忘れ草に一雫。*2話 ー ジジイになってもくだらない事だけ覚えてるよね*
「おいコラァ!俺が以前から買いだめしていた大量のチョコが姿を消した。食べた奴は正直に手挙げろ。今なら四分の三殺しで許してやる。」
「四分の三ってほとんど死んでんじゃないすか。っていうか、アンタいい加減にしないとほんと糖尿になりますよ?」
「チョコなんてまた買えばいいですよ。ね?神楽さん。」
そう告げると、彼は持っていたお茶を啜った。
私、如月真珠が万事屋に居候するようになって数日。何となく三人の性格が分かってきたような気がする。
「 ”またも狙われた大使館。連続爆破事件凶行続く“。物騒な世の中アルなぁ。私怖いよパピー、マミー。」
ソファの上で新聞を広げていた少女は新聞の見出しを声に出して読み上げた。
彼女は神楽という名前らしい。
何故『らしい』と言っているのかというと、人の名前は聞いてきたのに、自分たちはろくに自己紹介してくれなかったからである。かぶき町の女王だとか、ストレートだとか、メガネだとか、何度聞いても本名をまともに名乗ってくれなかったせいで、こうやって他愛のない会話の中から彼らの名前を見つけていくしかなくなった。
今のところわかったのは、神楽という少女と、銀時という男である(二人の名字までは流石に分からなかった)。冴えない彼はぱっつぁんかメガネと呼ばれているので、名前が特定できずにいる。
ぱっつぁんと呼ばれているくらいだから八という漢字がつくのだろう。
などと考えながら神楽に視線を向けると、彼女は鼻血を垂らしていた。
「怖いのはおめぇだよ。幸せそうに鼻血垂らしやがって。旨かったかァ?俺のチョコは。」
「チョコ食べて鼻血なんてそんなベタなぁ〜!」
「とぼけんな!!鼻血から糖分の匂いがプンプンプーン!」
「バカ言うナ。ちょっと鼻くそ深追いしただけヨ」
「年頃の娘がそんな深追いするわけねぇだろ。定年間近の刑事か、お前は」
「例えがわかんねぇよ!っていうか落ち着け!」
怒涛のボケラッシュにピシッとメガネの少年(以降メガネ)がツッコミを入れた。完璧すぎる。この家族は漫才トリオか何かなんだろうか。
「うわぁぁぁ!!」
ドンッッッ!!
なにか物凄い音がなった。爆弾音ではない。何かの建物に車が突っ込んだようなそんな衝撃が家に響き渡る。
「 何だ何だおい。 事故か?」
外に出て降りてみることにした。どうやらぶつかったのは万事屋の下、スナックお登勢のお店らしい。
「 こらァァ!!ワレ!!人の店に何してくれとんじゃァァ!!!死ぬ覚悟できてんだろうなァァ………?」
いつもより更に目を吊り上げお婆さんとは思えないくらいの覇気で、突っ込んできたスクーターの運転手に怒鳴る。
「す、すいません……。昨日からあんまり寝てなかったもんで……。」
「永遠に眠らせたらァァ!!!」
ゆっくりと起き上がった運転手に、お登勢さんは飛びかかるかのように脅した。怖い。怖すぎる。以前家賃を取り立てに来た時も思ったがやっぱり怖い。
「お登勢さん!怪我人相手にそんな!!! ………大丈夫ですか?」
「え、えい……」
メガネくんはお登勢さんを宥めると、今度は運転手に近づき心配そうな目で運転手を見つめた。だが、運転手の方は起き上がれないくらいボロボロなようだ。
「こりゃひどいや。神楽ちゃん、救急車呼んで。」
「救急車ァァァァァ!!!!」
「 誰がそんな原始的な呼び方しろっつったよ!…… 飛脚かアンタ。届けもんえらいことになってるぞ。」
「こ、これ。これを俺のかわりに届けてください。お願い……。なんか、大事な届け物らしくて。届け損なったら、俺、クビになっちゃうかも……。お願いします……。」
「お、おい……」
さっきの銀さんたちとは随分とテンションが違う、細々とした声で運転手はそう告げた。
にしても届け損なうと首切りとは、この世は随分厳しい世の中らしい。
「これが俗に言うブラック企業………」
