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    とりか

    @Pamir0805

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    とりか

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    解釈に納得できなかったので途中で終わってます。
    カの家族の苦しみと他者から見たオエの恐ろしさが書きたかったので、個人的なサビは遊び尽くした感。今後設定を上手く添わせてブラッシュアップして完成させたい気持ち。

    過ぎゆくもの、寄り添うもの便りがないのは良い便り、とは良く言ったものだ。まだ20年程しか生きていない私でさえ、この言葉に頷くことはままある。
    しかし、こと私の知己の一人である、カイン・ナイトレイについては少し状況が違う。
    私の元クラスメイト、そして元騎士団長、現賢者の魔法使いである彼は、その華やかな肩書きにも関わらず、便りを寄越さない時には会いに来て、直接近況を語ってくれるからだ。そして、彼の身に何かあるときには、大抵話は本人以外から届く。つまり彼においても、便りがくる時というのは良くないことのサインだとも言える。

    例えば、数年前。カインが中央の城に程近い市民病院に運ばれたというニュースは、私の母からもたらされた。母はカインのお母さんと仲が良く、昨日の晩相談されたのだそうだ。
    「戦で傷を負ったの?というか、なんで市民病院?騎士団の附属病棟じゃなくて?」
    前の「便り」のときーーカインが防衛戦で怪我を負った時ーーは、附属病院で騎士団お抱えの医師が治療にあたっていた筈だ。私の疑問に、母は悩ましげに唸ってから、事情を話し始めた。
    「それがね……」
    母から聞かされた内容を、私は最初信じることが出来なかった。カインは北の悪名高い魔法使いに襲われて、大怪我を負った。そしてそれが原因で、今騎士団ではカインを懲戒免職する運びになっているらしい。騎士団をクビになる男は、附属病院では診てもらえないのだそうだ。だから市民病院に運ばれ、治療を受けているのだと言う。
    そんな話があるか、という感想が頭を占めた。
    「魔法使いと闘っただけで、どうして騎士団をクビになるの。何も悪いことしていないじゃない」
    母に言っても仕方のない義憤を焦りからぶつけた私を、母は真っ直ぐ見返した。そうして私の手を取って祈るように囁く。
    「幸い命に別状はないみたいだから、それは本人から聞きなさい。……そして、貴女が何を思っても自由だけれど、本人から聞いた言葉だけで判断するのよ。決して周りの言葉に従って決めては駄目」
    珍しく真面目な様子から、母は色々なことを知っていることが分かった。そしてそれは、カインの評判に大きく関わることだとも。

