付き合うという意味付き合うという意味
「キラさん! 俺と付き合って下さい!」
突然シンから大きな声で言われ、脳にその言葉の意味が伝わるまで時間が掛かった。
それもその筈キラは三徹目だった為、脳の処理が上手く働いていなかった。
「⋯⋯えーと⋯⋯今度の休暇の日のどこかで⋯⋯」
「え? 違いますよ! 買い物に付き合って欲しいとかじゃなくて、恋人関係になりたいというか⋯⋯」
恥ずかしそうに赤くなったシンに、ようやく意味が理解出来てキラもつられて頬が赤くなる。
「え、えーと⋯⋯」
どうしよう。まさかシンに好意を持たれていたなんて思っても見なかったから、どう返事をしたらいいのか分からない。
「⋯⋯キラさんは俺のこと、どう思ってますか?」
きゅーんと捨てられそうな仔犬のような目で見られると、疲れた脳にぎゅっと突き刺さる。
「⋯⋯シンの事は、好きだよ? 大切な、部下⋯⋯だし?」
ザフトに出向後でも、コンパス創設してからもシンはキラに着いてきてくれた。何故こんなにもキラに懐いてくれたのか今でも分からないが、シンはキラにとっても可愛い部下で癒しでもあった。
良くキラの事を気に掛けてくれているし、シンの傍は居心地が良かった。
「俺はキラさんの事、大好きですよ。恋人として付き合いたいって思う程に!」
真っ直ぐにキラを見つめるシンに、うぐっと胸を抑える。
「⋯⋯僕でいいの? アスランからも聞いてるんでしょ? いい加減なやつだとか、面倒臭いことはやらないとか。それに、シンはルナマリアとか⋯⋯」
「ルナはただの同僚で同士です。俺が恋愛感情を持ってるのはキラさんだけです」
取り付く島もないほどシンの意思は固かった。
「⋯⋯もし、僕の事嫌になったら⋯⋯」
「嫌いになんてなりませんよ。俺、やると言ったらやるし、キラさんが嫌だって言っても離しません。だから諦めて俺と付き合って下さい!」
答えは1つしか認めないとばかりのシンに、思わず笑ってしまった。
「ふふ、シン、それ僕に選択肢無いよね」
「だって、選択肢ないですよね? キラさん、俺の事好きでしょ?」
にっと小生意気な笑みを浮かべたシンに、キラは負けたよと笑うしかない。
「僕もシンが好き。じゃあ僕と付き合ってね?」
「はい! 絶対幸せにしますから!」
「ふふ、期待してるよ。けど、ちょっと早くない?」
「俺生半可な気持ちで告白してないんで!」
「⋯⋯シンって、時々凄い事言うよね」
「嫌でした?」
「ううん。意外性があってちょっとドキッとしちゃった」
「それは良かったです。それよりもキラさん、今三徹目ですよね?」
いきなり会話の変化にまた脳が上手く機能しない。
「う、ん?」
「俺のお願い聞いてくれますよね? 恋人同士になって初めてですし」
「⋯⋯ん?」
「今日の仕事はやめて俺と一緒に寝ましょう!」
んっと両手を広げてシンがキラを呼ぶ。
すっかり機能停止した脳がシンの言葉をそのまま受け取り、身体がふらっとシンに抱きつく。
「⋯⋯寝る」
実はもう限界が近くて、シンの言葉ですっかり脱力してしまった。
強い眠気が襲ってきて、うとうとしてくる。
「キラさん、まだ寝ちゃダメですよ」
「ん⋯⋯。シン、ベッドに連れて行って⋯⋯」
半分寝ながらシンに強請ると、シンは何故か固まってしまった。
なんで? と思ったけど、抗えない眠気に意識は薄れて行った。
「⋯⋯おやすみ、キラさん」
優しく抱き留めてくれたシンの声を聞きながら、久しぶりの深い眠りに沈んで行った。
翌日。すっかり頭の冴えたキラが調整の為に格納庫へ行った後、シンはパイロット待機室に行くと、嬉しそうにルナマリアに報告した。
「ルナー!聞いてくれよ! 俺キラさんと付き合うことになった!」
「はぁ!? なんですって!?」
「お前には言ってねぇーよ! アグネス!」
「はいはい。良かったわね、シン。おめでとう」
「サンキュー! ルナ!」
「嘘でしょ。なんでこんな山猿なんかと⋯⋯」
「残念だったな、アグネス。キラさんは俺を選んでくれたんだ」
「きぃー!」
しばらく浮かれたシンがミレニアム内で自慢しまくり、キラとの仲を知らぬ者は居ないほど知れ渡ってしまい、流石に恥ずかしかったのかキラに怒られたのは言うまでもない。