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    メネリァン

    紆余曲折〜のその後おまけ秋の国、魔法使いの街のとある酒場にて。
    リァンは今回はワイナー・リァンとしてではなく、メネラ・ディーテリの妻のリアンヌとして初めて赴いた。
    「リァ……ンン、リアンヌさん。ここだよ」
    メネラに案内されて石畳の路地裏にあるドアを潜ればオレンジ色のランプが点々と灯る薄暗い店内にカウンターと数席のテーブル席が見える。
    時間は20時を回った頃だろうか。そこそこの人が入り、ガヤガヤとやたら賑わっていて耳障りなことこの上ない。話に差し障りのない範疇で聴覚に保護魔法をかけた。

    「リアンヌさんには少し騒がしいかもしれないけど、今回だけだから……」
    「構いませんよ」
    「ありがとう!」

    といっても、今日彼らがいるかはわからないんだけどね、と自信なさげに眉尻を下げて頬を掻く。
    リァン改めリアンヌはその“彼ら”をメネラの話でしかしらないため外見で見つけることができない。
    この薄暗さのせいか、メネラも見つけるのに苦戦しているようだった。そんな時、カウンターの方から聞き覚えのある声がかかる。

    「ぃよお兄ちゃん!!ひっさしぶりだなぁ!!!!!」
    「ほんっと魔法使いって老けねえのな!!!!俺らこんな歳食ったジジイになっちまってよ!!」
    「ああ!久しぶりだね、本当にすっかり歳を取っちゃって……気がつかなかったよ!でもよく見たら面影あるね!」

    今回もすでに赤ら顔をした酔っ払い二人は、最初に会った頃は30代半ばと言った見た目だったが今ではもう立派にご老人と呼ぶべき年齢になっていた。メネラがリァンを口説き落とそうと奔走している間にも、人間である彼らは刻一刻と歳を刻んでいたのだ。
    その時間感覚の違いにメネラはハッとした。

    「あったりめぇよ!元気そうで何よりだぜ」
    「そっちこそ!ヨボヨボになってたらどうしようかと」
    「ハハ!安心しな、ピンピンしてんぜ!!」

    ガハハ!と相変わらずな笑い声でメネラを歓迎してくれた二人に、後ろで静かに待っていたリァンもといリアンヌを紹介する。
    彼らには女性として通していたので、今回はわざわざ女性の姿になってもらったのだ。

    「そうだ、二人とも。紹介が遅れたけどこちら、リアンヌさん」
    「どうも、リアンヌと申します。夫がお世話になったようで、ご挨拶に参りましたの」
    「おっ……とこりゃご丁寧にどうも、遠くからわざわざ悪いな」
    「世話ってほどのことはしてねえけどな!しかしこいつぁえらい別嬪さんだなぁ!」

    ぺこりとお淑やかに頭を下げたリアンヌさんに対し、すっかりお爺ちゃんとなった酔っ払い二人組は酔いが覚めそうなほどびっくりしていた。
    リアンヌもといリァンにとっては、リアンヌという女性の見た目は男性が好む女性の容姿の集合体であるため、その反応は予想の範疇だった。
    メネラにとっても、リアンヌは美しいだろうと少し自慢したいような気持ちがあったため、二人の反応は嬉しいものだった。

    「兄ちゃん、ちゃんとあの別嬪さんと結婚できたんだなあ、良かったよ」
    「この兄ちゃん、俺らより良い男のくせして女の口説き方で迷ってるっていうからよ。横から口出ししてただけで俺らは大したことはしてねえんだよ、本当に」

    メネラは酔っ払い2人によってどんどん明かされている少し恥ずかしい過去に照れ笑いをしながら話を見守る。
    リアンヌは目元と口元を緩めて上品に微笑んだ。

    「貴方がたのその口出しのおかげでこうして身を結んだわけですから、我々に取っては大切な恩人ですわ。今日は全てメネラ…夫が代金を持ちますから、それをお礼として受け取っていただけませんかしら?メネラ、構いませんわね?」
    「うん、好きなだけ飲んで食べてよ!マスターもね」

    酔っ払いと同じく老齢のマスターは急に振られて自分もか?という顔をしていたけれど、メネラの「めでたい席だからさ、奢らせてよ」という言葉に甘えてくれた。

    「よっしゃぁ!小さい恩でも売っておくもんだなぁ!本当に好きなだけ食ってもいいのか?」
    「マスターとりあえずビール3つ…いや嫁さんはビール飲めるか?」
    「嗜む程度ですけれど、せっかくですからいただきますわ」
    「じゃあマスターの分含めてビール5つだ!!!!!!」

    ドン!とカウンターに置かれたビールをそれぞれ手に取ると、酔っ払いその1がンン、と喉を鳴らした。

    「それでは兄ちゃんの恋愛成就に乾杯!!!!!!!!」
    「「「「乾杯!!!!!!!」」」」

    ゴクゴクと一気に飲み干すようにビールを飲む男性陣を横目に、ビール派ではないリアンヌは少しずつ自分のペースで飲んでいた。
    酔っ払い2人はマスターに各々頼みたいものを頼み、カウンターに乗らないと判断したマスターは倉庫から比較的綺麗な追加の机を持ち出した。
    布巾でしっかり掃除した上にクロスをかけてたくさんの軽食やつまみと酒を並べていく。

    「いやぁ、相変わらず太っ腹だな兄ちゃん!嫁さんもありがとな!」
    「マジでありがたいぜ、この歳になってまだこんなめでたい話で美味い酒が飲めるとはな!」
    「こちらこそ喜んでいただけて何よりだよ」

