龍ヶ丘(旧題 龍と娘)ある所に龍の中でも特に長生きな龍がいた。龍は昔は様々な場所を渡り歩いていたが、今は住処を定め近隣の人々から神として敬われていた。
ある日のこと、龍の元へ一人の娘が来て言った。
「龍神様、龍神様。贄としてここへ参りました。どうぞ召し上がって下さい。」
しかし龍は歳を重ね、食欲は昔よりはるかに落ちてしまっていたのです。
「娘よ。儂は人一人食べることも出来ぬ程に年老いてしまったのだ。その気持ちだけ貰うとしよう。さぁ、村へと帰るがよい。」
しかし今度は娘が困ってしまいました。
「龍神様、私は生まれつき足が悪く、両親も先頃死に、村に戻ってもきっと居場所はありません。どうか召し上がって下さい。」
龍はしばらく考え込んで言いました。
「それでは、儂の身の回りの世話をして貰えぬか。老いてからは手の回らぬことも増えたのだ。」
「はい!かしこまりました!」
娘は喜んで答えました。
龍は近くの放置された小屋に娘を案内し、そこに住むようにと伝えました。
小屋で生活し始めた娘は龍が考えていた以上によく働きました。
一通り仕事を済ませた後、龍は娘に昔のことを話して聞かせることもありました。
娘は自分の知らぬ土地や人々について聞く時間は大変楽しく、龍もまた昔話を聞いてもらうことを楽しく感じていました。
やがて龍と娘は互いに心を通わせるようになりました。
ある日娘は龍に言いました。
「貴方が私よりも先に死出の旅路へ出る際には、どうか私も一緒に連れて行ってくださいませ。」
龍は娘から顔を背けると考えておこうと一言だけ告げました。
龍は娘には少しでも長くこの世にいて欲しいと思っていましたが、居場所が無いのだと自分に告げたあの日のことが頭を過り、一人置いていくことが哀れに思えたのです。
それからも時折娘が共に逝きたいと龍に願っても、はっきりとした返事が返ってくることはないまま季節が幾つも過ぎました。