忘れ草に一雫。*プロローグ*
あつい。
涙か汗か分からない雫が、赤みがかった道に滴り落ちる。
ストロベリームーン。
六月の満月の名称として使われる。米国の先住民の風習が由来である。
紅色に光る月を見ながら、昔読んだ本でそう記されていたのを思い出した。
月が出ているはずなのに、
涼しい夜風が吹いているはずなのに、
月が赤に染っているせいか、汗も涙も流れ続けるだけだった。
私がどんなに逃げ続けても、月は私を照らし続ける。
彼女はここに居る、と誰かに教えているかのように。
「っ…はぁ……はぁ…………。」
暗い夜道を無我夢中で走る。
まだ斬撃の音と、枯れながらも叫ぶあの人の声が耳の中に響いている。
母親は小さい頃病気でいなくなった。
父親は刺客に殺されていなくなった。
その後に私を愛し育ててくれた彼女も、
アイツのせいでいなくなった。
彼女が最後に言ってくれた『愛してる』の5文字が、まだ頭の中でぐるぐる回っている。
どこかに隠れなきゃ。早く逃げなきゃ。
誰でもいい、誰かを探さなきゃ。
安全な所へ、幸せな所へ。
ごく普通の生活を過ごせれば良い。
ただそれだけが、
望みだった。
ドンッ
そして、鈍い音と同時に、私の視界は真っ暗になった。
「………おいおいおいおいコレは無ェだろ……」
「どうしたんですか銀さ……………え?」
「お、俺のせいじゃ…ねぇ…し…」
「銀さんンンンンンンン!?!?」