年の瀬年の瀬
部屋に響き渡るカタカタとキーボードを叩く音。じっと画面を見つめるその目はどこと無く虚ろに見える。
薄暗い部屋で1人キラは仕事をしていた。
本当なら仕事は終わって休む時間になっているのに、キラだけが自室に引き篭って調整を繰り返していた。
ビーッと何回目かのエラー音が鳴り出し、集中力が薄れている自覚はあるものの、なかなか休むという選択肢を取れないのはキラの悪い癖だ。
「⋯⋯んんー、もう⋯⋯!」
何度も何度も同じ箇所でエラーが鳴り、流石にイラッとしてしまい大きな声を出す。丁度その時外から賑やかな音が聞こえ出した。
「キラさん! あー! もう本当に! なんでまだ仕事してるんですか!」
無遠慮に部屋に入って来たシンが頭を抱えていたキラの腕を取る。
「シン⋯⋯? なんで⋯⋯?」
「はいはい。とりあえず行きますよ!」
有無を言わさずに部屋から連れ出され向かった先は何故か食堂。
「シン?」
「キラさん、今の時間分かってないでしょ?」
食事を取っていない事がバレているのだろうか。時間はもう遅い時間になっていたが、ちゃんと食べろと言う事かと首を傾げる。
「食事はもちろん食べて貰いますけど、先ずはこっちです」
シンに引かれるまま食堂に入ると、何故かラクスやアスラン、メイリン、ルナマリア、アグネスといったメンバーだけではなく、コノエ艦長やハインラインもいた。
「准将、お休みしていた所申し訳ないですな」
「え、えーと」
休むからと自室に行ったキラを見送ったコノエにはバレているのだろうか、その笑顔が恐く感じた。
「キラ。遅くまでお仕事お疲れ様ですわ。ですが、また無理をなさって」
「ラクス⋯⋯ごめんね?」
少し怒った表情をしたラクスに、謝るしか無かった。
「キラ。お前はまた」
「うっ、ごめんって」
アスランからのお説教は勘弁だと言わんばかりにしょんぼりすると、アスランはそれ以上何も言わずに溜息を付いた。
「それよりも、どうして⋯⋯」
「キラ。あと数分で新たな年明けですわ」
ラクスの言葉に、食堂に取り付けられた時計を見つめる。
時刻は2355を示していて、今年と本当に残り僅かとなっていた。
「約束、してたじゃないですか」
「⋯⋯そうだね⋯⋯」
すっかり忘れていたが、新たな年明けの瞬間、皆で祝おうという話になっていた。主にラクスからの提案でミレニアムのクルー達も賛成で、そこへタイミングが合ったアスランとメイリンも合流出来ていたのだ。
「ほら、キラ。カウントダウンはお前に任されてるんだからな」
アスランからの言葉に聞いてないよ!?と驚きつつ、ラクス達を見ると皆にっこり微笑んでいた。
これは引き受けるしかないかと苦笑する。
気が付けばあと1分。
「じゃあ⋯⋯」
カウントダウンに合わせて時計を見つめる。
「10⋯⋯9⋯⋯8⋯⋯7⋯⋯6⋯⋯」
「「5⋯⋯」」
「「「4」」」
「「「「「「「3! 2! 1!」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「HappyNewYear!」」」」」」」」」」」」」」」
はじめのカウントはキラのみで、5からラクスが加わり、次々と皆が一緒にカウントダウンを言葉にする。最後は全員揃って新たな年をお祝いした。
「皆、今年もよろしくね」
みんなと新年を迎えられて本当に良かったと実感する。
「こちらこそですよ!」
「今年とは言わずに幾久しくよろしくお願いしますわ、キラ」
「ラクス、抜け駆けだぞ。キラ、今年もよろしく」
「今年もよろしくお願いします、准将」
それぞれ挨拶を交わし、そのまま食堂に用意された料理を皆で味わった。