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    数年後if
    p5r3学期ネタバレ含

    #喜多主
    sidorMaster

    今日、祐介は結婚する。「祐介、結婚おめでとう」
    「ああ」
     祐介が結婚する。
     俺は、あの嘘みたいな日々を思い出していた。


     卑劣な男により自分に前歴が付き、地元から逃げるように上京した七年前の四月。竜司と一緒に鴨志田のパレスに迷い込んだ日から、自分の運命と闘い続けた一年。今でも鮮明に思い出せるほど、自分にとってはかけがえのない思い出だ。
     祐介とは五月に――お世辞にも良いとは言えない出会いだったが――初めて出会った。初めこそ杏のストーカーかもしれないと警戒していたが、そんなことをしそうにもない容姿の美しさに驚いたものだ。師として慕っていた斑目の本心と相対したときも、彼は美しかった。ペルソナを覚醒させるその様は絵画のようで、目を離すことができなかったほどに。
     初対面のときの刺々しい態度はなんだったのだろうか、それからは彼の芸術に対する真剣さだけでなく、浮世離れした――悪く言うと変態じみた言動や、天然なところ、様々な面を見せてくれるようになった。特に、彼がスランプに陥り、一緒に打開策を考え続けた時は紆余曲折あったが楽しかった。まさか初めてボートに乗るのが、男友達と二人きりだとは思いもしなかった。隣の兄妹に何か勘違いされたような気もするが、スケッチに熱中する祐介を見て、満足している自分がいた。

     その頃だろうか、祐介への気持ちが芽生えてきたのは。

     はっきりと自覚したのは夏休みだった。

     双葉のことで忙しくしていた頃、祐介はよくルブランを訪れた。前日の夜に俺と見たい本やDVDがあると連絡をしてきて、一緒に過ごした後は色んな要求をされたものだった。なんだかんだ言って、祐介の言うこと全てを許していたように思う。我ながら、かなり絆されていたようだ。期待に応えてアレンジして作った激辛カレーも、心を込めて淹れた極苦コーヒーも、満足したように楽しんでくれる祐介を見て、段々と自分の恋心を自覚していった。
     自覚した後で一緒に池袋のプラネタリウムへ行ったのは間違いだった。囁くように会話するのが心臓に悪かった。あの時ほど自分の度胸に感謝したことはない。顔に出ない質で良かった。そこで貰った星座シールは今でも天井に貼りつけてある。

     沢山の楽しさと苦難を共にしたからこそ、年明けのあの数日間は死ぬほど苦しかった。祐介が斑目に対する想いに葛藤していたのを、俺はよく知っていた。だからこそ、あの現実が祐介の望んだものであるとよく理解できてしまった。気分の悪さを感じた。「待ってる」なんて言ったものの、他の仲間のこともあり不安でしょうがなかった。それを隠せるような自分で、本当によかった。
     不安を抱えながら、明智と丸喜のパレスへ向かった日。仲間を、祐介を信じることができてよかったと、心の底から湧き出るような歓びを感じたのを思い出す。


     ああ、やっぱり俺は、祐介が好きだな。


    「…………ら、……きら、暁!」
    「わ、何、どうした」
    「君こそどうしたんだ、呆けていたぞ」
     どうやら、回想にかなり気を取られていたらしい。心配そうにこちらを伺う祐介の顔が目の前にあった。美人すぎてびっくりするからやめてほしい。
    「ごめん、考え事してた」
    「そうか……それは随分と楽しいことを考えていたんだな」
    「え、楽しい……? なんで?」
    「頬が緩んでいたぞ」
    「マジ?」
     恥ずかしさを感じ、とっさに両手で頬を包むように触る。それを見た祐介が面白がるように笑うから、むすっとした表情をしてみる。
    「おーい! 主役同士で固まってんじゃねーよ!」
    「そうだよ! モナからの話だけじゃなくて、あんた達からもちゃんと聞かせなさい!」
     そんなやりとりをしていると、離れたところから声をかけられる。仲間たちの輪の中にいるモルガナは、話を聞かれ続けてへとへとに疲れている様子だ。
    「さあ、暁、行こう」
     祐介が俺の腕を引っ張る。
    「うん。……なあ、祐介」
    「なんだ?」
    「結婚おめでとう」
    「ああ。……君と結婚するのに、なぜそんな他人事のように言うんだ」
    「あはは、なんとなく?」
     怪訝そうにこちらを見遣る祐介がおかしくて、つい笑ってしまう。それに釣られたように、祐介も笑う。
    「ふふ、なんとなく、か。君はいつも俺を楽しませてくれるな。じゃあ……暁も、結婚おめでとう」
    「うん、ありがとう。幸せになろうね」
    「ああ、約束しよう。必ずお前を幸せにすると」
     祐介がまるで童話の王子様みたいに、俺の手を取り言う。もう、こいつは肝心な所を分かってない。

    「違う、そこは一緒に幸せになろう、だろ」
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