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    hakabanohirono

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    hakabanohirono

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    モブ水で軽く咥えてるだけ。で、その後は、何か続きそうなゲタ水と父水要素がある何か。

    「お引き受けします」
     そう言って相手の顔を上目遣いに見つめて少し細めれば、気分も良さげに男は目を細めて俺を見下ろす。
     そうやって下賎の者を見下ろすようにして差し出されるのは醜い欲だ。
     何度も繰り返してきた行為は、自分の身体に驚くほど染みついている。
     どうすれば相手を優越感に浸らせて、どうすれば相手を善くさせられるか。
     最初の頃は気持ちが悪かった。それはもう吐いた。だが其れさえも気に入ったといわんばかりに、最後まで自分の好きなように俺の身体を弄んだ男は、確かに言った通りの契約を交わした。
     この身一つでそれが叶うならば、なんだって使ってやろう。それが俺の生き方で、考え方だ。だからその男にはいいことを教えてもらったと、今では思うし、未だに付き合いはある。もちろん仕事上のでのだ。

     舌を差し出す。
     汗と尿の臭いがする逸物はまったく不快でしかない。
     だがその臭いを味わうように舌を這わし、舐めていけば、相手は大体満足げに笑う。
     それだけではもちろん意味がない。だから口の中に、奥まで含みゆっくりと吸い上げる。その時に少しだけ、自分の上顎に亀頭が擦れるようにすると、少しだけ気持ちがよくなる。
     そんなことは知りたくもなかったし、今だって知りたくもない。
     だが知っていることで使えるモノは増える。
     ならば知っている方が有利だ。

    「ッ……ふ、ぅ」
     びくり、と身体が震える。舌で口の中にある竿を舐めながら、唇で扱くように頭を動かす。
     その度に上顎が擦れると気持ちが良くなる。そうなってしまえば此方のもので、自分の理性を砕き飛ばすには最適だ。
    「咥えて感じるとは、誰がそんなに仕込んだんだい?」
     男の笑う声がしたが、俺は無視した。自分が感じている小さな快感を逃がさないようにして行為を続ける。
     咥えこめない部分を指で掴み扱く。
     口の中の逸物は脈打ち硬くなり大きくなる。
     舌先でくびれた部分を舐めながら口を少しずつ離していく。
     ゆっくりと、見せるように離せば唾液の糸が引いてぷつりと切れる。
     ほぅっと息を吐いたのは、俺の方だった。
     自分の中の羞恥を崩して、理性を崩して、ただただ求められるものに成り下がる。
     瞬きをして男を見上げると、唇を歪めて笑っている姿が目に入る。
    「どうした。まだ終わりじゃないだろう?」
    「もちろん、です……が、その……」
     そう言いながら俺は卑猥に唾液に濡れた逸物を指先で触れ、再び先端を舐めた。
     塩っぱい味がして、少し震えて脈打つ。
    「此れだけで……は、ご満足いただけないかと。その、いえ、寧ろ……私が……」
     そう言って、昔なら口に出来なかったような言葉を口にする。
    「欲しいのです」
     懇願すれば男はゴクリと喉仏を上下させ、ネクタイを外し、寝転がるように言う。
     いつもそうだ。
     そう一言を紡げば後は勝手に、相手がしたいように俺を使う。
     それに応えるように、相手が望むように反応と言葉を見せていけば何もかも終わる。
     終わる頃になれば、俺は俺で羞恥も理性も壊れて居い
     欲に塗れた身体を自分で整えれば、仕事は終わるし、何もかもうまくいく。
     だから此れはちょうど良い武器を手に入れたとさえ思っている。
     俺なんかでも使えるのならば、それを使わない理由がない。
     だから何も思わなかった。
     ずっと、今の今まで、一度たりとて――