    リアンヌはよくもまあたかだか数回飲んだだけの相手の恋やら何やらで喜べるな、と冷静に酔っ払い2人を観察していた。
    お礼に行くだけだと連れてこられて来たので、一般的に見て良い嫁と称されるような女性を演じているものの、本心から彼らに同意することはできないでいる。

    「この嫁さんがあの気難しいと噂の別嬪さんだったわけだ」
    「高嶺の花狙うにしたって高級すぎねえか兄ちゃんよぉ」
    「し、仕方ないだろう、絶対に彼女が良かったんだから……」
    「言うねえ!!!!」
    「嫁さん的にはどうだったんだい?」

    挨拶と乾杯を済ませた時点で自分の仕事は終わりだと思っていたリアンヌはきょとんとした顔で酔っ払いを見る。
    しばし考えた後に「根負けですかしら」と困ったように笑って見せた。
    間違いは言っていない。

    「嫁さんも良いところのお嬢さんかい?」
    「いいえ?特別そういうわけでは」
    「じゃあ持ち前でその、なんつーんだ。こう、町娘とは違う……上品さ?なんだな」
    「わかるかい?落ち着いてて知的で博識で聡明だし言いたいことははっきり言ってくれるし美人でもう……非の打ち所がないんだよ!」
    「皆様口達者でいらっしゃるのね、煽ててももう何も出ませんことよ。貴方、そのくらいにしてくださる?」

    リアンヌからそこまでにしておけ、と静止が入ったことにより「兄ちゃんもしっかり尻に敷かれてんだな!!!」と酔っ払い2人はすっかり上機嫌でメネラの背をバシバシと叩いた。その力は昔ほど強くはなくて痛くもないけれど、不思議と、とても暖かかった。

    「俺たちも歳食ってよお、孫の顔も見たしあとはのんびりいつ死ぬんだろうなあとか言ってたんだがよ」
    「本当に兄ちゃんと嫁さんが顔見せに来てくれて嬉しいぜ……っぐす、うぅ…っ歳、くうと、ダメだな。若いやつが幸せそうだと俺らも嬉しいんだよ……」
    「辛気くさい雰囲気出してんなよ!!!泣くな!!ホラ飲め飲め!!!!」

    酔っ払い2人は見た目こそすっかりメネラを通り越した老人だが、年齢的にはメネラの方がよほど年上だ。
    しかし、残された寿命はおそらく多くて10年やそこらであろう彼らにとって、メネラの恋愛成就の報告は久々に聞いた嬉しい特大ニュースだったのだろう。
    リアンヌにはいまいちピンときていないが、メネラは人間にとっての結婚や出産などおめでたい出来事はこんなにも人の心を動かすものなのかと関心していた。
    メネラの人生において、何かをこんなに喜ばれたのは初めてだったかもしれないと。



    殆ど宴会と化したテーブルにあった食べ物や飲み物が底を尽きる頃、すっかり泥酔した酔っ払いは机に突っ伏して眠りこけていた。

    「マスター、お勘定頼むよ。騒がしくして悪かったね」
    「いいや、めでたい話だ、構わないよ。たくさんお金使ってくれたしね」
    「すっかり上客ですのね」
    「そうだね、お陰であとしばらくは店をやっていけるよ」

    マスターは嬉しそうにグラスを磨いていた手を止めて、酔っ払い二人を叩き起こす。

    「ホラ、お兄ちゃん達帰るってさ。起きな!」
    「んん…ぁあ、すまん、寝てた」
    「わりぃ……」
    「楽しんでくれたなそれで良いさ。じゃあ俺たちはもう帰るよ」
    「改めてどうもお世話になりました」

    来た時と同じくぺこりと優雅に頭を下げるリアンヌに倣ってメネラも「ありがとう」と声をかけた。
    ドアの取手に手を伸ばした時、眠そうに間延びした声が飛んでくる。

    「兄ちゃん、嫁さんもまた来いよ、いつでもいるからさ」
    「待ってるぜぇ」

    マスターは軽く会釈して返してくれた。

    「うん、またね」
    「ええ、またいつか」

    メネラは軽く手を振って店を後にした。
    最初はただの情報源程度にしか思っていなかった二人だが、彼らの温かい人情に触れてメネラは色々と考えさせられた。
    きっとあの二人は本当に生きている限りずっとあの店で飲み続けているのだろうけれど、なんとなくこれが最後だと全員が感じていたはずだ。
    どこか寂しさのようなものを感じながら、隣で手持ち無沙汰にしているリアンヌの手を取り「帰ろう」と歩き出す。
    今回は魔法使いの街に宿をとってあるから、そこまで酔い覚ましがてら散歩デートを楽しんだ。

    「どうだった?あの二人」
    「騒がしい。聴覚保護をかけておかなかったらもっと疲労していました」
    「あはは!それは確かにそうだね!でも良い人たちだと思わないかい?」
    「否定はしません。他人の恋愛話で泣けるほど感受性豊かなのは最早少し羨ましいほどですね」
    「まさか泣いて喜んでくれるとは思わなかったなあ……歳をとると俺たちもああなるかな?」
    「ならないと思いますよ。他人に興味ありませんし」
    「ハハ!それもそうだね」
    「でも」
    「ん?」
    「ああいう友人が一人や二人いるのは悪くないのだろうな、とは思いました。私には不要ですがね」
    「フフ、優しいねリァンさんも」
    「どうでしょうね」

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