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    kkrnskb1911

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    備忘録 忘備録

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    12話後生還√PTSD一郎の話。短編。風味だけ🎩🥞。

    ##さんいち

    12話後生還√PTSD🥞の話────視界が紅と蒼に染まっている。

       気が付くと岩の上に居て、
       目の前に巨大な頭がある。
       その大きな目は青い涙を流していて、
       こっちを睨んでいて、
       でも、いきぐるしそうで、

        ……おわらせなきゃ、いけなくて、

       妙に重い、右手を前にゆっくりと突きだす。
       手には拳銃を握っている。
       ずしりと重いそれを構える。

        いやだ、やめろ。

       人差し指が引き金にかかる。
       指に冷たい感触が伝わってくる。

        かってにうごくな、

       これ以上動かしたくないのに、
       勝手に指先が力を込めて、

        ぼくは、



    「ッッ!!!!!は!、……!、は………」

     ゆめ。ゆめ、か……嫌な夢だ。
    身体中に汗をびっしょりとかいていて、ぴたりと張り付くシャツと髪が煩わしい。
    動悸が止まらない。涙が目からぼろぼろ零れていく。はくはくと浅い呼吸しか出来ない。締め付けられたように頭の奥が痛くなって、鉄の匂いがする。汗をかいているはずなのに、身体が冷えきっていて震えが止まらない。
    震える右手にまだ鉄の重みとその反動が残っている気がして、ぶわりと鼻の奥に火薬の匂いが充満した気がして、思わず冷たくなった自身の二の腕をぎゅう、と抱き締める。
    段々と、周りの音が無くなっていく。
     なんだか、とても、悪い予感がして、

    「…ぅ……っメフィスト……」

     今の正確な時間は分からないが、まだ窓の外が暗いのを見るに、真夜中であることは間違いないだろう。
     こんな時間に呼び出したら、彼は怒るだろうか。それとも、何かあったかと、駆け付けてくるだろうか。
     ……でも、もし、電話に出なかったら。
    その理由が寝ていたから、であればいいが、
     ……確認するのが、怖い。
     が、今どうしても、彼の姿を、確認しなければ、
     でも、
      でも、
       …………

     ……もう、だめだ。耐えられそうにない。
     召喚しよう。

    震える指で書くものを探す。

     …………ない!
     いつもは身体の近く、どこかにしまってるのに!

    「は……は……仕方ない、…ッ!」

    ぶつり、と指の先を歯で噛み、血を滲ませる。
     いつもチョークで描いている魔法陣を血液で描くのは、まだ試したことがない。何かしら影響が出るかもしれない。……が、今はそんな事どうでもいい。
       今はただ、彼の姿を、

     ズキズキと指先に走る痛みも気にせず、指から滴り落ちる血で壁に魔法陣を描いていく。
    何度も何度も描いた、召喚の魔法陣。

    「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム。
    我は求め訴えたり。」

    一郎は震えて小さく蹲りながら、祈るように呪文を唱える。
    腕を交差させ、その後掌で六芒星を形作って…

    「頼む、きてくれ、メフィスト……っ!」

     やがて魔法陣が光りだし、煙が上がる。

     煙が人型を形作り、すぅ、と消えていく。

     中から、彼の、姿が、

    「っメフィストッ!!!!!」
    「ッッが、あッ?!!!??、
    な、ん??!!??!?
    あ、悪魔くん?!!??!!
    な、なにが、どうなって、!、お、おい!!」

     メフィストの姿を確認した瞬間、その質量を確かめるかのように、一郎は飛び付いて抱き締める。

    「おい!、お前!!!今何時だと思って!!……
    ……ん、おい、どうした?何かあったのか?」

    寝ている最中に呼び起こされたと思ったら、急に飛び付いてきた一郎に目を見開き、文句を言おうと口を開いたメフィストだったが、震えながらひしと抱き着き離さない一郎の様子を見て、声色を変えた。

    「ッ…………………」
    「……おい、言わなきゃ分かんないぜ、悪魔くん。どうしちまったんだよ……なァ……」

    それでも口を開こうとせず、離れようともしない一郎にメフィストは困り果て、取り敢えずずっと震えている頭を撫でてやる。



     暫くそうして、少し落ち着いてきた一郎が、やっと口を開いた。

    「……ゆめを、みた。」
    「ん?夢?」

    「………あのときの、ゆめだ。」
    「あの時………ああ、そういう、事、か……」

     お前が言う『あの時』。
     きっとそれは、お前が俺を撃った時の事なん 
     だろう。

    ───あの時の夢をみて魘されるくらいに、
    お前の中で、その光景は強く残ってしまったんだな。

    「大丈夫だよ、悪魔くん。俺はどこへもいってないから。…大丈夫、大丈夫……」

    そう呟くように、まるで幼い子にするように語り掛けながら、身体を揺らし、抱き締め、頭を撫でてやる。

    「っ……きょうは、」
    「ああ。朝までずっと隣にいるから。どこへも行かないから……」

     そう言ってやると、安心したのか、一郎はすぅ、すぅ、と寝息を立て始めた。
    一郎をベッドに寝かせ、毛布を掛けてやる。
     そういえば、先程から僅かに血の匂いがするが……こいつ、いつものチョークが無いからって自分で血を出して俺を召喚しやがったのか!後で説教だな。……隣の机に手を伸ばせば幾らでも書くものはあるだろうに、それにすら気付かないほどに、……怖がって、焦っていたんだろうか。

    メフィストは、横で座る自分の腰に手を回して眠る一郎の寝顔を見下ろす。
     ……それにしても、いつも感情が表情に全然出ないこいつが、あの時の夢をみて魘されて、心配になって俺を召喚してくるだなんて……
     ……、もっと、俺に、……
    腹の奥にぞわりと黒い感情の火種が燻る。
    無意識に口角が上がり、人より鋭い歯が見え隠れする。ハッと口を押えるが、その口角は下がらない。
     これは、お前が血液なんか使って俺を呼び出したせいだ、一郎。

    「お前は一生、その光景に囚われててくれ。
    な?、一郎。」

    そう呟くと、メフィストは一郎の瞼にそっと唇を落とし、毛布の中に潜り込んだ。
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