    「水木さん?」

     声がした。
     振り返ると煙草を咥えて歩いてくる青年が一人。
    「……鬼太郎。どうした? こんな遅くに……」
    「水木さんの帰りが遅いんで。ちょっと気になったんで迎えに」
    「あ、あー……接待があるから遅くなるって、言っただろ?」
    「嗚呼、言ってましたね」
     そう言って、いつの間にか俺の身長を超えた鬼太郎は紫煙をくゆらせながら俺を見下ろしていた。
     街灯がチカチカと点滅し、俺は息を飲んだ。
    「どう、した?」
    「どうしたは僕のセリフですよ。どうしたんです? そんな怯えた顔して。僕、そんなに怖い顔してます?」
     首を横に振る。
     鬼太郎は俺の手を掴むと歩きだした。殆どひっぱられるように歩きながら、俺は鬼太郎と名を口にする。
    「やっぱ、我慢出来ないんで」
    「……え?」
    「知ってますよ。貴方が何してるかぐらい。ずっと前から。でもねぇ、そろそろやっぱ僕も堪忍袋の緒が切れるんですよ。そんな臭いさせてるのに、気づかないわけないでしょう? なんて言ったって、貴方はどうせまた同じ事を繰り返すでしょうし、それが自分なりに仕事の方法だとも思ってそうだし。其れを今さらどうしようとも思いませんよ。貴方は案外頑固だから、そういうところ」
    「な、……なに、言ってんだ、鬼太郎?」
     鼓動が早くなる。
     今までに無いほど、身体中の熱がさっとひいていき冷たくなる。
    「今までどおり、誰に抱かれても良いですけど。僕にも抱かれてくださいよ、水木さん」
     そう言って笑った鬼太郎の隻眼は笑っていなかった。
    「僕は貴方の事愛していますから。そんな風には抱かれたことないでしょう?」
    「なッ……に、言って……。お、お前は、俺の……息子、だから……」
    「血は繋がってませんからね。こういうときは便利だ。だから何も後ろめたい事はないでしょう?」
    「でも……」
     それは駄目だ。
     それはお前の父親に顔向けが出来ない。
     そう言おうとしたところで人の往来がないことを良いことに、鬼太郎は腕を思い切り引くと俺を抱きしめ、そして口を塞いだ。
     唇に舌がぬるりと触れ、隙間にねじ込まれる。慌てて力を込めて閉じようとしていたが、それよりも先に咥内に舌が入ってくる。
    「ッ……ぅ、ぁ」
     舌の表面を擦り合せ、上顎を擦り、歯を一つ一つ確かめるかのように舌が這う。
     思わず鬼太郎の腕を掴むと、びくりと震える身体と痺れる脳に嫌気がさした。
     今まで散々に男に嬲られていた身体は、それだけで十分に快感を感じてしまう。
     相手が誰であれ、だ。
    「ふぅん。そんな顔見せてるんですねェ……」
     そう呟いて目を細めると、鬼太郎は今までに聞いた事ないほど低く小さく怒気をはらんだ声で囁いた。
    「きにくわない」
     ぞくりとした。
     それは多分恐怖ではない。

     そのことに気づいて俺は恐怖して、そして絶望する。
    「行きますよ」
     そう言って、手首をぎっちりと掴んだまま鬼太郎は歩き始めた。
     殆ど引きずられるようにして俺も歩きだすと、何も言えなかった。
     手首は痣が残りそうなほど強く握られていた。
     それさえもじくじくと身体に熱を灯す。
     絶望していた。
     そして同時に、期待と歓喜が身体を駆け巡る。
     名を呼び、何か口にしようとした。
     だが、何を言っても場にそぐわない。
     何を言っても、鬼太郎を怒らせるだけだ。
     だから俺は口を閉じて歩き続ける。
     彼を喜ばせる言葉を、行動を、俺は知らない。
     だがおそらく、それはこれから知ることになる。
     今まで通り、下賎の者を見下ろす瞳に抱かれたとしても、その後にある隻眼は許さないだろう。
     そして様々な憎悪と嫌悪を持って俺を見つめるに違いない。
     だが、おそらく、その中には鬼太郎の誰にも見せない感情の全てがある。
     さっきの瞳もそれだ。
     彼がそんな瞳をするなんて思わなかった。
     声もそうだ。
     あんなに怒気をはらんだ声を聞いたことはない。
     多分彼だって、他にそんなものを見せる者はいないだろうと、勝手に想像する。
     そうであって欲しいと思ってしまうのは、多分、自分の中に燻った欲望に気づいてしまったからだ。
     
     だが同時に、彼の父親に顔向けが出来ない。
     その思いは確かにあって、どうすればいいのか考えあぐねていた。
    「なぁ、鬼太郎……でも、ゲゲ郎は……」
    「父さんが今関係ありますか? 嗚呼、俺に抱かれたら父さんに顔向け出来ないとかいうなら、ご心配なく。父さんも乗り気です」
    「……乗り気?」
     その言葉の意味が分からず俺は聞き返す。
     その頃にはあっという間に家に着いていて、戸をガラリと開けて鬼太郎が「戻りました」と言った時、俺は目を丸くした。
    「げ……げ、ろう?」
     其処には、いつか見たあの日の彼の姿があった。
    「なんじゃ、遅かったな」
    「なかなか水木さんが出てこなかったんです」
    「なんで……目玉は?」
    「ふぅん。まぁ、その話は後じゃ後」
     そう言ってゲゲ郎が踵を返す。見慣れた着物と後ろ姿に思わず呆然と口を開いて見ていた俺を、鬼太郎の声が現実に呼び戻す。
    「ほら、入ってください。戸を閉めないと」
     そう言われて俺は一歩中に入る。
     鬼太郎は戸をぴっちりと閉めると小さく何かを呟いた。だがそれは俺の耳には理解出来ず、何だろうかとボンヤリと見ていたら、振り返った鬼太郎がいつものように優しく微笑んだ。
    「さぁ、上がりましょうか」
    「あ、ああ……」
     なんだか調子が狂いながら俺は自分の家に上がるため、靴を脱ぎ捨てる。
     
     その日から、俺は一度もその靴を履いていない。
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