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    メネリァン

    極道パロ2 SS【この男触れる事勿れ】

    リァンは会合に呼ばれた後、居残って話の続きをしているメネラを置いて母屋から離れの部屋へと戻るために長い廊下を歩いていた。
    一年間ずっと離れ暮らしだったゆえに母屋は数えるほどしか行ったことがないからか、なんとなくキョロキョロと見回してしまう。
    そんな時不意に後ろから声がかかる。

    「おい、お前。若頭の情夫風情の癖に特別顧問だなんて呼ばれて随分と良いご身分じゃないか」
    「おや、どなたかと思えば若頭補佐殿ではありませんか。情夫風情に何か御用で?」
    「演技でも必要以上に謙るな気色悪い」

    露骨な嫌悪感を隠さずまっすぐに突きつけてくるのは、数年前にメネラの側についたらしい若頭補佐だった。若衆とは違って整えられた髪にピシッとしたスーツを身につけ、フレームレスのメガネには曇りも指紋もない。見るからに神経質で出世欲がすごそうなタイプだ。
    どうせこの組での私の扱いが気に入らないのだろう。
    まあその気持ちもわからなくはない。

    「裏切り者がウチの組に入って参謀ヅラしてるのが前から気に食わなかったんだ。組長たちも特別顧問だなんて肩書を与えるからお前みたいなヤツがつけあがる」

    どちらかといえば私は辞退したのだが、どうしてもと言われたから特別顧問として会合に参加する事になっているのだ。
    この人の中では私は自分で立候補するような人間に見えているらしい。買い被りすぎている。

    「それは若頭や組長、他の上役の方の決定に異議を唱えるということでしょうか?」
    「異議じゃないさ。ただ気に食わないと言っているだけだ。何が悪い?」
    「強いていうなら頭が悪いですね」
    「なッ……!」

    自分より有能な人間を目の前に、実力で見返すのではなくただ文句を言っているだけなのはシンプルに時間の無駄だ。
    しかも若頭補佐風情が若頭の大層お気に入りの情夫で、ゆくゆくは妻─男なので妻ではないのだが─にする気なんじゃないかとすら言われている相手に噛みついて良いことなんて一つもない。
    つまりこの人のやっていることは生産性のかけらもないただの時間の浪費である。

    「私が若頭に『補佐に酷いことを言われたんです』と一言告げ口すれば、多分明日には貴方の席は私の席になりますよ」
    「わ、若頭はそんな短慮な真似はしない!」
    「色恋においての若頭を知らないからそう思うのも仕方ないのかもしれませんね。ま、告げ口はしないで差し上げるので金輪際こんな意味のない会話を振ってくるのはやめにしてくださいな」
    「貴様言わせておけば!!!!」
    「お前」

    激昂して今にも掴み掛かろうと─否、リァンの和服の胸ぐらを掴み上げていた若頭補佐に、ポンと投げられた腹の底から響くような、人を恐怖させるためだけに出した圧力の塊のような低い声。
    相手を呼んだだけなのに、相当怒っていることだけは確かに伝わる。
    リァンは特にどうも思わないが、若頭補佐はカタカタと手の震えを抑えながらメネラの次の言葉を待っている。

    「わ、若頭…こっこれはこれは、会合お疲れ様でした」
    「お前、何やってるの?」
    「し、新入りに若頭の側にいるという立場を教えていました」
    「私のことが気に食わないそうですよ。自分より優秀だから」
    「貴様…ッ!!!」
    「あのさ、リァンさんに貴様って何?気に食わないってどこから物言ってんの?立場を理解してないのはお前の方じゃないか?」

    若頭は相当ご立腹のご様子だった。
    そもそもメネラが珍しくあまり乗り気でなかった今回の会合は「終わったら甘やかす」という私の提案でなんとかメネラは重たい腰を上げて参加したというのに、長引きに長引いて甘やかす時間が今も刻一刻と減っていてかなり機嫌が悪いのだ。
    そこにさらに自分の恋人に手を出そうとしている奴を見たらそりゃあ、ただじゃ済まされないだろう。

