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    a_yousou

    @a_yousou

    @a_yousou サイレント・ウィッチにどっぷり沼った。アイザック・ウォーカーとウィルディアヌ推し。
    師弟猫 色んな主従関係大好きです。

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    a_yousou

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    敬愛するフォロワーさんの>サイラス兄さんに、謎のお方(高貴)の誕生日を聞いて皆でサプライズパーティーする二次が見たい………
    から妄想して書かせていただきました。兄さんいいだしっぺ(ですが、モニカ言い出しっぺも書いてました)
    未来がどうなっているの分からないし捏造も含むので、こまけぇ事は良いんだよって広い心でお読みください。微妙に書籍版内容(モニカの誕生日)も含まれていたりします。

    今日の良き日に「沈黙の姐さんに、相談したいことがあるんだ」
     モニカの後輩の〈竜滅の魔術師〉サイラス・ペイジからそう話を切り出されたのは七賢人の集まりがあった、ある日の事だった。会合が終り真剣な面持ちでそう、話を切り出された。
    「は、はひ!」
     込み入った話なのだろうか、と他の面々は席を外し、部屋にはサイラスとモニカだけになった。一体何の相談だろうか、魔術式と数式ならばいくらでも相談に乗れるがそれ以外の事では何も力になれそうにないとモニカは身を固くする。
    「実はアイクの事なんだけどよ」
    「へっ?」
     サイラスの口から出たのはサイラスにとっては幼馴染の弟分。モニカにとっては弟子であり友人であり、そして夜遊び仲間だ。しかしここで彼の名前が出てくるとは思わずモニカは問い返してしまう。
    「アイクがどうかしましたか?」
    「いや、もうすぐアイツの誕生日だから祝ってやろうと思ったんだが……姐さんはアイクの師匠だし、当日は予定が入ってるなら俺も混ぜてもらうか……無理そうなら別の日にしよかと思ってな。それを聞きたかったんだ」
    「 アイクの誕生日ってもうすぐ、なんですか⁉」
    「知らなかったのか?」
     サイラスの言葉にモニカは驚くが、サイラスはサイラスでモニカの反応に驚いた。
    「は、はい。わたし、アイクのお師匠様なのに……」
     それ以前に、セレンディア学園に護衛任務で在学中には、バスケットに詰められた焼き菓子にメッセージカードを添えられたものを贈られた。第二王子が卒業と共に護衛任務は終了となった為にモニカも学園を離れたが、それ以降もアイザックが自領にいる時はメッセージカードを。サザンドールに滞在している時はお祝いをしてくれていた。
    「わたし、アイクの誕生日を祝ったことがありません……」
     それどころか何故気にしなかったのか……。
    「それじゃ尚更、一緒に祝ってやってくれよ。そっちの方が喜ぶだろうしな」
     落ち込むモニカを元気づける様にサイラスが口にするがそれは紛れもない本心だろう。サイラスの提案に頷き、そして思いついたことがひとつ。
    「あ、あの。他に何人か、声をかけてもいいでしょうか?」
    「ああ、構わないぜ。どうするかとかまだ何も決めてねぇし、アイクの友達なら姐さんの方が詳しいだろうから頼む。何か言い出したのは俺なのに姐さんに頼りっきりになるのは申し訳けねぇけど……どうせならアイツには内緒で進めて当日あっと驚かせてやろうぜ」
     にかっと笑うサイラスにモニカもつられて笑った。


