捕食 柔らかい風が、窓の隙間から鯉登の頬を撫で、次いで山積みになった書類をはためかせた。
暖かな息吹の心地よさに、鯉登は目を細める。その一瞬を、隣に補佐官は見逃さなかったらしい。
「鯉登少尉殿、眠いのですか」
叱責するような声色でもなく、月島は淡々と問いかけた。
「眠くはないが、朝からひとときも休まず判子を押すというのも疲れるものだな」
鯉登は木製の椅子を後ろに引き、腕を頭上へ掲げて背筋を伸ばした。
体の疲労は運動不足のせいもあるだろう。ここのところ書類仕事ばかりで、剣の稽古は以前ほどできていない。筋力が落ちないよう時間を見つけては筋肉運動をするよう心がけてはいるが——鯉登は考えながら、月島を見た。衣服を着込んでしまえば分かりにくいが、その下には隆々とした筋肉が備わっていることを知っている。目を凝らしてみれば、首周りや大腿部は盛り上がっているのを視認できる。
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