「……きみ、」
ファウストの低い声が沈黙を破る。
まじまじとファウストが視線を送る先。それは、晶の首筋だった。
「すみません。怒られる準備は出来ています……」
晶の頼りない声に、ファウストははぁ、と息を吐く。
「……新しくキスマークをつけて上書きすれば、今きみについているキスマークは消える。そうだな?」
「……って、魔女さんは笑いながら言ってました……」
晶の首筋に浮かぶ、赤いキスマーク。それは、街に出かけた際にいたずら好きの魔女に魔法でつけられたものだという。
「魔法使いには気をつけろと僕はいつも言っているのに……。言い訳はあとで聞くよ。まずは、きみのそれを消すのが先だ。見ていられないからな」
手袋越しの、ファウストの指先。それがつぅと晶の首筋を這って、同じ場所を紫の瞳がなぞるように見つめた。その瞳は凍るように鋭く、けれど奥底で炎がゆらめくようだ。部屋を満たす空気が張り詰めて、晶は肩をふるわせる。
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