    ****


     ラウルが留学している最中も共同研究は続いており、ハイオーン侯爵に資料の提出と共にシリルに事の経緯を説明するが、話し終える頃には顔面を蒼白にしていた。
    「言われてみれば〈フェリクス殿下〉の誕生日は知っていても、あの方の誕生日を私は知らない……」
     痛みをこらえるような面持ちで、何故、今まで疑問に思わなかったと悲痛に呟く。
    「シ、シリル様も一緒にお祝いしましょう!」
     その為にこの話をしたのだとモニカはシリルの顔を覗き込みながら説得する。
    「……そうだな、そうさせて欲しい。まだ何をどうするかは決まっていないのだな?」
    「はい、えっと、アイクはお肉が好きだから料理の事をグレンさんに相談しようと思ってます」
     そして場所をどうするか、モニカの家でやるのが一番だが、それではすぐにアイザックにバレてしまう。この事は彼には内緒で行いたいからそれは避けなければいけない。かといって基本引き籠っているモニカは何処か借りられるような店など知らないのだ。
    「場所はラナに相談してみようと思います」
     商会長として、様々な人物とも交流を持っているラナならばきっといい店を知っているだろう。できればラナにも参加してもらいたい旨を伝える・
     モニカの言葉にシリルが頷く。
    「そうか、ならそちらの方は任せる。人数も少人数に抑えた方がいいだろう」
    「生徒会役員でした皆様は……」
    「それについてだが……」
    ニールは調停員として忙しく、何よりも今では父親でもある為、家族を優先してもらいたい。ブリジットも外交官として忙しくしている。
    「メッセージカードを頼んでみる。グレイアム嬢とは連絡がとれるかどうかわからないがニールの方は任せてくれ」
    「お願いします! それと、あ、あのぅ。ハワード様は……」
     返ってくる言葉は何となく想像できるが当時のメンバーの一人である事には間違いない。恐る恐るモニカが尋ねると、シリルの眉間に皺が寄る
    「……あの男に声をかけても、で……アイ、クの迷惑になるだけだ。必要ない」
     未だに癖は抜けず、そして呼び慣れぬその名を口にしながらぴしゃりと言い放つ。
    (ですよねぇ……)
     予想通りの返答にモニカは引き攣った笑みを浮かべた。





    「そういう事なら協力するっす!」
     王都に戻り、ダドリー精肉店に顔を出す。参加とグレンに協力をお願いすれば快く引き受けてくれた。
    「会長にはいっぱいお世話になったし、俺も一緒にお祝いしたい!」
    「ありがとうございます!」
    「料理なら任せてくれよ、会長の好きな味付けなら大体分かるし。他に好きな食べ物が分かるならそれも作るぜ」
     会長には全然敵わないけど。と付け足すが、モニカにしてみればグレンも十分凄い。確かにそれ以上に弟子は凄いがそこは比べてはいけない領域だとモニカも流石に分かってきた。
    「サイラスさんに、聞いてみます!」
     きっと彼ならば覚えてくれているだろう、アイザックの『好きなもの』を。以前、本人に『食べ物は何が好きですか?』と、尋ねた時は固まっていた。答えるのに、いつもの彼らしくもなく時間を要していたのだ。だからこそ色々訊くのを余計に躊躇ってしまった部分もあるのだ。
    「会長、喜んでくれるといいな」
     グレンの言葉にモニカも頷くのだった。






    「だったら、場所はわたしのお店を使うといいわ。その方が準備もしやすいでしょ?」
     サザンドールに戻り、ラナにも声をかける。
     確かに内緒で準備を進めるにしてもラナの店ならば、行き先を告げるにしてもアイザックも不思議には思わないだろう。だが……。
    「い、いいの?」
     確かにありがたい申し出ではあるが、こっそり準備をするには少なくとも数日はかかるだろう。私用の為に借りても良いものだろうかと悩むモニカにラナは抱きついた。
    「もう! わたしがそうしたいの。」
     相変わらず、遠慮してばかりいるがそんなところも愛おしいとラナは口の端をむずむずさせる。
     応接室やサロン以外にも部屋は幾つかある。一部屋くらい大切な友人の為に貸し出すのは問題ない。
    「ありがとう、ラナ」
     フヘッと表情を和らげるモニカに水を差す男が一人。
    「ボクは参加も協力もしないからな」
     モニカとラナのやり取りを黙って聞いていたクリフォードが口を挟む。
    「クリフに頼まないわよ。それよりもウォーカーさんにこの事を喋っちゃいけないんだらね!」
    「言わないよ」
     頻度はそう高くないが、あることをきっかけに交流する機会が増えているのは確かだ。だが、だからと言って世間話を仲良くするような、そういう仲ではないとクリフォードは悪態をつく。
    「……も……で…………か」
    「……? クリフ、何か言った?」
     クリフォードがぼそぼそと何かを口にしたが、聞き取れず、ラナは首を傾げた。
    「……別に何も?」
    「……そう?」
     クリフォードの態度に訝しんだが、それ以上は追及することなく、モニカとの会話に集中することにしたラナだった。