    「お前を外して、その席にリァンさんを座らせてもいいんだよ?そうしないのは今まで尽くしてきたお前に対する俺と組長の温情。お前はリァンさんをお飾りだと思ってるかもしれないけど、肩書きがお飾りなのはお前の方だよ。
    わかったらさっさと戻れ。この人に二度と触れるな。いいね?」
    「っ………」

    私が口を挟むと厄介な事になるのでとりあえず静観を決め込んでいたが、機嫌が悪いのもあって精神をへし折らん勢いで圧力をかけている。
    流石の若頭補佐も肩書きを外すとまで言われては反論できないらしい。

    「返事は?」
    「わか、り、ました」
    「あと、謝罪。ケジメは必要だよね」
    「大変申し訳……」
    「俺にじゃないだろ。相手を間違うなよ」

    あ、私に?うーん、できればこれ以上揉め事と若頭補佐との関係悪化は避けたかったので、彼には屈辱的かもしれないがここは私から折れる事にした。

    「若頭、たかが情夫に補佐が頭を下げては他の者に示しがつきません。私は気にしませんから、ね?」
    「リァンさん、でも……」
    「では私の方から望むのは、若頭への謝罪という事で如何ですか若頭補佐」

    顔を真っ赤にして青筋と汗をかいていた若頭補佐は、私の温情まみれの屈辱的な提案に乗っておいた方が賢明だと判断したらしい。
    若頭が私に謝れと言った手前か少しだけ会釈をして、再度メネラに九十度ぴったりに腰を曲げた謝罪をして「失礼します」と逃げるように去っていった。

    「リァンさん大丈夫だった?」
    「大丈夫もなにも。特に何もされていませんよ」
    「だって掴み掛かられてた」
    「言葉で勝てないから暴力に訴えようとしたのかもしれませんが、私もまあ弱くはないですから」
    「刺客はっ倒してたもんね」
    「ええ」

    メネラは私の肩に手を回し、離れの方へと共に歩き出す。その手は暖かいを通り越して熱く、あの一瞬でメネラがどれだけの怒りを感じたのかがよくわかる。

    「貴方もよく殴りませんでしたね」
    「部下を殴ったりしないよ。理由がなければ」
    「今にも殴りそうな顔はしていましたよ」
    「ハハ……頭に血が上った感じはあったよ。リァンさん、他にもこんな絡み方されたりしてないよね?」

    されてないと言えば嘘になるが、ここで言えば言った全員がきっと翌日、遅くても明後日には消えている事だろう。そこまでするほどの侮辱は受けていない。
    もとよりそういう類のやっかみには慣れている。

    「されていませんよ。若頭を癒す情夫の顔に傷でもつけられたら困りますから、争い事は避けています」
    「傷つける奴なんていたら許さないから、すぐ言ってね?」
    「職権乱用がすぎませんか?」
    「若頭のお気に入りに手を出す方が悪いんだよ」

    この組に所属している組員へ、どれだけ私のことが憎くても私に触れない方がご自身の身のためです。やめておきなさい。
    この男は私の事になるとかなり見境なくなります。ご注意ください。

    「相当お疲れなんですね、ほら早く部屋に戻りましょう。何をご所望ですか?ハグ?膝枕?添い寝?」
    「添い寝してる時間もなくてさ、2時間はリァンさんのそばにいられたはずなのになぁ」
    「あと45分ほどしかありませんね」
    「じゃあ45分膝枕してくれる?」
    「はいはい」





    【若衆ってほぼチンピラですよね】

    私の正体が組に知れ渡ったあたりから、メネラもとい若頭に不信感を抱く声がちらほら聞こえてくるようになった。
    人の噂も七十五日とは言ったものの、不信感の出どころは私なのでなんとも居心地は悪い。
    私が悪く言われる分には構わないのだが、メネラが悪く言われるのは納得がいかない。
    あくまでも若頭であるメネラは私に騙されていたわけで、と言ってもほぼ私の素性を察した上で騙されてやっていただけなので、私を組に引き入れた今、全体的に見れば組長と若頭の戦略勝ちなのだ。
    私が悪く言われることがあっても、彼らを怪しい目で見るのは間違っている。

