一心同体(観赤)「ちょっ、と、」
「待て」という自分の声が眼前からするのを観月は聞いた。迫った地面に反響した声だ。
倒れかけて、手をつこうとして、危うく捻りそうになり、結局手を庇って倒れた。
少し先を行く淳が「ドンマイ」と言って笑っている。彼とペアの柳沢が振り返ると、地面に倒れた観月と赤澤がごちゃごちゃに絡まっている。
「何してるだーね、ウチの問題児コンビは」
「お前たちだろ!」
「観月、重い」
二人は部のブレーンの間抜けな姿でひとしきり笑うと、長いハチマキを翻してさっさと行ってしまった。
繋いだ足がひょいっと上がる。そしてすぐに逆の足が上がって、進む。息ぴったりの動作だ。
「あいつらを組ませたのは正解だったな」と――コケにされた己の自尊心を無意識に回復させようという旨意はありつつも――観月は感心した。
そのうち、二人は早々にフロアの端へ到達した。本番ではコーンで折り返して倍の距離を走る予定だが、二人なら良いタイムが出せるだろう。
どこのチームもダブルス選手同士のペアはなかなかに良い走りだった。そうでないペアも、苦戦はしているがゴールはできている。転んでいるのは滅多にいない。二人三脚初体験のヨーロッパ勢と、観月たちぐらいだ。
観月は倒れ伏した赤澤の上からどいてやると、服についた埃を不機嫌に払いだした。
そもそも、組まされているのがおかしい。全く体格が合っていない。肩を組むというよりも腕を乗っけられてるみたいで重くて不快だし、こちらの身長を考慮しないで大股で踏み込むのでバランスを崩す。もっと短く足運びしろと言えば小股すぎて、かといってもっと大股でと言えばやりすぎる。加減ができない男なのだ。なんでも粗野で、0か100かしかない。
観月はそんな主張を胸中でしていたので、足を引っ張られてひっくり返った。
「あ、悪い」とだけ言って、足を引き寄せた赤澤が紐を解く。観月はもう何かいうのも億劫で、直し終わるのを座して待った。
赤澤が手元を見て頷いた。結び終えたらしい。何度も転ぶせいで、彼は今日初めてリボン結びを覚えた。ネクタイと固結び以外の新しいバリエーションだ。
赤澤が結び目から手を離した。その手元を見た観月が顔を顰める。
丸くくくられた紐。その両端がすごく歪だ。紐の中央で結ばなかったのか、片方だけだらんと伸びて落ちている。
踏んでまた転びそうに思えたが、赤澤は気にならないのかそのままに立ち上がる。観月は仕方なく手早く直し、隣に立ち上がった。
「絶対に本番までにものにしますよ、負けは御免だ」
「俺が抱えるか?」
アメリカ代表の様子から得た案だった。彼らは既に練習を終え、フロアの隅で盛り上がっている。足を繋いだ越前リョーマをドゥドゥが抱えて、飛んだり駆けたりしている。
観月は一瞬思索して、「馬鹿言うな」と正面に向き直った。一瞬でも検討したのが観月らしい――と赤澤は思った。
斜め下のつむじを赤澤は見つめた。体格が全然違うのを実感する。
――でも、負けず嫌いは同じだ。
赤い紐で繋いだ足を踏み出す。「遅い」と文句を言われたので、足を早めた。