    私は母の言葉に頷き、そして実際1ヶ月後、本人の口から全ての成り行きを聞いた。その頃にはカインはすっかり良くなっていて、ただ彼の表情だけが暗かった。それは、私や他の友達の前で、自分が嘘をついていたことを謝ろうとしていたからだ。
    カインは実は魔法使いで、それを黙っていたこと。騎士団免職の最たる理由は、彼が魔法使いだということが、よりにもよって北の魔法使いから仲間を守る際に露呈したからだということ。
    「事情がどうあれ、俺は嘘をついていた。すまない」
    きっぱりと簡潔に述べられた謝罪の中に彼の様々な感情、葛藤や苦しみがありありと感じられて、私は嘘をつかれたことよりもそれが苦しかった。カインはいつだって友達に嘘をついたことは無かった。そんな彼が20年、どんな気持ちで魔法使いであることを隠していたのだろう。そう思うと、彼の嘘を責める気持ちなんて欠片も沸いてこなかった。
    それは他の友達も同様だったようで、この件でカインの友人が減ることはなかった。むしろ彼とより親しい人などは元々から素性を知っていたようで、打ち明けた際にはカインではなくクビにした騎士団への怒りで怒鳴っていたらしい。
    そのカインの幼馴染の怒りが届いたのか、騎士団をクビになった後も、カインは王宮に呼ばれていた。凄まじいことだが、アーサー王子の深い信頼を得ており、周りが反対しているだけで王子はカインを騎士団へ戻したいのだそうだ。その話を、友人たちとの飲み会の席でカイン本人から聞いた時、何だか私まで誇らしい気持ちになったことを良く覚えている。
    かつて彼と同じクラスになった時、私はカインのようになりたいと思っていた。あの時からカインは明るくて活発で、太陽のような人だった。誰しもカインが好きだった。最初はいけすかない、と喧嘩を打った男の子も、最終的には彼に軽口を叩くようになる。少しガサツだけれど、女の子たちは恋愛的な意味でもそうでなくてもカインの虜だった。
    きっと私と同じ思いをしていた子は多かった筈だ。だからこそ飲み会で王子の話が出た時、まるで皆自分のことのように喜び、誇り、喧騒は明るく勢いを増した。
    しかしその後も、彼についての良くない便りは続いた。
    賢者の魔法使いに選ばれたカインは、今年の大いなる厄災で怪我を負った。魔法使いの闘いだからか負った傷は摩訶不思議で、触れないと人の姿が見えなくなってしまったのだそうだ。人伝てに聞いた話は、次に会った時に本当だと分かった。彼は「友人とハイタッチできる機会が増えた」とあっけらかんに笑った。
    そしてそれから暫くして、またカインが大怪我を負ったとカインの母から聞かされた。賢者の魔法使いたちの住まいで安静状態になっているのだ、と彼の母は腫れた目を細めて笑った。
    「だけど凄く良いお医者さんがいるから、すぐに元気になって帰ってくるよ、って、綺麗な筆跡の手紙が来たの。私はその代筆したーーフィガロという方からの手紙を信じるしか無い」
    それくらいしか、今はすることが無いもの。そう言って笑う彼女になんと声を掛けたら良いか分からず、私は涙を飲んで彼女と一緒になって笑った。
    その後暫くして、元気な彼が「今はもう何ともない」と話した時には、彼の母の感傷を思い出して思わず強めに肩を叩いてしまったっけ。
    カインと私たちの関係は、こんな風に今も続いている。筆不精な彼は、両親にさえ滅多に良い知らせは書いてこないらしい。
    だから彼の家族を含めた私たちは、彼から知らせが届かないことを心から願っている。そんな風に、私たちはこの街で暮らしていた。



    ある日のことだ。
    中央の街で、カインを見かけた。

    その日は首都の近くで祭りがあって、私は最近出来た友達とそこに来ていた。彼女は祭りの会場近くに実家があり、祭りの常連なのだという。
    実際、彼女のおかげで私たちは人でごった返す会場の中で、沢山の食べ物とゲームを堪能することができた。色々食べた中で一番美味しかったのはサヴァランだった。少し大きめの生地の中に生クリームとルージュベリーが入れられているので外で食べても手が汚れない。生クリームと一緒に入っているシロップは液体よりかはとろっとしていて、齧り付くと口に広がるベリーとの酸味が合わさってジューシーだ。家族へのお土産を買いに行きたいというと、友人はもう一度あの店に行くことを快諾してくれた。
    昼に差し掛かると混むから、と友人が言っていた通り、正午を過ぎてサヴァランの出店の前は芋洗いのような状態だ。はぐれないよう友達と手を繋ぎ、上下に並んでなんとか列に加わった。栄光の街も観光地として人の訪れは多いが、こうも狭い区間に人が密集することはない。人酔いに近い感覚にぼーっとしていると、友人が唐突にこちらを振り向いた。まさか売り切れ、と私は彼女の目を見つめる。
    怯える私に、彼女は神妙に言葉を紡いだ。
    「どうしよう、前の方にめちゃくちゃイケメンがいる」
    あまりに突拍子もない発言に、二の句が告げないでいる私と対照的に、友人は溌剌とした表情だ。「列に並ぶのも楽しくなってきたかも」と楽しげに笑う。動機が不純であれ、付き合ってもらっている彼女が楽しそうなら、と私は友人の言葉に乗ることにした。
    「どこ?」
    「ほら、あの黒い帽子の人の前」
    そうして友達が指差す先に、とても見知った顔がいたという訳だ。