     
    ****


     アイザックは、敬愛するお師匠様が忙しそうに、それでも何か楽しそうにしているなぁとここ最近のモニカの様子を思い返していた。
    「僕に手伝えることがあれば言っておくれ?」と言っても「大丈夫、です!」で済まされてしまう。
     何か隠し事をしているのは直ぐに分かったが、深く詮索をしないようにしていた。ネロにもニヤニヤ笑いながら「まーその内、わかるんじゃね?」と含みのある言い方をされてしまい、彼からもそれ以上の事はモニカに口止めされているらしく何も訊きだせなかった。
     どうやらコレット嬢もフラックス商会の仕事以外の所でも忙しくしているらしく、秘書であるクリフォードが「最近、ラナがいつも以上に構ってくれない。それもこれも全部ウォーカーの所為だ」と顔を合わせる度にネチネチと言ってくるが八つ当たりも甚だしいと聞き流しておしまいにしていたが、アイザックは知らずにいた。八つ当たりなのは確かなのだが、クリフォードの言っていることに嘘が含まれない事を。


    ****


     ——そして、当日。

     その日、朝からアイザックは対竜用索敵魔導具の共同研究でサイラスと共にいた。帰るのが何時にあるのかわからない為にモニカとネロの昼食の準備を整えてから出かけるつもりだったが、モニカはラナとの約束があるらしく、必要がないと断りをいれられてしまった。そうなるとネロの分だけとなるが抜かりなく用意はする。「オレ様、肉がいい」とリクエストがあったがそれもいつもの事だ。
     そうしてモニカより早くに出かけ、今に至る。研究に必要な資料や資材を一時的に置く為の場所もアンダーソン商会長が用意してくれた為、そこで話し合う事も多いのだが……。
    「サイラス兄さん? 今日はやけに時間を気にしているみたいだけど、どうしたんだい?」
     そう、今日はやけにソワソワと時間を気にしている兄貴分。七賢人としては最も着任歴が浅いという事もあり、仕事を覚えるという体で雑用も押し付けられているらしい。もしかしなくとも今日はそちらの仕事があったのではないだろか? しかし絶対今日この日に! と、予定を入れたのはサイラスの方からだった。それでも急用というものはある訳で……。
    「……リーダー? 都合が悪いなら別に今日じゃなくても良かったんだよ?」
    「いいや、今日じゃねぇと駄目なんだよ!」
     アイザックが気遣わしげに尋ねるとサイラスはぶんぶんと横に首を振り、力説する。
     ならば、何故そんなにも時間を気にしているのか。
    「そうだ、ちと早いが昼飯にしないか? 実は気になる店があって予約を入れてあるんだ!」
     ——様子がおかしいのはこの兄貴分も一緒か……。そんな思いを飲み込み、アイザックは顔に笑みを浮かべる。
    「そう? 兄さんがそう言うならそうしようか」
     資料の片づけを済まし、外に出る。一体どの店が気になり、予約したのか訊ねても「着くまで内緒だ」で済まされてしまう。しかし、飲食店が立ち並ぶ通りではなく、別の道を歩いていく。
    (……うん?)
     この道はコレット嬢の——フラックス商会へと向かう時に歩いている道ではないか。彼女の店に行くのが目的ならば内緒にする必要もないのに何故? 食事に行くのではなかったのか? そもそもサイラスがフラックス商会へと向かうこと自体も不思議だ……と、疑問は深まるばかりだがアイザックはそれを口にすることなく、サイラスについていく。
     案の定、到着したのはフラックス商会だった。正面からではなく、何故か裏口から。そして扉の前にはいつも以上に淡々とした表情を浮かべたクリフォードが立っており、無言で部屋の前まで案内される。
    去り際に無表情で「……良き、一日を」と、とてもとても棒読みで口にし、去っていった。首を傾げるアイザックと対照的にサイラスは苦笑いを浮かべながら扉に手をかけた。
     部屋の中に入り、アイザックの視界に映ったのは見知った面々。視線を動かせばテーブルに乗せられた数々の料理。
    (…………うん?)
     サイラスと、アイザックが部屋に入り、到着したのが分かると皆の視線がアイザックへと向く。その視線が柔らかなもので、いつもと何か違うと気付くものの、その『何か』が分からずアイザックは妙な居心地の悪さを感じた。
    モニカはアイザックの姿を確認すると正面を向き、お師匠様の顔をしながらコホンとわざとらしく咳ばらいを一つ。
    「えっと、アイク、誕生日、おめでとうございます!」
     満面の笑みを浮かべて、モニカが祝いの言葉を告げる。
    「…………」
     祝いの言葉にアイザックの表情が凍り付く。鋭い目つきでのそれは怒っている様にもみえる為、シリルは焦った。
    「やはり、内密に事を進めるのはあの方の、お怒りに触れる事だったのだろうか……」
    「でも、サプライズなら内緒にしておかないと意味ないすよ?」
    「いえ、あの眉毛の角度からするとアイクは怒っているのではなく、困惑しているんです」
     ぼそぼそと小声で会話するシリルとグレンにモニカは断言する。
    「そ、そうなの?」
     よくわかるわね……内心感心しながらラナは目だけをアイザックの方へと向けるが、ラナにはよく分からない。判るのはきっとモニカくらいだろう……。
    「…………誕生日って、誰の?」
     幾らかの間をおき、首を傾げたアイザックから放たれた言葉に場が一瞬で凍り付く。祝いの言葉と共に名前も言ったのに何故その反応なのか。アイザック以外のその場にいた面々の視線はサイラスに集まり、シリルに至っては睨んでいると言ってもいい。

