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    ろきのや

    @rokinoya_ut

    UT・DR妄想捏造 /主にChasriel(アズキャ)、Flowisk(フラフリ)、Krisriel(アズクリ)他雑多雑食

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    ろきのや

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    2人目のニンゲン(捏造オリジナルキャラ)がすっげぇでしゃばるアズキャ生存if 様々な捏造 未完
    何でも許せる人向け 
    grok君に欲望ぶつけてたら盛り上がってしまってなんか生まれたので供養

    二人目のニンゲン最初のニンゲンが落ちて来てから、およそ8年の月日が流れていた。

    ニンゲンが落ちてきた。その噂は瞬く間に地底に広まり、最初のニンゲン、キャラの耳にも届いていた。

    キャラはいくらか背が伸び、顔立ちも大人びてきていた。
    件の2人目のニンゲンは、落ちて来たばかりにも関わらずモンスター達にも友好的に振る舞っているらしい。

    噂話ばかり耳にするのは、キャラがそのニンゲンに会いに行くつもりが全くなかったからだった。
    地上でニンゲン達に受けた仕打ち。冷たい視線。鋭い言葉。嫌な記憶が蘇って心がざわつく。

    しかし、そんなキャラの心中を知るのはアズリエルくらいだ。トリエルとアズゴアは2人目のニンゲンを、キャラと同じようにこの家に迎え入れた。

    自分だってニンゲンであり、モンスター達に救われた身だ。勝手な事は言えない。とはいえすぐに受け入れる気持ちにもなれない。
    キャラは我ながら幼稚だと思ったが、家にやって来たニンゲンと言葉を交わす事もなく、自室に引き篭もっていた。

    ────

    トリエルもアズゴアも新たなニンゲンについて国民に説明すべく公務に奔走し、アズリエルもこの国の王子として国民の質問責めに遭っているだろう。

    今、家にはキャラと、ニンゲンだけ。そう思うと気が重くなった。
    安心できる場所だった我が家に異物が混ざり込んで、落ち着かない。

    家の中をうろつけば、いつニンゲンと遭遇するかも分からない。今や唯一自分の場所だと思える自室に引き篭もっていると、コンコンと扉をノックされた。

    緊張が走る。

    ニンゲンだ。

    今、一対一で会いたいとは思えない。

    無視してしまおうか。

    身を固くして扉の向こうの様子を伺っていたが、ノックはされたものの、そこからなんの動きもなく、静かだった。
    不在だと思ったのだろう。キャラは少しだけ安堵した。

    しかしこのままでは気が滅入りそうだった。いっそ家を抜け出して、家族が戻るまでどこかでやり過ごそうか。誰かと会えば気が紛れるかもしれない。
    キャラはそう思い立って、鍵を開け、そっと扉を開いた。

    ニンゲンと遭遇したくない気持ちで。


    ──視界に映ったのは、扉の前に立つニンゲンの胴体だった。


    キャラの心臓は跳ね上がり、扉を閉め、鍵をかけ、固まった。

    何だ。今の。

    キャラは今、目が捉えた物をうまく理解出来なかった。反射的な行動の後から、じわじわ思考が追いついてくる。

    ノックの音から随分経ったはずなのに、何故まだ扉の前にいるんだ。まさか今までずっとあそこに立っていたのだろうか。

    声も掛けず、ただじっと扉の中の気配を探り、そして今だって、再び閉じられた扉の前で静寂を保っている……そんなニンゲンの姿を想像して、ぞわりと背筋が冷えた。

    静かな室内で、自分の心臓の音ばかりがうるさい。

    見間違いかもしれない。そんな願望が浮かぶが、扉一枚隔ててそこに存在しているかもしれない何かを再び確認する勇気は無い。

    キャラはそっと扉から離れ、早く消えろと祈りながら家族の帰りを待つ事しか出来なかった。

    ────

    あれからどれだけ経っただろう。あのニンゲンは今もまだ扉の前にいるのだろうか。

    扉の向こうを想像していると、聞き慣れた足音が遠くから聞こえて来る。
    ノックの音に、今度は怯えなかった。

    「キャラ、いる?ひとりにしてごめん。みんなに捕まってなかなか抜け出せなくてさ……」

    アズリエルの声だった。キャラはようやく安心して扉を開けた。
    アズリエルは今やトリエルより背の高い青年に成長し、立派なツノを生やしていた。

    「……顔色悪いよ。大丈夫?」

    少し屈んでキャラの顔を覗き込むアズリエルの言葉は、キャラがニンゲンを良く思ってないと知った上での心からの気遣いだった。

    キャラはアズリエルになんと答えたらいいか分からず、曖昧に笑う事しか出来なかった。

    ────

    夕食の席で、ニンゲンと顔合わせをする事になった。これからキャラと同じようにここで暮らす事が正式に決まったらしい。

    ダミアンと名乗るニンゲンは、キャラと近い年頃に見える黒髪の青年だった。

    「こんな素敵な家に迎え入れてくれてありがとう。とても嬉しいよ」と感謝を伝え、アズゴアもトリエルも穏やかに頷いている。
    アズリエルともいくつか言葉を交わす様子は友好的で、いい奴そうだった。


    じゃあ「アレ」は一体なんだったのだろう。


    キャラは思い返す。

    自分が見たと思ったニンゲンは、恐怖心が見せた幻だったのだろうか。

    それともニンゲンではない別の何か。

    目の前のダミアンの様子と、あの扉を挟んだ不気味な出来事が結び付かず、いつもより豪華な食事を前にしても、キャラにはその味が分からなかった。

    「ねぇ、君がキャラだね。話は聞いたよ。ニンゲン同士仲良く出来ると嬉しいな。これからよろしくね」

    ダミアンはこの世界で唯一同じニンゲンであるキャラに親しみでもあったのか、遠慮なく近付いて来る様子に、妙な馴れ馴れしさを感じた。

    キャラは伏せていた顔を上げて、ようやくダミアンの顔を見た。

    ダミアンの青い瞳が嬉しそうにキャラを見つめている。

    その瞬間、なぜかキャラは背筋がぞわりと冷えるのを感じた。

    「……悪いけど、私の事は放っておいてくれないか」

    そう返されたダミアンは、軽く首を傾け、キャラの顔を覗き込んできた。

    「やっと目を合わせてくれたね」

    突然接近され、キャラは思わず席を立とうとしたが、隣で様子を伺っていたアズリエルがキャラとダミアンの間に割り込んでくる事で均衡を保った。

    「ごめんね。キャラは少し人見知りなんだ。慣れるまで時間が必要だから、暫くそっとしておいて貰えると助かるよ。悪気はないんだ」

    申し訳なさそうにお願いするアズリエルを見上げ、ダミアンは薄く微笑んだ。

    「大丈夫だよ。キャラもいつか家族として僕の事を受け入れてくれると嬉しいな」

    「そうね。ゆっくり慣れていきましょう。困った事があったらいつでも頼ってちょうだいね」

    「時間ならたっぷりあるからね。焦る事はないさ」

    気にしないでと微笑むダミアンにトリエルとアズゴアの言葉が続き、食事の席は終始穏やかだった。

    ダミアンはまるで昔からここで暮らしているかのようにこの場に馴染んでいた。

    別に何も問題なんて無いはずだ。

    それなのに、キャラの頭にはあの扉を挟んだ静寂が。

    立ち尽くすニンゲンの記憶が張り付いたままだった。

    ────

    キャラは部屋に入った途端、ベッドに突っ伏した。

    なんだか違和感が拭えない。それともおかしいのは自分なのだろうか。
    混乱と不安が胸を埋め尽くしていく。

    (私がニンゲンに過剰反応しているだけなのか……?)

