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    ゴ=ミ

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    ゴ=ミ

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    ※誰ロク自陣 ネタバレはそんなにない。

    勝手に妄想を膨らませて書きました。はい。

    笹霧の秘密「どういうおつもりですか?」
     シェクターのベース担当、笹霧涼はゆっくりと言葉を口にした。
    「俺を尾行するなんて、ねぇ」
     笹霧の前には跪き縮みこまっている2人……シェクターのギターボーカル坂崎と、ドラムみおがいた。笹霧の声には威圧感があり、みおはビクッと身体を跳ね上がらせてしまう。
     普段は何があっても笑みを浮かべている笹霧が無表情でこちらを見下ろしている。かつてない程に笹霧が怒っているのがわかる。みおの背筋を汗が伝う。まるで蛇に睨まれた蛙のようだ。となりで同じようにしている坂崎の名を呼ぼうとするが、声が出ない。みおは今までにないほどの恐怖を感じていた。
     逃げようにも背後は行き止まり。いつのまにか路地に追い詰められてしまっていた自分達。路地奥で跪き、何も言えずにいる自分達……。ついにみおは泣き出した。

     数日前。みおはある事が気になった。

     ロックバンドチーム、SCHECTERが結成され数年。苦楽を共にし、解散の危機を乗り越えたメンバー達。その中で自分たちの関係が、ただのバンド仲間から、もっと大切な、かけがえのない物になってきているのをそれぞれが感じていた。
     最近ではプライベートを共にする事も多く、メンバーの沢山の一面を知った。坂崎の昔の話、リンが爺やの事を語る時の無邪気な目など……ただ音合わせしているだけじゃ知り得なかった事だ。
     しかし、笹霧の事だけ知らない事だらけすぎる。それにみおは気がついたのだ。
     今までの経歴や家族構成はかなり踏み込んだ話になるので説明がなくても仕方がないが、食べ物の好き嫌いや休日は何をしているか、どんな暮らしをしているかなど……友人なら知っててもおかしくはない情報を、バンドメンバー全員が知らない。
     せいぜい知っている事といえば好きなお酒程度。その事にみおは腹を立てた。「1人だけ隠し事ばかりはずるい!」
     それを聞いた坂崎は、完全に同意する事はなかったものの、イタズラっ子のような顔で「奴を少し尾行でもしてみっかな〜」とみおに提案した。
    「なんだ、サカザキも気になっているんじゃん。ササギリの事」
    「アイツが、俺らに自分の情報を渡すのを嫌がっているのは明らかなんだよ。俺はそれが納得いかねぇ。何故こうも、過度に情報の開示を避けるのか?理由を知りたいだけさ」

     スタジオでの練習終わり、みおと坂崎は笹霧を尾行する事にしたのだった。しかしそれは早い事笹霧にバレていたよう。いつのまにか人気のない路地へと誘い込まれてしまっていた。
     ジリジリと胃が焼けるような強い圧が怖い。みおはある映画を思い出していた。逃げ出した男が反社の者達に追いかけられる。自分に危険が迫っている事、ここにいたら無関係な人間が巻き込まれてしまう事を、恐怖で肩を震わせながら伝えるシーンだ。
     ベースを背負った笹霧が、いつもより大きく感じる。
    「なあ、涼、話を聞いてくれないか?」
    「なんでしょう?」
     坂崎がしばらく続いた沈黙を破った。いつもと声色はかわらないが、真剣な眼差しをサングラス越しに感じる。今は坂崎の説得だけが突破口だ。坂崎が息を吸う。そして……。
    「コイツが涼を尾行しようぜって言ったんだよ。全部コイツが悪い」
     坂崎が、みおを指差す。

