宿縁酷く喉が渇き、腹が空く。
いつ次の食糧が手に入るか分からない中、容赦なく強烈な日差しが照りつける。
自分たちに残された時間があとわずかなことを否応なく実感してしまう。
さらに、残された陸地を奪い合い、世界が放射能で汚染されるのも時間の問題だ。
空気を割くような爆破音に周囲の人々は逃げ惑い、至る所から悲鳴や悲痛な叫びが聞こえる。
そんな中で俺は避難もせずに彼の名前を叫んでいる。
非合理的だ。
こんな事をしても助からないどころか彼の避難を妨げてしまう可能性もある。
それに俺と彼は親友でも恋人でもない。
それでも乾いた喉を無視して大声で彼の名前を叫んでいるのだ。
そう、この期に及んで、彼と一緒にいたい気持ちが、生きたいとか死にたくないとかよりも勝ってしまったのだ。
爆発音と共に全身を熱が貫く。
こんなことなら数時間前に会いに来てくれた彼にもっと素直に言えばよかった。
共に行きたいと。
もう一度、彼に会いたかった。
………。
***************
「はぁ……はぁ……」
朝起きると全身に汗をかき、心臓が激しく脈打っている。
夢…か?
ハッキリと覚えてはいないが生々しい夢だった気がする。
昨日、たまたま電気屋で付いていたテレビを見てから心がざわついている。
ワイヤーグラス。
今まで名前は知っていた。
バンカラに住んでいて知らない者は居ないだろう。
ただ、俺は昨日初めてヒーローインタビューを受ける彼の姿を見た。
喋って動いている彼を。
それから無性に彼に会わなければいけない。そんな気がするのだ。
エイトはシャワーで汗を流し、ぼんやりと昨日の夢を思い出しながら朝食を取った。
そして、いつも通りに学校へ向かった。
学校ではバトル好きの生徒が朝から昨日のワイヤーグラスの試合について盛り上がっていた。
「キミたち、ちょっといいか?」
「え、エイト!?何だよ?」
生徒は驚いた表情でこちらを見る。
そりゃそうだろう。
日頃オレから学校で誰かに声をかける事なんて先生以外に無いのだから。
「ワイヤーグラスに直接会える方法を何か知らないか?イベントとかでもいい。」
「お、お前ワイヤーグラス好きなのか?」
「そういう訳じゃない。とにかく一度彼に直接会いたいだけだ。で、どうなんだ?」
「よくわかんねぇけど、ワイヤーグラスはそういう交流イベントとか一切やってねぇよ。でも『オレに会いたきゃ試合で会いに来い』って良く言ってるぜ?」
「……そうか。わかった。ありがとう。」
「お、おう。」
なるほど試合……か。
もちろんワイヤーグラスが居るのはバンカラの中でも最上位のクラスだ。
それに対してオレは一度もバトルをした事がない素人だ。
だがエイトの中には諦めるという選択肢は無かった。
その日から毎日の様に、放課後バトルに明け暮れた。
毎日、毎日、毎日……
気付けばバンカラで注目度が高いバンカラ8傑と言われるようになっていた。
これだけ短期間でウデマエを上げた新人は居ないと。
でもまだ足りない。
注目されるだけではダメだ。
もっと強くならなくてはいけない。
オレは彼に会わなくてはいけないのだから。
………。
スポナーから出て直ぐに相手の武器とギア構成を確認……
「ワイヤーグラス……」
遂に彼と同じクラス帯まで来た。
遂に……
スポナーから飛び出し急いでステージの中央へ向かう。
「ワイヤーグラスッッッ!!!!」
「よぅ。遅かったな。」
「ッ!キミは…」
目の前が一瞬で真っ暗になる。
「今は試合中だせ?」
あぁ、そうだった。
改めてマップを開き相手の編成とギア構成を確認する。
時間のある限り何度でもキミに会いに行こう。
何度でも。
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あとがき
宿縁(しゅくえん)
前世や過去からの縁によって決まっている運命的なつながりを表す言葉で、その縁によって再会するという意味合いを含めることができます。
名前も顔も分からない、もう一度出会わなければならないヒトを探す為、一番目立つ場所で待っているワイヤーグラスくんを書きたいと言うだけの落書き突発SSでした。
なお、これは単体の作品のため、他の作品との繋がりは一切ありません。