    キャラは枕に顔を埋め、自問自答を繰り返す。
    悪いのは自分。いつもそうだ。

    家族がダミアンを受け入れると決めたのだ。いつかは自分も歩み寄らなくてはいけない。

    自分の態度がアズリエルや両親の負担になる事は分かっている。申し訳なさが胸を刺すが、自分でもどうしたらいいのかわからなかった。

    すると、ガチャリと部屋の扉が開く音がした。

    「アズリエル、入って来るならノックくらいしろよ」

    どうせアズリエルが自分の様子を見に来たのだろう、とキャラは思った。

    さっきだって随分気を揉ませたはずだ。こういう時アズリエルがキャラの様子を見に来るのはいつもの事だった。

    扉が閉められ、気配が近付く。

    その足音が聞き慣れたものではない事に気付き、弛緩した気持ちが一気に強張った。

    アズリエルじゃない。

    心臓が早鐘を打ち、警鐘を鳴らす。

    キャラは反射的に気配に枕を投げ付け、ベッドから飛び起きた。

    投げられた枕を手に持つダミアンが、そこに立っていた。

    ダミアンは枕をまじまじと見つめ、皺を伸ばすように丁寧に撫でたかと思うと、キャラへと視線を移した。

    彼は穏やかそうに微笑んでいたが、キャラにとっては嘲笑にしか映らない。

    あの時、扉の前に立っていたニンゲンは幻覚などではなかったと確信し、キャラはゾッとした。

    「なんの用だ!?勝手に入って来るな!出ていけ!」

    キャラは叫んだが、怒りよりも恐怖が勝り、声が震えた。

    ダミアンはキャラの様子を観察するような眼差しでじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。

    「君と少し話をしたいだけだよ。2人きりで」

    放たれた言葉は親しげに響いたが、それが余計にキャラの恐怖心を煽った。
    彼が一歩近付くと、キャラは後ずさり、威嚇するように睨んだ。

    「お前と話す事なんか無い!近付くな!」

    手当たり次第近くの物を投げ付ける。本、ペン立て、なんでもいい。しかしダミアンは意に介さず、淡々と迫ってくる。

    「そんなに怖がらないでよ。別に君を傷付けるつもりなんてないんだから」

    ダミアンは優しげに語りかけてくるが、キャラはダミアンが自分を対等に扱う気が全くない事を敏感に感じ取り、恐怖を覚えた。
    全身から冷や汗が流れ、呼吸が浅くなる。

    「来るな……!」

    その時キャラの叫び声に駆けつけたアズリエルが「キャラ、どうしたの!?」と扉を叩く。

    その声にピタリと動きを止めたダミアンを突き飛ばし、キャラは急いで部屋を飛び出した。

    驚いた顔のアズリエルと目が合ったが、その側をすり抜けて逃げ出した。

    ────

    アズリエルは尋常では無いキャラの様子に呆然としながら走り去る背中を見送り、室内を見る。

    散乱した室内で、困ったように笑うダミアンと目が合った。

    「ちょっと話をしてみたかっただけなんだけど……悪い事しちゃったかな?」

    ダミアンの無邪気そうな様子に、アズリエルは頭を抑え……ため息をつきそうになった。

    「ダミアン……キャラの事は暫くそっとしておいて欲しいってお願いしただろ?」

    キャラの叫び声はアズリエルにも届いていた。ダミアンが勝手に部屋に入り、キャラを怒らせた……いや、怯えさせたのだ。

    「ゆっくり話す時間さえあれば、仲良くなれると思ったんだ。軽率だったよ」

    ダミアンの表情は申し訳なさそうに見える。彼はここに来たばかりで、キャラの気持ちは分からない。だから今回の事は仕方ない……と、アズリエルは心の中で自分に言い聞かせ、深呼吸してからダミアンに語りかけた。

    「ちゃんと説明してなかったね。キャラは、なんていうか……ニンゲンが苦手なんだ。さっきの様子を見れば、普通じゃないって事は君にも分かるだろ?」

    アズリエルの声は穏やかだったが、そこにはキャラを守りたい意志が宿っていた。

    「これからはキャラに無闇に近付いたり、無理強いするような事はしないで欲しいんだ。ここはキャラの部屋で、キャラの場所だ。ボクだって自分の部屋に勝手に入られるのは嫌だよ。ここで家族として暮らしていくためにも、どうかルールは守って欲しい」

    アズリエルは真剣に、静かに伝える。ここだけはキャラのためにも譲れない。

    ダミアンは部屋を出ながら「分かったよ」と頷いた。アズリエルは理解して貰えた事に胸を撫で下ろし、キャラを探しに行こうと踵を返した。

    「でもさ」

    背後からダミアンの言葉が続く。アズリエルはゆっくりと振り返った。

    ダミアンは扉の前で立ち止まり、黒い前髪の隙間から青い瞳を覗かせていた。

    「僕達はニンゲン同士なんだよ。同じ種族として、側に居たいと思うのは当然だろ?」

    アズリエルはその言葉の意図を図りかねた。どこか押し付けるような響きを感じる。

    「……君の気持ちは分かったよ。でもキャラの気持ちも尊重してあげて欲しい。君がどう思おうと、キャラが怖がってるのは事実なんだ」

    アズリエルの声は静かだった。

    「ボクは君を家族として歓迎したいと思ってるよ、ダミアン。ただ、キャラには時間が必要なんだ。それを待ってあげて欲しいんだよ」

    ダミアンは肩をすくめて、「分かったよ、王子様」と微笑んで立ち去った。

    アズリエルはダミアンに言いたい事は山ほどあった。しかし、ニンゲンとモンスターの文化や価値観の違いもあるかもしれない。
    この世界に来たばかりの彼を、この場で強く責めるような事はしたくなかった。

    ────

    アズリエルはキャラの姿を探し家中を見て回ったが、見当たらない。ふと思い当たる事があって自室に戻ると、案の定鍵が掛かっていた。キャラはこの中だ、と確信した。

    「キャラ、ボクだよ。入っていい?」

    ノックすると、開錠してから扉を開け、キャラが顔を覗かせた。
    その表情は疲れているようだったが、アズリエルの顔を見て少し和らいでいた。

    「ここボクの部屋なのに……」

    アズリエルは苦笑して部屋に入る。

    「前は私の部屋でもあっただろ」

    アズリエルが部屋に入り、キャラは鍵をかける。アズリエルとキャラは昔、この部屋を分け合って過ごしていた。
    成長するにつれ部屋が手狭になり、今ではキャラは増築した別の部屋を当てがってもらうようになっていた。