「ここネブラック企業は。ろくに給料払ってくれないアルからナ」
私がぼそりと呟いた言葉を神楽が拾い、ジト目で見つめてきた。確かに万事屋という割には依頼はあまり来ない。今まで働いたことは一度もないが、今考えると安定した職ではあまりないのかもしれない。
「まあ、住む場所があればどこでも良いか。」
無くなったら無くなったでまた新しい居場所を探せばいいだけだ。
「……ここであってるよな?」
黙って彼らの後ろをついていくと、そこには大きな屋敷があった。ここが届け先らしい。変わった作りをしているので、最近新しく出来た建物なのだろう。
「大使館?…これ、戌威星の大使館ですよ!戌威族っていったら、地球に最初に来た天人ですよね?」
「あぁ。江戸城に大砲ぶち込んで開国しちまったおっかねぇ奴らだ。嫌なとこに来ちゃったなァ、オイ。」
「江戸城開国……。」
「あれ?知らないんですか?」
「い、いえ、勿論知っているわ。将軍様から………」
「え、将軍?」
「ッ…!!」
しまった。口を滑らせた。
そういえばまだ彼らには話していなかった。いや、話す必要は無いけれど。
バレてはいけない。彼らには恩があるが、裏切らないという保証は何処にもない。
ただの他人に自分の秘密を一から百まで打ち明ける勇気は、今の私には無い。
「し、将軍様から聞いた話を報道関係者の知り合いが教えてくださって…。何処よりもいち早く情報を入手出来たんですよ。」
「へえ〜!ジャーナリストの知り合いがいるんですか!」
「新八、そういう正義感強い奴が世の中の不祥事全部暴いて熱愛とか出すんだよ。あ、その知り合いに『結野アナの熱愛だけはだすな』って伝えておいてくんない?」
「アンタ、ジャーナリストなんだと思ってるんですか。」
我ながら良い言い訳ができた。何も怪しんではなさそうだ。
あと、彼の名前は新八というらしい。予想は当たっていたみたいだ。
「おい!こんなところで何やってんだ?テメーら。喰われてぇのかわァん!?」
犬。犬がこちらに吠えてきた。だが下半身は人と同じだ。これが俗に言う天人か。今思い返せば、来る途中にもこんな二足歩行ケンタウロスたちが歩いていたかもしれない。
「いや、僕らは届け物頼まれただけで…。」
「ほら神楽、早くわた……」
「おいでよわんちゃん。酢昆布あげるヨ。」
あきらかに門番であろう輩に、舐めた口でひらひらと酢昆布を見せる神楽を銀時が張り倒す。すると同時に神楽が持っていた届け物が落ち、銀時が拾い上げた。
「あぁ、これだこれ。」
「届けもんが来るなんて話聞いてねぇなぁ。最近はただでさえ爆弾事件警戒して、厳戒体制なんだ。帰れ!」
人斬りならまだしも爆弾事件なんてそう聞いたことがない。科学の進化とは恐ろしい。
でも、こんなに小さな封の中に爆弾が入っているとは思えない。
この犬門番、少しビビリ過ぎなのではないか。
「ドッグフードかもしんねーぞ?もらっとけって。」
「そんなもん食うか!」
銀時が渡した届け物を犬門番が手で払うと、その直後、爆音が響き渡った。
前言撤回しよう。多少ビビりな方が良いのかもしれない。
やはり科学の進化とは恐ろしい。
「……なんかよくわかんねぇけど、するべきことはよくわかるよ。
逃げろォォォォォォォ!!!!!」
「コラァ!!待てー!!」
逃げろという掛け声とともに、万事屋一同一斉に走り出した。
殺される。バレるバレない以前にテロリストとして捕まってしまう。
そんな事を考え走っていると、メガネくんが視界から消えた。
「うわぁぁあ!!!」
咄嗟に開いている片方の手で銀時を掴む。
「うわ!」
銀時も神楽の手を引っ張る。
「 ウグッ!」
そして、
「ぎゃあッ!?!?」
私も、手を掴まれた
「新八ー!?てめーどうゆうつもりだ?離しやがれ!」
「嫌だァァァ!!一人で捕まるのは!」
「俺のことは構わず行けぇとか言えねーのか、お前は!!!」
「私に構わずあの世へ行って!」
