地獄の逆戻りゲタくんがご都合妖怪()に過去に飛ばされて例の列車から降りたあとの父の死に目に遇って、目玉に何度も何度も聞かされたように必死になぞろうとする地獄の逆行ゲタくん。
知っているから救える命があるけど、自分が水木に会えなくなるのが本当に本当に嫌で、歯を食いしばりながら村人を見捨て、自分も「ゲゲ郎」として怨念を引き受けて死ぬ。包帯男になって、母に全部話して、「お願いします。ごめんなさい。ごめんなさい。父さんじゃなくてごめんなさい。でも、ぼく水木さんに会いたい。ぼくは水木さんに育てられたぼくが好きだ。ごめんなさい。助ける気がなくてごめんなさい。助けられなくてごめんなさい。」そういう地獄。母はそんなことじゃ怒りませんよ。うっかりあっさり死んだ夫のことは、うちの子をこんなに泣かせて!って怒るかも。
血桜のもとで母に会って、唇だけが「おかあさん」って動くんだ。母は「相変わらず泣き虫ねぇ」じゃなくて「大きくなったわねぇ」って言うんだ。それでゲタくんはボロボロ泣くから「あらあら、泣き虫なとこまでそっくり」って耳元で囁やくの。
今自分の命がどうなろうと、水木に出会えない「鬼太郎」を絶対に認められなかったかわいそうなゲタくん。
きたちゃん過激派別時空父水か、圧倒的主人公パワーきたちゃんに救ってもらうしかない。ゲタくんにはできなくてもきたちゃんになら出来る。主人公絶対主義者の確信。
ここはどこだろうか。
川辺に血染めの幽霊族の男が横たわっている。
「だ、大丈夫ですか!?」
駆け寄ると、自分にとても似ていて、しかも誰よりも知っている気配で。
「と……、」
身体がある。それは自分が産まれる前に失われたはずで、つまりここは過去……?
「ゆ……れ……………ぞく?」
「ぁ…。」
「まだ……おったとは……の………。」
薄くその右目が開く。
「えっと…僕は………、」
「すまぬ……何やら…人間の、術者、と……まちがわ……れた……ょぅで………。」
「喋らないでください、傷が。」
「もう保たぬ……ワシは…………もう、よいのじゃ………。でも、もし………もしよけ…れば……、妻を、代わりに……探し、て……くれんか……。」
妻を、探しに、それは、つまりその年代ということは。
「そんな、それは、……あなたが、自分で…!」
「会いたい……が………。」
ふーー、と男が深く息を吐く。まるで、息以外のものも、吐き出されていくような。
「おぬし、に………会えて………良かったと………思うて、おる……。」
残っている左手が動こうとするのを感じ、どうしようもなくて抱きしめた。言っていいのだろうか。わからない。こんなことはなかったはずなのだ。
だってこんなことがあったら。こんな。だって。だって、己は今死のうとしているこの男に育てられたのだから。
こんなこと、あっていいはずがない。
「ぁぁ………、…ぃし…てぉる………。」
そんな、消え入りそうな声で、そんな。
「僕、僕も……、大好きです。愛してます、」
父さん。
ふ、と強くかき抱いた身体が笑った気がして。そのままもともと入ってなかった力が完全に抜けた。