    アズリエルがベッドの端に腰掛けると、キャラも自然にその隣に座った。
    長い沈黙があった。アズリエルはキャラの言葉を待っていて、キャラは心の中で言葉を探している。やがてぽつりと呟いた。

    「部屋に戻りたくない」

    それだけ言って、キャラは押し黙った。

    先程の事について、キャラは何も言いたくない様子だった。心配されたくない。大事にしたくない。しかしこうしてアズリエルと部屋で一緒に過ごしている事自体が、キャラなりの精一杯の頼り方だった。

    「じゃあ今日は一緒に寝よう!昔みたいに!」

    アズリエルは努めて明るく提案する。

    いま腰掛けているキングサイズのベッドは、2人で寝転がっても十分な余裕があるだろう。
    昔はそれぞれ用意された小さなベッドがあるにも関わらず、どちらかのベッドに潜り込んで語り明かした夜もあった。

    「お前がメソメソしてるのを慰めてやったんだ」

    キャラが冗談めかして言う。アズリエルは目を丸くして反論した。

    「え!?キャラが勝手に入って来てボクをモフモフしてたんじゃん!」

    捏造だと憤慨してみせるアズリエルの懐かしい幼さにキャラの口元が緩んだ。
    和らいだ空気の中、アズリエルはキャラをそっと抱きしめる。

    昔、キャラが不安で押しつぶされそうになった時は、こうして抱きしめてあげれば落ち着きを取り戻してくれていた。

    キャラはアズリエルのフカフカの胸に顔を埋め、肩の力を抜いてその温もりに身を預けていた。

    「やっぱ昔より嵩張るな……デカくなり過ぎだよお前」

    キャラは顔を上げて呟く。昔はほとんど変わらなかった身長が、今では随分と引き離されてしまい、アズリエルのがっしりした体はもう立派な大人になっていた。

    「でも抱き心地はいいでしょ?」

    「まぁ、悪くない」

    アズリエルのどこかとぼけた口調に、キャラは口元に笑みを浮かべていた。

    ふと、キャラは顔を埋めながら呟いた。

    「……トリエルとアズゴアにはさっきの事、黙ってて」

    今だって2人は忙しくしてる身なのだ。
    責任ある立場の両親に、余計な負担を掛けたくない。キャラのお願いに、アズリエルは優しくキャラの背中を撫でた。

    「分かったよ。父さんと母さんには言わないでおくけど……困った時はいつでもボクに頼ってね」

    でっかいモフモフに包まれて、キャラはようやく安心出来た。

    その夜、二人は昔のように寄り添って眠りにつく。ダミアンの影はまだ心のどこかに残っていたが、今はこの懐かしい場所で、アズリエルと共に過ごす時間がキャラを癒していた。

    ────

    翌日から、アズリエルはキャラがダミアンと2人きりになる事がないように気遣った。
    アズリエルの協力もあって、キャラがダミアンと距離を置きながら生活する事はそれなりにうまくいっていた。

    アズリエルはさりげなくキャラの側に立ち、ダミアンが近づこうとするたびに自然に間に入り、会話や状況を切り替えた。

    ダミアンはそれについて特に不満そうな様子は見せず、あの日のような強引な接触をしようとする事はなかった。

    しかしダミアンがキャラに避けられているという話はモンスター達の間で広まっていく。

    キャラの動揺やダミアンの不穏さを知らないモンスターからすれば、なぜキャラがダミアンを避けるのか分からないだろう。

    ダミアンは表向き人当たりがいい。交流する時は友好的で穏やかだ。
    そんないい人を拒絶するなんてキャラの方に何か問題があるんじゃないかと囁く声もあった。
    新しいニンゲンに居場所を奪われそうで嫉妬してるんじゃないかと。
    だとしたら意識を変えるべきはキャラではないか。
    キャラの心境を理解出来ない周囲の反応は、キャラを追い詰めていった。

    アズリエルの耳には、キャラがダミアンを避けてるんだって?仲良く出来るよう取り持ってあげた方がいいんじゃない?という、善意からくる言葉がいくつも届く。

    実際他人からの印象ではダミアンが不憫に映るのだろう。同情的な意見は多かった。
    ダミアンが同情を集める一方で、周囲からのキャラへの理解は薄れていく。
    モンスターたちの善意がキャラを傷付け始め、アズリエルはどう対処するべきか悩んでいた。

    そんなある日、トリエルがキャラを呼び、ラボに差し入れを持って行ってあげてとお願いした。

    王であるアズゴアが視察のためにラボを訪れているという。

    キャラはこの世界唯一のニンゲンとして、これまでも何度かラボを訪ねた事があった。

    キャラとしてはいくらでもニンゲンの体を調べて貰って構わなかったのだが、王が庇護する子供に無理はさせられないと、いつも健康診断のようなものを受ける程度だった。

    ホットランドのラボ、ガスター博士の研究所を尋ねると、アズゴアとガスターが何事か会話をしているようだった。

    ガスターはともかく、アズゴアが難しい話をしているイメージはない。ほんの世間話なのだろう。

    扉が開く音に気付き、アズゴアがキャラからパイの入ったバスケットを受け取る。

    せっかくだからお茶にしようじゃないかとアズゴアと博士、キャラの不思議な組み合わせで机を囲む事になった。

    ガスター博士は優秀な人物だとは知っているが、その人となりはいまいち掴みどころがない。とはいえ合理的な考え方は好ましく、話も興味深いものが多かった。

    ところが研究室の中はお世辞にも片付いてるとは言い難かった。

    資料が散乱し、なんだかよくわからない機材や道具までもが放置され、食いかけのインスタント食品の屍が散乱していた。

    アズゴアがキャラに、「もしよかったら、ここの手伝いをしてみないかい?」と提案した。
    博士はいつも忙しいし、お掃除してくれる人がいれば何かと助かるだろうと。
    ガスターも肯定的で、キャラも家を離れる口実が出来て都合が良かった。

    無心で掃除していれば、余計な事を考えなくて済む。ダミアンも他のモンスターの目もないこの場所は、キャラの心を落ち着かせた。

    掃除だのお茶汲みだの、時には博士の飯の世話までしてる内に、丁度そこに居るんだし、というノリで博士の無茶振りが飛んでくるようになってきた。

    「その計器の結果を記録して」「これを計算して」「これをまとめて報告書に」
    博士自身が優秀過ぎるせいか、雑用係に与えるような内容ではない事までどんどん降ってくる。キャラはふざけんな、と思いつつ、そうした作業が意外と性に合っていた。

