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    メネリァン

    変化するもの1 ここ最近の私の屋敷の騒がしさときたら、今まで生きていたなかで間違いなく一番と言って問題ないほどだった。

    怖いもの知らずで魔法使い相手でも押しが強く、やたら私の屋敷に居座るとおもえば最終的に弟子の座を勝ち取ったニルル。
    他人、友人、恋人を経由し、今では紆余曲折を経て結婚したが、最初はただのよくいる来客の一人であったメネラ。
    この二人が主な騒音の原因である。

    メネラは霧雨の森に家を持ち、冬の国の店から私の屋敷に通っているようだったが、詳細はだいぶ前で忘れたがおそらく諸々が面倒くさいので部屋を増設して屋敷に住まわせた。
    ニルルは師事の際に月の国からワルプルギスの森に通うのは、彼女の体力や移動にかかる時間を考えても効率が悪いと判断して屋敷に住まわせようと思ったが、母屋に場所が足りなかったのもあり庭に面する敷地に独立した小屋を建てて住まわせた。

    この二人が家に揃ってからというものの屋敷には自分以外の気配が常に二人分動き続け、食事は基本的に三人一緒のタイミング。
    何ならまともな食事をとっていなかった私は二人に半ば強制的に食事を取るように言われた。
    同じ家にいるのだから当たり前ではあるのだが、何かと話しかけられる日々が続く。
    最初こそストレスでしかなかったそれはいつのまにか私の日常に溶け込み、当たり前へと姿を変えてじわじわと遅効性の毒のように私を蝕んだ。

     ニルルには弟子入りしてしばらく経ったタイミングで魔法学校への入学を提案した。
    この先人間には長いであろう生を生きる彼女にとって、学友や教師などの私以外の頼れる魔法使いは必要だろうと思ったのだ。
    彼女に魔法を教え始めてすぐに、魔法学校で教わる内容などたかが知れていると言ったのだが、考えが変わったのだ。
    私はこの二人に囲まれて生活した短い間で、彼女が独り立ちする年齢になった時、周りに人がいないのは良くないと思うようになった。
    もちろんニルルにも故郷に親や友人がいるだろう。しかし、人間の友は魔法使いとなったニルルの生について行くことができない。
    能天気な彼女は楽しい盛りでそのあたりはまだ考えていないように見えるが、そうなった今、魔法学校に入って卒業資格を取るとともに、魔法使いの友人ひいては人間関係を作るのは大切であるだと判断した。

    まあ、長年一人で生きていた私がいうと説得力に欠けるのだが。

    ニルルに丁寧にその旨を伝えるとどうやら納得してもらえたらしく、入学への下準備を済ませると、寂しそうではあったが魔法学校のある秋の国へと旅立って行った。
    これで屋敷の中の気配は一人分減り、私を含めて二人分になった。





     ニルルが魔法学校へ入学してからしばらく。
    彼女はまめに手紙をよこしたり、長期休暇の際には帰ってくるためあまり不在の感覚はなかった。
    今日は森の中でも珍しく天気が良く、木漏れ日が差し込んで良い朝だった。
    更に輪をかけて珍しくメネラが玄関先で魔力を込めて手紙を飛ばしているのを二階から見つけて思わず声をかけた。

    「貴方が手紙なんて珍しいですね」
    「ああ、リァンさんおはよう。ニルルさんにね」
    「おはようございます。先日の手紙の返事ですか?それなら私が出しておきましたが」

