が遠くなりそうな中で思った。
――このバカとヤってるのを世に知られるくらいなら、死んだ方がマシだ。
もう一度ドアノブを捻ってみた。開かない。
観月は穏やかな寝息が聞こえる中、“部屋から出たらこれを作った奴をどう痛めつけてやろうか”ということに思いを巡らせた。そうしなければ、餓死より先に憤死しそうだった。