「 黙れぃ!!お前の魂も連れていく!」
「どうでもいいんだけど!!なんで私まで掴むのよ!!」
「え、真珠さんまで!?!?」
「何アル真珠も万事屋ネ。死ぬ時は一緒アルよ」
「今までありがとうございました。退職します。」
「させるか!!!お前は一生万事屋で働いて貰うからなァァァ………」
最悪だ。本当に最悪だ。結局追われる運命になってしまった。
「あぁぁもうッ!!なんでこんな目に………」
「自業自得ネ」
「そうだな。このことは全部真珠が巻き起こした事件ってことにしよーぜ。」
「……生きて帰れたら絶対ぶっ飛ばしてやるからな銀さんと神楽………」
「わあぁ!わんころいっぱい来た!!」
その時、遠くから声が聞こえた。
「手間のかかる奴だ。」
突然現れたその人は、リズムよく犬門番を踏み倒す。ゾロゾロと一斉に襲いかかってきた犬門番たちの何人かの断末魔も聞こえた。
「あぁ‥‥‥」
新八が声を漏らすと同時に、艶のある長い髪を靡かせながら、その男は私達の目の前に現れた。
「逃げるぞ、銀時。」
その男に真っ直ぐな目で見つめられた銀時は、一瞬にして顔色が変わった。
「………ヅラか?…ヅラ小太郎か!?」
銀さんの知り合いかと思っていた矢先、
「ヅラじゃない!!桂だぁーー!!!」
桂と名乗ったその男は、拳を銀時の顎にぶつけ、上へ突き上げたのであった。
「うわ!! て、てめー、久しぶりに会ったのに、アッパーカットはないんじゃないの?」
「そのニックネームで呼ぶのはやめろと何度も言ったはずだ!」
「つーかお前、何でこんなところに?」
「いつまでくっちゃべってんだコラァ!!」
感動の再会を遂げた二人が気になり、追われていることを忘れていた。
「話は後だ、銀時。」
「ちっ。」
聞きたいことは山ほどあるが落ち着いたらにするかと思いながら、黙って彼らと走った。
この行動が、誰かに監視されているとは思わずに。
『またしても、天人の大使館を狙った爆弾事件が発生しました。それでは、現場から伝えてもらいましょう。現場の、結野さん!結野アナ!』
『はい、現場の結野です。今回卑劣な爆弾魔に狙われた、戌威星大使館。幸い、死傷者は出ていませんが…えっ、あっ、新しい情報が入りました!監視カメラに犯人と思われる一味が!わぁー!ばっちり映ってますねぇー………』
「……ほんとにばっちり映っちゃってるよ。どうしよう?姉上に殺される!」
「テレビ出演!実家に電話しなきゃ。」
テレビで流れているニュースを見ながら、新八は青ざめた顔でそう言った。一方神楽の方は、テーブルにおいてあったであろうお煎餅をボリバリ貪り食っていた。爆弾魔の仲間にされかけているのに危機感は無いのだろうか。
私は丁度銀さんに隠れていたおかげでテレビ出演まではしていないが、何処から嗅ぎつけてくるかは分からない。気は抜かない方がいい。
「何かの陰謀ですかねぇこりゃぁ……。何で僕らがこんな目に?唯一、桂さんに会えたのは、不幸中の幸いでしたよ。こんな状態の僕ら、かくまってくれるなんて。銀さん、知り合いなんですよね?一体どういう人なんですか?」
「んああぁ。爆弾魔。」
「ヒェ!?」
「そんな言い方はよせ!銀時。」
「あっ。」
新八の質問に寝そべりながら適当に答えた銀時だったが、その後ろから部下たちを多く引き連れた桂は声を張り上げた。
「我々は爆弾魔などではない。我々は、攘夷志士だ!」
「へぇ…小太郎様は攘夷志士なのですね……。」
「む、そうだが。」
「急に丁寧語キャラに戻るんじゃねえよ真珠。さっき口悪かったくせに。」
「へ?」
「あ、さっき真珠ぶっ飛ばすとか言ってたアルな。全くこんな口悪い子に育てた覚えはありませんッ!!」
しまった。色々な事が起こりすぎて無意識に敬語が抜けてしまった。私に対しての印象は多少下がってしまったかもしれない。
だが、一つの事が頭によぎった。
(でも、この三人に敬語を使う必要はあるのか…?)
