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    Nashinomi_10

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    Nashinomi_10

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    翠嶄さんのお誕生日記念のSSです
    ⛰☄️の妄想成分が多いです
    雰囲気…雰囲気で…読んで…

    【翠嶄さん生誕記念 SS】◇◇◇


    「私の…誕生日?」



    珍しく口を開いたかと思えば、この黒い竜にしてはくだらないことを聞く。誕生日を聞かれたらやることは恐らく一つ。ヒトは何かと誕生した日を祝いたがる生態は、遠の昔に観測していたから知ってはいるが…私には理解し難い。

    「何故そんなことを?聞くだけ無駄でしょう。」

    『………、日頃の感謝も兼ねて 皆に聞いていることだ。覚えている範囲で構わない。』

    「私はここの規則と衣食住の分だけ動いてるだけですから、気を遣わなくて結構です。それに私は自身の誕生日に大して関心もありませんから、覚えてなどいませんよ。」

    『…そうか……時間を取らせた。すまない。』

    そう言うと 踵を返し足早に去って行った。
    やや残念がっていたようにも見えたが 何故そこまで知りたいと思うのか。




    「誕生日ぐらい教えてあげてもよかったのでは?貴方は相変わらず冷たいですね。」

    話を何処からか聞いたのか、それとも聞き出すのに失敗した主の落胆具合に察して来たのか、白鯨が呆れたような顔をして言う。

    「では、聞きますが 貴方は自分の生まれた日など覚えているのですか?」

    「私が生まれた時代はそもそも暦という概念がまだ薄い時代でしたからね…正確な年月は私も覚えていません。」

    「えぇ、そうでしょうね…」

    「ですが、季節だけは覚えていましたから 主様には生まれた季節を教えましたよ。翠嶄、貴方も生まれた季節ぐらいは覚えているのではないですか?」

    「……教える道理がないですね。」

    「頑固ですね…それ程までに自分のことを契様に話したくないとは……貴方の誕生日は特に祝いたいだろうに…」

    何かを小声でボソボソと呟き、目を伏せ首を横に振る白鯨。話して何になると言うのか…祝われたところで そうですか、で終わることが目に見えている。

    「私は他者に祝われたい願望などありませんから。」


    ◇◇◇


    生暖かい風が頬を撫でる。長く時を過ごして来て色々なものが移り変わる様を見てきたが、こうした季節の風は然程昔と変わりない。

    …唯一変わったものと言えば 光を屈折してその7色に輝く髪を美しくなびかせて存在感をありありと見せつけてもなお、無色透明で目を離せば 風一つで見失う様な焦燥感とそれ以上に日を追うごとに増して感じる彼への今まででは無縁と等しかった、愛と言える感情。ちょっとした出来事でも 共有したいと思うその感情が愛だと言われて、ようやく確信づいたのは未だ記憶に新しい。

    残雪が溶けた頃、各々が自然と目覚め目と耳が騒がしくなる。風に乗って香る梅花の匂い、春の鳥がさえずりの練習をする。


    「春ですよ、邏契。」

    声をかけると こうして床の中で もぞもぞと芋虫の様に身をよじりながら 未だ眠そうに薄目を開けて返事をしては すぐにその瞼を下ろして夢の中へまた旅立ちそうな彼の頬を優しく撫でる。
    多くのヒトは通常、暖かくなると眠気に誘われる というのも実は最近知ったことだ。私達のような虫は春の睡魔とは無縁でしたから、眠いのは春の目覚めた最初だけ。
    比較的目覚めの良い彼もたまに起きれない日があるのが愛おしく思う。それを私一人だけが見れることも。

    「…仕方がないですね。」

    彼の額にキスを落とし、少し乱れた掛け布団を整えて再び一緒になって寝転び 彼の安らかな寝顔を眺める時間へと移行する。どう考えても時間の無駄にしか思えないこの行為も、苦痛に感じないのは自分でも不思議に思うが 恐らくこれも愛なのだろう。
    頬が自然と緩む感覚をそのままにして、彼の頬に掛かった髪を退けて 遠くで僅かに聞こえる朝の訪れを告げる小鳥の声を聞かなかったことにした。