    必死で食らいつこうとしている内に出来る事が増えていき、その内助手の真似事のようなものも問題なくこなせるようになっていった。
    具体的な内容はもっと頭の良い奴らが頑張ってるのだから、気負う事もなかった。

    ガスター博士は何を考えてるか分からない時があるけれど、深入りして来ない分、キャラにとってある意味気楽だった。

    思えば普段の様子からも、両親には何か察するものがあったのだろう。
    両親の気遣いで、キャラは自分の場所を手に入れていた。

    ────

    キャラが気晴らしに散歩していれば、広場からモンスターたちとダミアンの楽しげな笑い声が聞こえてきた。

    ダミアンは笑顔でボールを蹴り、仲間と共に戯れ、まるで善良そうに見えて、あの時の不気味な姿と同一人物なのかキャラにも分からなくなる。

    その時、遊びに使っていたボールがキャラの方向に転がってきた。キャラの足元で止まり、静かに揺れる。

    「あ!キャラ!ねぇ、キャラもこっちに来て一緒に遊ぼうよ!」

    モンスターの1人がキャラに呼びかける。もしかしたらダミアンとキャラの関係の噂を聞いて、きっかけを与えようとしているのかもしれない。

    善意から来るものだと分かっていても、正直余計なお世話だった。しかし自分を取り巻く問題がアズリエルや周囲を困らせ、気を揉ませている事は事実だった。

    モンスターたちがいる。2人きりではないのだから、大丈夫なはずだ。キャラは自分にそう言い聞かせ、ボールを拾い上げる。
    それを受け取るためにダミアンがこちらに駆け寄ってくる。落ち着け。何も問題ないはずだ。

    ボールを渡そうとした時、ダミアンの手がキャラの手に触れ、耳元に顔を寄せた。

    「ここのモンスターってみんな警戒心が無くて笑っちゃうよ。全員簡単に殺せそうじゃない?」

    ダミアンに囁かれた言葉に、キャラは凍り付いた。ボールが手から滑り落ち、地面に転がる音が響く。
    言葉の意味を理解した瞬間、キャラはダミアンの胸倉を掴んでいた。

    「なんだと……?」

    キャラの瞳に強い光が灯り、怒りが溢れ出した。

    「あれ?ごめんごめん、冗談だよ。君、モンスターたちの事大事なんだね?」

    ダミアンの軽薄な様子はキャラを不快にした。キャラがダミアンを睨み付けると、何が面白かったのか。ダミアンは挑発するように続けた。

    「本当にモンスターを殺して見せた方が、面白いかな?」

    「お前!」

    誤解なんかじゃない。やはりこいつは最悪のニンゲンだとキャラは確信した。

    だが、気付くとモンスターたちがダミアンの胸倉を掴むキャラを見て動揺している様子が目に入った。何が起こっているのか分からないのだろう。困惑し不安そうな視線が刺さる。

    このまま騒ぎにしたくない。しかしダミアンをこのままモンスターたちの中に戻す訳にはいかない。何をしでかすか分からない。

    キャラは逡巡の末、ダミアンの服を強引に引っ張って連れ出した。

    ダミアンは余裕そうな態度を崩さず大人しく従った。

    「やっと2人きりになれそうだ」

    そう呟くダミアンの声が不気味に響いた。

    ────

    人気のない場所で、キャラは素早くナイフを取り出してダミアンの目の前に突き出した。

    ダミアンはその様子を見て、危機感を覚えるよりもキャラの強気な態度を珍しがっているようだった。
    向けられたナイフに興味がなさそうにキャラの顔を見つめる。

    「何を企んでるか知らないが、妙なマネをするつもりなら、私がお前を殺す」

    静かな言葉は重く、決意で満ちていた。
    これまでの恐怖や怯えはなく、キャラにはダミアンと戦う覚悟があった。

    その輝きを、ダミアンはもっと見たいと思った。

    「怖いなぁ……ボクはまだ何も悪い事なんてしていないのに」

    まだ何も。引っかかる言い方だった。

    「モンスター達に危害を加えるつもりだろうが」

    「冗談に決まってるじゃないか。それに、そんな危ないもの振り翳して、みんなに幻滅されるのは君の方じゃないの?」

    「何?」

    直後、ダミアンが目を見開いてキャラの背後に呼びかけた。

    「ねぇ、見てないで助けて!」

    古典的なハッタリだったが、キャラの意識を逸らすには十分だった。

    一瞬の隙が生まれ、ダミアンは素早くキャラの腕を掴むと一気に捻り上げた。鋭い痛みと共にキャラの肩が軋み、ナイフが手から滑り落ちて転がる。ダミアンはそのままキャラの背中に体重をかけて押し倒した。

