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    メネリァン

    極道パロ3リァンさんと正式に恋人になった今、メネラはそれはもうご機嫌だった。
    初めて出会ってからもう約2年ほど経つが、元敵対組織の幹部だというのにこの組を裏切る気配なんて微塵もないし、なんなら今までのイロより口が硬い。
    上役の爺達にも怖気付かないからか、気に入られているのは少し癪だけど、気に入られないで反対されるよりは良い。たまに囲碁や将棋の相手で借りられていくのは本気で嫌だけど。
    自分やリァンさんに楯突いてくる反発派の組員にも毅然とした態度で言い返したり、場合によってはスルーしたりと上手いことやってくれているみたいで本当によかった。
    極道の身内になる人にはそれなりの精神力が求められる。今までは極妻と言われるように女性しか前例がなかったから男性を妻、ないしは夫として迎えたいとなると上役の爺達は早めに説得しておかないと。

    すでに結婚を視野に入れて動き始めているのは色々と早計なのはわかっているけれど、目下それより前に解決すべき点が一つある。

    「あの日の一回以降全然シてない……」

    メネラはその場で軽く頭を抱えた。
    いくら極道の若頭だろうが惚れた相手には心底弱いものである。
    情夫の肩書きは最初から上部だけだし、約束を使って体を重ねたせいで次を言い出しづらい。
    恋人になったというのに「一回だけと言ったではありませんか」とか言われたら立ち直れる気がしない。

    メネラもまだ二十代も半ばのヤりたい盛りと言われる年齢帯である。
    それに対してリァンさんって性欲薄そうな顔してるんだよなあ。
    監視の若衆曰く、メネラが尋ねてこない日は基本二十二時には就寝しているらしい。
    これはメネラの勘だが自慰行為もしてないんじゃないだろうか。
    だからこその独特な触れてはいけないような鋭す研ぎ澄まされた清らかさのようなものはあるけれど、自分ばかりが求めているようで少し寂しい。求めれば応じてくれるのだろうが、また命令だなんだと思われてはたまったものじゃない。
    逆に求めて拒否されて「ヤりたいだけなら風俗嬢にでも相手してもらってください」なんて言われたらもうメネラの心は粉々になってしまう。
    いや、リァンさんはそんなこと言わない。

    「なんて言おう……」

    とりあえず結婚の話はメネラの意思はこうだという主張で進めながら、夜の話は今日にでも話し合いに行こうかな、と思い立ったが吉日、リァンさんのスマートフォンに連絡を入れておいた。
    早く会いたいような、会ってなんと切り出せば良いものかと、なんともいえない気持ちに着地してしまった。



    メネラと組長公認の元、恋人関係になってからというもの、特別普段の生活に変わりはなかった。
    しいていうならスキンシップに唇へのキスが増えたくらいで、学生の恋愛と揶揄されてもおかしくはないピュア度合いで進行している。
    大部分は私がそういう色ごとに疎いのが挙げられるが、メネラからも求められていないのでとりあえず何も言わないでいる。
    いや、アレは言いたいけど言い出せない顔な気がする。どうして躊躇しているのかはわからないため、私の方からも踏み込むことができないでいる。

    性行為について話を聞いたり現場を目の当たりにしたりホテルで腹上死した死体を見たことはあれど、経験は乏しい。

    「一回で飽きられた、とか……」

    私にわからないだけで恋人には体の相性というものがあるらしいし、経験豊富なメネラであれば私ごときは一度で満足できてしまったのかもしれない。
    でも私から見てもかなり浮ついて春季到来、恋真っ盛りといった恋愛ボケしている顔を見ていると一度で飽きる、満足するとは思えない。
    あの手の人間は手元に置いてあるお気に入りのおもちゃは遊んで遊んで壊れるまで遊ぶタイプのはず。ともなれば遠慮している理由がわからない。

    「今夜にでも私の方から聞いてみるか……」

    私の口からでも「飽きたのか」なんて言おうものなら、悲しい顔をしながらまだわかっていないのかと言わんばかりに、メネラがいかに私の事を好いているかを小一時間説明されそうな気がするので、恋人になったけど情夫の条件は再度見直さなくて良いのか?という流れで聞いてみよう。



    夜、二十一時。
    今日はメネラが夜は遅めになると言っていたので夕飯を先に済ませて、面倒なので風呂も済ませてしまった。
    性行為をするかしないかの話をするのに、いざする流れになってからシャワーを済ませてないから待ったをかけるなんて無粋な事はしたくなかったのもある。
    髪を乾かして使用したタオルは所定のカゴに入れておく。
    最近メネラに新たに購入して貰ったタブレットをテレビがわりに、夜のニュースを見ながら冷えた緑茶を飲む。