    ―――……


    「おはようございます、よく眠れましたか?」

    『ぉ…………、……』

    起きて早々に目を見開いたかと思えば、両手で顔を隠してしまった彼のその艷やかな髪を撫でる。

    『おはようございます……』

    「朝の挨拶ぐらいは貴方の顔を見たいのですが…」

    おずおずと指の隙間から赤い瞳を覗かせて、その手をゆっくりとその赤くなった顔から離して、先程と同じ言葉をたどたどしく紡いだ。

    「えぇ、おはようございます。」

    『心臓が…飛び出るかと思った…』

    「ふふ、私の顔など見慣れているでしょう?」

    『見慣れぬものか…貴方はいつも俺の知らない顔をする。』

    「気のせいでは?私はいつもと変わりませんよ。」

    少し意地悪をすると そんなワケは無いだろうと少しだけ彼は唇を尖らせた。その下唇の指で摘めば 愛らしく眉をひそめた。


    「さあ、起きてください?今日は少々お寝坊さんですよ。」

    『な…起こしてくれても構わなかったのに。』

    やや慌てた様子で身体を起こして寝間着の襟を少し整えて、いつもの装いを見繕う準備をしている。

    「いいんですよ、日中の貴方は忙しそうですから。…それに、こういう時ぐらいにしか貴方を落ち着いて眺められませんからね。」

    そう言うと 彼は目を伏せてまた少しだけ耳を赤くした。



    「…そういえば、以前 私の誕生日について聞いたことがありましたね。」

    日中の業務が落ち着き 太陽も真上を通過して少し経った頃、彼は突拍子もなくそう言った。

    『えぇ、はい…でも覚えていないと……』

    「私達は大よそ、春から初夏の間に生まれてきます。」

    彼の口から彼自身の話をしてくれるようになったのは つい最近の事だけれど、それは今までで一番の衝撃に近かった。

    「書類が落ちましたよ。」

    『すみません…話を続けてください。』

    「…そうですか?わかりました。
    私の場合は……丁度今ぐらいの時期でしょうか。暖かい陽気で、桜も葉桜へとなった頃…と言ってもここでは年中桜が咲いていますが…」

    『…つまり…それは…その、…』

    「これをヒトは誕生月…というのですか?今がその月かもしれませんね。」

    『な、なぜそれを今……』

    「思い出したので。今朝。」

    『今朝。』

    なんの準備もしていない。今話されたのだから当然である。当然なのだが、なんの準備もできていない。

    落とした書類のほんの一部を握りしめ、多くの書類を落としたままに固まり考えを巡らす私に 眉を少し下げて困ったように笑う彼は手際よく書類を集めて私にそれを手渡す。

    『………ありがとうございます…』

    「そんなに知りたかったのですか?」

    『知りたかった…が、今ではない…とても…
    このままでは準備不足で貴方の誕生を今月中に祝えなくなってしまう。』

    「別に大々的に祝わなくてもいいのですが…私は貴方にだけ祝われればそれで…」

    『良くない。』

    「……まるで祭りでも開きそうな勢いですね。」

    『開きますが。』

    「やめてください。」

    『申し訳ないが、こればかりは譲れません。それに貴方は私の眷属ですから、祭りを開く理由は十分にあります。
    それと、俺がそうしないと気が済まない。』

    「…そ、うですか…」

    こうなってしまえば、邏契を止める術は無いだろうと 任せることにした。
    それに、目が少々本気だったので。

    彼が私を好いてくれているのは二十分に、これでもかと分からせられているが…数十年程 教えなかったツケが回ってきたか…潔く祝われようと思う。




    「誕生月を教えたそうですね?」

    縁側に腰掛け、小さくまだ生まれて間もない百足と戯れていると、ニコニコと……いや、少しニヤけた顔で月華がそう尋ねてきた。

    「耳が早いですね…」

    「それはもう、契さんが慌ててましたから。」

    くすくすと笑う白鯨を横目に小さくため息をつく。

    「恐らく、ここの屋敷の全員は皆もう知ってると思いますよ。」

    「どれだけ騒ぎ立てたんですか…私の人は…」

    「当然ですよ。ようやく最愛の人の誕生を祝えるんですから、慌ても張り切りもしますよ。」

    胸の奥が少しだけむず痒くなり、居心地がやや悪くなる。

    「少し優柔不断な方ですから、貴方の欲しいものは何かと近い内に聞きにいらっしゃるかもしれませんね。」

    「………考えておきます…」

    にこりと微笑んで白鯨は 夕飯の準備の為に台所へと姿を消した。

    そうして月華の言う通り、屋敷の中の者は皆 私の誕生月について 既に耳に入っているようで、すれ違うヒト達に尽く 誕生月の話を切り出され茶化され…居心地の悪くなった私は足早に本殿へと戻った。




