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    メネリァン

    紆余曲折押し問答山あり谷ありもらった絹糸で研究を進めていると、1ヶ月なんて期間はものすごい速さで過ぎ去っていった。
    結論としては絹糸でリァンの思っているような縫合用の糸を作るのは難しかったのだが、魔力を有した糸であれば可能なのではないか、というところまで考えはまとまった。
    研究所を出たところで、魔力探知に見知った魔力が引っかかる。
    何故。
    諦めたのではなかったのか。
    いや、もしかしたら諦めてはいるがシンプルにリァンに用事があるのかもしれない。
    それはそれで迷惑な話だが、あまりマイナスに考えるのはやめよう。
    玄関にたどり着いた気配は、ゴツゴツとドアノッカーを叩いて家主を呼ぶ。
    今度からドアノッカーをファティマの手にでも変えようか。
    仕方ないのでドアを開けに行く。

    「ごきげんよう」
    「こんにちは、久しぶり」
    「ええ、それで?何か御用ですか?」
    「うん、良いプレゼントを見つけたから渡しに来たんだ。一緒にお茶しないかい?」

    研究もひと段落ついたところだし、確かに糖分補給がてらケーキを作ろうと思っていたところではあった。
    1ヶ月という短い間ではあったが、間を空けたことでリァンは自由に使える時間が増えて斜めに傾いていた機嫌はだいぶ元通りになっていた。
    メネラの思惑通りにリァンもメネラと会わなくなったら寂しく思ってくれるなんて甘い考えは早々に打ち破られたが、プレゼントというワードとたまたまタイミングが良かったことで、玄関先でお帰りくださいとはならなかった。

    リァンはいつもと違い、メネラをティールームではなく少し奥にあるダイニングへと案内した。

    「今日はいつものテーブルじゃないんだね」
    「ええ、今からケーキを作らねばなりませんから」
    「そうなのかい!?作りたてが食べられるってこと!?」
    「まあそうなります。時間はかかりますが」
    「俺は全然構わないよ!」

    メネラは思い出したかのように空間収納を開け、金属の掠れる音のする紙袋を取り出した。
    ケーキを作る準備をしていたリァンは、道具を出すのを魔法に任せてメネラを見つめる。

    「秋の国で有名なイデンテの紅茶なんだ。アールグレイとダージリン、アッサム、ウバ、キーマン……あとセイロンとハーブティーも。それから、春の国のグリーンティーも取り扱ってたから買ってきたよ」
    「有難いですが、こんなに買ってきたんですか?チーズケーキを作る予定だったのでアッサムのミルクティーにしましょう」
    「え、本当かい?俺リァンさんのチーズケーキ好きなんだ、嬉しいよ」
    「レアチーズケーキが食べたい気分だっただけですよ」

    コトコトと色とりどりで美しい四角い缶をメネラがせっせと並べている中、アッサムの缶を手にとる。
    本当にそういう気分だっただけなのだが、そういえばこの男はなにかにかこつけてチーズケーキを作ってくれとせがんでいた。
    イデンテといえば紅茶の中でもかなり質が良ければ金額もなかなか札が飛んだことだろう。
    実験は失敗したとはいえ、あの絹糸も相当値が張ったはずだ。
    私に貢いで何がそんなに楽しいのやら、と金髪の財閥御曹司─今は当主か─を思い出した。

    「30分ほどあればできますので」
    「うん、楽しみに待ってるよ。話しかけない方が良いかい?」
    「話しかけられた程度で手順を間違えることはありませんが」
    「わかったよ、作るところが見られるのも嬉しいな」
    「そうですか」

    砕いたビスケットと温めたバターを混ぜて、円形の型に敷き詰める。
    別のボウルにクリームチーズとグラニュー糖を入れ、滑らかになるまでかき混ぜる。ここは魔法でやるには少し繊細な作業だ。
    ゼラチンと水を合わせて加熱、小鍋に牛乳と卵黄を入れて弱火で熱し、先ほどの温めたゼラチンと混ぜ合わせる。
    クリームチーズの入ったボウルに小鍋の中身を入れてよく混ぜる。