     ——一体どういうことだ(どういうことですか)。

     ……と、それぞれ訴えるのがサイラスにはわかった。信じられないものを見る様な、又は棘の様に突き刺さる視線にサイラスの方が一体どういう事だと言いたい。
    サイラスはわなわなと震え片手で顔を覆う。肺の中の空気をすべて吐き出すかのような長い溜息を一つ付きアイザックに向かい「……お前のだよ」と低い声で短く言い放つ。
    「…………僕の誕生日って、今日……だっけ?」
     何度か目を瞬かせ、首を傾げながらサイラスに困ったように、そして恐る恐る尋ねるその言葉に更に場が凍り付く。アイザックは嘘を吐いている訳ではなく、本当に覚えていない反応だった。
     どうしたものかと狼狽える中でラナは、モニカがこの場を設ける際にクリフォードが口にした言葉が、そう、あの場では聞き取れなかった筈の言葉が鮮明に浮かんだ。
    『……そもそも、ウォーカー本人に話してしまったところで通じないんじゃないのか』

    (ああああ……、あれは、こういう意味だったのね……)
     モニカ達がアワアワとしている中、ラナは頭を抱えた。何故付き合いが浅く、大抵のことはどうでもいいと思っているクリフォードの方が自分たちよりもアイザックという人間を≪理解して≫いるのか……。
    『ほら、ボクの言った通りじゃないか』
     呆れ交じりの、それでいて淡々としたクリフォードの声が何故か聞こえた気がしたラナだった。

     サイラスはこめかみをぐりぐりと押し、出来るだけ感情を抑えてからアイザックの両肩を掴み身体を自分の方へと向けさせる。
    「なぁアイク、お前、親父さんの誕生日は覚えてるか?」
     硬い声で尋ねるリーダーに対して、いきなり何を……。と思いつつもアイザックはサイラスの問いに答える。その次におふくろさんは? 弟は? と続き、それに淀みなくスラスラと答えるがサイラスの眉間には皺がより、ワナワナと震えだす。
    「サイラス兄さん? どうしたの?」
     おっとりした声で不思議そうにアイザックはサイラスに尋ねる。同時に、つい先程まではサイラスを、信じられない様なものを見ていたモニカ達の視線が今度は自分に向けられているのは気のせいか? と、アイザックはぼんやりと考える。何故その様な視線を向けられるのかは当の本人は全く、これっぽっちも理解していない。
    「……お前、家族の誕生日はちゃんと覚えてんのに、なんで自分の誕生日は覚えてねぇんだよ……」
     がくりと項垂れ、声は何故か震えている。
    「……えっと」
     だって“必要のないもの”だったし。なんて言ったら、目の前のリーダーは物凄く怒るだろう。何よりこの場の空気が更に重くなるのはアイザックも気付いていたので口にはしなかった。ただサイラスに聞こえるくらいの小さな声で「ごめんね?」と呟く。
     その言葉にサイラスは顔を上げ、手はアイザックの両肩から頭の方へと移る。両側から、ぐわしっと掴んで固定させ顔を逸らさせぬように。
    「アイク……お前なぁ!」
     この野郎、と言いたいのをサイラスは飲み込む。だが指先に力が入るくらいは許されるだろう。
    「……そうじゃねぇだろう」
     サイラスが頭を固定していた手を離し、身体を少しだけずらすとアイザックの目の前にはモニカ達の姿が映る。
     皆、それぞれの生活があり忙しい筈なのに、こうやって集まってくれたのだ。準備にしてもそうだ、きっと少しずつ進めてくれていたのだろう。モニカがソワソワと何かを始めていたのはいつ頃からだったかと、思い出す為にアイザックは記憶を手繰る。今更ながらにじわじわと嬉しさがこみ上げ、口角がむずむずと持ち上がる。
     気恥ずかしさから口元を隠すが、頬が染まるのはどうすることもできず、嬉しさのあまり視界がにじむのもどうすることもできない。
    「……みんな、ありがとう。凄く嬉しいよ」
     精いっぱいの感謝の気持ちを伝えれば、緊張感で包まれた部屋の空気が和らぎ、サイラスがアイザックの髪型が乱れるのもお構いなしにぐしゃぐしゃと思いっきり撫でた。
    「お料理! サイラスさんにアイクの『好きな食べ物』を聞いて、いっぱい用意したんです!」
    「作ったのは殆どグレンとペイジさんで……そのわたしやモニカは何もお手伝いできなくて……済みません……」
     次第に語尾が小さくなるのはラナだった。モニカは手伝いすら危うく、かく言うラナも使用人に任せている為、出来ることなどない。料理はグレンとサイラスが、手伝いをシリルが行った。仕方がない事とは言え、少しくらいは覚えるべきかしら? とほんの少しだけ思ったラナだった。