グダグダだらだら過ごしているこの三人(正確に言えば二人)に敬語を使うほど敬う必要があるのか。家賃を払ってあげた自分が一番敬われるべき人間ではないのか。
「………もういいや、めんどくさくなってきた。」
「え?」
「…んで、話戻すけど、攘夷志士ってことは結局幕府の敵じゃない。爆弾魔と変わらないじゃん。」
突然雰囲気が変わりタメ口を使い始めた真珠を見て、銀時と新八は目を大きく見開いた。
「幕府の敵なのには変わらんが、爆弾魔というところは断じて違うッ!」
ドンッ、と拳を胸に当て、桂は続けて話した。
「この国を汚す害虫、天人を打ち払い、もう一度侍の国をたてなおす!我々が行うは国を守るがための攘夷だ!」
「攘夷志士だって?」
「なんじゃそりゃヨ?」
「攘夷とは、二十年前の天人襲来の時に起きた、宇宙人を排そうという思想で、高圧的に開国を迫ってきた天人に危機感を感じた侍は、彼らを江戸から追い払おうと、一斉蜂起して戦ったんだ。」
苦い顔を浮かべ、新八は続けて話した。
「でも、天人の強大な力を見て弱腰になった幕府は、侍達を置き去りに、勝手に天人と不平等な条約を締結。幕府の中枢を握った天人は、侍達から刀を奪い、彼らを無力化していったんだ。そののち、主だった攘夷志士は大量粛清されたって聞いたけど、まだ残ってただなんて……」
「どうやら、俺達は踊らされたらしいな。」
「え?」
意味深な言葉を発した銀時の目線の先には、さっきお登勢さんの店にツッコんできた、ブラック企業勤めの運転手が居た。
「なぁおい?飛脚のあんちゃんよ。」
「うわほんとネ!あのゲジゲジ眉、デジャブ!」
「ど、どういうことですか?ゲジゲジさん!」
「まさかそこから私らを爆弾魔に……。」
「全部てめーの仕業か?桂。最近世を騒がす事件も、今回のことも………」
顰めた顔で銀時は話すと、桂は覚悟を決めたような真剣な顔で銀時を見つめ、口を開いた。
「たとえ汚い手を使おうとも手に入れたいものがあったのさ。銀時!この腐った国を建て直すため、再び俺と共に剣をとらんか?白夜叉と恐れられたお前の力、再び貸してくれ!」
「……それって、銀さんには国を変えるほどの力を持っている…って解釈しても良いのよね……?」
ふと頭によぎった疑問を呟いてみると、自信有りげに桂は頷いた。
「その男は銀色に血を浴び、戦場を駆る姿はまさしく夜叉。天人との戦において鬼神の如き働きをやってのけ、敵はおろか味方からも恐れられた武神、坂田銀時。我らとともに再び天人と戦おうではないか。」
こんなにだらしない顔をしたこの男が、昔は戦いの前線をはって軍を率いていたとは想像もつかない。が、廃刀令のご時世であるというのに、いつも腰に携えてる木刀はその名残だったのかと思うと、少しありえなくはない過去である。
「銀さん……。攘夷戦争に参加してたんですか…?」
桂の言葉に驚いた新八は、一回り大きい声をあげた。
「戦が終わるとともに姿を消したがな。お前の考えることは昔からよくわからん。」
「俺ぁ派手な喧嘩は好きだが、そういう辛気臭ェのは嫌いなの。俺たちの戦はもう終わったんだよ。それをいつまでもネチネチネチネチ。姑かお前は。」
「馬鹿か貴様は。女子のはみんなネチネチしている。そういう全てを含めて包み込む度量がないから貴様はもてないんだ。」