    キャラは地面にうつ伏せに叩きつけられ、痛みと衝撃で息が詰まる。ダミアンの膝が背中に押し付けられ、もう片方の手で肩を押さえ込まれ、動きを封じられた。

    「離せ……!!」

    絞り出すような唸り声を上げ、暴れようとするが、関節が限界まで引き絞られ、ダミアンの体重がキャラの全身を押さえつける。
    冷や汗がキャラの額を伝った。

    「案外素直なんだね。誰も来ないよ、安心して」

    ダミアンの声は穏やかで甘ったるく、キャラの怒りを煽った。

    「黙れ!殺してやる!!」

    キャラの叫びが空気を震わせるが、ダミアンは意に介さない。

    「物騒だなぁ。そんなマジにならないでよ。全部冗談だってば。そんなに怒るなんて思わなかった」

    軽い調子で言いながら、すっと目を細めて微笑む。

    「でも、あんなに怯えてたのに、そんな目で僕の事見てくれるんだね」

    肩を掴んでいた手が離れたかと思うと、キャラの頭にゆっくりと伸ばされ、髪を梳く。
    まるで愛でるような動きにキャラは混乱した。

    「君が悪いんだよ?僕は何も悪い事なんかしてないのに」

    「どの口が……!」

    「君が構ってくれないんだもん。気を引きたかったんだ」

    腕は相変わらずダミアンの片手で捻られたままなのに、もう一方で頭を撫でるダミアンの手は優しく、不気味だった。

    ダミアンの手が、キャラの首筋に触れて鳥肌が立つ。ダミアンはそれすら喜んでいるようだった。

    「何か問題あった?今まで君に暴力を振るった事なんて無いはずだよ。それなのにニンゲンだってだけで僕を拒絶するなんて、寂しいじゃないか」

    ダミアンは身動き出来ないキャラに顔を寄せて囁く。

    「君ってちょっと変だよ。でも僕は優しいから、どんな君でも歓迎するよ」

    こいつは何を言っているんだ。キャラは全身に怖気が走った。

    ダミアンの行動ひとつひとつが、キャラを軽んじ、下に見ている事がわかる。キャラの中で嫌悪が膨らむ。

    分かりやすい悪意より、ずっとタチが悪い。
    モンスター達と友好的に振る舞えるなら、キャラともまともな関係を築く術だって心得てるはずだ。

    だがダミアンはそうしない。わざとキャラの神経を逆撫でて、反応を楽しみ、弄ぼうとする。

    少しも悪いなんて思ってない。怯えさせるのも、怒らせるのも、拒絶されるのも、玩具の反応を楽しんでいるに過ぎないのだろう。

    ダミアンが喉を震わせて低く笑う。まるで獲物を嬲る捕食者のようだ。

    キャラ足をばたつかせ這い出そうともがくが、ダミアンに更に強く押さえ付けられ、呻き声が漏れた。

    「痛むでしょ?あんまり暴れない方がいいよ」

    子供をあやすように声をかけるが、そこに気遣いはない。むしろ痛みの中で足掻こうとするキャラの様子を面白がるようだった。

    「でも、ここだと怪我ってすぐ治るんだっけ?」

    ダミアンの気が変わる気配がした。

    「じゃあいいか」

    本当に痛い目にあってみたらどうなるのか。そんな軽い好奇心のようなもので、ダミアンの腕に力が込められ、キャラの肩に激痛が走る。

    冷や汗が吹き出し、壊される──そう思った瞬間。

    「キャラを離してくれ。ダミアン」

    そこに現れたのはアズリエルだった。

    魔法で生み出した槍を手に持ち、ダミアンに矛先を向ける事は無いものの、それは明確に警告を示していた。

    ダミアンは「いいところだったのに」とキャラにだけ聞こえるように呟くと、ゆっくりキャラの上からどいて距離を置いた。

    キャラはようやく重みから解放され、痛みの残る肩を庇いつつ起き上がり、ダミアンを睨み付けた。
    体の節々が痛む。殴ってやりたい衝動に駆られた。だが、アズリエルに「キャラ」と呼ばれて後ろに引き下がった。

    ────

    「どういう事だいダミアン。どうしてこんな事を?」

    アズリエルの声は静かに怒りを滲ませていたが、冷静だった。

    「待って、誤解だよアズリエル。正当防衛だよ。キャラがナイフを振り回すから、仕方なく取り押さえてたんだ」

    ダミアンは近くに転がるナイフを指し、アズリエルも確認する。確かにキャラのものだ。

    「キャラが君に危害を加えようとしたなら謝罪するよ。でも何度もお願いしたはずだよダミアン。キャラに近付かないで欲しいって」

    アズリエルの声は穏やかだが、僅かに強まった。

    「だから、誤解だって。別に僕がここにキャラを連れて来た訳じゃない。キャラが僕をここに連れて来たんだ。それを見てたモンスター達だっているんだよ」

    ダミアンは手を上げ、困り果てたように主張した。

    「君達の仲が良いのは分かったけど、僕ばかり悪者にしようなんて酷いじゃないか。僕に至らないところがあったなら謝るよ。でも武器を振り回すのは違うだろ?僕はただみんなと仲良くやっていきたいだけなのに」

    その言葉はまるで無実の被害者気取りで、神経を逆撫でされたキャラは唇を噛んだ。

    アズリエルも、ダミアンの話におおむね嘘がない事は承知していた。

    そもそもアズリエルがここに駆けつけたのは、キャラが険しい雰囲気でダミアンを連れて行ってしまったというモンスターからの報告があったからだ。

    状況証拠的にはダミアンの主張は真っ当に見える。アズリエルは「君の言い分は分かったよ」と槍を収めた。

    「キャラ、どうしてこんな事になったのか教えて」

    アズリエルに尋ねられ、キャラは口をつぐんだ。
    ダミアンの手口にうんざりしていた。こうして自分は無実の被害者であるかのように振る舞って、キャラを孤立させようとする。

    モンスターに危害を加えようとする発言を軽々しくされた事に、我慢出来なかった。
    しかし、ダミアンがモンスターを殺すと言っていた証拠は無い。

    ナイフを向けたのは失敗だった。でも、それ以外どうやってみんなを守ればいいのかわからなかった。

    キャラはニンゲンがどんなに残酷か知っている。ダミアンの言葉を冗談では済ませられない。でも、キャラのこの判断を理解してくれるモンスターなんて、きっといない。

    怒りと悔しさに蝕まれ、キャラはどこか諦めに近い感情に支配され始めていた。

    キャラにとって、生き続ける事は何かを諦める事だった。

    地上に出る事を諦め。

    みんなを自由にする事を諦め。

    死ぬ事を諦め。

    そうして今も生きながらえている。

    ダミアンの事だって、自分が我慢すればいいのだろうか。
    間違ってるのは自分で、ダミアンの言うように仲良くしてやれば、みんな幸せになるのだろうか。

    沈黙を続けるキャラに、アズリエルはいくらでも返事を待つつもりだったが、ダミアンはそうではない。「もういいかな?」と話を切り上げようとしている。

    ダミアンはキャラにナイフを向けられた経緯をはっきりと語らない。それはまるでキャラの一方的な悪意を庇ってるようにすら見えた。

    「……ダミアン。今回の事は本当にごめん。よく言って聞かせておくから、どうか許してあげてくれないかな?」

    アズリエルの言葉に、キャラは胸が締め付けられるような感覚がした。

    「別に怪我もしてないし、大丈夫だよ。僕だって大事にしたい訳じゃないんだ」

    ダミアンは軽く、大した事などなかったかのように答えたが、品定めするかのようにアズリエルを見る。

    キャラに非があった事を認めさせるような物言いだったが、アズリエルはキャラをダミアンから庇うために頭を下げたに過ぎなかった。

    (王子様はそっちの味方なんだね。まぁいいか)

    ダミアンは心の中で舌を出し、キャラに微笑みかけた。

    「キャラ。そんなつもりはなかったんだけど、君の事を怖がらせたなら……ごめんね?」

    その言葉に含まれた嘲笑に、キャラは拳を握り締めた。

    アズリエルには今の状況が、キャラの中に根付いたニンゲンへの憎しみのせいなのか、ダミアンがキャラに何かをしたのか、真実は分からない。でも、仮にキャラの行動が正しくなかったとしても、アズリエルはキャラの心に寄り添いたいと思っていた。

    ところが。

    「──もう、いい」

    ぽつりとキャラが呟いた。

    「え?」

    アズリエルが振り向くと、キャラは俯いて踵を返そうとしていた。

    「待ってよ、キャラ!君の話もちゃんと聞かせてよ。ゆっくりでいいからさ」

    アズリエルの声は切実だったが、キャラには届かない。

    「もういいって言ってるだろ。ほっといてくれよ。どうせ私が悪いんだ」

    キャラはアズリエルに一瞥もくれず、その声は疲れと諦めが滲み、どこか投げやりだった。

    「キャラ!」

    アズリエルは慌ててキャラを追いかける。

    ダミアンはその背中を見送りながら、忘れ去られたナイフを拾い上げ、大事そうに懐に仕舞い込むと、薄く笑った。

    ────

    「待ってよキャラ!ボクは別に、君の事を疑ったりなんかしてないよ!」

    アズリエルはキャラの後ろにぴったりと付いて必死に呼びかけた。

    キャラは急に立ち止まり、振り返った。
    アズリエルはぶつかりそうになり、つんのめりながらもなんとかバランスを保った。
    キャラの顔が目に入った瞬間、アズリエルは息が止まった。