    「そういえば、もらった本読んだよ」
    「へえ」
    「残念だけど面白くなかったよ。なんか説教くさいんだ、全体的に」
    「でしょうね。自己啓発本の類は大抵そうです」
    「書いてあることもわざわざ要約して伝える必要なんてないくらいだった」

    アハハとメネラは笑って見せるが、どう考えてもただ適当に押し付けられただけの本をちゃんと読んできたのか、と感心してから少しあきれる。
    リァンが雑にあしらうために渡したことに気が付いてないわけじゃあるまいに、本当に律儀な男だ。

    リァンはボウルに生クリームとレモン汁を加えてさらに混ぜ合わせる。

    「貴方から貰った絹糸、試しましたがダメでした」
    「ええ、そうなのかい?良いの選んだつもりだったけど強度とか足りなかった?」
    「いえ、単純に糸自体に魔力を保持する力がないと、回復魔法をかけても持続しないということが分かっただけです。失敗したわけではありません」
    「次はアリアドネの糸でも買ってこようか」
    「アリアドネであれば魔法動物を糧に糸を作っていますから条件は満たしているでしょうね。問題は希少価値が馬鹿みたいに高いこと」
    「リァンさんのためなら用意してくるよ」
    「ほお、頼もしい」

    アリアドネは節足動物門鋏角亜門クモガタ綱クモ目を総称するいわゆる『蜘蛛』に間違いはないが、どこぞやの神話に登場する女神の名を冠していながらもその生態は肉食で獰猛。
    体も大きく、有毒でその糸を取るのは大変危険であるため希少価値が高く、マーケットで買おうものなら数十万は覚悟しなければならないだろう。
    取りに行った方が早い。

    「いえ、やめましょう。マーケットで買う気ならせめてアリアドネを仕留めに行く方が早い」

    リァンはそう言いながら、ボウルの中身を円形の型に流し込む。乳白色の液体が円形に満ちていくのを見ると多幸感が湧いてくる。
    最後に30分冷やす過程を氷魔法の応用であっという間に終わらせる。
    靴の踵を短くカン、と床に叩きつけた。
    ポシュ、と可愛い音を立ててチーズケーキから熱が消え、冷却が終了する。
    レアチーズケーキの完成だ。

    「できました」
    「すごい、ケーキ作りにも魔法を使ってたんだね」
    「もちろん。使えるモノには使います」
    「ところで話を戻すけど、アリアドネを仕留めにいくって本気かい?」
    「ええ、確か……ここにはないな、少々お待ちを」

    リァンは少し考えを巡らせ、キッチン兼ダイニングから離れ、1分ほど経った頃に1冊のノートを手に戻ってきた。
    メネラに差し出したその本は出版されたものには見えず、いわゆる雑貨店で売っているような何の変哲もないノートだった。やけに古く、紙の色が変色してしまっていることを除けば。

    リァンはレアチーズケーキを型から外し、切り分けながら指示を飛ばす。
    その裏では魔法を使ってアッサムのミルクティーを作っている。
    生活魔法をフル活用している様子はまさに魔法のキッチンと表現するにふさわしくなっていた。

    「その本の29ページ」
    「えっと……アリアドネの情報だね。大まかだけど生息地に弱点まで。ああ、あの糸の攻撃ってこうやって回避するんだ……これってリァンさんが?」
    「ええ。昔、魔獣退治で稼いでいたと言いませんでしたか?」
    「聞いてないな……それなら仕留めにいく方が早いと思うのも納得だよ」
    「貴方の財布に穴が開くだけ無駄でしょう」

    コトリ、とシンプルな皿に乗せられたチーズケーキとミルクティーの入ったティーカップがメネラの前に着地する。
    リァンはメネラの斜め向かいの席に腰掛けた。
    早速チーズにフォークをさしこみ、自分の氷魔法の匙加減を確かめる。
    ばっちりだ。

    「これ、いつ取りに行くんだい?」
    「ン、別に予定を立てているわけではありませんから暇になったら行きますね」
    「1人で?」
    「ン〜……リリアイディスが断ったら1人で行きます」
    「それ俺が行くよ」
    「何を馬鹿なことを、攻撃魔法は下手くそなのでしょう?」
    「サポートに徹するからさ、ね?頼むよ、邪魔にはならないようにするから」
    「ウーン……」