    最近は上役に囲碁や将棋の相手として呼ばれることがあるので、腕を磨くためにスマートフォンやタブレットにはその手のアプリも入れて貰った。
    メネラは上役に私が占領されている間は不服そうな顔をしているが、最近では私の独占を避けるためにメネラ本人が腕を上げて代わりになろうと頑張っているらしい。
    上役の腕前はなかなかのもので、私もそこそこ頭を捻りながら六対四ほどでやや負けている。
    メネラは私にすら勝てていないため代打になるにはまだしばらくかかることだろう。
    メネラとしては私が上役の盤上遊戯の相手をあまり嫌がっていないのも不機嫌ポイントが加算される部分なのだろうけれど。

    スマートフォンでNPC相手にぽちぽちと将棋を打っていると、離れに近づいてくる足音がするので画面を消した。
    近寄って障子を開ければ少し思い悩んだ顔のメネラが立っていた。

    「こんばんは、遅かったですね」
    「ごめん、これでも急いだんだけど」
    「いえ、構いませんよ。冷たい緑茶ならちょうどありますが」
    「もらうよ」

    スーツの上着を乱雑に脱ぎ、ぐいぐいとネクタイを引っ張って首元を緩める仕草は男性特有の色気があった。
    そんな私の心中を知ってか知らずか「何?どうかした?」と声をかけてくる。

    「別に何も。というよりは貴方の方が何か悩んでいそうですが、また上役に無茶振りでもされたんですか?」
    「あー……まあ、うん、そんなとこ。でもリァンさんの力を借りるほどじゃないから!大丈夫、気にしないで」

    歯切れが悪い。メネラは私に嘘はつかないが、全てを詳らかに教えてくれるわけではない。
    極道としても、恋人としても人には秘密などあって然るべきだとは思うが、誤魔化しが目に見えてわかりやすいのは珍しい。

    「では私に言えないこと、言いづらいことで悩み事がある、違いますか?」
    「えっ、なんだい突然……な、ないけど?」
    「心理戦で私に勝てるとお思いで?」
    「……降参、なんでバレちゃうんだろ」

    メネラは白旗のように両手をひらひらと振って、そのまま冷たい緑茶に口をつけた。

    「一応これでも元幹部ですから、洞察力は舐めないでほしいですね」
    「じゃあ何に悩んでるかわかる?」
    「おそらく……組のことではなくて、メネラ自身のこと。で、私を遠ざけようとしていたから、私により近しい話ではないかと思いますね」
    「えぇ、そこまでわかっちゃうの……」

    隠してた俺の方が格好悪いみたいじゃん、と項垂れてしまったメネラをまあまあと励ましつつ、なんとか話してもらえるように空気を持っていく。

    「実は私も貴方に相談したいことがあって。よければ先に聞いていただけませんか?」
    「えっ?うん、それは全然構わないけど」

    チラリと廊下に目をやれば、メネラは障子から顔を出して監視の若衆に帰還の命を出す。
    そろそろあの若衆も必要ない気がするのだが。

    「それで、相談って?」
    「この情夫の肩書きの件なんですけれど」
    「ぶはっ……」

    まだ本題にも入っていないのに、メネラが緑茶で咽せる。気管に入りそうになっただけだろうから、タオルを持ってきて拭くのに使うように手渡した。

    「大丈夫ですか?」
    「う、うん。大丈夫大丈夫……そ、それで?」
    「一度制約を見直すべきかと思いまして。最初こそ私がここに置いてもらうための名ばかりの情夫でしたが、組長公認の恋人関係になったとあれば情夫だとしても下手な制限は必要ないと思うのですよ」
    「えーと、つまり?」
    「変な役職に就くと厄介なので情夫という気軽な肩書きは気に入っているから手放したくないのですが、私はここの正式な居住権を得ていますし、貴方と私は恋人なのだから『夜のことはしない』なんて変な制約は撤廃してよろしいかと。もちろん貴方の考え次第ですが」

    メネラはたっぷり五秒ほど私の言った事を反芻して満月のような色が美しい黄色の瞳をくるくると動かして試行した結果、ぼっと頬を赤く染めた。

    「あ、あのさ……リァンさん、俺の悩みがわかってたならもう少しこう、手心というか……からかって遊ばないでくれないかい……?」
    「からかう?いえ、これはあくまでも私が今日貴方に話そうと思っていた内容で」
    「え、あ、えーっ!?じゃあっ……あー、やだなあ…ほんと俺格好悪い……」

