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    罪の味を知る話
    鋭百

    ##鋭百

     ゆっくりと袋に手を入れ、ひとくちさくりと齧って残りを口に放り込む。お上品に食べる品じゃない物はがっつり口を開けて含むマユミくんにしてはペースがゆっくりで、明らかに気乗りしないという雰囲気。

    「マユミくん、醤油マヨ嫌い?」
    「……いや、別に。嫌いではないが」
    「ふーん」

     そういえば、彼の実家にはこういうお菓子の類が置いていなかった。いや、別に眉見家のお菓子棚を把握してるわけじゃないけど。映画を見る時にポップコーンは食べてたから、あのフライパンみたいな形のやつはストックしてあるのかも。それはそれとして、彼がそう言ったものを食べているのはなかなかレアな気がする。
     昔、クラスの女子が「ダイエット中だから花園食べてよ」と押し付けてきたポテチと同じシリーズ。決意を忘れて買ったのか、一度誘惑に負けて踏み止まったのか。手軽に買えて、スーパーでもたまに一山いくらで投げ売りされてて、値段の割にはまあそこそこな味だけど数十円足せばもっと確実に美味しいスナック菓子を買える、そんな商品だ。……うん、ますますマユミくんには似合わない。どちらにしろ、眉間に皺を寄せたりはしてないものの、特別美味しいという気持ちを出さずに黙々と頬張るマユミくんはあまり見てて楽しくない。
     ほとんど中身の残った袋を取り上げて僕が食べ始めても特に文句は言わないあたり、義務感ともったいない精神で口を動かしていたのだろう。

    「……ん。んー、ちょっとしつこい……けど、まあ、そんなに不味くはない、かな……?」
    「不味いなんて言ってないだろう。ただ、その。なんというか」
    「ん?」
    「…………作った方が旨い」

     え、と口の周りに残りかすを付けたまま声を漏らした僕にそう言うと、マユミくんはそのまま台所に直行した。壁にかけてあるキャベツを千切りにする時使うスライサーにピーラー、冷蔵庫の影に置いてあったジャガイモの袋とボウル、塩コショウ、オリーブオイルにフライパン、キッチンぺーパー。
     慌てて追いかけた僕の前でそれらをサクサクと用意して、よし、と小さく気合いを入れて皮をむき始める。

    「……え、作れるの?」
    「乱暴に言えばジャガイモを薄く切って油で揚げるだけだ」
    「言われてみればそうだね」

     話している間にも皮は剥かれ、しゃっしゃっと鋭い音を立てぺらぺらのジャガイモがボウルに層をつくる。フライパンにいつもより多めに入れたオリーブオイルを入れて温めて、温度が高くなったところでジャガイモを投入。相変わらず手際のよいことで。
     揚げるまでの時間がまちまちなので多少焦げは目立つけど、お皿に積み上がったソレはどう見てもポテトチップスだ。

    「はー……」
    「あ、まだ食べるな」
    「マユミくん僕の事そんなに意地汚いと思ってるの?」
    「つまみ食い常習犯が言っていい台詞なのかそれは」

     全部揚がり切ったところで上から軽く塩コショウをまぶせばできあがり。うーん、いい匂い。
     揚げたてでまだ熱いポテチに手を伸ばす。ぱり、と響く音は小気味いい。噛む度に僅かにじゅわっとあふれ出す油。ジャガイモの風味がそのまま生きている素朴な味わい。いつも食べているものより見てくれは多少悪いもののそっくりで、でも食べてみればやはり市販品とは違う美味しさがある。少なくともさっきまで食べてたわざとらしい醤油味の纏わりついたものとは雲泥の差だ。

     お皿に詰まれたジャガイモ二個分のポテチは、あっという間になくなってしまった。

    「はぁ……おいしかった。あつあつポテチすご……」
    「だろう? ……ただな」

     ちら、とマユミくんの後ろめたげな視線の先にはジャガイモのカスが浮いているフライパン。お皿に意識を戻せば、敷いていたクッキングペーパーはくっきりと下の模様を浮かび上がらせている。

    「……油の摂取量が凄まじいことになる」
    「だよね」

     たまに食べてるジャンクフードの方がよっぽど身体に悪いような気もするけど、それはご愛嬌。ポテトやバーガーで汚れた指先を紙のナプキンで拭った時とは違う、まだ少し油が溜まっているような気さえする透けたクッキングペーパーを見れば多少げんなりする程度に現実が見えてくる。

    「ノンフライ? だっけ? のポテチもあるけど、これ食べたあとだとね……」
    「ああ。旨いんだ、厄介なことに……」

     天ぷらしかり、かきあげしかり。揚げ物はとかく揚げたてが一番美味いと言ったのは誰だったか。多分これからもマユミくんがこういったお菓子を買うことはないし、少し……かなり残念だけど、ポテチを作ることも恐らく滅多にない、気がする。

     僕が床に放ってあった袋を畳んで捨てるまでの間にも、マユミくんは「油……油、か……」と呟きながら、がしがしとフライパンと皿の油をいらない広告でふき取っていた。

    「……油摂ったなら、運動、しないとね?」
    「ダンスレッスンに行くか。いつも使ってるところが空いてるか確認して……」
    「うーん、マユミくんのにぶちん」

     含みを持たせた「運動」に気づかれなかった呆れの言葉は、そこそこお腹の満たされている今、飲みこめずにそのまま口から出て行った。きょとんとしてるマユミくんに少し腹は立ったけど、塩っ気がちょうどよくて絶妙にぱりぱりサクサクのポテチを食べられたからいいかという気にもなってしまう。

     どうせならアマミネくんも誘ってフォーメーションのおさらいでもしよっか。ついでにマユミくんの手作りポテチがどれだけ美味しかったか懇切丁寧に説明して悔しがらせてあげちゃお。
    「飯テロはともかく惚気は勘弁してほしいんですけど」と脳内のアマミネくんがぼやいたけど、聞こえなかったことにしてLINKを立ち上げた。

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