     いつもならば給仕をする側だが、今日はそれをさせてくれないらしい。祝われる側なのだから今日は駄目だと皆から釘を刺されてしまった。それはそれでとても残念なのだが仕方あるまいとアイザックは好意に甘える事にする。
     手渡された皿の上にはスパイスと果実と肉汁の香りが食欲をそそるタレが掛かった肉が数切れに一緒に野菜も添えられていた。
    「……いただきます」
     自分が調理した以外のものに口をつける前に香りを確かめるのも、一切れ口に含み、咀嚼する前に舌の上に乗せて痺れがないか確かめる毒見の癖が抜けないのは仕方のない事だ。けれども、それに対して、その行為がどのような意味を持つのか理解していても眉を顰められることはない。
     けれどもじっと様子を窺われているのは反応が気になるからだろう。部屋にいる全員の視線を浴びながら食べるのは少し気恥ずかしいし、食べにくい。そう思いながら、柔らかな肉は噛みしめれば肉汁が溢れる。何度か咀嚼を繰り返して飲み込む。味付けは完璧だ。何よりも自分の為に用意されたものなのだからより一層引き立たせている。
     アイザックが感謝の気持ちを伝えれば再度、祝いの言葉を告げられささやかなパーティーは漸く始まるのだった。 

























     おまけ(エリオットをどうしてもねじ込みたかった結果こうなりました。エリオットはフェリクス殿下経由できっと知っているよっていう)


     箱詰めにした言葉


     エリオット・ハワードがササンドールを訪れたのは二度目の事。モニカに用があり、訪れたのだがどうやら留守らしい。まさか、前回と同じ展開か? と身を固くしたが丁度、外出するところだった隣の住人の使用人から「お隣の小さなお嬢さんもウォーカーさんも、お出かけ中ですよ」と教えてもらった。
     前もって連絡を入れずにいたのが悪いと言われればそれまで。時間を潰すにもこの街の事は詳しくもなく、日を改めるか——と、考えたがその前にラナ・コレットが商会長を務めるフラックス商会に顔を出しても良いかもしれない。
     あそこは一点ものを多く扱い、顧客に合わせて相談し、作成もしていると話題にもなっていると考えた。
     別に、今これと言って必要なものがある訳ではないが、あの歌姫の為に何か見繕うのも悪くはないのでは——。
     そう思い、足を運んだ事に後悔するのはフラックス商会に着いて直ぐになるとは知らずに。



     別に今日じゃなくても良かったのだ。昨日でも、明日でも。今日を選んだのは本当の本当に偶々だ。商会の扉をあけ、折角ならばとラナ・コレットの在否の確認をとってみれば何故か秘書を務める男が現れ、何故か無言で別室へと案内された。
     秘書の男が扉を開けて視線がエリオットに集まり、微妙な空気がその場を支配するが、そんな事お構いなしに秘書の男は無言でその場を去っていった。

     そして現在に至る。
     エリオットは会話に加わることなく、壁際で室内の様子を眺めていた。
     ——因みに今は料理と酒の相性についてアイザックがグレンと話していた。酒には強くないが肉屋の倅として店で訊かれることもあるから少しは覚えたいらしい——。

