誕生日に金封持ってきたエイトの話「はい、これ。」
「あ?なんだこれ。」
「何って、キミ、誕生日なんだろ?ほら。」
「……。」
目の前に差し出されたのは、『おめでとう』の文字が書かれた金封……。
「お前、正気か?」
「……?」
エイトはキョトンとした表情でこちらを見る。
念の為受け取って中を見ると、1番高い額の札が数枚入っている。
「これで好きな物買えるだろ?」
……コイツはバンカラで最強の男が好きな物が買えないぐらい金に困っていると思っているのだろうか?
「はぁぁぁぁ……これはお前に返す。」
「な、何故だ!?」
「その代わり財布係として1日付き合え。」
「……それなら、まぁ。」
渋々金封をカバンにしまうエイトの腕を掴んで強引に引っ張る。
「よし、まずスメーシー行くぞ!」
「今何のルールだ?」
「遊びに行くんだよ、このタコ!」
コイツ、まさか試合以外で遊園地行ったこと無いのか?
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「遊びで来んのも悪くねぇだろ?」
「……変な感覚だな。」
エイトは観覧車の窓から試合の始まったステージを見ている。
「アレだけ来ていたのに、乗りたいとも思った事が無かった。」
「乗ってみてどうだ?」
「設置場所をもう少しステージに近くした方が試合が見えて良いと思うんだが。」
「はぁぁぁぁ……おもしろくねぇ!」
「キミが聞いてきたんだろ!?」
「ほんっとお前バトルとお勉強以外はポンコツだな?」
「ぽっ!?キミの質問に思った事答えただけだろ!?」
「はいはい、オレが全部悪かった。じゃあ次ジェットコースター行くぞ。」
「……。」
エイトは呆れた表情でこちらを見ている。
呆れてんのはこっちだっつーの。
本当にコイツおもしれぇ。
試合の時はあれだけペラペラ喋るクセに、遊びに連れて来れば見た事ねぇようなずっと困った顔をしている。
本当におもしれぇ。
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結局、閉園時間までアトラクションを乗りまくり、晩飯にバイガイ亭へ寄る。
今の時間は夜の10時。
何故だか夜に食うラーメンは一段と美味い。
しかし、向かいに座るエイトを見るとほとんど手を付けていない。
「食わねぇのか?いらねぇならチャーシュー貰うぞ。」
そう言って箸を伸ばすと、簡単にチャーシューを奪う事に成功する。
「キミ、アレだけ買い食いしててよく食べれるな?」
そう言うエイトは呆れた顔ではなく、浮かない顔をしている。
「言いたい事あるなら言えよ。」
「……キミ、今日誕生日、だよな?」
「おぅ。」
「……楽しかったか?」
「……。」
「その……どうすれば正解かわからなくて、キミとずっと喧嘩ばかりしてしまった。悪かった。」
意外だ。
金封渡して来たクセにコイツこんな立派な事考えてたのか。
「何言ってんだ、楽しくなかったら閉園まで居ねぇよバカw」
「それなら……良かった。」
「特に何が楽しいか分からねぇって顔でメリーゴーランド乗ってるお前最高におもしれぇ顔だったぜw」
「なっ!?」
エイトの眉間にシワが寄る。
「だから金渡して帰られるより100倍おもしれぇよw金はこういう風に使うんだよw」
「そうか……良かった。」
その時のエイトの笑顔は今まで見た中で1番優しいものに見えた。
「おもしれぇヤツ。」
「なんだよ。」
「さっさと食わねぇと麺伸びるぞ?」
「わかってる。というかさっきキミ、勝手にチャーシュー取っただろ!?」
「あ?もうオレのだ。」
「2枚しか入ってないんだぞ!?まぁ……誕生日プレゼントとしてあげるよ。」
「ブッwやべぇ、今日イチでおもしれぇwそうだよ、誕プレなんてこんなんでいーんだよw」
「本当にキミは変わってるな。」
「お前がなw」
「……その、誕生日、おめでとう。」
「おぅ。」
きっとまだ言っていなかった事を思い出したのだろう。
言ったはいいがどんな顔すればいいか困っている。
本当にコイツは真面目すぎる。
「で、お前誕生日いつだよ?」
「先月終わったところだけど?」
「…何で言わねぇんだ?」
「祝ってくれって言ってるみたいで嫌だろ?」
「お前なぁ……じゃあ代わりにクリスマス開けとけ。祝われっぱなしは気に食わねぇ。」
「……仕方ないね。」
丁度スケジュール変更の時間なのか、すぐ横で試合が始まる。
ラーメンを食べないといけないが、試合も気になる。
エイトは落ち着きがない様子でラーメンを啜る。
”オレが”クリスマス開けとくっつってんのに、コイツは何も疑問に思っていないのだろう。
そして当たり前のように予定が空いているクリスマスに思わず口角が上がる。
本当におもしれぇ。
エイトが試合に見入っている隙にもう1枚のチャーシューを盗む。
ラーメンに顔を戻した時のエイトの顔。
眉間に皺を寄せてこちらを睨むエイトの顔。
大きく息を吸い込んだ。
あぁ、来るぞ。
「ワイヤーグラスッッ!!!!」