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    kikuta_kaname

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    kikuta_kaname

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    神経が焼き切れたことにより恋を自覚する🪦さんのお話。

    爆ぜる ぱちん、ぱちん

     神経が爆ぜる音が聞こえる。
     それは機械の身体の奥底から響いてはいるが、活動に支障がない程度のものだった。
     ──最初のうちは。

     ぱちん

     今日もまた耳の奥で音が鳴り響いている。いい加減煩わしくて仕方ない。けれど原因なぞ思い当たりもしなかった。

     ぱちん

     ああ、五月蝿い。またメンテナンスに行かなければ。あの喧しい医者と相対しなければいけないという事実にうんざりとしてしまう。

    ぱちん

     それにしても今日はやけに酷い。特段変わったことはしなかったはずだ。いつものように暴れて、いつものように宇宙を回っていただけ。
     ──いや、ひとつだけあったな。
     そこでひとつ思い当たることがあった。星穹列車の開拓者の用事に同行したのだ。
     それは最近加わった、もはや日課のようなものだった。「お前のこともっと知りたいから」と言って笑う彼に、思わず昔の出来事を重ねてしまった。にこにこと笑顔で懐いてくる少年を無下にすることもできずに、なんだかんだと彼の用事に付き合っていた。
     そう、ブートヒルにとってそれはただの気まぐれだったのだ。

    *
    *
    *

    「あ、ブートヒル!」

     こちらの姿を確認するなり、少年は満面の笑みで駆け寄ってきた。まるで子犬のようだ。

    「よう、ベイビー。今日はどこに行くんだ?」
    「今日は新しく見つけた場所で遺物があったからもっとたくさん見つけようと思ってる」

     お前も手伝ってくれよ。
     そう言って笑う少年を見て「随分と懐かれたな」と心のなかだけで独りごちた。
     特に特別なことをしたわけじゃない。ただ彼の話を聞いて、いくつか相槌をしただけだ。しかしそれらの何かしらが彼の心に触れたらしく、今ではこうして姿を見かける度に駆け寄ってくるようになったのだ。
     最初は毛色の珍しい奴が居るなという印象。次はなかなかにイカした男だという印象。そして決め手となったのがこの少年にあのやたらと派手なカンパニーの幹部がご執心だということだった。
     気まぐれだった。少しばかり茶々を入れてやろう。そんな精神で少年との交流を深めていったのだが、ここ最近は勝手が違ってきてしまった。

    「なあ、ブートヒル。また何か面白い話を聞かせてくれよ」

     ぱちん

     また耳の奥で爆ぜる音が聞こえる。
     少年が笑うのを見る度に、原因不明の症状は顔を出した。
     ……いや、原因不明だというのは少し違う。本当はとっくに分かっているのにも関わらず、己がそれを認めたくないと目を背けているだけ。

    「そういえばこの間乱波にも会ってさ、元気そうだったよ」

     ぱちん

     ……ああ、勘弁してくれホーリーベイビー。それは俺が持っていていい『感情』ではないんだ。

    「……ブートヒル?」

     いつの間にか足を止めてしまっていたこちらを、少年は不思議そうに覗き込んだ。
     その視線は苦しいほどに純粋で、ブートヒルがずっと守りたいと思っていたものを思い起こさせる。
     ──やめろ。これ以上俺に踏み込んでくるんじゃねぇ。
     言葉にはしない。これが完全な八つ当たりだと分かっているからだ。己の感情に振り回されて、行き場の無いそれを他人にぶつける。そんなガキのような真似をするわけにはいかなかった。それは巡海レンジャーとしての矜持もあったがなによりも、こんな馬鹿な男を純粋に慕ってくれている少年の気持ちを裏切りたくないという、ちっぽけなプライドが大多数を占めていた。

    「…もしかして、体調が悪いのか?いや、サイボーグだから故障…?いやまあなんでもいいか」

     熱を持たない鉄の両手を、あたたかな肉体が包み込んだ。その両手に一瞬だけ視線を落とし、そして少年の身体をなぞるように視線をあげる。
     そこに立っていた少年は笑っていた。先ほどまでと変わらない、太陽のような笑顔でそこに居る。
     その姿に、ブートヒルは己の宝物を重ねた。

    「体調が悪いならまた今度にしよう」
    「俺、ブートヒルのこと大切だと思ってるからさ!」

     そうやってこちらのことを気遣って笑う少年の姿を最後に──。

     ばちん!

     ブートヒルの視界はブラックアウトした。どうやら、視覚機関がショートしたらしい。
     なんとか生き残っていた聴覚機関からは焦っている少年の声が聞こえる。それに対して大丈夫だと返しながら、ブートヒルは覚悟を決めた。
     ああ、もうやめだ、やめ。逃げ回るなんざ俺らしくねぇ。
     諦めよう。己はこの太陽のような少年に心を奪われてしまったのだと。自分でも気がつかないほどに。機械の身体が不調をきたすほどに。押し寄せる感情に神経が焼き切れてしまうほどに、彼のことを愛してしまった。
     一度決めてしまえば話は早い。この少年はひとたらしの気質がある。ライバルはそれこそ山のように居るのだ。
     だからといって、引くわけにはいかねぇなぁ?
     ライバル共を蹴散らし、悔しがる彼らを尻目に一等星を手に入れる。それはなんとも愉快な話なのだろう。
     方針は決まった。まずは未だ慌てている彼を落ち着かせて身体を修理して。
     彼を、デートに誘うことから始めよう。
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