Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    misosoup_trtb

    @misosoup_trtb

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 41

    misosoup_trtb

    ☆quiet follow

    階段キスが好きです
    鋭百

    ##鋭百

    春告鳥「ねえ、マユミくん」

     降ってきた声を追って上げた視線の先。手すりに両手をついて身を乗り出した百々人が、返事をしようと薄く開いていた俺の唇をそっと塞ぐ。……塞ぐ、と表現するには時間も重なり方も浅かったかもしれない。だが、重力に従って垂れたネクタイが顎を撫でて離れて、律儀に閉じていた瞼が開いて俺を映すまでの数秒が、やけにゆっくりと感じられた。
     踊り場に差し込む西日は眩しい。瞬きを多めに繰り返す百々人のまつ毛に光の粒が乗っている、なんて浮かれきった錯覚を抱いてしまうほど。

    「……ふふ。上からキスするの、新鮮でいいね」
    「百々人」
    「なあに」
    「身を乗り出すな、危ないだろう」
    「はーい。……キスし終わってから注意するマユミくんのちゃっかりしたところ、好きだよ」

     たん、と残り数段あった階段を飛ばして百々人は踊り場に降りた。元々数センチしかない身長差は些細なきっかけで逆転する。ほんの少し顔を傾けるだけで唇を重ねられる普段の距離感を存外気に入っていることを今更確認しつつ、鼻歌混じりで軽快に階段を下りる百々人のつむじを見下ろしながら後を追った。
     残念だ。ここまで来てしまったら、ビルの入り口から通行人に見られる可能性がある。垂れた前髪で出来た影でいつもと少し違った瞳の色も、異なる角度で擽られた唇も、ほんの一瞬羽根が掠めるような頼りないキスだけでいまだに落ち着きを取り戻してくれない心臓も、そっくりそのままお前に味わわせてやりたかったのに。
     まあ、意趣返しの機会はいくらでもあるだろう。またこの階段で二人きりになった時でも良いし、風呂上りにソファーでだらけている百々人に後ろから近付いた時でも良い。

    「どうしたの、マユミくん」
    「……いや、なんでもない」
    「そう? ……あ、なんか変なこと考えてる顔してる」
    「気のせいだ」
    「うそだぁ。僕だってちょっとはキミのことわかるようになってるんだからね」

     こわいから逃げちゃお、とおどけて早足になる百々人の耳の色が赤いのが夕陽のせいかどうかはわからない。ただ開いた距離を詰めれば、きっと予想通りの答えが待っているはずだ。

     横断歩道の先で振り向いて笑う百々人を見て生まれる、じわ、と胸の奥が甘く痺れる感覚。それは、多分、恋という名前をしている。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺💒💕💖💞❤💖💞❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤💕👍👍👍❤👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works