「馬鹿野郎。俺がもし天然パーマじゃなかったらモテモテだぞ〜。多分。」
「何でも天然パーマのせいにして自己を保っているのか。悲しい男だ。」
「悲しくなんか無いわ。人はコンプレックスをバネにしてより高みを…」
「あんたら!!なんの話ししてんだ!!」
攘夷勧誘の話からいつの間にか話が脱線した銀時と桂にすかさず新八がツッコミを入れた。
それにしてもこの胸騒ぎは何なのだろう。足音も心なしか聞こえてくる気がする。
「俺たちの戦はまだ終わってなどいない。貴様の中にとてまだ残っていよう銀時。国を憂い、共に戦った仲間の命を奪っていった、幕府と天人に対する怨嗟の念が!!」
一息つき、続けて彼は言う。
「天人を掃討しこの腐った国を立て直す。我ら生き残ったものが死んでいった奴らにしてやれるのはそれぐらいだろう。我らの次なる攘夷の標的はターミナル。天人を召喚するあの忌まわしき塔を破壊し、奴らを江戸から殲滅する。」
つらつらと言葉を並べる桂の視線は真っ直ぐ銀時に向いたままであった。本気なのだろう。江戸の今の体制を崩す為に。過激派過ぎる。
「だが、あれは世界の要。容易には落ちまい。お前の力がいる、銀時。」
「オイオイ、さっきから言ってるが俺ぁ…」
「すでに我らに加担したお前に断る道はないぞ。爆弾魔として処断されたくなくば、俺と来い。迷うことはなかろう。もともとお前の居場所はここだったはずだ。」
「銀さん…。」
追い詰められた銀時を見て、新八はぼそっと彼の名を口に出した。
また、争いは繰り返す。
「争うことが人間の性…。」
「「「「!?!?!?!?」」」」
真珠が呟いた途端、戸襖が破れ倒れた。
「なっ……。」
驚きのあまり声を漏らした桂の目の前に、黒い隊服を着た男たちが現れたのであった。
「御用改である!!神妙にしろ、爆弾魔ども!!!」
「真選組だ!!」
「いかん逃げろぉぉ!!!!!」
「一人残らず討ち取れぇえ!!!」
大勢の隊士達が追いかけてくる。結局また追われるのか私達は。
「何なんですかあの人!!」
「武装警察真選組!反乱軍氏を即時処分する特殊警察部隊だ!!」
「は!?!?警察!?!?」
最悪だ。江戸で、一番会ってはいけない奴らに真っ先に会うなんて。
「厄介なのに捕まったな〜。どうします〜ボス〜。」
「誰がボスだ。お前が一番厄介なんだよ!」
「んなぁ!ボスなら私に任せるヨロシ!善行でも悪行でもやるからには大将やるのが私のモットーよ!!」
「オメェは黙ってろ!!何その戦国大名みてぇなモットー!!」
「おいッッッ!!!」
銀時の声を遮るように、後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。そして、同時に刀が後ろからこちらに向かってきた。
「!?!?」
即座にしゃがみよける銀時。
「この隙に隠れるぞ!!」
銀時と警察が戦っているところを横目に、桂はそう言った。
「え?でも銀さんは…」
「彼奴は大丈夫だ。あの程度では死なん。」
心配し慌てる新八とは真逆の、落ち着いた声で桂は話した。
銀さんのことを信頼しているのが伝わる。
「にしてもアイツら物騒ネ。部屋入るならノックぐらいしろヨ。」
「いやいや、私達一応テロリストだから。」
