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    oooosatou3

    @oooosatou3

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    oooosatou3

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    イベント用にいただいたお題、“浮気”でひとつ。かなりばかばかしいバカップルのお話です。
    だめなふたり、の鬼目。成長鬼くんと目の父さん。

    一途な男 幽霊族は一途である。
     か、どうかを鬼太郎は知らない。絶滅を待つだけの種族である。鬼太郎が知る幽霊族は自身と父の二人だけだ。過去に訪れた地獄でご先祖様だという人物と話をしたことはあるが、人となりを知る程関わったわけでもない。であるからして、幽霊族という種族が一途であるかどうかを鬼太郎に判断することはできない。
     しかし、鬼太郎は自身を一途な男である、と自認している。幽霊族だからそうなのか、鬼太郎自身の特性であるのかはわからないが、物心ついた頃から小さな父を愛していたし、彼を害する全てから守るのだ、と誰に言われるでもなく自然と決めていた。恋の概念を知った時も、当たり前の様にその初めての想いを父に捧げている。何十年だ。人間であれば世に出てから墓場に帰るくらいの間だ。鬼太郎は、父を想っている。それを一途と言わずなんと言う。
     だからこそ鬼太郎は今、その父に対して沸々と、胃の腑の底から沸き上がる様な苛立ちを募らせていた。喧嘩というにはあまりにも馬鹿らしい。それなのにこの小さな目玉は、鬼太郎より何十年も長生きの父は、まるで子供の様に拗ねて鬼太郎から文字通り目を逸らし、先程ついに空の茶碗を器用に伏せてその中に引き籠ってしまった。籠城である。お前とは話をしないぞと。可愛い倅に対してこの非道。このままちゃぶ台ごと外に放り出してやろうかそれとも無理やり引き摺り出して茶漬けにして食ってやろうかと実践できもしない報復を妄想しながら茶碗を睨み付け、鬼太郎は低く父に声を掛けた。

    「父さん、出てきてください」
    「……」
    「そんなところに籠ったってどうにもならないでしょう」
    「……」
    「いつもは父の威厳やらなにやら言ってるくせに、子供みたいなことをして……」

     ガタン、と茶碗が揺れる。抗議の意思表示だ。鬼太郎は大きくため息を吐いた。
     思えば父がこんな風に気持ちを露わにするのを見るのは初めてだった。感情表現は豊かで、笑ったり泣いたり忙しい人ではあったが、鬼太郎にその感情をぶつけるようなことはなく、息子に対する態度はいつでも一定の温度を保っていた。それはもう一人の父である養父も同じであったように思う。父として子に対するのであれば、それはきっと正しい姿だ。それなのにこれはどうだ。父としてこんな態度を息子に向けるとは——。

    (父として?)

     ふ、と怒りの感情の後ろから何か別のものが顔を出したような気がして、鬼太郎は首を傾げた。父として情けない姿。威厳もなにもない、子供のような拗ね方。そもそもこの人は、僕は何にこんなに怒っているのだっけ——。
     そう、鬼太郎は自身の一途さを父に蔑ろにされた。恋をしった瞬間から一途に捧げ続けた気持ちを疑われた。浮気だなんだとぶつぶつ言われ、否定するも受け入れられず、段々と苛々して、父親のくせに息子を信じられないなんてと強く言い放った。
     父は、今鬼太郎の目の前で茶碗に引き籠るこの人は、ひょっとして。

    「ヤキモチを焼くのが恥ずかしいんですか?」
    「……」
    「父親なのに、ただの恋人みたいにヤキモチを焼いてしまったから。恥ずかしくなっちゃったんだ」

     茶碗がガタガタと震える。
     さっきまで沸き上がっていた怒りがあっという間に引き、真逆の感情で頭に血が上るのを感じながら鬼太郎は父の茶碗に触れた。

    「ねえ父さん、父さんってば」
    「……」
    「かわいい」

     そっと茶碗を持ち上げる。胡坐をかいて背中を向ける小さな父の首が真っ赤に染まっていた。

    「父親の癖に、なんて言ってしまってごめんなさい。親子だけじゃなくて恋人がいいって言ったのは僕なのに、父さんがこんな風にヤキモチを焼いてくれるなんて思わなくて、わかってあげられなくてごめんなさい。ねえ父さん、こっち向いてよ」
    「……わしのことを好きじゃとあれほど言ったくせに他に現を抜かすのは、浮気というやつではないか」
    「うん、そうですね。僕が間違ってました。父さんがいちばん好き。父さんしか好きじゃないよ」
    「恥ずかしい父親ですまぬ」
    「恋人が浮気したって思ったら怒っちゃったんですよね、父親として、じゃなくて」

     父の傍に掌を差し出すと、座ったままの小さな身体がころりと倒れ、掌の上に乗る。顔を見られないのだろう、背中を向けたまま。そっとその手を持ち上げ、鬼太郎は父の目を覗き込んだ。眼球なのに真っ赤に染まっている。

    「こんな姿を見せとうなかったんじゃ。モチなど焼きたくないし、お前が本当に望むのなら、わしは身を引いてやらねばならんとも思っておるんじゃ、本当に、ただ……」

     掌の肉を小さな手が掴む。抓られた様な微かな痛み。

    「良いんですよ、父さん。僕はもうわかっちゃいましたから。父さんは恋人が浮気したって思ったらちゃんと拗ねて、怒る人だったんだって。可愛い恋人のヤキモチだったら受け入れます。僕は一途で、甲斐性のある男なので」
    「自分で言うんじゃないよ」
    「ふふ、いいんです。事実だから。まあでも、浮気を疑われるのは心外ではありますけど。しかも相手がハムスターって」

     そもそもの前提がおかしいのだ。だからこれだけ拗れたのだろうと鬼太郎はもう一度ため息を吐いた。例えば相手が人間であったり、顔見知りの妖怪なんかであれば鬼太郎だって父が何に怒っていたのかすぐにわかった筈だ。デートをしたのだとか、鼻の下を伸ばして口説いたりしたのであればそれは間違いなく浮気だ。したこともなければする気もないけれど。しかし父が悋気を起こした相手はなんとハムスターである。どこかの家から脱走した箱入りの鼠だ。いつものようにふらりと家に寄ったねずみ男が連れていたそのハムスターは、ついでにと鬼太郎と父に挨拶をして、そしてそのまま去っていった。本当にそれだけだったのに。

    「手に乗せて、口付けしたじゃろ」
    「匂いを嗅がれただけですけど」
    「可愛いと」
    「小さな身体で頑張っていたから……」
    「わしと同じくらいの生き物であればなんでも良いんじゃろ」
    「もー、だから焼かないでってば。小さいのが良いなら他の妖怪だって色々いたでしょうに」
    「……」
    「もしかして、今までもヤキモチ焼いてました?可愛い……隠してたんですか?」

     ぷう、と膨れた頬を突いて、鬼太郎は笑った。これだけ一緒に過ごしていてもまだ知らない事はあるらしい。飽きないものだなあ、と思う。人間が腹から這い出て、墓場に帰る程の期間、一途にずっと想い続けていても、恋という感情が凪いでしまうことはないらしい。さっきまであれだけ怒り狂っていたのに、今は愛しさで踊り出してしまいそうに幸せだ。
     父も同じであればいい、そう思った。きっと同じなのだろう、とも思った。
     掌の上に座り直した父が、恥ずかし気にこちらに向き直る。恋人として最高の姿だった。

     

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