    「……理由はわかったのでもう怯えるのをやめてもらってもいいですか?」
     坂崎、みお、笹霧の3人は坂崎の家にきていた。途中でマネージャーリンとリンの付き人、爺やも加わり、5人がテーブルを囲んでいる。
     「俺の事を詳しく知りたい。そうですね?」
     笹霧が大きくため息をつきながら話す。
    「そうそうそう!尾行しようって提案したのはサカザキだし、僕何も悪くないし!!」
     みおがあぐあぐと泣きながら弁明する。
    「はい、それはもうわかりました。わかりましたからみおさんは落ち着いてください、ね?」
    「第一、ササギリが隠し事ばかりなのが悪いよ!僕たち、家族みたいなもんなのにさ、ササギリ何にも教えてくれないじゃん!ササギリの事を信じ切るにはさ、ヒミツの共有が必要じゃん!」
    「一部、同意はしかねますが、自分の事をあまり伝えてこなかった事は謝ります」
     みおの怯えようは凄かった。泣きながら坂崎の腕にしがみついているのだ。坂崎が何度か無理やり引き離そうとしたが、完全にひっつき虫と化したみおは、坂崎の服を引っ張り離れることを拒否する。坂崎はみおを引き離すことを半ば諦めていた。
    「俺は、お前が俺達に、自分の事を話す事を嫌がっていると感じた。それはどうしてなんだ?」
     そんな坂崎が、テキトーにみおと格闘しながらも口を開く。
    「必要ないと思っていただけです。それが不信感を持たれることに繋がるとは思ってもみませんでした」
    「はぁ……本当にそう思ってんのか?お前は俺たちにもっと重大な隠し事をしている。そうじゃないのか?」
     坂崎が笹霧に鋭い視線を向ける。
    「…………。」
    「俺の勘が言ってんだよ。お前の言動は不自然すぎる。徹底して、自分の話から興味を逸らさせようとしてただろ?」
    「えっと、ジョニー……そんなに詰めるのやめてあげて。誰にだって隠したい事はあるものでしょ?」
     今まで黙っていたリンが言葉を挟んでくる。リンは3人の間で交わされる言葉を聞き、すぐに概要を把握できたらしい。しかし、不安な表情をしているのに、笹霧が気づいていた。『何で自分が呼ばれたのかわからない』そんな表情だ。
    「わかりました……リンさん、大丈夫ですよ。リーダーの言っている事は合っています。俺は、俺のことを徹底的に隠してきた。ここにリンさんを呼んだのは、俺のことをメンバーの皆に知ってもらう為です。これまでの不自然な行動を説明します。覚悟ができました」
    「内緒話ですかな?では私は席を外しますね」
     爺やが気を遣ってリンのとなりから離れようとする。
    「いえ、今から話す事は爺やにも把握していてもらいたい……俺の口からしっかり説明しておきたいんです。爺やにとっては既知でしょうけど」
    「爺や……?」
     リンが爺やの顔を見上げる。
    「私はいち使用人でございます。把握できている部分は極一部分のみ。ええ、しかし調べさせていただいた事は認めましょう。その上で私は、少なくともリン様と敵対する事はないと判断致しました。笹霧様が何を明かそうとも、笹霧様にとって望ましくない選択は致しません事を約束しましょう」
    「爺や?何の話?」
     部屋に神妙な雰囲気が漂う。それを感じて、みおはさらに怯えを強くした。

    「俺は、ある会社を経営しています。父から譲り受けました。俺が二代目です」
     笹霧は、独白するかのように目を宙に向ける。
     笹霧が出したのは、警備会社としてそこそこ有名な会社の名前だった。自分たちもライブの際に度々お世話になっている、そんな会社だった。思えば警備の手配は毎度、笹霧に任せていた。
    「そういう事だったのか……」
     坂崎が呟く。
    「社長なの?じゃあササギリ金持ちじゃん。何?だから隠していたってワケ?」
     先程まで怯えていたみおがやっと坂崎の腕から離れ、いつもの調子を取り戻したように笹霧に突っかかり始める。
    「金持ちって程ではないですよ。実際、経営はプラマイゼロみたいなもんですから」
    「隠していたのはそんなちっせぇ理由ではないんだろ?」
     坂崎の目は今尚鋭い。
    「坂崎さんに隠し事はできませんねぇ。ええ、ちゃんとした理由があります」
     少し間があく。笹霧が唾を飲み込む。緊張が伝わってくる。
     ややあって口にした言葉は……。
    「俺のやっている会社には裏の顔があるんです」
     笹霧の双眸の瞳が光を失う。重く暗い声。
     
