故障済み、保証書付き 僕を恋人にしてくれた時から、マユミくんはしょっちゅうエラーを起こしてる。それを見る度に僕はかわいそうだなぁって思う。
例えば僕が映画に夢中なマユミくんの肩に寄りかかった時。
例えば僕が寝たフリをしてるマユミくんの額にキスした時。
例えば僕が寝ぼけてマユミくんの腰に抱き着いた時。
例えば今。頬を撫でるてのひらが気持ち良くて、もっとやってほしいと摺り寄る僕を見る目がとろりと溶けるのを見ると、あ、マユミくんが壊れるなって思う。
「……かわいいな」
「マユミくんまた頭沸いちゃったの?」
同じような体格の男相手に使うものじゃない言葉を零すマユミくんにそう返しても不機嫌になりもしない、口げんかにもならない。く、と喉の奥で飲み込みきれなかった笑いを鳴らして僕の要望通りにするすると頬を撫でるマユミくんの目は相変わらず溶けていて、壊れてるなあってのがよくわかる。
僕が何か行動するとマユミくんはよく壊れる。ぐずりと瞳の奥がとけて、決まって幸せの滲んだ笑いと一緒に降ってくる「かわいい」って言葉。その言葉を言う時、あの目をしてる時のマユミくんはきっと思考回路がどこかイカれちゃってるに違いない。だからそうやって簡単にぽんぽんと「かわいい」なんて脳みそを砂糖漬けにしたような言葉が出てくるんだ。
気の迷いってレベルじゃない熱のこもった目、指先、吐息、それを感じる度に壊れやすいマユミくんを想って泣きたくなる。嘘だけど。完全に壊れる日が来ないといいなあって思う。これはホント。
「もしかして目に節穴あいてる?」
「いや、百々人はかわいいだろう」
「眼科行く?」
「行かない」
「そっかぁ」
二人きりの時はほんの少しだらけてソファに座る姿がかわいい。ご飯を食べてる時の控え目に動く口元がかわいい。僕を呼ぶ声がかわいい。靴を揃える時の丸まった背中がかわいい。帰り際の寂しそうに一回だけ揺れる瞳がかわいい。かわいい。かわいい。かわいい。
アイドルしてる時、最近すこーし、楽しそうにしている雰囲気が、かわいい。
(壊れないようにがんばってね、マユミくん。)
お仕事を通しても「かっこいい」じゃなくて「かわいい」しか浮かばなくなるぐらい壊れると、もう相手が息してるだけでかわいいって思うようになっちゃうから。
僕みたいに。