    メネラは少し罰が悪そうに頭を掻いた。
    言いにくい何かがあるのだろう。
    彼の様子を見るに、言いたくないわけではないが慎重に言葉を選んでいる。

    「返事ではないんだ。でもこの話はご飯を食べながらゆっくりしよう。もうできてるよ」
    「…ええ、わかりました」

    メネラは玄関先からダイニングへ移動して、言葉の通りすでに作ってあった朝食をプレートに盛りつける。
    彼もニルルの朝食を作るようになってから随分と料理の腕が上達した。新しく設置したキッチンと、料理のために取り揃えられた調味料の数々で味にも幅が出たと思う。
    メネラの作った料理を食べる度に発掘される私の好き嫌いへの対処もお手のものとなった。とはいえ食べるのを嫌がるほど嫌いな食べ物はいまだにないけれど、もしかしたら顔に出ているのかあまり好きでないなと思ったものが頻繁に食卓に出てくることはほとんどない。
    ここまで来ると何か魔法でも使っているのではないかと疑いたくなるが、メネラはそんなことはしないだろう。
    思考を頭の隅に片付けて、目の前の半熟のベーコンエッグにナイフを差し込む。

    「それで?」
    「これからしばらく冬の国に行って店舗の様子を見て、そのあと霧雨の家に戻ることにしたんだ。2〜3年くらいかな?出来るだけ早く戻って来れるよう頑張るし、こまめにリァンさんに会いに顔は出すよ。ティノも連れて行くし」
    「そうなんですね」
    「うん。店はちょっとやることがあって。家なんてたまに戻らないとすぐダメになっちゃうしね。それで一応ニルルさんにも報告しておこうと思って」
    「なるほど。貴方どうせ私の屋敷にいてばかりなのに霧雨の家は必要なんですか?」
    「……ははは!正直迷ってるよ!」

    メネラは一瞬私の疑問に驚いたような顔をした後、困ったように笑ってそう答えた。
    迷う必要などあるのだろうか。

    「リァンさんが俺がずっと一緒にここに住んでも良いっていうなら是非そうしたいけど?」
    「……そう言われると若干気が進まない部分はありますね。居候状態と正式に住居を共にするのは色々と違うと思いますし」
    「だろう?だから、リァンさんが良いと思えるまではあの家は持っておくよ」

    そういうことか、と疑問に答えてもらってやっと理解した。やはりメネラはたまに私より私のことを理解している。
    他者に対して一定の距離をとって来た私には、完全に誰かの生活を預かることに対する忌避感はまだ拭いきれていない。これでもその忌避感はかなり薄れて来た方だとは思うのだが。
    というか結婚までしておいていまだに「同棲はちょっと嫌」と言われて笑って流せるメネラの精神はどうなっているんだろうか。
    否、そういう精神を持ち合わせていないと私と付き合おうなんて発想になるわけがない。
    考えを洗い流すかのように、果樹園で採れたフルーツで作られた瑞々しいジュースを飲み干していく。

    「ということだから、寂しいけどしばらく留守にするよ」
    「出立はいつなんですか?」
    「3日後の予定だよ」
    「わかりました」

    その会話以降は普段通りの日常を過ごして、彼は荷造りをしながら過ごし、3日後の朝に彼を見送った。
    何度もこちらを振り返っては手を振って微笑むものだから、私は屋敷に引っ込むタイミングを見失って結局彼の姿が見えなくなるまでドア枠に身を預けて一人と一匹の後ろ姿を見つめていた。
    これで屋敷には私しかいない。
    懐かしい静寂が心地良い。
    そのはずだった。





     今まで以前の静かで穏やかで何者にも邪魔されることのない完璧な日常を取り戻した私は、ほんの数ヶ月間で狂い始めていた。

    「おかしい。私の日常はこんな空虚な物では……」

    体内の血液が全身をめぐる音すら聞こえて来そうなほどの静寂。
    誰の気配も動かない屋敷の中は私のかき集めた情報でいっぱいのはずなのに、今はあまりにも空っぽで価値のないガラクタのように感じた。
    今日でほぼ半年、とはいえ魔法使いには大したことない短期間だ。
    それなのに私は一人の時間を満喫するどころか、一人でいることに飽きを感じ始めていた。