    リァンにとってメネラが付いてくること自体がすでに邪魔なのだが、リリアイディスに連絡を取って彼の都合の良い日に合わせて、というのを待っているのは確かに時間がかかるため、メネラで妥協すれば時間短縮にはなる。

    ほかほかと湯気をたてるアッサムの香り高いミルクティーを味わい、じっくりと考えてから結論を出す。

    「死んでも知りませんよ。というより、私の周りで誰かが死ぬとあのお堅い魔法省のお役人が『お前何かしたんじゃないだろうな』と目くじら立ててすっ飛んでくるもんですから是非ともやめていただきたいんですよ」
    「アハハ!俺の弟も魔法省にいるけどそんな感じだ、お役人ってどこも似てるのかな」
    「ン?………そう言われると似ているような。背丈も貴方と同じくらいの、黒髪に少し青色が混ざった…黄色い目のでこっぱち仏頂面。あとメガネ」
    「それ弟かもしれない」
    「ゲェ……と、とにかく。ケーキが不味くなるような話は一旦後にしましょう」
    「そうだね、せっかく作ってくれたんだから味わって食べるよ」

    別にメネラのために作ったわけではないと再三言っているのに、ニコニコと喜んでチーズケーキを食べる大柄な男は子供のようだった。

    その最中、再び見知った魔力が探知に引っかかる。
    次いで、先ほどの再現かのようにゴツゴツとドアノッカーが叩かれる。
    やはりドアノッカーをファティマの手に変えるべきかもしれない。

    「来客のようですので様子を見てきます」
    「うん、いってらっしゃい」

    席を立ち玄関に向かえば、噂をすればなんとやら。

    「魔法省だが」
    「ゲェ……」
    「人の顔を見るなりなんだその顔は」
    「いえ、とんでもない。ちょうど今レアチーズケーキを作ったところなんです。お一ついかがですか?」
    「お前がそうやって変にニヤついている時は大抵何かがある時だろう」
    「ケーキいらないんですか?ミルクティーもありますけど」
    「……ご相伴に預かろう」
    「こちらです」

    2メートル近い身長、黒髪に少しの青色、黄色の目。
    兄弟だとして、こんなに似るものだろうか?
    リァンには兄弟がいないので、彼らが双子であるなんて想像もつかなかった。

    「話をすれば魔法省の彼が訪ねてきましたよ」
    「え、レイデ!?」
    「!? 何故兄さんがここにいるんだ……」
    「おや、感動の再会っぽい雰囲気ではないですね。まあ良いか。ホラ、そちらにお座りなさい。今取り分けます」

    レイデと呼ばれた魔法省の男は渋々メネラの右隣、リァンの席の向かいに座った。
    この男がスイーツに弱いことは把握済みである。
    何だか面白そうだったのでこの2人を引き合わせてみたが、2人とも居心地悪そうに沈黙を貫いている。
    おそらく過去に何か確執があるのだろう。

    「………」
    「………」
    「彼はしばらく前……何年になります?わからないけれど、私の監査官を務めている魔法省のお役人。名前は知らない」
    「覚えていないの間違いだろうが」
    「覚える気がないの間違いですね」

    リァンは先ほどと同じくチーズケーキの乗った皿とミルクティーのカップをレイデの前に置いた。

    「どうぞ。そしてこちらが執拗に私を口説いてくるメネラとかいう変な人」
    「実兄なのだから言われなくともわかる……」
    「兄弟にしては似すぎではありませんか?」
    「双子なんだよ、年齢は同じだけど俺が兄でレイデが弟だよ」
    「あ、なるほど。そうか、人間も双子や三子を産むことがありましたね。忘れていた。なんだか仲が悪そうですね」
    「察しているなら言うなそういうことを」
    「あのさ、リァンさんにそういう強い言い方しないでくれるかい?」
    「貴方、私のなんなんですか?」
    「一体何なんだこれは」

    リァンも何なのかは知りたいが、この堅物のお役人レイデといつもニコニコ飄々としているメネラが2人とも苦虫を噛み潰したような顔をしているのは少し面白い。

    「レイデは前からこうやってリァンさんのスイーツを食べにきてたってこと?」
    「まあ、この人に限った話ではありませんが」
    「振る舞われたら断らないだけだ、仕事をしに来ているに過ぎない」
    「いつも頼んでもないのに私が何かしでかさないか3ヶ月に1回くらいで見にくるんですよ。全くご苦労なことで」
    「お前の経歴を考えればまだまだ甘い処分なんだぞ」

