曙色のひととき夜から朝に変わるこの時間にいつも煙草を1本吸う。
空も少し薄暗いのがなんだか儚くて、煙がふわっと空に溶けて無くなる。
たまにその様子を眺めているとすごく無性に泣きたくなる。
嫌いでは無い。むしろ好き寄りかもしれない。でもどうしても泣きなくなる。
この時間をどうやら暁と言うらしい。
日の出が終わると太陽が光り輝く朝になる。
草も、虫も、木も、動物、人間、妖怪、そして禁忌の子とされているこの俺も。
ふーっと息を吐き出しながらぼーっとその様子をベランダで眺めているのは悟浄。
上半身裸のズボンを履いた状態だ。部屋には三蔵がスヤスヤと眠っている。
もしかしたら、三蔵みたいでとか思ったり思わなかったり…なんてスヤスヤベッドで眠っている三蔵の方を見てなんだかそう思った。
らしくもない事だと悟浄は少し笑みを浮かべて、窓の音がカラカラと鳴らし、部屋に入る。
スタスタと歩き、三蔵が寝ているベッドの前で歩みを止めて、眉間に皺を寄せて不機嫌そうにしている姿とは違う健やかな表情で眠っている彼に、悟浄はそっとチュッとキスを落とした。
キラキラした金髪の長めの横の毛をサラリと撫で、そのまま耳にかける。
「愛してる」
小声でそう囁く悟浄の顔はどんな表情をしているだろう。
愛おしそうに見つめるのだろうか。
それとも優しい目で眠る三蔵に触り笑みを浮かべているのだろうか。
それは、悟浄と窓越しにある暁だけが知る。
眠る三蔵をひとしきり愛でた後、またベランダに戻り煙草を吸い始める。
陽の光が入り始める様子を眺めつつ、ぼーっとする。
何も無い訳では無い、いつもの日常の1ページに過ぎない。
でもこの時間は、悟浄にとって宝物だった。
一番の三蔵と儚いと切ない気持ちになる暁は自分の中でずっと大切にしなければいけないと思う。
もし、この先別つ時が来たとしても。
話は変わるが、悟浄は夜も大好きだ。酒は呑めるし、女もいる。賭け事をしてもむしろ釣りが帰ってくることの方が多い。そんな時間も嫌いでは無い。が、悟浄と三蔵が付き合い始めてから、一緒に夜を共にした最初の日悟浄はなんだか目を覚まし、この儚い時間帯に目を奪われた。
隣には恋人、日の出の光が三蔵の髪を優しく撫でキラキラと光る。
その様子を初めて見た時、悟浄はとても切なく儚い。
心がギュッと掴まれた気持ちになった。何かあった訳じゃない。それでもなんだか泣きたくてしょうがなかった。
隣で寝ている三蔵の体温は悟浄の体温と共有されている。
手を少し伸ばせば、髪も撫でられるし瞼にキスすることも出来る。
でもどうしても切なかった。
それは、初めての日だけではなく2回、3回、4回…何回共にしても変わらない。
夜から朝に変わるこの時間をいつしか儚いものだと認識するにはそう時間は掛からなかった。
朝になれば、いつもの日常が始まり夜の時とは違う、むしろ当たりが強い三蔵に安心と寂しさを感じたりなんかして。
まぁ、悟浄も悟浄で挑発する様な事をしたり、悟空とこっそりおやつを食べたり、喧嘩したりそんな事をして三蔵にハリセンでどつきまわされている訳だが…それはまぁ、ご愛敬だ。
そんな訳で、夜から朝に変わる暁の時間を1人、何となく煙草を吸いながら眺めるようになった。
煙草の煙もふわふわ空に漂い、丁度良いなんて思いながら。
初めての頃を思い出していたら、後ろからカラカラと音が鳴った。
「煙草か」
「ん?おぉ、おはよ」
「ん。俺にも寄越せ」
「へいへい」
三蔵が煙草を咥えたのを見ると、三蔵の顎をそっと持ち上げ悟浄の火を移す。
ふーっと吐き出した三蔵の煙と、悟浄の煙が混ざり合い、空に漂う。
「お前にこんな趣味があるとはな」
「ん?まぁ一番大切な宝物に似てんのよ。だから好きなの」
「まぁなんでもいいが」
「そーそー」
咥え煙草をしながら日の出を隣で眺める三蔵を見て、笑みを浮かべると煙草を手に持ち、そっと髪にキスをした。
そんな様子の悟浄に、怒る素振りもなく悟浄の方に振り向いたと思ったら、煙草を他所に置き悟浄の唇にキスをした。
びっくりした悟浄を他所にふんとしてやったり顔する三蔵は、陽の光に照らされてキラキラ輝く。
いつもと何も変わらない日常が朝日の知らせと共にやってくる。
そんな光を背景に、2人はまたキスをした。