    ―――……


    『…翠嶄』

    「はい、なんですか?」

    日もすっかりと落ち、月が真上に上がった緩やかな風が静かに流れる時に 改まったように名を呼ばれる。

    『ヒトは誕生日にその人に贈り物を贈る習慣があります。』

    「えぇ、そのようですね。」

    『…自分でも考えたのですが……やはり貴方自身に聞いた方が得作かと…思いまして……なにか欲しいものはありませんか?』

    「そう聞かれると思い、私も考えていたのですが――…」

    『…?はい、………………あ、』

    その先を言わずに彼の赤く星が煌めく瞳を見つめていると不思議そうに首を傾げる。が、その意味が彼に伝わったようで頬を、耳まで赤くする。

    「貴方と、貴方の時間が欲しいです。いつも貰っていますが、いつも以上に…私にはそれが一番嬉しいと思いますよ。」

    口籠る邏契の手の指に指を絡め、そのまま邏契の手を自身の口元へ持っていき手の甲に唇を押し当てる。

    「あの日、あの時、全て私の気まぐれで始まったことですが…今は気まぐれなどではなく、ましてや糧食でもなく 本心で、貴方を一人のヒトとして一等に愛しています。」

    『……俺も…貴方を、ずっと 愛している…』

    「ふふ…相変わらず慣れませんね、お互い。こう言ったものは」

    こちらに不意にも落ちる涙を見せぬよう俯き空いている手で目元を拭う仕草をする彼に擦り寄り、少しだけ濡れているその頬に優しく触れる。

    「この調子では、祭りの当日なんて一日中泣いているのではないですか?」

    顔を上げさせ、零れ落ちる綺麗な涙を親指で拭う。

    『…ん、祭りは…三日やるので……』

    「三日…」

    『一日では…とても祝い切れない。』

    「…そうですか、あなたの気が済むならそれで構いませんよ。」

    『しかし…翠嶄の誕生月に泣いてばかりでは…いけませんね…』

    そう言ってこちらにまっすぐに微笑む彼の瞼にキスをする。
    …やや不満そうな視線が刺さる。

    『…口吸い…では無いのですか…?』

    「おや、お強請りが上手になりましたね。ですが、できればそれは 貴方から頂きたいです、邏契。」

    少しだけハッとした顔をした彼は私の頰を両手で包み、優しく引き寄せる力に身を委ねる。
    …腰に手を回し、邏契の帯の結び目に手をかける。意図に気づいた邏契は恥ずかしそうに目を伏せる。

    「よろしいですか。」

    触れ合っていた唇を少しだけ離して尋ねる。

    『俺が…欲しいと言われた手前…断る理由など…ないでしょうに…』

    そう言って柔らかく笑う彼の髪を耳に掛け、耳の裏を撫でる。
    …恐らく今の私は締りのない顔をしているのだろうと思う。私にとって なんにでもなかった誕生したと思われる月に、貴方を独占できることが なにか特別なことに感じて頬が緩んでしまう。
    柄にもなく嬉しいのだと…それが貴方だから、最愛の貴方から贈られたモノだから 代わり映えのないただ名前の付いただけの日も特別に感じるのだと…少し理解した気がする。

    淡く染まるその頬撫でて、その綺麗な輪郭を沿うように指でくすぐれば、彼はこそばゆいと微笑んで私の手に擦り寄って手中に収まる。それがひどく愛おしい。

    「あの時、貴方に誕生した季節を教えなくて良かったのかもしれません。」

    『…なぜ?』

    その瞳に少し悲しみか不安の色が揺れる。

    「これはきっと親愛や最愛のヒトに贈られて、真に意味があるのでしょう?何も知らない私が祝われていれば 冷たくあしらい、最悪 拒絶していたと思います。私が拒絶してしまえば、貴方は私の誕生を祝わなくなってしまってたでしょうから…。」

    ぱちぱちと瞬きをしてこちらを見つめる邏契の目の下を親指で撫で付ける。

    「つまり…貴方に祝われるのが、この月が特別なものとなるのが新鮮であり それが嬉しいのですよ。」



    《 貴方のまだ知らないことを 》
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