    今日もリァンは会合終わりに一人母屋を歩いていた。
    監視役の若衆に会合が終わったと告げるため、若衆が集まる部屋へと向かっていたところ、襖を隔てていても一際騒がしい品のない声が聞こえてくる。

    「中華街の奴ってわかってて引き入れたって若頭も相当やべーことしてるよな」
    「頭大丈夫なん?」
    「若頭が中華街に寝返ったりして?」
    「あの惚れ込み様ならワンチャンあっかも」

    気がつけばリァンはスパァンと音を立てて、その若衆の集まる部屋の襖を開けていた。

    「失礼。今の話、一部訂正させていただいてもよろしいでしょうか」
    「な、なんすか。なんでアンタがこんなとこに」
    「よく聞いてください。若頭が、中華街の連中に寝返ることなどあり得ない」

    私も向こうにもう一度寝返るような真似をする気はサラサラないが、いったところで馬鹿は信じないだろう。

    「なんでンなことわかるんだよ」
    「逆にそんなこともわからないのですか?」
    「なんだてめぇ!」
    「おいやめろマジで死にてえのか!」

    激昂してリァンにガンつけてきた男を、他の男が取り押さえる。
    先日の若頭補佐の件がどこからか噂として漏れだして「死にたくなければ若頭の情夫には指一本触れるな」という暗黙の了解が出来上がったらしい。
    あながち間違っていないのでそのまま有効であって欲しい。

    「今中華街の連中は破滅の一途を辿っているんですよ。もちろんこの私が内部の情報を組長に提供しているからです。
    そんな沈みゆくのが決まりきっている泥舟に、あの聡明な若頭が寝返るなんてあり得ない。断言できます。その程度も理解できないのであればあんな大声で恥を晒す様な真似はしない方が賢明です。それとも本気で若頭を疑っているんですか?」
    「や……っす、すいやせんした」
    「いえ、わかってくだされば良いのです。ところで彼は?」

    ギャハハと騒いでいたのが一変、先生に叱られた高校生のように静かになる。少し考えれば馬鹿でもわかることなのだ。わからない故に馬鹿なのだが。

    「あいつは三つ先の部屋っすね」
    「そうですか、では失礼」

    三つ先の部屋ということは、誰かに呼ばれているのだろう。できれば彼の邪魔はしたくないな、と思っていた矢先、優しく肩を叩かれる。

    「リァンさん、何話してたの?」
    「……目が笑っていませんよ。若衆が貴方に有らぬ疑いをかけていたので払拭しておいただけです」
    「リァンさんがそんなことしなくても良かったのに!」
    「無性に腹が立って……若衆に伝えられる内容は制限されているとは言え、自分の組の若頭をもう少し信頼するべきだと居ても立っても居られず」
    「俺のためにそこまで思ってくれたの?嬉しいよ」

    確かに言われてみれば柄にもないことをした。
    あんな奴らの戯言を本気にして説教するなど私がやることではない。
    しかし体が勝手に動いてしまったのだから仕方がないのだと自分に言い聞かせる。

    「もっと若衆に信頼されるようになってくださいよ」
    「あはは、また手厳しいな……」
    「私は自分が悪く言われるより、貴方が悪く言われる方が嫌なので」
    「リァンさん……いつか俺もリァンさんも組のみんなが信頼してくれるようにしてみせるから、頑張るね」
    「ほどほどに期待していますよ」


    【若頭は用意周到】

    「リァンさん、もう一回言うね。俺、リァンさんのことが好きだから情夫じゃなくて恋人になって欲しいんだ」

    あの時と同じく手を握って目を見てされた同じ内容の告白は、リァンの中であの時とは全く違う響き方をした。
    はい、と答えれば良いのに、この告白が聞けなくなるのかと思うと少しもったいつけたくなる。

    「若頭は今まで恋人がいた経験は?」
    「学生の時からヤクザの息子だって言われてたからね、誰も怖がって近寄らなかったよ」
    「成人してからでは?」
    「うちがケツ持ちやってるキャバや風俗の女の子に声かけられたことはあるけど趣味じゃなくてね」
    「え、今まで誰とも付き合わず純潔を保ったままですか?ヤクザなのに?」
    「あ、いや……恋愛はそうだけど、シたことがないわけでは……って、この話しなきゃだめかい?」
    「もし貴方が色んな人にこんなふうに愛を囁いているなら靡いた私が馬鹿を見るではありませんか」

