忘れたくなかった記憶を探しに来たのだ。「ここが、ロスサントス…?」
私は脳の病気が悪化して手術をした。命を取り留めたものの、脳障害(記憶喪失)を引き起こし数ヶ月検査や経過観察の為に入院していた。
徐々に回復していき、健康状態に戻った為退院。自分の家族や昔の記憶は思い出せたけど、治療する前の記憶が途切れ途切れで、完全に治ったとは言えないが、定期通院という形で経過を見ることになった。
「この人達に会えば、思い出せるかもしれない…」
手に持っているのは、写真付きの青いペンダント。この写真が誰なのか、まだ分からないけど、大切な人達だった気がするから。
私は、その大切な人達を探す手掛かりとしてこのロスサントスにやって来た。どうやら私が治療する前に訪れていた場所らしい。
「うーんと、まずはどこに行けばいいのだ…?」
スマホを開くと、ツイックスが目に入った。このスマホは私が以前ロスサントスで買った物らしく、ロスサントスじゃないと使えなかった。電話帳や着信履歴は妹が何故か消してしまった。「あっちの事は忘れた方が良い」って…
でも、私は、忘れたくなかった。忘れちゃいけなかったのに、忘れてしまったんだ。
「ツイックスをまずは見てみるのだ!過去の私は何をしてたのか、分かるかもしれないのだ」
「[ひまなのだ]え?これだけ?あ、でも誰かリプしてるのだ。…上田さん?と…キックアスさん…」
何故かお金について話している内容だった。一体何の話をしているのだ?直接メッセージを送るのは、少し気遅れした。
「いま、呟いたら、誰か反応してくれるのかな…?試しにやってみるのだ…!」
【ひまなのだ】
「ツイックスの名前、ぼく、ゆきんこにしてたのか。あ!もうリプきた!…安城?と、わわわ!いっぱいきたのだ!」
【おまえ、ほんとにゆきんこか?】
【ゆきちゃん!?】
【ゆきんこ帰ってきたのか?!】
【雪!?ロスサントスに帰ってきたのか?!】
prrrrprrrr…
「電話??!…あ、もしもし!…いや、ぼくはゆきんこじゃなくて……いや、その、ぼくは冬野雪だけど、ちょっと記憶が…!」
話しに押されてしまって、言いたい事が言えないけれどこの人が前のぼくの事を知っているのは間違いない。
『だから!!お前がゆきんこなんだろ?!何言ってるか分かんねぇから、今から迎えに行くって!!どこにいんの??』
「いや、あの、空港にいますけども、『分かった。今すぐ行くからそこから動かずに待ってろ!動くなよ!絶対!!』
「電話、切れたのだ…なんだったのだ、いったい。名前も聞けなかった…いきなりびっくりしたのだ…」
さっきの人は絶対にぼくの事知ってる人なのだ。でも、今のぼくにとっては知らない人で、どんな人が来るのか少し怖いような気もする。
「…ううん、ぼくはぼくの為にここに来たのだ。きっと大丈夫…」
自分を落ち着かせる為に、ペンダントを握る。それに、鞄の中にはまだ大切な物が沢山入ってる。ネックレスや指輪だって…。ここに、大切な人がいるのは間違いないんだ。
prrrr…prrrr…
「はい、もしもし?」
『お前どこ?空港にいるって…あ…いた』
向こうから車を降りて走ってくる、なんだかガタイの良い男がやって来た。あれ、あの人の顔…ペンダントの…
「あ、あの人、…あれ、ぼく、知ってるような気がする、、、…うっ…」
今まで溜めていた感情が堰を切ったように、涙が溢れてきた。ダメだ、いきなり泣いてたら変に思われるのに。
「ゆきんこ!なぁ、ゆきんこだよな?本物だよな?…泣いてる?なぁ、こっち向けって」
これは、いつか「きっちゃん」と呼ぶようになるまでの、彼女が「家族」を思い出すまでの、記憶探しの旅の始まり。