    「寂寞というのは、こういう心地か……静かすぎるのも考えものだ」

    独り言を呟いても、それに反応してくれる人はおろか猫すらいない。
    ソファの両サイドの肘掛けに首と足を預けて横になりながら、読んでいた本に栞を挟んで閉じる。
    本の話をしたいわけではないが「何を読んでるんだい?」と聞いてくれる声もなければ、昼食どきだというのに、いつも勝手に漂ってくるランチの良い香りもない。
    猫が泥まみれで虫を捕まえてくることもないし、こんな時に限ってリリアイディスも魔法省の奴らも乗り込んでは来ない。

    「これが暇、か……」

    ぼんやりと再び本を読み進めるも、目は規則正しく並んだ文字の上を滑って行くだけで内容なんて一つも頭に入らない。これでは読んだといえないと諦めてもう一度本を閉じた。

    どれくらいの間そうしていたのかわからない。
    気がつけば窓の外は日が落ちて暗くなり、体内時計は18時頃を示している。
    寝ていたわけでもなく、何をしていたでもなくぼんやりとただ天井のランプを眺めて無駄な時間を過ごしていた。
    昼と同じく、夜になっても「ご飯できましたよ!」の声は聞こえて来ない。
    自分で自分の分の食事を用意するのがこんなに億劫だと思ったことは今までになかった。
    やはり一度他者に何かを頼ると人は駄目になるものなのだ。
    明日からは仕切り直して規則正しくまずは朝食をきちんととることから始めよう。
    その日の夕食は冷蔵庫に放り込んであった菓子とフルーツを少しだけ食べた。

    一般的な夕食に慣れていたのは感覚だけではなく胃袋もだったようで、その日の夜はやたらと腹が減って寝つきが悪かった。
    明日の朝に食べる分も兼ねて、いつもなら寝ている時間にパン作りを始めるなどしたが、その音や香りで誰かが起きてくることもないのだ。
    あれだけ嫌っていたはずの人の気配がないことが、なくなってみるとここまで気になるものなのか。
    できたパンはいつも通り美味しく、温かいハーブティーと共に少し食べてその日は無理やり眠りについた。

     翌朝、以前と同じ時間に起床してトレーニングとシャワーを済ませ、以前と同じ時間に昨日焼いたパンにフルーツと生クリーム、クリームチーズを挟んだものを朝食として食べた。
    その間にも朝の挨拶をかける相手がいないこと、人の気配を無意識に探してしまうことに軽い苛立ちすら覚えた。
    一人で座る食卓はこんなにも広いものだったのか。
    この虚しさに付き合うのにも大分慣れて来たし、そのうちなんとかなるだろう。
    もそもそと味のしないパンを咀嚼し終えた時、屋敷の外側に張っている魔力探知に見知った魔力が引っかかった。
    ピンと犬が耳を立てるように思わず席を立ってしまったのが恥ずかしくて、気を紛らわせるように使った食器を片付ける。
    その間にも、見知った魔力は徐々に屋敷の玄関へと近づいていた。
    玄関ポーチにたどり着いた靴音が、すぐそこにその人がいることを知らせていた。
    その足音に合わせるように私の体も勝手に玄関へ向かって歩いて行く。

    「ただいま帰ったよ、リァンさ、ん…?」

    ドアが開くと同時に、メネラの広い胸に体を預けるように飛び込み、抱きしめた。
    帰って来た途端に成人男性一人分の体重をかけられたメネラは驚きと同時に少し後ろにのけ反るが、さすがの体幹で私を受け止めていた。
    起きている事を理解しきれずに空を彷徨っていた手が背中に回されると、暖かさを感じる。
    半年しか経っていないのに、もう何十年も会っていないかのような気持ちでいっぱいになり、 外を飛んできて冷えたメネラの唇に自分の唇をそっと重ねた。