「テロリストとは物騒だ。我々は攘夷志……。」
「変わんねェよ攘夷志士もテロリストも!!」
「年上相手でもツッコミの切れ味は最高なのね。」
「わぁぁあ!?!?桂さんごめんなさい!!!」
「大丈夫だ。ツッコミ慣れている。」
「どういうことだよ」
そんなくだらない話をしていた直後だった。前の廊下から爆音が聞こえ、もくもくと煙が上がる。煙の中から銀色の髪がちらりと見えた。ということは、あれは坂田銀時だろう。
「ねぇ!!あっちに銀さんが…‥」
「皆こっちだ!!入れ!!」
「え?」
気づくと、目の前から三人が消えていた。
あたりを見回しても、見えるのはこちらに走ってくる銀時だけ……
「ちょっ待っ!!ヅラそこ開けろ!!!」
突然突風が横を通り過ぎ、その風は前の部屋へ入り込んでいった。
数秒後に気づいた。
あの風の正体は坂田銀時であると。
「で、奴らは?」
後ろから声が聞こえる。さっきの警察の声だ。
「副長、こん中です。」
やばい、このままでは捕まってしまう――――――。
「おい、出てこい!!」「無駄な抵抗はやめろ!」
警察の男は大声で叫んだが、彼らが出てくる気配は一ミリもない。
一つため息をつき視線を落とすと、男は眉間に皺を寄せた。
「おい。」と、低い声で呼んだ男は、三角座りで壁にもたれかかっていた真珠の目の前でしゃがみこんだ。
「嬢ちゃん、宿泊客か?」
「…………ハイ。」
顔を見られたら困るので、ここは一般客を装い逃げるしかない。
「そうか、そりゃ災難だったな。」
ふてぶてしい顔の男は、あやすような目でこちらを見てきた。
「ここは十五階だァ!逃げ場なんて何処にも無いんだよ!!」
くるりと体の向きを変え男は怒鳴る。
このままさっと立ち去れれば良いのだが。
「ちょいと土方さん。ソイツ、桂の仲間でさァ。」
「げっ」
無理だ。
土方という男の後ろからひょこっと顔を出した少年のせいで、一般客が装えなくなった。あの目は確実に殺そうとしている。さようなら人生。
「…アンタ、攘夷志士か。」
「ち、違います…!!あ〜、あれですあの〜……人質?です!」
「人質ィ??」
土方が首を傾げ、真珠の顔を覗き込む。
「怪しいなァ?俺がさっき仲間って言った時、おもいっきり『げッ』って、声漏れてやしたぜィ?」
地獄耳なのかこの少年は。
「人質だか何だか知らねェけど、桂と一緒に居たことには変わりねェ。後で署まで御同行願おうか。」
なんてことだ。居候するようになって一番の大きな出来事が逮捕だなんて最悪すぎる。
「あ〜〜!!!ってゆーか桂って人今すぐ捕まえたほうが良いんじゃないですか〜〜!?!?」
「ぅわ!?!?」
話を無理やり変えるため大きな声を出すと、彼らは驚いた声をあげた。
「急にでっけー声出すな!!」
「ビビったんですかィ土方さん」
「テメェもビビってただろうが!!」
「でもコイツの言う通り、早く捕まえた方が良さそうですねィ。」
運が良く、話の流れが変わったみたいだ。
「おぉ〜い出てこ〜い!マジで撃っちゃうぞ〜?土方さん、夕方のドラマの再放送始まっちゃいますぜィ?」
「やっべ、ビデオ予約すんの忘れてた。さっさと済まそ。発射用意!!」
流れが良すぎだ。これでは先に彼らが人生をさようならすることになる。
警察達がバズーカを一斉に構えている。
「ちょっと待って…‥」