     笹霧は悪を煮詰めた様な言葉を並べていく。麻薬、武器その他違法物の取引、拉致、殺人など。
    「そういった事が行われる裏社会への牽制を生業としています。手段は……あまり口にしたくはないのですが、表じゃ不法な事も行なっていますね」
     表は普通の警備会社、裏は悪を不法行為を用いてでも罰する組織。現実味のない説明を笑い飛ばせる人間は此処にはいなかった。みおは笹霧の放つ威圧感を思い出す。あれは、人を殺していてもおかしくない、そんな人だけが放てる圧感だ。坂崎の腕にしがみつこうとそっと、となりの席に戻る。
    「綺麗事だけじゃ、この世界は成り立たないんです。俺は父の活動を見て、そして己の経験を通して学びました。必要とされているんです、俺らの様な存在が」
     笹霧は己の役目を受け入れた。思春期を迎える頃には、裏の世界に生きる事を当たり前に思っていた。
    「でも、己の人生このままでいいのか?と考えてしまったんです。自分の出自に縛られて普通から遠ざかり、陰で生きる事が俺の生き様なのか、と」
     そんな時に坂崎という男がロックバンドを組もうと動いている事を知った。居ても立っても居られなくなった笹霧は坂崎とコンタクトを取った。元々創作活動が趣味である笹霧には音楽知識があったため誰かと音楽をやるのは初めてでも、何とかなった。こうして、普通の日常を手にいれた。
     だが、笹霧は自分の正体がメンバーに知られる事を極度に恐れた。知られれば、普通の日常をから蹴り出され、元の暮らしに戻ってしまう。
    「俺は、人に手をかけています。相手が悪人だとしても、それは変わりません。だから俺は自分の事を隠しました。どこからボロが出るかわからないなら徹底的に」
     その結果余計に怪しさが増してしまったわけですが。笹霧の自嘲気味な呟き。
    「大体わかった、が何故話すことにしたんだ?このまま誤魔化す事もできただろう?」
     坂崎の指摘に笹霧は目を伏せる。
    「……もう、疲れたんです。隠す事も、皆を巻き込むかもしれないという恐怖や罪悪感も。何処かで話すつもりでした。しかし、ここまでズルズル引きずってきてしまいました。俺は身勝手な人間です。俺は……」
     笹霧が声を詰まらせる。それでも言葉を紡ごうと必死になっている姿を見て、リンが笹霧の背中をさすろうと立ち上がる。
    「俺は、皆を巻き込むかもしれない事を知っていながら、それでもここまでバンド活動を続けてきました。どうしても手放したくなかったんです。でも……」
    「あのなぁ」
     坂崎が笹霧の話を遮った。いつのまにか、坂崎の手にはタバコが一本握られている。煙を吐きながら坂崎は続ける。
    「バンドを辞めますって抜かすわけじゃねぇよな?手放せ、なんて言うつもりはねぇんだ。もしこの中にお前を追い出そうと考えている奴がいたとしたら、殴ってでもわからせるさ」
    「でも、仕事柄俺はよく命を狙われるんです。俺といたら皆も……」
    「俺は死なねぇ。わかるだろ?」
     坂崎は命の危機に瀕した事がある。大怪我を負った坂崎は奇跡か誰かの加護か寸のところで生き延びた。身体には至る所に怪我を縫った跡があり、今でも完治しきっていない脚を引きずっている。坂崎の生命力の強さは笹霧も認めていた。
    「なあ、みお?」
     坂崎が同意を求めようとみおに話を振る。
    「無理って言ったら殴るんでしょ?」
    「そのつもりだが?」
     坂崎の意思は硬い様。タバコの灰を灰皿の中に落としながら、みおの方に顔を向ける。己の危機を感じて、腕にしがみついていたみおが坂崎から距離を取る。
    「死にたくないんだけど……殴られたくもないし。そうだなぁ。ご飯奢ってくれるなら許してあげてもいいよ。タダじゃ命をかけて音楽なんてできないもんね」
    「財布の許す限りはいくらでも奢りますよ……」
    「やったー!!持つべきものは金持ちの友達だね!」
    「クズだなコイツ……」
     坂崎がぼやく。
    「リン様は私がお守り致しましょう。何、多少武道を心得ていますので、心配はいりませんぞ。使用人は主人をお守りする使命があります故、毎年2回、屋敷内での訓練も行っておりますし」
     爺やの発言にリンは目を丸くする。
    「えっ。訓練の事は知らなかったかも」
    「リン様に危害は及ばせません。どうかご安心を」
    「リン」
     坂崎が同意を求めようと、リンの名前を呼ぶ。
    「私は、涼も含め、皆が傷つくところなんて見たくないよ……だから頑張る。武道を!」
     皆が驚きの声を上げたのは言うまでもない。

    「おはようございます」
     笹霧がベースを背中に、練習スタジオへと入ってくる。
    「よお」
     坂崎はギターのチューニングをしながら右手を挙げて挨拶に答える。
    「もしかして、やられました?」
    「ああ、みおにな。7弦全部ピッチをずらしやがった」
    「なんでこんな朝から練習入れるのさ。怠いんだけど」
     名前を挙げられた当の本人は反省する素振りは見せず床でだれている。
    「この時間しかスタジオ取れなくて……ごめんね」
     リンがしゃがみ込みみおに話しかける。
    「僕、夜型なんだよね。朝はやる気出ないよ」
    「お前はいつもやる気ないじゃねぇかよ」
     尽かさず坂崎がツッコミを入れる。

    「ササギリ、ところで休日は何をしていたの?」
     それぞれの楽器の準備中、みおが笹霧に日常会話を投げかける。
    「寝てましたね」
    「何さ!まだそうやってはぐらかすの?僕たち家族なんだよ!?」
    「いや、本当に寝てたんですよ。やけに疲れていて、一日中ベッドの上にいたんです……」
    「前日にみおが涼のこと連れ回したからじゃねぇのか?」
    「ちょっとショッピングに行っただけじゃーん!体力無いな〜。バンドマンとしてどうなの?」
    「みおさん、いきなり走り出すから……」
    「お前のせいじゃねぇかよ!」
     そんな会話を見ながら、リンは微笑む。今の笹霧は前よりもスッキリした様な顔をしている。
     この様な平和な日々が続きます様に。ここにいる誰もがそれを願っている。
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