    レイデは怒り口調ではあるものの、チーズケーキを頬張る頬が少しだけ緩んでいるのをリァンは見逃さなかった。
    しっかり気に入ったらしく機嫌が上向いたところで本題を振る。

    「まあまあ、今回は一応貴方の仕事を減らして差し上げようと思ったんですよ。近々コレとアリアドネの討伐に行こうと思いますので、しばらく屋敷を空ける期間があります」
    「アリアドネというと、糸か。何に使う気だ?何故兄さんがついていくんだ」
    「傷ついた魔獣向けに抜糸の必要のない縫合用の糸を作りたいんですよ。メネラに関しては本人に聞いてください」
    「ついて行きたいからついていくだけだよ」

    レイデはメネラの返事になっていない返事に不機嫌そうに鼻を鳴らしてから、ミルクティーに口をつける。
    茶葉が上質なだけあってか、一口飲み込んだ後に少し目を見開いたのもリァンは見逃さなかった。お気に召したようだ。
    面と向かっては言わないが、リァンはこの監査官の仏頂面を己の作るスイーツと紅茶で崩すのが密かな楽しみだった。
    今までの監査官はリァンの性格の厳しさと圧の強さに負けて1年も持たない魔法使いが大半だったのに対し、この男はまあそこそこ持っている。
    その男が、この執拗にリァンを追いかけてくるメネラの実弟だったことに強い納得すら覚える。

    「というわけでしばらく留守にします。戻り次第魔法省に戻ったと手紙を送りますので。もちろん小細工なんてしませんから安心してくださいな」
    「承知した。戻り次第すぐに送るように。くれぐれも民間人に手を出そうなどと思うなよ」
    「民間人以外なら良いんですか?」
    「アリアドネ以外に手を出すな」
    「はいはい」

    普段であれば魔法省にわざわざ一通手紙を書いて届ける手間が省けて助かった。
    レイデはチーズケーキとミルクティーをしっかりと平らげ足早に席を立つ。

    「ご馳走様。事件性や変化がなさそうで何よりだ。次の監査はお前が戻り次第様子を見に来る」
    「久しぶりに再会した兄上には特にコメントもなしですか?」
    「リァンさんいいから……」
    「元気そうで何よりだ。では失礼する」

    罪人のリァンに対する態度よりは些か丸いものの、別方面で尖った言葉を言い残し、白い上着を翻して帰っていった。
    滞在時間は場合によりけりだが、短い場合はこうして30分にも満たない場合もある。
    ワルプルギスの森の中でも中央寄りに位置する辺鄙な土地までたかだか確認のためだけに本当にご苦労なことだ。

    「貴方達仲悪いんですねえ」
    「なんでちょっと楽しそうなんだい……?」
    「いいえ?別に?」
    「まあ確かに良くはないかなあ」

    片や魔法省で働くお役人の弟、片やその辺をフラフラしている職はあるものの自由人の兄。
    どうみても合わない双子だが、なんとなくそれ以上の何かがある気がする。
    そこまで深入りする必要もないので放っておくけれど。
    問題はアリアドネ討伐におけるメネラをどう使うかだった。

    「貴方、実戦経験は?」
    「なくはないけれど、魔力量が少なめだから魔法での攻撃よりは防御やサポート魔法、呪術系が得意だよ」
    「それでは主にアリアドネの足止め係といったところでしょうか。アリアドネは粘着性の糸を吐き出すことで相手の動きを止めて仕留めることが多いので、それさえ避けられればどうとでもなります」
    「うん、そのくらいなら問題ないと思う」
    「毒を吐き出す場合もあるので解毒薬は必須です。こちらで用意しますが、即死級ではないのでまあなんとかなるでしょう。生息地は近場だとワルプルギスの森の奥地ですね。
    アリアドネが見つかりさえすればすぐなのですが、警戒心が強いためなかなか難航するでしょう」
    「長期戦だね、頑張るよ」