    つまりメネラもほとんど同じことで悩んでいたという事らしい。さすがの私とて、恋人相手にこんな尋問めいた質問で質問を促すようなことはしない。
    二人とも同じことで悩んでいたのに、二人とも言い出せずにモジモジしていたなんて馬鹿馬鹿しくてどちらからともなく笑みが溢れる。
    いろいろと吹っ切れたのか、メネラは笑ったまま愛おしそうに私を抱きしめる。

    「フフ、格好悪いところも好きですよ。人間味があって、若頭っぽさが抜けていてメネラらしい」
    「それ褒めてるのかい?あはは、まあいっか」

    メネラも私も一通り笑い終えたところで体を離し、話を元に戻す。
    少なくともメネラの様子からして私が想定していた「飽きた」や「相性が悪い」というマイナスな要素は限りなく薄そうである。

    「俺の言いたかったことはリァンさんのよりもっとシンプルで、前は一回だけって約束だったけどら本当は、リァンさんが嫌じゃなければ何度でも抱きたいよ」
    「そう言えばそんな約束事ありましたねえ……一回だけだなんて、恋人関係を了承した時点で無効になったものだと思っていました」

    体の関係が恋人の全てとは言わないが、恋人になるというのなら体の関係は付随してくるものだと思うし、付き合うけどヤるのは嫌だなんていうほどわがままなつもりはない。
    と、思っていたのだがメネラには伝わっていなかったらしい。

    「すみません、言葉足らずでしたね」
    「俺も早く言えば良かったよ……でもやっぱりガッツいてるとか体目当てとか思われたくなくて」
    「フフ、二十代なんてそんなもんでしょう?私はてっきり飽きてしまったのかとばかり……」

    口に出してからハッと気がついたが時すでに遅かった。
    しまった。気が緩んだせいで口も緩んだ。
    私を抱きしめた手が置いてあった肩を少し強めに掴まれる。
    怒っている、とまではいかないようだが、恐る恐る表情を窺えばやはりなんとも言えない拗ねたような、悲しそうな顔をしていた。
    途端に焦って余計な事をペラペラと話し始めてしまう。悪手だとわかっていても。

    「だ、だって貴方は経験豊富だし、わざわざこんな歳上の男を抱かなくても」
    「それ以上は言わないほうが賢い選択だと思うけど?」
    「……そうします」

    メネラは私の肩に顔を埋めるようにして抱きしめたかと思えば、そのまま布団に倒れ込む。
    ぼふっと布団のやわらかい衝撃を受け止めれば、九十度回転した視界の中メネラはあの時のように両の目で私を見つめていた。
    そのままどれだけの間無言で見つめられていたのかわからない。
    五分程度だった気もするし、三十分くらい経ったような気もする。

    「め、メネラ」
    「ん?もう自分を卑下するようなことは聞きたくないよ」
    「そうではなくて」

    それならなんだと目線で続きを促されるので、あの時とは違い電気がついたままお互いの表情が丸見えなのは恥ずかしいけれど、とりあえず場の雰囲気を丸くするためには伝えておくべきことがある。

    「あの、準備……してあるんですけど」
    「……俺もシャワーしてくる!」

    メネラは今までのセンチメンタルな雰囲気を置き去りに、ガバッと起き上がって耳まで真っ赤にしたまま浴室に駆け込んだ。
    くふ、と喉の奥で笑いを噛み殺す。
    決して馬鹿にしているわけではないのだけれど、変なところで子供っぽくて年相応な反応を見せるのが可愛くて敵わない。

    とりあえずバスタオルと着替えの浴衣を用意して、脱ぎ捨てられた下着以外のスーツ一式は回収してハンガーにかけておいた。



    「着替えとタオルありがとう、助かったよ」
    「どうせなら翌日分のスーツや下着類もこの部屋にストックしておけばどうですか?クローゼットに余裕はありますから」
    「な、なんかリァンさんの部屋をヤリ部屋扱いしてるみたいで嫌だ……」
    「便利だと思いますけどねえ……」

    彼には彼なりのこだわりがあるらしい。

    その後、離れのリァンの部屋の隣にメネラの部屋が増設されることが決定し、リァンはメネラから事後報告で知らされたのだった。
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