    キャラの顔は色を失い、虚ろで、どこまでも無表情だった。

    「私が悪いんだ」

    キャラの声は低く響いた。

    「私がうまくやれないから、だからみんな迷惑してる」

    ダミアンの存在、周囲の誤解、アズリエルの気遣い。その全てがキャラを追い詰め、自分を責める材料になっていた。

    「誰もダミアンに困ってない。私だけがおかしいんだ。そのせいでみんな不安になってるって分かってる。だから、もういい」

    キャラの自罰的な諦めの言葉がアズリエルの胸を刺す。

    きっと地上での出来事だけじゃない。かつて、地上に出ようと提案したキャラの計画を、アズリエルは断った。
    それがキャラを苦しめる原因のひとつになっている。アズリエルにはその自覚があった。

    だからこそ、ダミアンの存在によってキャラが何かとんでもない選択をしてしまう事をアズリエルは恐れていた。

    ダミアンをキャラに近寄らせたくなかった。地上の気配が、キャラを遠くに連れていってしまうような気がして。

    アズリエルは、キャラを失いたくない。

    「キャラ、君は何も悪くないよ」

    「だったら、どうしてこうなるんだ!!」

    キャラの叫びに、アズリエルは言葉を詰まらせた。
    行き場のない感情の中で苦しむ親友に、どう声をかければいいのかわからなくなっていた。

    「……ごめん、今はひとりにして欲しい」

    キャラは重い足取りでアズリエルに背を向けた。
    アズリエルは手を伸ばそうとしたが、その背中が遠ざかるのを見つめる事しか出来なかった。

    ────

    キャラが向かったのは、我が家ではなくラボだった。

    関係者以外立ち入る事の出来ない場所で、キャラは自分に許された個室に閉じこもり、トリエルに持たせて貰ったパイを食べながらデータ入力の続きを無心で進めていた。
    キーボードを叩く乾いた音は、規則正しく室内に響いていた。

    平坦な作業と諦めの気持ちは、キャラの心を冷えさせる代わりに、頭の中を冷静にさせていくようだった。

    ダミアンのやり口は気に入らなかったが、自分の振る舞いにも確かに落ち度はあった。

    アズリエルに頭を下げさせ、挙句の果てに八つ当たりしてしまった。

    アズリエルは悪くない。あんな状況でも自分を守ろうとしてくれていたのは分かってる。でもその優しさが、今は苦しい。

    自分の行いが良い結果を招かないのは、自分が悪いせい。

    みんなを守ろうとした暴力のせいで、アズリエルを傷付けてる。

    ダミアンの挑発にだってもっと冷静に対応すればよかった。攻撃して、更に事態が悪化してた可能性もあった。

    でも、あの時の怒りが間違ってたとは思えない。

    ニンゲンは残酷だ。私が戦わないで、一体誰が彼らを守ってやれるのか。

    しかしこの気持ちだって、所詮はひとりよがりに過ぎないのかもしれない。

    正しくなかったからこんな事になってる。
    残酷な事実だけが横たわり、キャラに突きつけられていた。

    自分はおかしい。でも、自分の中の正しさも否定されたくない。しかしそのせいでみんな迷惑してる。

    現実と気持ちがぐちゃぐちゃになっていく。どうして自分はいつも失敗するのか。自己嫌悪が募っていく。

    大人にならなくてはいけない。もう子供ではないのだから。

    キャラの葛藤はどこにも辿り着けないまま、数字を打ち込み続ける作業に逃げる事を選んでいた。

    ────

    仕事が忙しいから暫く帰らない。トリエルにはそう伝えておいたが、様子を心配するように頻繁に電話が掛かってくる。

    アズリエルはラボの前までやって来るものの、そのまま踵を返してトボトボ引き返す姿が監視カメラに映っていた。

    3日程過ぎて、一度家に帰りなさいと、ガスターに半ば追い出されるような形でラボを出た。

    キャラはぼんやりとしたまま、まっすぐ家に帰る事もなく、ふらっと立ち寄ったウォーターフェルの暗闇に静かに身を浸していた。

    「や、奇遇だね」

    降りかかるダミアンの軽快な声に、キャラはゆっくりと振り返った。

    何が奇遇なものか。

    ダミアンはキャラに掴み掛かられた被害者としてモンスターたちの同情を誘い、キャラと仲直りしたいなどと殊勝なふりでもしてやれば、モンスターたちが良かれと思ってキャラの動向を教えてしまう。

    監視されているようなものだ。ラボの外でのキャラの行動は、筒抜けになっていた

    チラリとダミアンの背後に視線を向ければ、こちらの様子を覗き見るモンスターたちが数人、ソワソワとしているのが見えた。
    モンスター達の心配そうな視線が刺さり、心に重くのしかかる。

    地獄への道は善意で舗装されている。
    そして、それを踏みにじる事も出来ない。

    「何の用だ?」

    キャラは疲労が滲んだ顔でダミアンを見た。ここ数日、まともに寝ていない。

    「様子を見に来たんだよ。どんな顔してるかと思って」

    ダミアンの嫌味に反応する元気はなかった。

    諦めの気持ちが胸の内に蔓延り、疲労で重くなった体は心の動きを鈍らせた。

    「不貞腐れてないで、そろそろ機嫌を直したら?分かってると思うけど、僕たちは仲良くするべきだよ。みんなを心配させてるのは不本意だろ?」

    ダミアンの言葉はキャラを激昂させるつもりのものだったが、キャラ自身には案外淡々とその言葉は耳に入ってきていた。

    自分が諦めればいい。結局、それで問題は解決するのだろう。
    キャラは虚ろに「そうだな」と肯定するだけだった。

    「張り合い無いなぁ。ナイフ向けてきた時のやる気はどこに行っちゃったの?」

    「お前に関係ないだろ」

    どうでもよかった。

    ダミアンは少しつまらなそうに肩をすくめた。

    「ここだとみんな僕らに興味津々みたいだし……せっかくだからゴミ捨て場にでも行ってみる?」とダミアンは提案した。

    地上からの水と共に様々な地上の道具が流れ着く場所。

    地上から落ちてきた者達にとって、まさに相応しい場所だった。

    キャラは反発する気力もなく、ただ黙って頷いた。

    どこに行ったって同じだ。ここに逃げ場なんてないのだから。

    ────

    一方アズリエルはというと、デカい体を床に投げ出し、自室の真ん中で敷物のようになっていた。

    キャラを助けに入った時の堂々とした面影はなく、今や情けないモンスターに成り下がっている。

    およそこの国の未来を担う王子の姿ではない。

    王命のような形でアズゴアがキャラを帰らせるようガスター博士に頼み、トリエルは久しぶりにあの子が帰って来るのだからと、キャラの好物を用意するべく忙しく動き回っている。

