【制作途中】続々「 」の慟哭【転生if水父】 落ちていく。ゆっくりと、音もなく、底が見えない程深い水底に。
体は石になったかのように微塵も動かすことができない。足掻くこともできず、ただただ水木は終わりが見えない落下に身を委ねる。
化け物に奪われた大切な何か。それを取り戻すチャンスを目前にして逃してしまった。あまりに悔しく、歯痒く、自分の無力さに腹立たしくて嫌になる。激しい絶望感がこみ上げるも、今の水木には声ひとつ上げる気力も力もない。
取り戻したいのに、取り返さなきゃならないのに、それが出来ない。自分に力が足りないばかりにまた搾取され、踏みにじられるのか。前世で戦地から帰ってきた時に母が父方の親族に騙され全財産を奪われたと知らされた時の絶望と無力感と重なり、悲しみに襲われ、水木の目尻が熱を持つ。
投げ出された四肢が先端から冷たくなっていくのを感じる。このまま終わりたくないのに、水木は目蓋すら開ける力すらなく、深まる悲哀は涙となって零れる。
涙は水木とは逆に、泡のように何処かへ昇っていく。その涙を拭うように、水木の右頬に何かがそっと触れる。悲しみを包み込んで癒す温もりは、水木に目蓋を開ける力を与える。
うっすらと、ゆっくり開かれた水木の瞳に映るのは、女性のシルエット。浮かぶ記憶は黒い太陽が伸ばす枝から自分を守ろうと現れたその姿。
誰なんだあんたは。どうして俺を助けてくれたんだ。
そう疑問を口にしたくても、水木の口は呼吸をするので精一杯な程思うように動かない。
「大丈夫───」
女性のシルエットから明確に言葉が紡がれ、水木の耳の奥に木霊する。
大丈夫───何が大丈夫なんだ。俺は失ってばかりなのに、もう失わずに済む保障なんて───。
「今度こそ思い出せるから、だからもう、悲しまないで」
泣いている子供をあやすような甘く優しい声に頷きそうになるか、水木の悲しみはぐずるような疑問を返す。
思い出せる、何を根拠に。大切な何は奪われたままなのに? まだ取り戻せる機会があるって言うのか。
女性のシルエットの手は水木の頬から離れ、両手で左手を優しく握り締める。
「あの人とあの子が待っているわ。あなたに会いたいって───」
水木を待つ人、あの人とあの子。あの子と聞いて水木の頭に真っ先に鬼太郎の姿が浮かぶ。
鬼太郎が、俺を? どうして───けど、それが本当なら……。
何かが胸の奥からこみ上げかけるが、途中で止まってしまう。奪われたしまったせいで、感情は中途半端なところから沈んでいく。あの人というのも誰なのか検討すらつかなくて、励ましてくれる女性のシルエットに申し訳なさを感じるが、謝罪の言葉すら放てない体がもどかしく、また腹立たしくなってくる。
「怖がらないで。あの人ならあなたの想いも受け入れてくれるから───」
怖い? 俺がいつ、何に、怖がって───。
その疑問を投げ掛ける力も暇もなく、女性のシルエットは形を変えていく。人型から一本の長く、黄色に光る組紐へ。
光の組紐は水木の左手首に巻きつくと、片方の端を上へと伸ばす。何かに引っ掛かるなり、水木の体を力強く引き上げていく。
「………っ……さ…………ん…」
光の届かない水底から浮上していくうちに、水面からわずかに声が聞こえてくる。先程の女性のシルエットとは違う女性の声。どこかで聞き覚えのあるような声は、必死に誰かを呼んでいるような気がした。
「……さん……み……さ……!」
果てしなく広がる水の中、水面から差し込む光が増していく。次第に目を開けていられなくなる程の目映さに、力を取り戻した水木は右腕で光を遮る。
「……さん…水……さん………水木さん!」