「はっ……」
次の瞬間、目の前の戸襖が吹き飛んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「皆!?!?」
声をかけるが、彼らは無我夢中に真珠の横を通り去っていった。
「私も逃げなきゃ…!!!」
彼らの背中を見て走り出す。自分だけ捕まるのは絶対に嫌だ。
「何やってんだ!!止めろ!!」と警察の声。後ろを振り返るとさっきの男たちが追いかけてきていた。
「止めるならこの爆弾止めてくれぇい!!爆弾処理班とかさぁ!?何かいるだろおイィ!!!」
「うわぁあ!!爆弾持ってんぞこいつぅぅ!!」
聞き捨てならない言葉を耳にした。
「ふぐぁ!!!???」
「いでっっっ!!」
爆弾を持っていることを聞いた真珠はその場で止まり、後ろから追っかけてきた土方とぶつかった。
「ふざけんなッ!!急に止まんじゃねぇ!!」
「爆弾持ってる人に突っ込むわけにも行かないでしょうが。」
しらっとした顔を向けると、土方は軽く舌打ちをした。
「桂も何処行ったかわかんねェし、アイツらはほぼ即死だろうし…。ったく…。」
「それ、私のせいじゃないですからね?」
「そんな生意気な態度取って良いのかコラァ…。嬢ちゃんにも容疑かかってんだぜ?」
「ダカラ私人質デスヨ」
「カタコト怪しすぎんだろ!!」
「銀ちゃん!!歯ァ食いしばるネ!!!」
「ん?神楽………」
遠くから神楽の声が聞こえ、その方向を見る。
「はァァァァァ!!!!」
「へ、は、おいッッッ!!!」
と、坂田銀時は窓の外へと旅立った。
「ぎ、銀さァァァァァん!!!!」と新八。
「銀ちゃんさよーならーー!!」と神楽。
「ありゃ死ぬな。」と土方。
長くも短くもない付き合いだった。ただぐうたらしていただけだが、住む場を与えてくれたことには変わりない。お参りは行ってあげよう。
「うわっ!!!たっけェ!!怖っっ!?!?」
外から声が聞こえる。
「銀さん!?!?」
新八の言葉を耳にして窓の外に目を向けると、先程吹っ飛んだ銀時が前のデパートの懸垂幕にしがみついていた。
「ぎゃぁぁ!!誰かおろしてェェ!?!?」
「ふふ。」
「ん、何だアンタ、ニヤついて。」
「え、まだ居たんですか。」
「アァ??」
ギロッと土方が睨む。その視線にぎくりと真珠は体を硬直させた。
「土方さんドラマ始まっちまいまさァ!!」
「マジ!?早く帰ろ。」
後ろから地獄耳少年が土方に声をかけ、彼らは一階へ向かう階段に向かって走って行った。
と思ったら土方はくるりと真珠の方を向く。
「おい嬢ちゃん!!今度怪しい真似したら次こそ逮捕だからなァ!?」
「げ。」
警察とは言えないヤクザの目で睨み、真珠はびくっと肩を震わす。
だが、指名手配とまではいかないようで少し安心した。
「見逃したのか、それとも面倒くさいのか…」
どうせもう関わらない。
そう心の中で呟くと、真珠は新八と神楽のいる窓際へと足を運んだ。
「ちょっと!!何処行ってたアル!!」
「神楽達が勝手に消えたんでしょ」
「…僕らに罪なすりつけようとしても無駄ですからね。」
「捕まりかけたのコッチだっつの!!」
「おいオメェらくっちゃべってないで俺を助けろォォォ!!!」
そんな銀時の情けない声は、かぶき町全体に響き渡るのであった。