    「カインだ」
    そこにいたのは紛れもなくカインだった。彼も中央の国出身なら、この祭りのことだって知っていた筈だ。けれど、待ち合わせもせず、地元から離れた場所で知己に会うというのは新鮮な感じがした。まして、彼は栄光の街で着ているような、お洒落だけど少しラフな格好ではなく、ややフォーマルな服装に身を包んでいた。騎士団の服装に少し似ている。入団前日、栄光の街で彼を見送った時を思い出した。
    懐かしさに浸る私に、友人は問いかける。
    「えっ、知り合い?どっち?」
    どっち?それではまるで他にもイケメンがいるような口振りだ。
    不思議に思って、彼の近くを凝視する。果たして、そこにその人はいた。
    背丈はカインと変わらないくらいの、同じく恐ろしいほどスタイルの良い男性だ。すっと通った鼻梁に、人の目を引く、銀髪と赤目の組み合わせ。彼がこの世の人でないと言われても納得させられる独特の魅力に満ちていた。その人はカインの方を見ているため横顔しか見えないが、彼に負けず劣らずの凄まじい美貌をしていることはすぐに分かった。しかし何故だろう、銀髪の男性の顔のどこかに既視感がある。こんな人を見かけたら絶対に忘れる筈がないのに、何故だかこの人物の「何か」に見覚えがあった。
    解けない謎にモヤモヤしながら、私は友人にカインが元クラスメイトだと告げる。お菓子と同じくらい恋愛事が好きな彼女は、弾んだ黄色い声を上げた。
    「そのカインって人、好きになったことはないの?」
    好き、というあまりにも大きな括りで言えば、確かに私はカインが好きだ。しかしこの感情は確実に友人の期待に沿うようなものではないだろう。私の感情など、カインに接したことのある人物なら7割くらいの人間が体験するものに違いない。私が彼に抱く気持ちは、友愛や人間愛を湯煎で溶かして、一人の人間に宛てる気持ちとして型に入れて作ったかのようだ。一人に向ける感情にしては重いけれど、この材料から恋愛感情は生まれない。
    私のきっぱりした否定に、友人は口を窄めた。

    何だかんだ、そういう浮ついた話をすると時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。カインたちの順番になり、私たちもそろそろ買うものを決める頃合いになった。
    お土産はいくつ買おうだとか、この味は試して無いから二つ買って、一つは今分けて食べてみようだとか相談をする。列全体が一つ前に進んだ。つまりカインたちの買い物は終わったのだろう。ふと気になって、前方を見る。
    そこで私の呼吸は数秒ほど止まってしまった。カインの隣にいた男性を正面から見たためーー正確には、男性の両目を見たためだ。
    彼の左には、金色の目が嵌っていた。左右で違う目の色というのはかなり珍しい。私が会ったことのある人物など一人しかいない。
    そしてその人物は、北の魔法使いに襲われて、自分の目の代わりに北の魔法使いの目を嵌められているのだ。

    数拍遅れて、心臓がバクバクと音を立てた。見れば見るほど、彼の赤い目には見覚えがあった。カインに一度だけ見せてもらった目。ルージュベリーのように艶やかな赤。そしてその隣に鎮座する金色の目にはもっと見覚えがある。何せ私は学生時代、彼の輝く瞳を見続けてきた。銀髪の男性の片目は、紛れもなくカインのものだった。
    恐ろしい想像が頭の中を駆ける。カインは今無事なのだろうか。今まさに、危険な目にあっているのではないか。けれど、カインでさえ大怪我を負うような恐ろしい魔法使い相手に、私ができることなどあるのだろうか。寧ろここで大きな声を出したら、私だけでなく、周りの人も無事では済まないかもしれないーー。
    「どうしたの?体調わるくなっちゃった?」
    友人の声に、ハッと我に帰った。どうやら手を強く握ってしまっていたらしく、慌てて友達の手を離した。
    「そ、そうかも」
    「そっか…じゃあ、残念だけど今日はお土産買ったら解散にする?」
    恋愛に目がなくて少しおっちょこちょいだけれど優しい友人。彼女に何かあったら耐えられない。私は俯きながら頷いた。

    お土産を買い、友人と別れた。帰りの道すがら、一体誰に助けを求めるべきか懸命に考える。そこでふと、アーサー王子が頭によぎった。
    そうだ、確かアーサー王子はカインと懇意にしていた。彼の危機だということを伝えれば、きっと力になってくれる。それに、アーサー王子は中央の化け物を倒してくれたと言う話だ。もしかしたらその北の魔法使いだって……
    僅かに差し込んだ希望の光を前に、私の目前は唐突に暗闇に包まれた。突然夜になったかのような明度の違いに目を剥く。しかし実際は時間が過ぎたのではなく、場所が変わったのだ。意識が無くなった気配もないのに、気付けば私は暗い路地裏にいた。