    とは言っているものの、リァンとてメネラの愛が決して軽いものではないのは承知の上だ。
    それに、たとえ過去に恋人の女や男がいたとしてもきっとメネラはその人々を蔑ろにしたことはないのだろう。
    組長がかなり最初の方で「イロは口が軽くて困る」とボヤいていたのを覚えているので、皆目先の金に釣られてメネラの情報を売って手を切らざるを得なかったのではないかと推測している。
    であれば、情夫でありながら口が硬く頭も良い私が重宝されるのも、さもありなん。

    「俺が何人かキープするようなプレイボーイなんじゃないかってこと?リァンさんまた俺のこと甘く見てるね?」
    「なんですって?」
    「こんなに一途なのに。どうすれば信じてくれるんだい?」
    「信じていないわけではありませんが……もしかしたら、と思って聞いてみただけですよ」
    「そうか、じゃあ安心できた?俺にはリァンさんしかいないよ」

    今までで一番だと言って欲しいわけではないが、とりあえず今が私だけであるならそれで十分だと思った。メネラは私に黙っていることはあっても、嘘はつかない。

    「わかりました、若頭が望むのであれば恋人でもなんでもなんなりと」
    「……リァンさんってそういうところあるよね。違うんだよなあ、俺の命令じゃなくて、リァンさんが俺と付き合いたいか、付き合ってくれるかを聞きたいんだ」
    「だから付き合うと申し上げているではありませんか」
    「リァンさんは?俺のこと好き?」

    過去の恋愛遍歴を根掘り葉掘り聞かれ、愛の言葉に疑いをかけられたせいか、メネラが少し面倒くさいモードに入った。
    一応命令ではなく私の意思で返事しているのだが、いかんせん言い方が不味かったらしい。

    「好きでなければそう簡単に体を許したりしませんよ」
    「それはそうだろうけど」
    「貴方が私のために奔走してくれたのは知っています。今現在いろんな厄介事から遠ざけようとしてくれているのも」
    「あはは……バレてたんだ、恥ずかしいな」
    「嬉しいですよ、厄介ごとは嫌いですから。貴方は前に自分でも言っていましたが、本当に忙しい合間を縫って私に会いにきてくれるのも、今ではひどく待ち遠しい」

    今度は私がメネラの手を取り、男性らしい手の甲に浮き上がった血管を撫でながらとつとつとメネラの良いところについて語る。
    ご機嫌取りや懐に潜り込むためではなく、全て私の本心だ。

    「いつも母屋へ戻る貴方の袖を引いて引き留めることができたらと、何度思ったことやら」
    「リァンさん……」
    「だから、心配せずともちゃんと私も貴方のことが好きですよ。なれるのなら、恋人になりたい」
    「じゃあ今日から恋人同士だね?」
    「そうなります、かね?」

    恋人だなんて浮ついた関係を持つのは初めてなのでよくわからない。
    でもメネラが嬉しそうに頬や瞼、鼻にキスをして抱きしめてくるから、これで良かったんだと思えた。
    とはいえ情夫という肩書きは気楽なので、恋人になっても手放すつもりはない。

    「リァンさん、もう一個お願いがあるんだけど」
    「なんでしょう?」
    「二人きりのときは名前で呼んで欲しいな」
    「メネラ……」
    「うん、それが良い。周りに人がいる時は無理しなくていいからさ。俺、リァンさんに名前呼ばれるの好きなんだ」
    「そのくらいお安い御用ですよ」

    名前呼び程度であれば、と軽々承諾したが、この時点でメネラがリァンを伴侶、いわゆる極妻に迎えようと父親である組長を含めた上役を説得する段階に入っていたことに、リァンはしばらく気が付かず、しばらくしてからほとんど事後承諾のような形で明かされた際は一言相談しろと怒られた……らしい。
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