「マユミくん、……もういっかい」
その言葉にどれほど身体が沸き立っているかなんて、お前は知らなくていい。
ああ、と静かに返事をして応じながらも胸の中では熱が暴れまわっている。それは歓喜だったり興奮だったり期待だったり、ほんの少しの恐怖、だったり。そんなプラスとマイナスの感情を一緒くたにしたような、不思議な味をしている。
感情が声や表情に乗りにくい自覚はあるが、嘘をつくこと自体は苦手だ。百々人は他人の顔色や場の空気を読むことに長けているから、俺の嘘……というか、拙い見栄っ張りはバレてるのかもしれない。まあそんなことはどうでもいい。こうして向かい合ってしまえば、そっと目を閉じて距離を詰めれば、お互いもう余計な事をごちゃごちゃと考えている暇なんてなくなって、ただただバカみたいに相手の舌を奪って奪い返して絡めとる、それだけの生き物になるのだから。
汗なのかよだれなのか、どっちのものかもわからない液体が顎を伝う。ずる、と百々人の腕が力を失って俺の肩から落ちる。それを追いかけて捕まえると、絡んだ指をやわく握り返される。上顎の天井を舌先でなぞると、びく、と跳ねるからだと連動して指の力が強くなる。仕返しのように百々人の口の中にいる俺の舌を甘噛みされて、痛みにもならないひどく甘ったるい刺激に酔いしれる。
二人分の体重を乗せたベッドが軋む音。引っかかれる手の甲。時折漏れる鼻にかかった甘いため息。近すぎて焦点の合わない視界の中、たまに目蓋の下から覗く百々人の瞳。全てが興奮に直結する。服も脱がずキスをしている、ただそれだけなのに、まるでセックスの最中のような気分になる。
ちゅぽ、と濡れた音を立てて、名残惜しくお互いの唇から舌を抜いて。数回ゆっくりと瞬きを繰り返した百々人が、無造作に自分の前髪をくしゃりと握りながら笑った。
「はぁ……マユミくん、もっかい。もっかいして」
「…………ああ」
「今度はね、僕の耳、ふさいで、キスしてよ。あれ、頭の中もマユミくんの舌でぐちゃぐちゃにされるみたいで、すきだから」
お前が望むなら何度だって。
まぎれもない本音ではあるが、その言葉を百々人に言うのはなんとなく嫌で。だから今日も俺は変に口数が少ないまま、うっとりと目を細める百々人の耳に手を伸ばした。