    「こんにちは」
    低く柔らかな猫撫で声に、今度こそ心臓が止まるほど驚いた。しかし声のする方を見て、反対に心拍数が上がっていく。
    路地裏出口を塞ぐように、長身の男性がこちらへゆっくりと歩いてきていた。白いスーツに同じく白い軍帽。潔白な見た目にそぐわない、不気味に引き上げられた口元。けれどその全てをもっても圧倒的な美しい。見覚えのあるどころではない、数秒前まで考えていた男の姿がそこにあった。
    「君、僕のことが怖いんだって、すぐに分かったよ。どうして?悲しいな……」
    磨き上げられた革靴を鳴らして、一歩、また一歩と男性が近づいて来る。
    「僕は君に何かした?それとも、何かされるのが怖い?君の僕への恐怖は過去から来るのか、それとも未来から来るのか」
    意味の分からない問答を転がしながら、長い足はいっそ焦ったいような速さで私との距離を詰めてくる。このスピードで近付いてきているのに、私の足は地面に縫い付けられたかのように動かない。蛇に睨まれた蛙の気持ちそのものだ。
    「どうして何も答えられないの?声も出せないほど恐ろしいなら」
    男はパチリと指を鳴らす。脂汗が止まらない中、喉だけが急に弛緩した。気持ちが悪い感覚だけれど、恐ろしいながらも声は出せるようになったのだろう。
    手をブルブルと震わせながら、私は彼に問いかけた。
    「か、カインはどこ」
    「カイン?」
    目をパチリと瞬かせ、その後彼は楽しそうに笑った。
    「ああ君、騎士様のお友達なんだね。どうして早く言ってくれなかったの?彼の友人だっていうなら、僕だって君に優しくした」
    「嘘つき」
    「嘘じゃないよ。証拠はこの目さ。友達になった証に、彼は僕に目をくれたんだよ。いらないっていったのに」
    「それが嘘じゃない。貴方が無理矢理奪ったんでしょう」
    男性はまたもや楽しそうに笑った。すでに私と彼の距離は、彼の歩幅一歩分くらいまで縮んでいる。改めて見ると、息が止まるような美しさだ。中でも金と赤の目は、暗闇の中でもギラギラと鮮やかに輝いている。獲物を捕らえる獣の目を思わせ、別の意味で息が止まりそうだ。
    「本当に良く知っているね。じゃあ僕がどんな魔法使いかってことも聞いているのかな。何て説明した?北の恐ろしい魔法使い?それとも賢者の魔法使いで、今は仲良しだって」
    彼の言葉に目を見開いた。仲間だなんて、そんなことがあり得るだろうか。
    私の疑問に答えるように、男はチロリと赤い舌を出した。そこに刻まれている模様は、まさにカインの腕にあったものと同じだ。頭がくらくらしてきた。それでは同じく賢者の魔法使いだというアーサー王子も、もう彼の手中なのだろうか。だとしたら、この人を止められる人物は居ないのかもしれない。
    震える膝から泣き出しそうな顔までを順番に眺めて、北の魔法使いは心底満足そうに微笑んだ。どうやら彼は、私が何に怯え、何に驚いたかをじっくりと観察していたようだ。次に開いた口からは、私が驚き、焦った部分を重点的に問い詰める言葉が紡がれる。
    「僕と騎士様が仲が良いのがそんなに嫌?それはどうして?彼は魔法使いなんだよ、僕たちの方と仲が良い方が自然な筈。まあ騎士様は嘘つきだったから、人間たちを騙して親友面をしていたんだろうけど」
    グサリ、グサリと言葉が心を抉る。正確に言うと、彼の言葉自体は暴言では無かった。そうではなく、彼の言葉に、私が心の底でほんの少し考えていたことを浮き彫りにされ、そんなことを考えていた自分を自覚して私は傷ついた。
    魔法使い使いと聞いて感じた一抹の疎外感。違う人種なんだと本当に僅かに思ってしまった。
    何かの本で読んだことがある。魔法使いはとても長寿なのだと。魔力が成熟するまでは普通の人間のように歳を重ねるが、その後は若々しい見た目のまま歳を取らなくなるのだそうだ。