    そんな中で、アズリエルはベコベコにヘコみ、悩んでいた。

    自分のやった事は間違っていたのかと。

    ダミアンに謝罪する事でキャラを裏切るような形になってしまったのだろう。結果的に孤立させてしまった。

    しかし、あの時は他にどうしようもなかった。
    キャラがナイフを手にしていたのは事実だし、モンスターたちの目撃証言もあった。
    アズリエルにできることは、状況を収めるために頭を下げることだけだった。

    「大体キャラが何も話してくれないのが悪いんだよ……」

    流石に恨み節も出て来る。

    心を閉ざし、誰にも本音を明かさない。キャラの悪い癖であり、アズリエルもまた許容してきたことだった。

    アズリエルの図々しさと寛容さはキャラの心を開かせたが、踏み込み過ぎない優しさのツケが、今こうして回ってきている気がした。

    ダミアンは「過保護過ぎるんじゃない?暫くそっとしておいてあげたら?」と、かつて自分が彼に言った事をそのまま突き付けてきて、アズリエルはぐうの音も出なかった。

    ダミアンの主張は正論が含まれていたが、その隙を突いてダミアンがキャラに接触している事を、アズリエルは知る由もない。

    二人の間に一体何があったのか。

    ダミアンはアズリエルに「キャラがニンゲンの魂を狙っていたのでは」と匂わせてきたが、アズリエルは即座にそれを否定した。

    もちろん、ダミアンが意図せずキャラのトラウマを引き起こし、キャラが攻撃してしまったという可能性は否定できなかった。

    しかし、かつて潰えたキャラの計画。キャラの身を犠牲にして、魂を取り込んだアズリエルが地上に出て、ニンゲンの魂を6つ集める。その提案を断った時、彼はひとつだけ約束した。

    「もしもキャラがこの世界で最後の時を迎えたら、その時は、キャラの魂はボクのものだ」と。

    キャラの決意はそこで尽き、代わりにその約束を信じることで生き続ける事を選んでいた。

    キャラは自分の魂をアズリエルに捧げると決めている。もし本気でニンゲンの魂を使った計画を実行したいなら、自分の命を断つ方が早いと考えるだろうと、アズリエルは信じていた。

    それに、キャラが本気で何かを企んでいるならもっと計画的にやるはずだ。
    衝動的としか思えない状況が、キャラが何かに追い詰められている事を感じさせた。

    そして、キャラがそんな状況に陥っていることがアズリエルを焦らせた。

    もし、キャラが全てを投げ出したくなって、「終わらせて欲しい」と言われたら、今度こそアズリエルはその願いを断れないだろう。

    その可能性に対する怯えが、アズリエルとキャラの距離を遠くしていた。

    計画を断った事はキャラの命を繋いだが、同時にキャラの心に大きな負担を強いていた。
    自分が生き続ける事で、みんなが自由になる可能性を先延ばしにしている。

    この先地上を見る事なく塵になっていくモンスターがどれだけいるのだろう。

    そんな考えが、キャラの自己肯定感が低さに拍車をかけて、「いつ死んだって構わない」かのような振る舞いに変わっていく。

    アズリエルはキャラを救いたいのに、どうすればいいのか分からない。

    部屋の外では、トリエルがキャラのためにパイを焼く甘い香りが漂っていた。アズゴアも花を部屋に飾り付け、家族がキャラの帰りを待っている。

    キャラがどこか遠くへ行ってしまう予感が胸を締め付け、アズリエルはただ悩み続けていた。

    ────

    ウォーターフェルのゴミ捨て場。水が轟々と流れ落ちていく。

    地上から流れ着いた品々が積もり、それはモンスターの生活に役立つものであったり、地下で暮らす者達の娯楽にもなっていた。

    色褪せた雑誌や壊れたおもちゃ、使い古された日用品が山となり、堆積している。

    「何か面白いものでも流れ着いてるかな」

    ダミアンは軽い調子でその辺のゴミ山をつつき、何かのパッケージを見つめている。

    モンスターたちは気を遣っているのか、ここまで様子を見に来てはいないようだった。

    「君って随分モンスター達に慕われてるんだね」

    ダミアンがふと口を開いた。

    「いろんなモンスターと話をしてみたけど、みんな君の事が好きなんだなって伝わってきたよ。おかげで僕もすんなり受け入れて貰えた。どうやって取り入ったの?」

    キャラが眉根を寄せる。

    モンスターに関わる話になれば、キャラは無関心ではいられない。
    ダミアンはそれをよく分かった上で、キャラの感情を揺さぶる言葉を選んでいた。

    「君はニンゲンで、ここはモンスターの世界だ。それなのにどうして君はこうやって受け入れられてるんだろう。普通、殺し合うべきなのに」

    ニンゲンの価値観としてはダミアンの主張は間違っていないのだろう。
    ニンゲンとモンスターは、戦争していたのだから。

    「ああ、君はニンゲン達から逃げて来たんだっけ?じゃあ争う必要もないね。ここなら安全だって思ってたの?」

    キャラは、ここに来たばかりの時の事を思い出していた。

    キャラだって最初から完全に彼らに心を開いていた訳ではなかった。
    孤独で警戒心に満ち、今よりも面倒な子供だった。

    それでも自分を助けにやって来たアズリエルをきっかけに、彼らに絆されていくのは時間の問題だった。

    子供の頃のキャラには、不思議な力があった。
    何回でも時を戻し、やり直せる力。リセットの力だ。

    その力で何度も時間をやり直し、みんなと友達になり、みんなの問題を解決し、親切にして回っていた。失敗しても、誰かを傷付けてしまっても、時間を巻き戻せばいい。

    そうすれば自分の居場所が作れたし、この世界の役に立っているという実感はキャラの心を満たすものだった。自分がここにいてもいい理由を、その力で築き上げていった。

    しかし、ある時気付いてしまったのだ。自分がいくらみんなと仲良くやっていこうとも、この世界の閉塞感を解決する事は出来ず、自分の行いは、ほんの慰めにしかならないのだと。