     少なくともこんな事を——祝いの場を設けていると知っていれば別の日にしていたし、そうでなくともここにも訪れてはいない。あの従者が今日と言うこの日をどう過ごしているのか……なんて少しだけ気になったとか、そんな事を考えていたりしないとエリオットは一人脳内で言い訳を並べる。
    「エリオット、もしかして貴様は、今日がその、ア……アイクの誕生日だという事を知っていたのか?」
     会話の輪から外れ、エリオットの隣に立つシリルが尋ねる。今日、この日の事をエリオットには伝えてはいない。何せ互いに天敵同士。アイザックが〈沈黙の魔女〉の弟子をしている事も七五代生徒会メンバーの中でエリオットだけには知らされていなかったのだから。
     エリオットが本物のフェリクス殿下の幼馴染だったとしても流石に……だからきっと今日は偶然だったんだろう。そういう返事が返ってくるとシリルは思っていた。
    だが——。
    「知っていた。別に知りたくもなかったし、覚えておきたくもなかったけどな」
     そう、他家のましてや単なる使用人の誕生日など知る必要もなければ覚える必要もない事だ。必要もないのに覚えているのは、忘れる事ができないのは他でもない、友人であった『フェリクス』が嬉しそうに話していたからだ。
     従者が席を外している時にこっそりと「アイザックの誕生日が近いけど何をしたら喜んでくれるだろう?」と相談された事を思い出す。
     フェリクスの中でアイザックは特別な存在で、彼の事をとても慕い、嬉しそうに語る。エリオットは従者を嫌っていたし、どうでもいいと思っていたがそれでも友人との語らいを、思い出の中に従者の存在が多く含まれているならそれを捨て去る事なんてどうしてできようか。
     そう、重要なのは友人の『フェリクス』であって、あの『従者』ではないと、言い訳をならべる。
     シリルは「……そうか」と短く言い放ち、それ以上踏み込むことはなかった。
    「ところで、お前なんでアイツの名前を呼ぶのに、そんな呼びにくそうにしてるんだ……?」
     別に話を逸らすわけではないが、気になったので今度はエリオットからシリルに尋ねる。
     敬愛する『殿下』に対して愛称呼びをしている事にも驚きだが、それにしては少しばかり様子がおかしい。エリオットの疑問にシリルはわなわなと手を震わせて顔を覆う。
    「……この呼び方でないと」
    「……呼び方でないと?」
    「敬語でかしずくから覚悟しろと……」
    「……既に敬語でかしずかれたんだな」
     シリルはその時の状況を思い出したのか一度だけ重く頷く。
     何をやっているんだ……と、呆れもしつつ親しくなんてないが、呼んでやる気もないが、それでも一度その愛称で呼んでやったらさぞかし嫌そうな表情をするだろうか、いやいやあの従者の事だから笑顔で無視をするかもしれないが——そんな想いをひた隠し、エリオットは、視線を本日の中心人物へと戻した。


     目つきの悪い従者は、それはそれは楽しそうに笑っている。

     ——今日というこの日を、この日以外も、そうやって笑っている方が『アイツ』も、きっと喜んでいるに違いない。
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    😭😭😭😭😭🙏🙏🙏😭😭😭👏👏👏🍖🍗🍖🍗😭😭❤❤😭😭😭😭😭👏👏👏👏🙏🙏🙏👏👏👏😭😭😭😭🎂🍗🍖🙏✨✨😭🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏🙏💕
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    Replies from the creator

    a_yousou

    CAN’T MAKE多分没ネタ
    戦闘シーンが浮かばない&ちょっと今んところ書けそうにもないので。書けているところまで

    お顔は戻ったけど右目は光がはいると変わらず激痛が走るまま。七賢人全員にアイクの正体がバレている(明かしている)という設定。なのは悶々とネタを練っていたのがまだ「世界の半分を失うis何!?」ってしてた頃だったからです。

    丁度魔法戦の抜け穴とかやってるし絶対に楽しい事になると思うんだよ
    ルイスvs アイクの魔法戦が見たい ——いずれあなたはその目に映る世界の半分を失うでしょう。
    〈星詠みの魔女〉から喪失の予言を受け、その回避の為にアイザックが一人で行動していた事をモニカ達が知ったのは、全てが終った後だった。どうして相談してくれなかったのかという思いもあるが、それ以上に悩みを抱えていた原因がそこにもあったのだと思うとやるせなさが胸を占める。
     それぞれ〈暴食のゾーイ〉に奪われた〈大事なもの〉は取り戻せたが、アイザックの右目は回復しないままだった。
     モニカが影を剥がしてくれたおかげで虹彩は戻ったが、依然として右目は見えづらく、そして光が入ると激痛が走るのは変わらないまま。黒い槍は直ぐに折られ、影の浸食が少しで済んだとはいえ、眼球に刺さった事には変わりはない為だろうというのが医師の診断の結果だった。
    2115