    リァンはアリアドネ討伐のための作戦を考えつつ、チーズケーキをもう1ピースとミルクティーのおかわりをカップに注いだ。

    「ところでさ、リァンさんって俺がいない間に別の人から口説かれたりとかしてない……よね?」
    「ありませんよ、馬鹿馬鹿しい。例えあったとしても私は断り続けます」
    「そっか、安心した。1ヶ月会えない間、すっごく寂しかったんだ。仕事に打ち込んでなるべく考えないようにしてたけど、リァンさんが何してるかなとか、何を贈ったら喜んでくれるかなとか、リァンさんのことで頭がいっぱいになって。美味しいスイーツのお店とかいっぱい情報も集めてきたから!…その、また来てもいい?」
    「ハァ。来るなといっても来るんでしょう?貴方の訪ねてくる頻度は高すぎて、いくら私といえどスイーツのレパートリーも残り少なくなりつつあります。私は私でやりたいことがありますし、本を読みながらや資料をまとめながらで良いのなら来訪も止めやしませんよ。その代わり、なにかしら手土産や情報を持ってくること」
    「ありがとうリァンさん!もちろんプレゼントは忘れないよ!欲しいものがあったらなんでもいってね」

    メネラの押してダメなら引いてみろ作戦は、正しい意味で成功したとは言えないが、間違いなく前回こっぴどく振られた時よりは間を空けたおかげか、幾分かリァンの対応は柔らかくなっていた。
    危険生物の討伐とはいえ、長時間一緒に出かける約束もできたし、メネラは内心とても舞い上がっていた。
    メネラよりレイデの方が長い付き合いであることに少しモヤモヤすることはあるけれど、見た感じ監視対象と監査官の関係でそれ以上でも以下でもないようだから、気にしないことにしておく。

    「アリアドネ討伐については早ければ明日からでも取り掛かれますが」
    「どのくらいかかるかってわかるかい?」
    「相手は生きて移動していますからね。一応大きな巣はマークしてありますが、1週間から3週間は見積もりたいところです」

    つまりメネラは最大3週間リァンと共にいられるということだ。

    「やましいことは考えないでくださいね」
    「か、考えてないよ!一緒にいられて、役に立てたら嬉しいなって思ってただけさ」
    「どうだか」

    リァンは魔法で使用済みの食器を洗って片け、メネラとアリアドネ討伐の作戦会議を開くことにした。
    魔法使いが2人いるのだから大丈夫だと思うが、産卵期のアリアドネであれば凶暴性は増す。その辺りも加味して作戦を立て、いつ頃出立するか、備品はなにがいるかを綿密に準備する。

    数日後、準備万端の状態でアリアドネ討伐に乗り出した。
    そして結果として、無事にアリアドネの糸は多過ぎるほど手に入った。
    アリアドネは体内に保有している毒素も大変貴重で妙薬の材料になるし、8つの目玉もなにかしら役に立つはずなので、取れるだけの素材は取っておく。
    解体に解体を重ねれば、アリアドネの残骸はほとんど残らなかった。

    無事に屋敷に帰宅して、研究室に一直線に向かい、真っ先に素材を正しく保管する。
    研究に勤しみたいところだが、まずは体を休めることが最優先だ。
    メネラを呼び、採取したアリアドネの糸の1/3ほどを手渡す。

    「お疲れ様でした。今回の報酬です。マーケットで売るなりなんなり好きにしてください」
    「え、別に気にしなくていいよ。俺はリァンさんを手伝いたかっただけだから」
    「…要らないと?結構な金額になると思いますが」
    「うん、お金のためについていったわけじゃないからね」
    「そうですか。それでは本日はこれでお開きとさせていただきます。流石に疲れましたので」
    「そうだね、ゆっくり休んで、またよければ研究結果を教えてよ」
    「覚えておきます」

    メネラはリァンに断られなかったことに機嫌を良くし、前回とは打って変わってスキップでもしそうなほど嬉しそうに帰っていった。
    リァンにはいまいちメネラの喜ぶポイントがわからないが、本人が嬉しそうなのだからそれで良いのだろうと思考を放棄した。
    なにがどうあれ、彼はこの屋敷に通い続けるのだろう。
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