    自分の魂を使えば、問題を解決出来る手段があるのに。何でも試す事が出来たキャラにとって、やれる事をやらないという選択肢はなかった。

    それは決意の力だった。運命を変えたいと望み、夢と希望を実現させる力。
    しかし、キャラ自身にあの力の正体がなんだったのかははっきりしないままだった。

    アズリエルに計画を断られて以降、決意が尽きた今のキャラの前に、あの輝きが現れる事は二度と無く、今となってはその力は失われてしまっていた。

    「何か面白い事でも思い出した?」

    キャラの長い沈黙に、ダミアンは首を傾げるが、そんな話を彼に語るつもりはなかった。

    「……そういうお前はどうなんだ。私と大差ないんじゃないか?まともな環境に身を置いてる奴が、あの山を登る訳が無いだろ」

    ゴミ捨て場に水音だけの静寂が続く。

    ここへ流れ着くのは、地上で不要品として打ち捨てられたものだ。

    この場に存在するものたちの奇妙な類似性が、キャラの言葉を重くしていたが、ダミアンは薄く微笑んだ。

    「僕、外で君の事見た事があるんだ」

    ダミアンの唐突な発言は、妙に曖昧な表現だった。彼は地下世界の天井を見上げ、キャラは地上での話だと思わざるを得なかった。

    一瞬動揺したが、すぐに反論した。

    「知らないぞ、お前なんか」

    「そうだろうね。君が他人に興味無かっただけじゃない?」

    そう言われると、特に反論する程の言葉は出て来ない。思い出してみようとも思わない。

    ダミアンというニンゲンはキャラを知っていた。その話の真偽が、確かめる価値があるほど重要とは思えなかった。

    ただ、相手から一方的にこちらの何かを知られている感覚は、キャラをいい気分にさせるものではなかった。

    「……待て。まさか私を追って来たとか言うつもりじゃないだろうな」

    怖気が走って、キャラは思わず後ずさる。
    ダミアンの青い瞳が、一瞬鋭く光ったように見えた。

    「信じちゃった?そういうところは素直だね」

    微笑むダミアンに、キャラは舌打ちした。
    いちいち真に受けるのも馬鹿馬鹿しくなってくるが、心の奥で何かがざわついていた。

    「ここに来てからモンスター達から君の話を聞いてたからさ。知り合いみたいな気持ちになってたってだけだよ」

    ダミアンは言葉を続ける。

    「君からすれば僕なんて嫌いなニンゲンの挙句、初対面から馴れ馴れしくて不愉快に映っただろうけど、僕には僕の理由や理屈がある」

    自分の正当性を主張しようとするダミアンに、キャラは言いくるめられる気はなかった。

    「だから仕方なかったって言いたいのか?最初に扉の前で突っ立っていたのはなんだったんだよ」

    キャラの声には苛立ちが滲んだ。
    あの不気味な気配を思い出すだけで、背筋が冷える。

    「君が出てくるまで気を遣ったんだよ」

    どうとでも言えるのだろう。ダミアンが語る言葉には不可解な点が多かったが、僅かに真実も含まれている事が全てを曖昧にしていた。

    キャラに分かる事は、「よかれと思って」を口実に、相手を傷付けておきながら無実をアピールする、ダミアンの性格の悪さだけだった。

    このニンゲンと関わる事は仕方ないとしても、やはり好きになる事は出来そうにない。

    ────

    「お前は私が大切にしてるものをわざと踏み躙ろうとしてる。私はお前が嫌いだ」

    「君がいくらモンスターに肩入れしたって、モンスターになれる訳じゃないのに?君の事を理解してあげられるのは僕だけだ」

    「勝手な事を言うな。お前が理解者?ヘドが出る」

    「でも、モンスターたちは君の気持ちなんか理解してくれなかっただろ?だから今、君はひとりになりたがってるんじゃないか」

    ダミアンの言葉は事実ではあった。それがキャラの心に冷たい波紋を広げていく。

    「よく考えてみてよ。僕らは同類で、同じ境遇だ。一緒に生きていくのに相応しいのは誰なのかなんて明白だろ?もっと僕の事も考えて欲しいな。何も間違った事は言ってないだろ?」

    「お前の考えを私に押し付けるな」

    ダミアンはゴミ山から離れ、キャラに歩み寄る。手にした地上の残骸を投げ捨てて、踏み潰した。

    「ごらんよ。ここに積まれたゴミたちを。これは僕らの事じゃない。モンスターたちを不要だって判断して排除したのはニンゲンだ。彼らはニンゲンにとって無価値で不要なゴミだっていうのに、君はそれをありがたがって……」

    ダミアンがそこで言葉を切ったのは、キャラが彼の顔面を思い切り殴り付けたからだった。
    ダミアンの瞳が見開かれ、驚きに揺れるが、キャラはすかさず胸倉を掴んで水辺に押し倒す。馬乗りになって更に殴打し、血が飛び散った。

    「黙れ!私の家族を侮辱するな!!」

    キャラに殴られ、血を流しながら、ダミアンはヘラヘラと笑っていた。まるでこれが見たかったと言わんばかりに、無抵抗のまま満足げに口元を歪めていた。

    それが不気味で不愉快だった。キャラは荒い息と共に手を止めると、懐から何かを取り出してダミアンの口に突っ込んだ。

    回復用のおやつだった。ダミアンの口の中に甘い味が広がり、傷が癒えていく。暴行の証拠を隠滅するために。

    「次は無い。コレでチャラにしてやる」

    低い声で脅して、キャラは立ち上がった。

    ダミアンは突っ込まれたものを飲み込み、どこか鼻で笑うように息をついた。

    「モンスターたちの事を大事に思う君の気持ちを軽んじてごめんね。これでいい?」

    上っ面だけの、誠意のかけらもない言葉。
    キャラはダミアンを睨む。子供のわがままに付き合ってやってるような態度は、相変わらず癪に触った。

    「……お前には私の気持ちなんて、どうでもいいんだろうな」

    「まさか。とても興味があるよ。分かってあげられるとも。僕らは同類さ」

    キャラは辟易した。キャラは自分の中の攻撃性とダミアンの悪意の共通性を嫌悪していた。

    「で、君は?」

    濡れた服を払いながら立ち上がり、ダミアンが続ける。

    「僕はちゃんと謝ったけど。君に落ち度は無いと思ってるの?君はアズリエルに頭を下げて貰っておしまいにするつもり?」

    クソが。

    キャラの頭の中でダミアンから向けられた悪意がぐるぐると巡る。

    意味のわからない行動。拒絶してるのに寄ってくる無神経さ。わざと神経を逆撫でしてくる悪質さ。必要以上に痛め付けようとしてきた暴力性。
    最も嫌な事は、同類だと言われて真実その通りである事。

    目を固く閉じ、歯を食いしばり……たっぷりもったいぶった。

    「……ナイフを向けて、悪かった」

    謝罪というより、自戒だった。

    アズリエルに頭を下げさせてしまった分。
    それ以外は知らない。

    「オッケー。じゃあ仲直りだ。握手でもする?」

    ダミアンは芝居がかった素振りで手を差し出す。怪我はすっかり治っているようだったが、殴った事が彼に何の影響も与えていないような素振りはキャラを苛立たせた。

    「しない。触るな」

    キャラは冷たく言い放ち、ダミアンの手を一瞥もせずに背を向けた。

    そんなキャラの背中をダミアンはゆっくりと追う。

    ゴミ捨て場の水流が轟々と流れ落ちる音が、二人の間に漂う沈黙を埋めていた。

    ゴミ捨て場の一角で、ニンゲン同士の歪んだ和解の形は、誰にも知られることなく静かに終わりを迎えた。
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