1108 ――柔らかい、という感想を抱いた己を殴りたくなった。
「あ、あの……ちょっと、」
困惑した様子の女の声が、頭上から降ってくる。
鼻先と頬に当たる、慎ましやかながらもしっかりと丸みを帯びた感触。
壁に凭れ掛かり微睡んでいたところに、小さな生き物が足元をちょろちょろとうろついた結果、その小さな生き物――ララフェル族の英雄を巻き込むように転倒し、彼女の胸に顔を埋めてしまっている。それがエメトセルクの現在の状況であった。
エメトセルクにはなりそこないがわからぬ。エメトセルクは真なる人である。アシエンとして次元圧壊を起こし、到底生きているとは言えないそれらを、かつての世界を取り戻す贄とするため活動してきた。けれどもコンプライアンスに対しては、人一倍敏感であった。
裁定に届かなければ切り捨てるだとか、そういう問題ではない。これは紛うことなきセクハラだ。紛うことなきセクハラであるし、事故的なものであれ、体の大きい種族の男がララフェルを押し倒す、というのは、それだけで恐怖を与えかねない暴力である。
「……悪かった。怖い思いをさせたな」
ようやく冷静さを取り戻したところで謝罪を口にすれば、女はふるふると首を振る。
「大丈夫、だけど。は、恥ずかしかったんだから……気をつけてよね……」
頬を染め目を伏せる、年端も行かぬ少女のような英雄の――ささやかな膨らみを揉んだり逆に揉まれたりするようになる未来が訪れるとは露知らぬ、うららかな午後のことであった。