    「どうしたんだい?留守中に何かあった?」
    「私は、寂しかった……みたいですね……」

    メネラの質問に答えたわけではなく、私のここしばらくの虚無感の正体が判明したので口に出しただけだったのだが、メネラの耳には甘えているように聞こえたらしい。
    いつもなら甘えてなんていないと訂正するところだが、虚無感から孤独感に変わったその感情を持ったままではやっと帰って来た彼にいつも通りの態度を取ることはできなかった。

    「ああ、すまない寂しい思いをさせてしまったね」
    「全部貴方の、貴方のせいですよ。昔はこんな、こんなに、弱くなかったのに……」

    背中に添えられたメネラの手に、私と彼の間に空いた隙間を埋めるようにぎゅっと力を込められる。
    久しぶりの人の気配と暖かさにいつまでもこうしていたい気持ちもあったが、玄関先でいつまでもこうして抱擁しているわけにもいかない。
    今、私がどんな顔をしているのか自分でも想像がつかなくて、できれば表情なんて見られたくなかったけれどやっとの思いで体を離す。

    「それは弱さじゃないと思うよ。でも、寂しい思いをさせたのは俺のせいだから、あとでちゃんと責任は取る、それで許してもらえるかい?」
    「……わかりました」

    メネラの足元で待機していたティノも一撫でしてやると、やっと自分の番が回って来たと言わんばかりに私の体に頬を擦り付けていた。
    前足と上体を上げて抱っこをせがんでいたが、外から帰って来たばかりだからそれはできない。

    「貴方は足を拭いてからです」

    ティノはなぅんと理解したように一鳴きする。
    私は軽く濡らした布でティノの足を拭きながら玄関に立ちっぱなしのメネラに声をかける。

    「メネラはその間に部屋に荷物を置いて来てください。たまに掃除していたのですぐに使えますよ」
    「助かるよ、ありがとう」

    そうして、屋敷内の気配が一人と一匹分増えて私の虚無感もとい孤独感も薄れ和らいだ。
    その感情を一度認めて受け入れてしまえば、漠然とした不安にも似た何かや、よくわからない苛立ちも影を潜めて、理解したことで安堵を感じた。
    今まで一度も親しい人を持ったことがない私は孤独を感じる土台にも上がれていなかったというわけなのだ。
    メネラやニルルがいつもそばにいて何かと構ってくるおかげで、今まで必要なかった感情を会得してしまった。理解してしまった。

    そういう人がいることが幸せの一欠片であり、人生を豊かにしてくれるひとつの要因であり、私にも過去にそういう幸福与えて、孤独感を遠ざけてくれる人がいてくれたことを。
    思い出してしまった。
    私はその人をこの手で殺したことを。
    殺さなくても良い、殺すべきではない人を殺したことを。

    私は部屋に戻るメネラの背が、階段が、景色が視界がぐにゃりと歪むのをどうにもできないまま、なんとかその後ろをついていく。
    足元がおぼつかない。足首がぐらつく。
    履き慣れた踵の高い靴が、この時ばかりは憎く感じた。
    普段通りの自分の屋敷のはずなのに、荒波の上に投げ出された船に乗っているかのように、目が回り、吐き気が込み上げてくる。
    階段を上り終えて二階に着いた途端に、メネラの部屋とは反対側の私の自室に隠れるように傾れ込んだ。
    部屋に入る前にメネラが何か話しかけて来て、それに対してちゃんと返事をしたはずなのに何を聞かれて何と答えたのかもう思い出せない。
    私はベッドに沈み込むように体を投げ出して、靴のストラップを外し、脱いだ靴を床に投げ捨てる。
    いつもの服が肌に触れるのすら煩わしいのに、着替える元気もない。腕が上がらない。
    ベッドが底なし沼になったかのように時間が経てば経つほど身動きが取れなくなる。
    虚無感が孤独感に変化し、受け入れた先にあったのは元の暖かい日常とそれを凌駕するほど深い後悔。
    頭が割れそうなほど痛い。
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