    カインに自分が魔法使いだと告げられた時、私は頭の片隅でその本のことを思い出した。つまりカインは、私たちよりずっと長生きで、これから二度と一緒に年老いて死ぬことはないのだ、と。なぜなら彼は、人間とは違うから。
    目の前で輝く色違いの目がすっと細められた。美しい形の唇から、優しい声色が紡がれる。
    「僕らと違って、君は彼の人生の砂粒くらいしか生きていけないんだから」
    その時、ふと私の胸を恐怖以外の感情が襲った。もしくはそれは、怯え過ぎた反動なのかも知れない。
    とにかくスルリと言葉が出てきた。
    「私たちは少ししか居られないって分かってるなら、ちゃんとカインを見守ってよ。仲良しなんでしょう」
    随分と上から目線の言葉に、私も目の前の彼もギョッとした。仲良しという言葉は欠片も信じていない、だからこそ揚げ足をとったような回答になってしまった。言ってしまってから冷たい汗が出てきた。たかが言葉だがされど言葉。恐ろしい北の魔法使いが気分を損ねたらどうしよう。
    悪い想像というものは当たるものだ。彼が何かを呟くと、また息苦しさが戻ってきた。今度は呼吸さえも苦しくなる。目に生理的な涙が溜まるのを、赤い目がじっと見つめていた。蛇が生き物を窒息させるときの目付きに似ていた。
    「北の魔法使い相手に、随分と知った風な口が聞ける。ご褒美に、もう一つ良いことを教えてあげる」
    頭がグラグラして、男性の姿が揺らめいて見えた。しかし魔法でも使ったかのように、彼の声だけは真っ直ぐ耳に届く。
    「何て説明したか知らないけど、カインの傷は知ってるだろ?でも、きっとこれは知らないね。騎士様は、触らなくても僕の姿だけはちゃんと見えるんだよ。憎らしい宿敵の僕だけは。可哀想だよね。だから、カインが死にかけていたら、僕はすぐに駆けつけるよ。彼がたった一人見える相手に助けを求めて縋って、それでも助けの手が差し伸べられないで絶望して死んでいくのを見てやるんだ。見届けた時に君が生きていたら教えてあげる。どんな風に死んだか。君が言った通り、彼の死に様を見守って、全部伝えてあげるよ」
    そう伝える彼の声は、後ろになるにつれ不思議と引き攣っていった。まるで望んでもいないことを無理やり口にするような声色だった。けれどその真意が掴めないまま、私は意識を手放しーー。
    手放しかけた所で、全てを破るような声が響いた。溌剌とした声色、涙が出るほど懐かしい声だった。
    「オーエン!そこで何してるんだ」
    オーエンはチッと舌打ちをして、私を解放した。しかし不思議なことに声は出ず、私は無音で咽せながら酸素を貪った。
    今日触れていないから、カインには私が見えていない。オーエン、と呼ばれる北の魔法使いしか今は見えていないのだ。ふと、先程言われた言葉が頭を過ぎる。私がもし彼だったら、カインはどういう状況か一瞬で判別出来ただろう。悔しい。決定的に埋められない差があった。
    ちょっとした復讐のつもりで、私は軽く足で地面を蹴った。本当に小さな音だろうが、騎士だった彼は一瞬で、声もない人間を察知してくれた。
    「そこに誰かいるのか?すまない、暗いから良く見えないが……」
    オーエンは憎らしげに私を見た。また一言、おそらく呪文を口ずさむと、喉に暖かい感触。声が出せるようになったのだと、直感的に理解した。
    「カイン、」
    その声に、カインは改めて驚きの声を上げた。






    完全に公式との解釈違い(厄災の傷は秘匿されているトップシークレット)を起こしたので没にしました。
    オーエンが見守るというワードに切れたのは一周年イベでもそうだけれど自分の手の届かない自分がいて、見守ろうにも見守らないことがあることに苛ついているためです。

    読んでくださった方いたら、拙文をお読みいただきありがとうございました。
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